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ラストドラゴン の小説カバー

ラストドラゴン

現代社会の片隅で、ただ絶望に染まったまま命を落とした男。しかし、彼が再び目を覚ましたのは、見たこともない異世界の冷たい牢獄の中だった。死んだはずの男は、そこでレイリアと名乗る竜人のシャーマンと運命的な出会いを果たす。彼女と協力して決死の脱獄を果たした男を待ち受けていたのは、あまりにも残酷な世界の真実だった。かつて彼が過ごした地球はすでに滅び去り、今いる場所こそが、人々が恐れる「地獄」そのものであるということ。そして何より、自分自身の正体が戦うために造られた人造人間「ホムンクルス」であるという衝撃の事実。過酷な運命に翻弄されながらも、何も持たなかった男は、滅びゆく世界を救うために立ち上がる。これは、かつて人生に絶望し、すべてを諦めていた一人の男が、異世界の戦乱の中で己の存在意義を見出し、やがて伝説の英雄王へと至るまでの軌跡を描いた壮大なファンタジー戦記である。男の新たな歩みが、今ここから始まる。
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* * *

 どこまでも続くような青い空、どこまでもつづくような蒼い草原。

 二重の銀と金の太陽がその世界を照らす。

 銀の太陽は銀色の十字架を描き、金色の太陽は八条の光を放っている。

 ここは『無限の花園』。

 真実の愛なる神と、正しい憎悪なる魔王、フェイトが二人で共に暮らす天地。

 その無限の草原の世界に小高い丘が一つ。

 その丘は純白のかがやく鱗粉を胞子のように飛ばすスズランの花園だった。

 丘に沿って細い川が流れ、魚が跳ねる。

 その川べりに小さな小屋が一つ。

 水車がゆっくりと回り、まるで時計のようにこの時間さえも滅んだ世界でネジを回す。

 小屋の中では一人の少女がダブルサイズの質素なベッドで寝息を立て、その寝顔を愛しむように微笑みを浮かべてみている年ごろ20代半ばの女が一人、立っていた。

 女は金髪の長い髪をポニーテイルにし、背丈は身長160センチ半ば。

 しかし、女は人間ではない。

 そのエメラルドグリーンの瞳の瞳孔はまるで爬虫類のように縦に割れている。

 女は純白の質素なウエディングドレスに身を包み、その腰には銀の剣を帯剣している。

 この世界にいるのはこの女と少女のみ。

 おおよそ武装する必要などないのだが。

 女は少女の頭をかがんで撫で、こうひとりごちた。

「もう、そんな時が来たのね」

 女の名前はフェイト。

 神性魔王、第十三番目の悪、憎悪をつかさどる魔王。

 しかしその生涯を通じてフェイトは悪を成したことがなく、憎悪の魔王ではあっても、悪魔ではなく、聖霊に近い存在だった。 

 フェイトは部屋を後にして外に出る。

 そして、金色の太陽と銀色の太陽を包む怪しげな赤い光。

 その光に包まれているのは、第九大罪、不実の魔王。

 その亡骸だった。

 短めのオールバックに紺のパジャマ姿の男は、赤い魔性の光に包まれて空に横たわる。

 男は既に死んでいた。

 そう、成すべきことを成さずに死んだ『不実』がこの男の罪。

 聖書黙示録に登場する、『真実の口』と呼ばれる黙示録の騎士が、この男であった。

 ゆっくりと羽のように揺れながら降下するその男を、フェイトは見ていた。

 やがてその男はスズランの花畑の中に沈む。

 赤い怪しげな光に包まれていた彼は、死にながら目を覚まし、その二つの太陽を見ていた。

「ここは……」

 そう男は呟く。フェイトは男の傍らに立ち、彼の目を見る。

 男は日本人のように見える。

 しかし、その男はアルビノであり、頭髪も肌も粉雪のように白く、また、その眼は怒りに燃えるように赤かった。

 フェイトは男に語り掛ける。

「意識はあるようね」

 男は上体を起こして、少女のように足を揃えて座り直し、フェイトを見た。

「ここは?」

「ここは全ての願いが叶う場所。全ての夢が遂げられる場所。無限の花園へようこそ。第九魔王」

 男は辺りを見渡し、そして我に返ったように心臓の位置に左手を当てた。

 鼓動はない。

 呼吸も止まっている。

 しかし男はそれに動じず、フェイトに言った。

「第九魔王? ここは? 俺は死んだはずだ」

 フェイトは柔らかな微笑みを添えて男に訊いた。

「あなたの夢は?」

 男は怪訝そうに眉をひそめ、こう答えた。

「バラのように美しく、死ぬことだった」

「そのためにあなたは何をしたの?

「どう生きたのか? そうだな、時に酒を飲み、時にタバコを吸い、親の金で暮らし、ただその日が来るのを待った」

「それがあなたを魔王にした。黙示録最強の騎士たるあなたが、堕落して成すべきことを成さなかった。それがあなたの罪。あなたはただ背徳の星にラッパを吹きならせばよかっただけなのに。警鐘という名のリング・ア・ベル」

「俺なりにはやったさ」

「結果が出なかったのは、なぜ?」

「俺は世界のことなんか考えちゃいない。ただあるべき教えをそっと世界に流した。いつまでもそれが世界のどこかにある限り教えは残る。だからインターネットで新たな神の福音を公開した」

「かつて天国で最も勤勉だったあなたがそこまで堕落したのは、七人の悪魔王の陰謀」

「知っているさ。だからこそ俺は狂気に捕らわれ、『早く死にたい』と願うようになった。それは適った。俺はもうどうしようもないほどに死んでいる。血も霊も」

「魂まではあなたは死んでいない。真の神、『愛』のみ名の元、あなたの優柔不断さが招いた悲劇の続きを夢見るつもりはある?」

「それが贖罪になるならば」

「結構」

 男とフェイトの間を猛烈な風が吹き抜け、スズランの花が舞う。

 男を包んでいた赤い光は、白い突風に飲まれて掻き消えていった。

 フェイトは男に手を伸ばして言う。

「もう一度だけチャンスがあるとしたら? やり直せるとしたら? あなたは何を選び、何を棄てるのかしら?」

 男は考える

 人生にチャンスなどない。努力しないものは流れに乗って生き、流れのままに死ぬだけだ。彼は言った。

「俺にさ、なにができるとかなにが正しいとかの選択権はないのさ。それが――」

「そう、それが運命。我は七天穿つ憎悪の荒魂! 七天駆ける愛の御霊! 憎悪と愛の竜王フェイトの名において――を新天地へといざなわん!」

 フェイトは輝くその銀の聖十字宝剣を天に掲げてそう叫ぶ。

 そして、黄金の風が吹き荒れ、その丘はおろか、無限に続く花園や空を飲み込む光の天使の羽。

 七色の虹が二つの太陽を包む円となり、男はあるべき時、あるべき場所へと送られた。

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