
彼の望まれない番、彼女の禁断の魔法
章 3
目覚めると、消毒液の匂いと、冷たく無機質な空気が肌を刺した。薄くてゴワゴワした毛布が顎まで引き上げられ、執拗な、リズミカルなビープ音が静かな部屋に響いていた。
医務室。翠明会の医務室だ。
私の体はまるで異国の地のようだった。かろうじて認識できる、苦痛に満ちた風景。息をするたびに肋骨に新たな炎が走り、足、背中、骨の髄から鈍く重い疼きが脈打っていた。
*彼は私を突き飛ばした。* その思いが、胃の底に冷たく硬い石のように沈んでいた。*彼は私を捨てたんだ。*
会の年配のヒーラーである江藤先生が部屋に入ってきた。その顔には心配の皺が刻まれている。彼の親切で潤んだ青い瞳には、私の肌を這うような深い同情が湛えられていた。
彼は静かに効率よく動き、ベッドの横にあるモニターをチェックする。私の不安で心拍数が急上昇し、リズミカルなビープ音が速まった。
「…どのくらい、ひどいんですか?」私は囁いた。声は乾いて、しゃがれていた。
彼はため息をつき、肩を落とした。ベッドサイドにスツールを引き寄せ、その表情は険しい。
「詩織さん…衝撃は深刻でした。複数の骨折。内臓の打撲。しかし、最悪なのはそれだけではありません」
私は身構え、薄い毛布を握りしめた。
「あのシャンデリアは古く、集光クリスタルで魔法がかけられていました」彼は穏やかな声で説明した。「それが砕けた時、混沌とした魔力が爆発的に放出されたのです。クリスタルの破片があなたの背中、脊椎の近くに埋まっています。それが…あなたの繋がりを妨害している」
血の気が引いた。
「私の繋がり?…狼との?」
彼はゆっくりと頷き、その視線は揺るがなかった。
「破片が、あなたとあなたの魂の狼を結ぶ主要な神経経路を永久に損傷させました。彼女はまだそこにいますが、繋がりは…ほつれ、弱まっています。これから変身するのは困難になるかもしれません。痛みは計り知れないでしょう。詩織さん、一生、後遺症が残るかもしれません」
喉から押し殺したような嗚咽が漏れた。私の狼。彼女は私の力であり、仲間であり、魂の片割れだった。その繋がりが断たれ、自分の体に閉じ込められるなんて…それは死よりも酷い運命だった。
ずっとこらえてきた涙が、ついに溢れ出した。熱く、静かに、頬の汚れの上を伝っていく。
「大和は…来ましたか?」私は尋ねた。その問いは口の中で灰のような味がした。知る必要があった。私の心の奥深く、傷つき、愚かな部分が、彼が後悔に満ちた顔でこのドアから入ってくることをまだ望んでいた。
江藤先生の表情が硬くなった。彼は私の目を見ることができなかった。
「彼は玲奈さんと一緒にいます。彼女は…ショック状態だったそうで」
*ショック状態。* その言葉は苦い嘲笑だった。私の番の体に守られ、かすり傷一つなく立ち去った玲奈が、ショック状態。そして、彼の行動のせいで壊れ、おそらくは後遺症を負う私が、この冷たい白い部屋に一人で置き去りにされている。
私の中に残っていた最後の、揺らめく希望の残り火が消え、冷たく硬い確信だけが残った。
彼は私を愛していない。これからも、決して。
*
彼がようやく現れたのは、二日後のことだった。
私の部屋のドアが開き、彼はそこに立っていた。廊下の光に照らされて、シルエットになっている。パーティーで着ていた仕立ての良いスーツではなく、シンプルな黒いシャツとジーンズ姿だったが、彼にまとわりつく力と支配のオーラを少しも損なうことはなかった。
彼の顔は冷たい無関心の仮面で覆われ、その嵐のような瞳には、後悔や心配のかけらもなかった。
彼はベッドで壊れて横たわる私を見て、唇の端をかすかに歪めた。
「起きていたのか」それは問いかけではなかった。
私は彼を見つめた。心臓は胸の中で氷の塊になっていた。
「あなたが、私を突き飛ばした」
「俺は玲奈を救ったんだ」彼は平坦で硬い声で訂正した。「その過程で、お前は見苦しい姿を晒し、彼女を精神的に追い詰めた。お前は我々の会に恥をかかせたんだ、詩織。あんなに大勢の頭領たちの前で、そんな無様な姿で横たわって」
彼の言葉のあまりの大胆さ、完全な責任転嫁に、私は息を呑んだ。彼は*私*を非難している。彼自身の残酷な選択の犠牲者である*私*に、怒りを向けている。
怪我の痛みなど、彼の残酷さがもたらす苦痛に比べれば何でもなかった。
「私は死んでいたかもしれないのよ」私は囁いた。その言葉は、完全に表現するには弱すぎる怒りで震えていた。
「その方が良かったかもしれないな」彼の声は、ぞっとするほど穏やかだった。「この…俺たちを結ぶこの絆。それは弱点になった。鎖だ。お前のその依存心、感傷的なところは…俺の力を削ぐ。もうこれ以上、許容できない邪魔者だ」
彼はベッドに一歩近づいた。彼の存在が部屋を満たし、私を窒息させる。彼は私を番としてではなく、解決すべき問題、消去すべきエラーとして見下ろしていた。
「古来より伝わる『離縁の儀』を執り行う」彼は宣言した。その言葉は形式的で、儀式的で、そして、完全に最終的なものだった。
私の世界が止まった。モニターのビープ音が遠くに消えていくようだった。離縁の儀。それは最も極端な裏切りの場合にのみ用いられる、残忍で古風な儀式。強制的な拒絶。月女神様自身によって祝福された絆を、魔術的に引き裂く行為。
「やめて」私は息を呑み、首を振った。その動きで頭蓋骨に短剣が突き刺さるような痛みが走る。「大和、そんなこと…」
彼の目は氷のかけらのようだった。
「俺、翠明会頭領、大和は、詩織、お前を番として拒絶する。これにて、我らの絆は断たれた」
その言葉が彼の唇から離れた瞬間、私がこれまで経験したことのない痛みが私を貫いた。それは肉体的なものではなかった。魂が抉り取られるような感覚だった。
喉から、生の、獣のような叫び声が引き裂かれるように上がった。五年もの間私たちを結びつけていた銀色の絆の糸が、プツリと切れた。その反動は壊滅的だった。心臓が爆発し、魔力が制御不能に陥り、生命力が、かつて彼がいた虚空へと吸い取られていくようだった。
世界の縁が灰色に染まっていく。ベッドサイドのモニターのビープ音が、甲高い、連続した一本の音になった。
*
私が最後に見たのは、勢いよく開かれたドアだった。江藤先生がパニックに満ちた顔で駆け込んできた。彼は一本の線を描くモニターを一瞥し、それから大和の冷たく、動かない姿を見た。
「なんてことをしたんですか!」彼は叫んだ。その声は信じられないという気持ちでひび割れていた。彼は必死に医療用タブレットの診断を開始し、その手は画面の上を飛ぶように動いていた。
大和は答えなかった。彼はただ、私が死んでいくのを見ていた。その表情は読み取れない。
江藤先生はモニターを見つめ、目を大きく見開き、顔から血の気が引いていった。彼は光る画面から大和の非情な視線へ、そしてベッドの上の私の壊れた体へと視線を移した。純粋な、混じりけのない衝撃と恐怖が、彼の顔に浮かび上がった。
「頭領…」ヒーラーはどもった。その声は震え、かろうじて聞き取れるほどの囁きだった。「拒絶の…その反動は…彼女だけを傷つけているのではありません」
彼は震える息を吸い込み、その目は大和の目と固く結ばれた。
「月女神様にかけて…!彼女は、あなたの跡継ぎを身籠っているんですよ!」
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