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夫の書斎、秘密の報告書 の小説カバー

夫の書斎、秘密の報告書

夫の書斎で見つけた極秘報告書が、私の平穏な日常を地獄へと変えた。そこには一年前の豪華客船沈没事故の際、夫が妻である私ではなく、愛人の仁科乃々紗を最優先で救助するよう指示した事実が記されていた。あの日、炎の中で助けを求め続けた私は、お腹の子と将来を失い、消えない火傷の痕だけが残った。夫はこれまで謝罪を口にしながらも、裏では私の情熱を注いだ香水を愛人の功績として発表し、私に笑顔で同席することを強要したのだ。発表会の席で、愛人は「あの事故も流産もすべて私が仕組んだ」と残酷な真実を囁いた。愛が激しい憎悪へと反転した瞬間、私は復讐を決意する。夫を別荘へと誘い出し、嵐の夜にすべての証拠と離婚届を送りつけた。私は崖の上にストールを遺し、自らの存在をこの世から抹消した。彼への執着を捨て去り、絶望の淵から這い上がるための「死」を選んだのだ。偽りに満ちた夫婦関係に終止符を打ち、私は新たな人生を歩み始める。
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夫の書斎の床に落ちていた極秘報告書.

そこに記された一文が, 私の人生を粉々に砕いた.

『仁科乃々紗の救助を最優先とし, 妻の真理は後回しにせよ』

1年前の豪華客船沈没事故.

夫は「救助が遅れた」と泣いて謝ったが, 全ては偽りだったのだ.

あの日, 私は炎の中で夫の名を叫び続け, お腹の子を失い, 一生消えない火傷を負った.

それなのに夫は, 私が心血を注いだ香水を愛人の手柄として発表し, 私に笑顔で付き添えと命じた.

発表会の夜, 愛人は私の耳元で勝ち誇ったように囁いた.

「あの流産も火傷も, 全部私が仕組んだのよ. お姉様なんていらないわ」

私の心の中で, 愛が憎悪へと変わる音がした.

私は夫に「別荘で朝日を見よう」と嘘の約束をし, 嵐の海へと向かった.

彼に送ったのは, 全ての証拠データと離婚届.

そして私は, 岸壁にストールだけを残し, この世から「消える」ことを選んだ.

第1章

菊地真理 POV:

私の心臓は, 夫の書斎の冷たい床に落ちた. そこに広がる極秘報告書の一文が, 私の人生を, そして私たちの結婚が抱えていた偽りの全てを, 一瞬で引き裂いたからだ. 1年前の豪華客船沈没事故. あの日の悪夢が, 私の脳裏に鮮明に蘇る. あの時, 私はお腹の子を失い, 体には一生消えない火傷を負った. 成也は, 救助隊の到着が遅れたせいだと言った. 私はその言葉を信じた. 彼を信じたかった.

しかし, この報告書は, 成也の直筆サイン入りで, こう告げていた. 『仁科乃々紗の救助を最優先とし, 他の乗客 (真理を含む) は後回しにせよ』.

私の呼吸が止まった. 胸が締め付けられ, 肺が空気を拒否する. 全身の血が一瞬で冷えきった. 体の震えが止まらない. 目に映る文字は, ただのインクの染みではなく, 私の愛と信頼を踏みにじる鈍器のように感じられた. あの時, 船が傾き, 炎が迫る中で, 私は何度も成也の名前を叫んだ. 助けを求めた. しかし, 彼は来なかった. いや, 彼は「来なかった」のではなく, 「私を助けない」という選択をしたのだ.

私の腕に残る火傷痕が, ズキズキと痛み始めた. 胎動を感じられなくなったあの日, 血の海に倒れ込んだ私の絶望. それは, 成也が乃々紗のために下した「冷酷な決断」の代償だった.

「救助隊の到着が遅れた」?

彼の言葉は, 私の耳の中で嘲笑うように響いた. それは私を慰めるための嘘などではなかった. 私を, そして私たちの子を, 見殺しにしたという事実を隠蔽するための, ただの偽りだ.

私の手は, 報告書の端を強く握りしめた. 指の爪が紙に食い込み, 小さな破れ目ができる. しかし, その痛みさえも, 心臓が引き裂かれるような激痛の前では何の意味も持たなかった.

愛していた. 心から. 彼の妻として, 彼の会社の陰の立役者として, 全てを捧げてきた. 私の才能, 私の時間, 私の人生. 全てを成也のために使ってきた. それが, 彼の私への「報い」だったのか.

書斎の重厚なドアが開き, 成也が部屋に入ってきた. 彼はいつものように, 完璧なビジネススーツに身を包み, 疲れた顔をしていた. 彼が私を見つけるなり, その表情が少し和らいだ.

「真理, こんなところで何をしていたんだ? もうすぐ乃々紗の香水発表会だ. 準備はいいかい? 」

彼の声が, 私の耳には現実味のない遠い響きに聞こえた. 乃々紗の香水発表会. 私が心血を注いで完成させた『エターナル・ラブ』. その功績は, 全て乃々紗のものとして発表される.

「ああ, もちろんよ, 成也さん」

私は震える声で答えた. 唇の端が, 勝手に引きつるのを感じた. 私の目には, 彼の顔が, 知らない人のように映っていた. 見慣れたはずのその顔が, 今や冷酷な裏切り者の仮面に見えた.

成也は私の顔をじっと見た. 何かを感じ取ったのだろうか. 彼の眉が, わずかにひそめられた.

「どうかしたのか? 顔色が悪いようだが…無理はするな. 乃々紗は体が弱いから, 自信を持たせてやりたいんだ. 君も理解してくれるだろう? 」

その言葉が, 私の心臓をもう一度, 冷たいナイフで突き刺した. 彼の声には, 私への配慮など微塵も感じられなかった. あるのは, 乃々紗への過保護な愛情と, 私への当然視された要求だけだ. 彼の目には, 乃々紗のことしか映っていない. 私のアレルギーを軽視して屋敷中にカサブランカを飾った日のことが, 走馬灯のように脳裏を駆け巡った. あの時も, 今も, 彼は乃々紗のことしか考えていない.

私はゆっくりと立ち上がった. 報告書は, すでに私の手の中に隠されている.

「ええ, もちろん. 私は, あなたの妻だもの」

私は無理に微笑んだ. その笑顔が, どれほど虚ろなものだったか, 彼には見えなかったはずだ. 彼にとって, 私は「いるのが当たり前」の存在. 空気と同じだ. 私の心の中では, 愛が憎しみに変わる音を立てて崩れ落ちていく. そして, 私の心には, もう一つの感情が芽生え始めていた.

復讐だ.

私の心の奥底で, 何かが決壊する音がした. 崩れ落ちる残骸の中から, 冷たく, 硬い決意が生まれる.

「では, 私は先に行って準備しておくわ. あなたも早く来てね」

私はそう言って, 成也の書斎を後にした. 彼の背中が, まるで私の存在など最初からなかったかのように, 遠ざかっていく. 私の手の中の報告書が, 私の未来の道筋を鮮やかに照らしているように感じられた. それは, 絶望の道ではなく, 決別の道だ.

私の心は, 凍りついていた.

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