
この夏、私は家族の命綱にはならない
章 3
昨夜のうちに、友人の許歓に頼んで、手頃な価格帯のスイートルームを用意させておいた。
部屋自体は決して悪くない。だが、彼らが夢見ていたであろう豪華なプレジデンシャルスイートとは天と地ほどの差があった。
前の人生では、許歓は私の顔を立てて最高級のスイートを半額で提供してくれた。
それでも義姉は満足せず、不満をまくし立てたものだ。
「一生に一度のハネムーンなのに、あなたの妹ときたらなんてケチなのかしら!自分の義姉にこんな安部屋をあてがうなんて、どういう神経してるの?」
「こんなに安い部屋がいいわけないじゃない。あの子、お金を使いたくないだけでしょ」
いくら説明しても無駄だった。私が意地悪で安い部屋を選んだと、義姉は決めつけて譲らなかった。
結局、母に泣きつかれ、私はさらに数ヶ月分の給料をつぎ込んで部屋をアップグレードする羽目になった。
だが、今回は違う。友人と示し合わせて、交換できる部屋などないことになっている。それどころか、料金も大幅に吊り上げておいた。
どうせもうすぐ死ぬのだ。立派な部屋など必要ない。腐りかけの肉塊など、どこに転がしておいても同じことだ。
案の定、義姉が理不尽な要求を突きつけてきたが、許歓は動じることなく冷静に対応した。
「あいにく、現在は満室でして。これも夏夏のお顔を立てて、なんとかご用意した部屋なんです。料金も二割引きにさせていただいております」
兄は納得いかない顔でスマートフォンを取り出し、ネットで料金を検索する。すると、表示された一泊十六万円という数字に、みるみる顔色を失っていった。
兄の月給は、わずか十万円なのだ。
これより安い民宿となると、十数キロも離れたA市まで行かなければならない。
アップグレードしようにも空き部屋はなく、彼らは歯を食いしばってその部屋に泊まるしかなかった。
荷物を置いて間もなく、義姉が食事に行こうと騒ぎ出した。
「三亜に来たからには、海鮮を食べなきゃ。獲れたてが一番よ」
その言葉に、兄は舌なめずりをし、目を貪欲に光らせた。
「悪いけど、私はやめておくわ。海鮮アレルギーだから。二人で行ってきて」
私がそう言うと、義姉は侮蔑の視線を向けてきた。「海鮮も食べられないなんて、やっぱり貧乏性なのね。じゃあ、来なくて結構よ」
私は心の中で冷笑した。食べる時はさぞ楽しいだろうが、会計の時に地獄を見るがいい。
三亜の海鮮市場は、悪質な店が紛れ込んでいることで有名だ。「自分の車で行ったはずが、ぼったくられてタクシーで帰る羽目になる」とまで言われている。
前の人生で、彼らはただ「食事に行く」としか言わなかった。
店に着いて、私は唖然とした。兄と義姉が、テーブルに乗り切らないほどの海鮮料理を注文していたのだ。アレルギー持ちの私が頼んだのは、店主に無理を言って作ってもらったチャーハン一杯だけだったというのに。
そして、その店は悪質なぼったくり店だった。会計は、合計で十八万円にも上った。
店側と一触即発の雰囲気になり、入り口ではナイフを手にしたチンピラが見張っている。
身の危険を感じた私は、仕方なくその代金を支払った。
だが今回は、私という金づるはいない。あのチンピラが振りかざす刃が、果たして兄の腹を貫くのかどうか。じっくり見物させてもらうとしよう。
二人が出かけるのを見届けると、私はすぐに友人の元へ向かった。
許歓は学生時代からの親友だ。高校から大学まで、同じクラスで寮の部屋も一緒だった。長年、私たちは深い友情で結ばれている。
私は彼女にすべてを打ち明けた。
前の人生で起きたこと、自分がどんなふうに殺されたのか。そ
して、この三亜の気温が、やがて摂氏七十度という異常な領域に達することも。
許歓は、異常気象の話に衝撃を受けるだろうと私は思っていた。
しかし彼女は、ただ私を強く抱きしめて泣き、母と兄を獣のように罵った。
「クソッ……あいつら、二人とも人でなしよ!」
「死ぬ時、すごく……苦しかったでしょう?」
その言葉に、堪えていたものが堰を切ったように溢れ出した。生まれ変わって以来、
私の心は鉄壁になったはずだった。だが、こうして優しさに触れると、いとも簡単に武装が解かれてしまう。
血縁は、情の証にはならない。共に過ごした時間と、寄り添う心こそが、本当の絆を育むのだ。
私たちは部屋で今後のことを語り合い、迫り来る熱波への対策を練った。
すべてを決め終えた、ちょうどその時だった。私のスマートフォンが鳴った。母からの着信だ。
「佳佳、早く来てちょうだい! あなたのお兄さんが、刃物で斬られたの……!」
「わかった。すぐ行く」
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