
俺本当に邪神の猟犬じゃないから!
章 3
長年、本屋で様々な客との会話を通じて、リンは空気を読むことと、簡単なコミュニケーションスキルを会得していた。
「何かお困りのようですね」。この言葉には何の意味もない。
占い師の第一声がいつも「顔色が悪いようですね」であるのと同じだ。
一種の暗示に過ぎない。
言い換えるなら、これをゲームのフラグとして考えてもいい。フラグが立てば物語は自動的に進むのだ。
「お困り」という言葉を聞くと、人は無意識に最近あった悪いことに思いを巡らす。
そして人生とはうまくいかないことの方が当然多い。
本当に困ったことがあっても、そうではなくても、思い通りにいかないことがあれば、やはり運がよくない、困ったと考えるのが人間だ。
客が愚痴を言い始めた時、その時こそ、リンが慰めながら元気づけ、距離を縮めるチャンスである。
当然、この技は失敗することもある。
例えば、ものすごく運が良い人や警戒心が強い人などには使えない。
しかし、リンには今日は成功するという確信があった。
そして、相手の警戒心を解く自信があるのだ。
なぜなら、この雨でずぶ濡れになった時点で十分お困りだからだ。
キはタオルで服をふきながら、カウンターの後ろで自信ありげな笑みを浮かべる若い男に目を向け、「そうよ、最悪なことがあったわ」と呟いた。
この男が敵なのか友なのか、今は判断できない。
敵であったとしても、弱り切った状態で、全身から神秘的な雰囲気を漂わせるこの男から無事逃げ出すことはできないだろう。
だから、何か企みがあるようだから、今は彼の考えの通りにしよう。
この男が一体何者で、何を企んでいるのか、見てみようじゃないか。
敵ではなければ、それでいい。
もし敵なら、体が回復するまでできるだけ時間を稼ごう。
女が頭を上げてリンを見ているとき、リンは彼女の顔をよく見ることができた。女の瞳は黒に、灰色も混ざっており、二つの色が放射状に伸びてその瞳を彩っていた。磨かれた宝石のように美しい瞳だった。
白皙の耳たぶには、3センチほどの細い血紅色のダイヤモンド形のイヤリングが輝いている。
どこから見ても、この人は面白いお客さんに間違いない。
「人間関係のことですか」とリンは尋ねた。
全身ずぶぬれにしたこの大雨の文句をつける様子はないから、彼女のような若い女性ときたら人間関係のトラブルだろうと彼は推測したのだ。
もちろん、恋人か友人か、親なのかはわからないが。
そういう時は、「人間関係のこと」とだけを言えばいい。
「曖昧模糊」であることは詐欺師も占い師もリンもよく使うテクニックである。大事なのは自分にも相手にも、話のゆとりを持たせることだ。
キはその言葉を聞いた瞬間、生気のない顔になった。
20分ほど前、ハンター拠点で反乱がおき、裏切りにあったばかりなのだ。
現在、彼女を追いかけて殺そうとしているのは、かつての仲間と同僚である。
欲に目がくらんだ連中である。
つまり、「人間関係のこと」で困っているのは間違っていない。
しかし、事が起こってから、たった20分しかたっていないのに情報がこの男に漏れるなんて。
時間を考えても、彼が反乱後にこのことを知ったはずがない。
ゆえに、可能性は2つ。
まず1つは、ハンターグループに内通者がいて、とっくの前にこのことを漏らしていた。
そしてもう1つは、目の前にいるこの青年が全てを把握している人だということだ。
暗赤色の血が泡を立ててタオルに染み込み、その血からは時折酸性の白い煙が出ていた。しばらくの沈黙の後、キは頷いて座ると、ティーカップを軽く手に持って言った。「裏切られたの」
「ほおー」
リンは眉を上げた、少し意外だった。
一体なんだ。この展開は。
彼氏が浮気相手と逃げたか、親友との友情が終わったのか?
だが、リンは人を慰めるのプロであり、ゴシップに興味津々のおばさんではないから、すぐに自分の好奇心を抑えた。
そして、「こんな話だからこそ、より自分の力が生かされる」と思って、さらに続けた。
「どんなことにも裏と表がある。確かにお姉さんは裏切られたかもしれないけど、その人がどんな奴かはっきり見るきっかけにもなったでしょう?」
そう言うと、彼は手を伸ばしてティーポットを手に取り、キのカップに注ぐと、生真面目な顔で、ゆっくりと話し始めた。「離れようとする人を無理に止めようとしてもそれはできないよ。離れる理由なんてどれだけでも挙げられるからね」
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