
私の正体、レベルMAXにつき。
章 2
無実の罪でスケープゴートにされ、葵の心は、怒りでいっぱいだった。
計画はすべて陽一によって台無しにされた。たとえ、この後自由を取り戻せたとしても、「バツイチ」という、不名誉なレッテルが待っている。
あの男、目も心も節穴か!
葵は、彼をこの手でひとかじりにしてやりたいほどの怒りに駆られた。
しかし、今は、自分を守る力もなく、彼はあまりに強圧的で荒れ狂い、葵の言葉を受け入れようともしない。再び、屈するしかなかった。
夕日が西に傾く頃、車は壮麗な西園寺家の邸宅に滑り込んだ。
陽一が葵を車から引きずり下ろすと、焦燥に満ちた顔の執事が駆け寄ってきて、報告した。
「陽一様、すぐにご確認ください!大奥様が突然倒れられ、今、救命措置を」
「倒れられるのは、これで三度目です。医師の話では、心不全も併発しており、恐らくは……ご覚悟を……」
陽一の顔が、途端に恐ろしい形相に変わった。
強烈な殺気を感じ、葵は無意識のうちに身を引いた。
だが、一歩も動く間もなく、彼に首を掴まれ、車のドアに叩きつけられた。
彼は狂ったようだった。葵は、死の淵で跪き、喘ぐように首を絞めつけられる。
「おばあ様が無事であるよう祈るんだな!」
「もし、おばあ様に万が一のことがあれば、お前も……道連れだ!」
歯ぎしりしながらそう言い放つと、陽一は乱暴に手を離し、屋敷に向かって大股で歩いていった。
葵は特赦を受けたかのように、痛む首を押さえて激しく咳き込んだ。
「ゲホッ……ゴホゴホ……」
先ほどの死に瀕する感覚が、葵に後からじわりと恐怖と怒りを抱かせた。
あのイカれた男!
彼は今になっても、自分が娶る相手を間違えたことに気づいていない。
あの男の今の凶暴で狂った状態では、もし彼のおばあ様に何かあれば、自分は十中八九、本当に生き埋めにされて道連れにされるだろう!
誤解が解けるまで無事に生き延びるには、彼のおばあ様を救わなければならない。
そう考えると、葵は体に鞭打つように力を込め、よろよろと彼の後を追い、屋敷の中へ踏み込んだ。
寝室では、白髪の老夫人が目を閉じてベッドに横たわっていた。
大勢の医療スタッフが慌ただしく救命措置を行っている。テーブルの上の機器は、血圧も心拍数も下がり続けており――片足は、確実に死の淵に踏み入れている状態だった。
入口まで駆けつけた陽一は、ぴたりと足を止めた。緊張で面持ちは硬直し、言葉も出ない。すぐ後ろに従ってきた葵も、思わず息を飲んだ。
その時、機器に表示されていた心拍の波形が、一本の直線に変わった。
医師も看護師も、思わず息を止めた。しかしすぐ、再び慌ただしい救命措置が始まる。
だが、老夫人の心拍が戻ることは二度となかった。
責任者らしき医師が、沈痛な面持ちで告げた。「大奥様は……お亡くなりになりました。皆様、お悔やみ申し上げます……」
陽一は、どうしても受け入れられなかった。もともと充血していた両目が、さらに血に飢えたような怒りに燃えた。
「信じない──!蘇生を続けろ。どんな手を使っても、どんな代償を払ってでも、今すぐだ!」
医師は静かにため息をついた。「陽一様。大奥様は心不全です。これ以上、蘇生の見込みは……」
陽一の心は一瞬で限界を迎えた。
彼は生まれた直後、両親を亡くした。そして、祖母の手だけで育てられたのだ。祖母は彼にとって、この世で最も近く、かけがえのない肉親だった。
「いやだ、おばあ様がこんな風に行ってしまうはずがない!」
「俺が結婚するのを見届けて、曾孫を抱くまで安心して死ねないと言っていたんだ!」
部屋は、まるで死んだように静まり返り、誰も口を開こうとしない。ただ、長兄の西園寺太郎だけが、冷ややかに鼻で笑った。「もういいだろう、陽一。今更、そんなことを言って何になる?」
この男は陽一の長兄で、二人は実に二十三歳も年が離れている。
太郎は、口を開くなり陽一を言葉で追い詰めようとした。
「おばあ様は、お前のあの逃げた婚約者に腹を立てて病気になられたんだ。あの方の死について、お前には重大な責任がある」
「女一人もまともに管理できないお前に、一族全体を管理できるなんて――どうして、我々が信じられるというのだ?」
「おばあ様に対して少しでも申し訳ないと思うなら、当主の座と株をすべて差し出し、一族の経営から手を引け!」
陽一は薄い唇を固く結び、あらゆる感情を押し殺した。
兄は、祖母が長孫ではなく陽一に株と当主の座を与えたことを、ずっと不満に思っていた。何かにつけて、陽一に罪を着せようと、常に狙っていたのだ。
普段なら陽一は兄を甘やかさない。この腹黒い兄を、完膚なきまで叩き潰す術を、彼は知っていたのだ。
だが今日、彼に言い争う気力はなかった。
確かに心の底から罪悪感を覚えていたし、何より、祖母を安らかに逝かせたかったからだ。
見かねたのは、車椅子に座る三兄の西園寺三郎だった。
「兄さん、陽一はおばあ様が直々に指名した後継者だ。このタイミングで当主の座と株を要求するなんて、あまりにも浅ましいじゃないか!」
「三郎さん、あなたにこの家で口を出す権利があるとでも?」
太郎が口を開くより先に、その妻である西園寺文枝が割り込んできた。皮肉たっぷりの口ぶり。その精緻な化粧も、骨の髄まで染み渡る辛辣さを隠しきれてはいない。
「陽一さんには当主の徳がありません。当主の座も株式も、当然のことながら手放してもらう!」
「一生車椅子生活で、一族に何の貢献もしていない半端者が。あなたも分け前にあずかりたいとでもいうのかしら?」
文枝は昔から口が悪く、三郎の急所を正確に心得ていた。そして、容赦なくそこを突く。
案の定、三郎は苦痛のあまり膝を握りしめ、もう何も言えなくなった。
葵は傍らに静かに立ち、財閥一家の愛憎劇を眺めていたが、興味はなかった。
他人同士が口論している間も、彼女はずっとおばあ様の容態を注意深く観察していた。
口論が白熱する中、葵は静かに呟いた。「大奥様はまだ助かります……」
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