
生まれ変わりの暴れん坊お嬢様は甘くて激辛で、御曹司が腰を砕けるまで甘やかす
章 2
長年、朝倉家に仕えてきた房江は、南音がどれほど奏真を深く愛しているかを知り抜いていた。 彼の気を引くためだけに、南音は彼の好みに合わせて、生活のすべてを捻じ曲げてきたのだ。
鏡に映る、見慣れたはずの自分の姿。 それを見つめるうち、南音の心臓が警鐘のように鳴り響いた。
自分は死んだはずではなかったか? このチャリティーオークションは、三年前の出来事のはずだ。 まさか……自分は、時を遡ったというの?
「奥様?」
房江の訝しむ声に、南音ははっと我に返った。
「あと一時間もすれば、社長がお迎えにいらっしゃいます。 お支度を急がれませんと! こちらの白いドレスはいかがでしょう? こちらの方がずっと上品で……」
南音の瞳に、確かな光が宿った。 唇の端に、微かな笑みが浮かぶ。
このオークションは、海ノ宮で最も神秘的で古い家柄である一ノ瀬家が主催するもの。 表向きは上流階級の社交の場だが、その実、各家が一ノ瀬家に対し自らの格を示すための実力の見本市でもあった。
一ノ瀬家は何よりも家族の絆を重んじる。 だからこそ、体面を繕うため、奏真は彼女を伴侶として連れて行く必要があったのだ。
前の人生の自分は、雪織が奏真の関心を独占することにただ嫉妬していた。 彼の気を引こうと、必死に雪織のファッションや立ち居振る舞いを真似ていた。
しかし、その痛々しい努力は、かえって彼に疎まれる結果しか生まなかった。
このオークションで、奏真は自分に断りもなくエメラルドのネックレスを持ち出し、気前よく雪織に贈った。 そして、それを身に着けさせた彼女を伴って会場に現れたのだ。
南音がネックレスを取り返そうとすると、奏真は彼女を嫉妬深い女だと罵り、社交界の晒し者にした。
人生をやり直せるのなら、奪われたものはすべて取り戻す。 彼女は心に決めた。
過去の記憶を反芻しながらも、南音は氷のように冷静な声で言った。 「オーダーメイドのベージュのドレスにするわ。 あのエメラルドのネックレスが、よく映えるはずよ」
長年、雪織の猿真似を繰り返すうち、厳格な躾を受けて育った白川家の令嬢としての矜持を忘れかけていた。
たかが富豪の養女ごときに、我を忘れて張り合っていたとは、なんと愚かしいことか。
房江は心配そうに眉を寄せた。 「ですが、 社長は普段そのような格式張った装いをお好みになりませんし…… それに、 あのエメラルドのネックレスは、 大奥様からの大切な頂き物で、 ご結婚式でさえお着けにならなかったものでは? オークションには少々、 華美に過ぎるかと……」
「ネックレスは私が持ってくる。 あなたはドレスの準備を」 南音は房江の懸念を一蹴し、すくと立ち上がった。 「それから、クローゼットにあるドレスはすべて処分して。 新しいものと総入れ替えするわ」
房江が驚きに目を見開くのを背に、南音は奥の部屋へと向かう。 一瞬ためらった後、房江はその指示に従った。
奏真の迎えを待つことなく、南音は自らガレージからランボルギーニを出し、直接会場へと車を走らせた。
チャリティーオークションは、水辺に佇むプライベートな邸宅で開催された。
夕陽の光を浴びて車から降り立った、オーダーメイドのベージュのドレスを纏う南音の姿は、見る者の息をのませた。
身体のラインを拾うドレスは彼女のしなやかな曲線美を際立たせ、モダンに結い上げた髪と気品あるメイクが、洗練された魅力を一層引き立てていた。
彼女が車のキーを係員に手渡した、その時。 スマートフォンが震えた。 ディスプレイには「朝倉奏真」の四文字が執拗に点滅している。
南音は嘲るように鼻を鳴らし、迷いなく通話ボタンを押した。 途端に、電話の向こうから怒声が叩きつけられる。 『誰の許可を得て、あのエメラルドのネックレスを持ち出したんだ?』
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