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私の正体、レベルMAXにつき。 の小説カバー

私の正体、レベルMAXにつき。

数多の顔を持つ最強の実力者は、素性を隠して貧しい青年との結婚を決めていた。しかし、挙式直前に彼が富豪一族の御曹司であることが発覚。豹変した彼は、彼女を卑しい田舎娘と蔑み、世間の晒し者にした挙句に婚約を破棄する。地位を得た元婚約者から冷酷な屈辱を与えられた彼女だったが、その真の姿は世界を揺るがす圧倒的な権力者だった。国際的な神医、上場企業のCEO、最強の傭兵女王、そして天才科学者。次々と明かされる彼女の華麗なる正体に、世界中の求婚者が列をなす事態へと発展する。かつての傲慢さを失い、復縁を求めて必死に媚びへつらう元婚約者。しかし、そんな彼の前に、誰もが恐れる絶大な富と権力を手にした大富豪が立ちはだかる。「私の妻に手を出す不届き者は誰だ?」契約結婚から始まった二人の関係はやがて真実の愛へと変わり、彼女を傷つけた者たちに鉄槌を下していく。正体を隠した最強のヒロインが贈る、逆転と復讐、そして至高のロマンスが幕を開ける。
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「うっ、痛い……」

硬い異物が体に突き刺さるのを感じた瞬間、篠崎葵は痛みで意識が一瞬飛んだ。

太腿の間からじわりと血が滲み出すのが見えて、思わず声が漏れる。「……最悪!」

椅子の上に酔仙草の束を置いていたのを、すっかり忘れていた。よりにもよって、そのまま座ってしまうなんて。長くて鋭い棘が、しっかりと肉に食い込んでいる。痛みと情けなさで、涙が出そうだった。

酔仙草には強力な麻酔作用がある。このままじゃ、あと六時間は全身の力が入らなくなるだろう。葵はすぐに決断した。――店を閉めて、休もう。

痛みで顔をしかめながら棘を引き抜き、『本日休業』の札を掛けに立ち上がる。

だが、立ち上がるより早く、ガラスのドアが勢いよく開き、スーツを隙なく着こなした大柄な男が入ってきた。刺すような鋭い気配が、頬を掠めていく。

男の視線が、真っすぐ葵に向けられた。整った目鼻立ちは、霜のように冷たい。その眼差しには、嫌悪と憎悪、そして、彼女を切り刻みたいとでも言いたげな残忍さが混じっていた。

葵はわずかに眉をひそめた。見覚えのない男だ。素性も目的も分からない。

けれど、ひとつだけ確かだった。こいつは、間違いなく善意の訪問者じゃない。

葵には、敵が多かった。任務のたびに偽名と仮面を使ってはいたが、身元が漏れていない保証なんて、どこにもない。組織に裏切り者が出るなんて、よくある話だ。そう考えれば、敵が追ってきて殺しに来ても、誘拐しに来ても、何の不思議もない。

体の力が、急速に抜けていく。軽率には動けない。葵は、平静を装うしかなかった。

「お客様、お花をお探しですか?」

「フッ!」

男は冷たく鼻で笑った。

男は何も言わず、いきなり葵を抱き上げた。そのまま、ためらいもなく外へ向かう。

「――っ!」葵は本能的に拳を振るった。 だが、力の入らない拳は、男の体に当たっても、まるで、恥ずかしそうに甘えているだけのように無力だった。

その直後、目に飛び込んできた光景に、葵は息を呑む。

狭く古びた旧市街の通りに、黒いロールスロイスが十数台。どれもピカピカに磨かれた高級車が、花屋の前にずらりと並んでいた。

周囲を囲むのは、百人を超える黒服のボディガード。まるで水一滴も通さぬ壁のように、彼女の小さな店を取り囲んでいる。

通行人たちはすでに怯え、両側の店へと逃げ込んでいた。

まるでドラマの中で裏社会の大物が街を占拠するシーンそのものだった。

さすがに場数を踏んできた葵も、蘭市のどの重要人物が自分を捕まえようとしているのか、すぐには見当がつかなかった。

白昼堂々これほどの大騒ぎを起こすとは、あまりに傲慢で、狂気の沙汰だ。

男は迷いなく、葵を乱暴に車へ放り込んだ。

すぐに彼も乗り込み、葵の隣に腰を下ろす。

ドアが閉まると、狭い空間は彼の強大で冷酷なオーラに圧迫され、窒息しそうだった。

葵は平静を保とうと努め、こっそりポケットに手を入れて携帯電話を探り、救難信号を送ろうとした。

だが、触れた途端、携帯は隣の男に奪い取られた。

葵は男の険しく、こわばった横顔を一瞥した。「どなたか存じませんが、せめてお名前と、私を誘拐する目的を……うぐっ!」

続く言葉は飲み込まざるを得なかった。力強い大きな手が、彼女の喉を掴んでいたからだ。

少しでも逆らえば、首をへし折られんばかりの勢いだった。

「お前の芝居に付き合う気はない」

「もう一言でも無駄口を叩けば、血をすべて抜き取ってやる」

命惜しさに、葵はすぐ口を閉ざした。

抵抗する力もなく、ただ事の成り行きを見守るしかなかった。

だが、その後の展開は、葵を再び仰天させた。

男はなんと、彼女を役所に連れて行った。

中に入って出てくると、彼女の名前は彼の配偶者欄に印刷されていた。

再び乱暴に車に放り込まれ、葵は呆然としていた。

手の中の受理証明書をぼんやりと見つめる。ようやく、彼の名前が目に入った――西園寺陽一。

蘭市で、これほどの財力と権力を持ち、西園寺陽一という名の人物は、ただ一人。この街の第一家門――西園寺家の現当主だ。

つまり、巷で噂されるあの億万長者。

恐怖と混乱で、頭が真っ白になる。

葵には、この上なく高貴で、この上なく恐ろしい人物と、接点があった記憶はなかった。

たとえ何かの間違いで彼を怒らせていたとしても、暗殺や報復ならまだしも、無理やり結婚とは!?

「あの、西園寺さん……」

「黙れ!」

葵は事情をはっきりさせようとしたが、彼はまったく話す隙を与えない。

厳しい叱責が飛ぶと、彼は葵の左手をつかみ、高価な大粒のダイヤモンドリングを薬指に滑り込ませた。

続けて命令を下した。「以前、お前がどうやっておばあ様のご機嫌を取っていたかは知らん。だが今日も同じように励め。二度と、私を怒らせるな」

葵:「……」

彼のおばあ様に会ったことすらないのに、どうやって機嫌を取れというのか。

「西園寺さん、私たち何か誤解が……うぐっ!」

葵は再び激しく喉を掴まれた。

男は短気で陰鬱で、発する言葉はどれも地の底から響いてくるようだった。

「最初、お前はあらゆる手を使っておばあ様を丸め込み、俺に結婚を迫った。ついに望み通り俺が折れ、世界中に招待状を送ったというのに、お前は入籍当日に逃げたな?」

「お前が先に付きまとい、後で逃げた理由など興味ない。それによって生じた恥辱や面倒もどうでもいい。だが、おばあ様がそのせいで倒れ、集中治療室に入った。この借りはきっちり返してもらう」

「おばあ様の容態は危ない。すぐ戻れ、いい孫嫁を演じろ。余計な真似をするな。ひとつでもやってみろ。篠崎家ごと、地獄に落としてやる!」

葵は、これでほぼすべてを理解した。

彼が、人違いをしている。

おそらく、葵と彼の見た逃げた婚約者は瓜二つで、彼が見間違えたのだろう。

葵は婚約者の江崎征一と、明日一緒に故郷の明渓町へ戻り、入籍する約束をしていた。一体、どうすればいいというのか。

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