全力で、お仕置きの時間です の小説カバー

全力で、お仕置きの時間です

8.5 / 10.0
婚約を控えた夜、私は残酷な真実を知った。三年間愛し抜き、家政婦の息子から大富豪の御曹司へと押し上げた婚約者は、今も初恋の女性を想い続けていたのだ。彼は初恋の人が私に窃盗の罪を着せるのを黙認し、あろうことか誘拐犯を雇って私の尊厳を奪おうとした。電話越しに「あのブスは好きにしていい」と冷たく放つ彼の声を聞き、私は絶望の果てに笑った。醜く愚かな女を演じていたせいで、彼は私が本物の大富豪の令嬢であることを忘れてしまったらしい。もう演技は終わりだ。田舎者と嘲笑うクラスメイトの前で真の美貌を晒し、成果を盗んだ女のプロジェクトを根底から潰してやる。権力を振るう元婚約者には、彼の父親を跪かせて報復する。正体を現した私の背後には、大富豪の父、伝説の神医、そして世界を牛耳る軍需帝国の後継者が控えていた。軍需帝国の主が私を抱き寄せ「俺の妻だ」と宣言したとき、全てを失った元婚約者は正気を失い、涙ながらに復縁を乞う。しかし、私に慈悲など残っていない。今こそ、彼らに相応しい地獄を見せるお仕置きの時間だ。

全力で、お仕置きの時間です 第1章

痛みが走ったーー頭の奥で何かが裂けるような、鈍く重たい痛みだった。

脳が引きちぎられるみたいに、思考すらまとまらない。

山崎理奈はまぶたを重く持ち上げ、ぼやけた視界の中で、少し離れた場所に立つ数人の男たちを見た。彼らはスマホをスピーカーにして囲み、何かを話している。 「人質は確保しました。次はどうすれば……」男の声が震えていた。

電話の向こうでは、並木慎が眉を寄せ、流れるようなカルテニア語でその言葉を遮った。「不便だ。もっとわかりにくい言語で話せ」

誘拐犯たちは顔を見合わせ、しばらく考え込んだ末、ぎこちないカルテニア語で言った。「並木様、この女はどうしてあなたの怒りを買ったんです? どう扱えばいいんです?」

「……あいつは俺の好きな人の研究を盗んだ。どうしようと構わない」慎は冷たく言い放った。 「ただし、手加減はするな。羽美の気が済んだら、すぐに1000万円を振り込む。 動画を撮って送ってくれ。学校の掲示板に上げて、全員にあいつの醜い素顔を見せてやる」

そのカルテニア語の一言一言が、理奈の頭の中で自動的に日本語へと変換された。

内容を理解した瞬間、彼女の血の気が一気に引いていく。

――誘拐を仕組んだのは、並木慎だった。

学費を払い、ブランド腕時計まで買ってやり、すべてを捧げた相手。その彼氏こそが黒幕だったのだ。

理奈は無意識に唇を噛みしめ、鉄の味が口の中に広がった。

誰も知らない。彼に近づくために、彼女はずっと前からカルテニア語を独学で覚えていた。

だからこそ、慎と誘拐犯のやり取りがすべて聞き取れてしまった。

電話越しの言葉が、一本一本の釘になって彼女の胸を刺す。

胸の奥で封じ込めてきた記憶が、絶望とともに溢れ返った。

理奈は大財閥の一人娘で、慎はその家で働く家政婦の息子だった。

あの年、慎は母親に付き添われて初めて理奈の家の別荘にやって来た。陽の光の中、白いシャツを着た少年の姿が、彼女の目に焼きついた。

その一瞬で、並木慎という名前は彼女の心に刻まれた。

けれど、その想いはずっと胸の奥に隠してきた。

身分の差が大きすぎたのもあるが、 それ以上にーー彼の視線が、いつも別の少女を追っていたからだ。

その少女、西田羽美。慎と幼い頃から一緒に育った幼なじみだった。

彼は羽美への想いを隠さず、まるで宝物のように彼女を守り続けていた。

18歳のとき、慎は羽美を庇って交通事故に遭い、片足の骨を折った。

だが羽美は罪を逃れるように姿を消した。

慎の両親は仕事に追われ、病院での7か月間、彼を支えたのは理奈だけだった。

冬から夏まで、深夜から夜明けまで、冷たい汗を拭き、 震える体を抱きしめたのも彼女だった。

退院の日、慎はそっと彼女の手を握った。

だがその後、羽美は再び彼のもとに現れ、頻繁に近づくようになった。

理奈の胸に、言葉にできない不安が広がった。

やがて羽美は理奈にささやいた。「慎はね、あなたが完璧すぎて疲れるの。私と一緒にいる方が落ち着くのよ」

その言葉を信じた理奈は、自分の語学の才能を隠し、富豪の娘という身分を隠し、高価な服を脱いで、あえて地味な格好をした。

ーーただ、彼の隣にいられるように。

だが婚約前夜、羽美は涙ながらに「理奈に研究を盗まれた」と訴えた。

慎は何も確かめもせず、すぐに理奈を犯人扱いし、誘拐を仕組んだ。

「ツーツー……」無情な音が響き、電話は切れた。

男たちは電話を置くと、歪んだ笑みを浮かべた。

理奈は怯えたふりをしながら一歩ずつ後ずさり、目線だけで逃げ道を探った。

「放して……放してくれたら、2000万円は約束するわ……」彼女は震える声で懇願した。

誘拐犯は大笑いし、彼女の髪を乱暴に掴もうとした。 「ははっ、こんなブスが金持ちだって? 並木様がお前を選んだだけでもありがたいと思え!」

その瞬間、理奈は身をひるがえし、膝を勢いよく相手の腹へ叩き込んだ。

男が苦痛に顔を歪めた瞬間、彼女は左手を鋭くひねって力を込めた。

小さな「カチッ」という音が二度鳴り、縛っていたロープが一瞬で緩んだ。

理奈は体をひねり、関節を外してから素早く元に戻す。

その動きは稲妻のように速かった。

「お、お前……どうやってーー」男たちは目を見開き、息をのむ。

理奈は手首を回しながら、口角をゆっくりと上げた。「今度は、誰が誰に施してるか教えてあげる」

怒り狂った男たちが一斉に襲いかかり、太い腕を伸ばして叫んだ。「この女、殺してやる!」

理奈の瞳が鋭く光り、体をひねり、足を上げて蹴りを放った。

高いヒールが相手の胸に直撃し、 「ドン!」という音が響く。

男は悲鳴を上げ、糸の切れた人形のように吹き飛び、背中から箱の山に激突した。

もう一人が電撃棒を突き出したが、理奈は身をひねってかわし、そのまま掌底を相手の喉に叩き込む。

骨の砕ける音が重なった。

男は地面に崩れ落ち、電撃棒が彼の体の上で火花を散らし続けた。

周囲に敵がいないと確かめた瞬間、理奈の目に涙が溢れた。

それは恐怖ではなく、憎しみの涙だった。

頬を伝う熱い滴が落ちる。

「私の娘は爪を隠す必要などない」父の声が脳裏に響く。その言葉が、「女が強すぎると男は疲れる」という慎の言葉と激しくぶつかった。

理奈はようやく、すべてを悟った。

涙を拭い、瞳に決意の色を宿す。

慎が彼女を操り人形のように扱ったなら、この茶番は自分の手で終わらせるしかない。

彼女はスマホを手に取り、その数分後ーー。

黒塗りの防弾車が現れ、武装した家の護衛たちが倒れた誘拐犯を引きずり込んだ。

慎からの着信が画面に表示されたが、 理奈は一瞥しただけで切り、番号を迷わずブロックリストへ入れた。

そして、 ずっと避けていた父に電話をかけた。

「お父さん……前に話していた縁談の件、私、受けます」

続きを読む

全力で、お仕置きの時間です 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

顧さん、土下座は今更?奥さんは子連れで“新パパ”と挙式秒前 の小説カバー
9.1
結婚から二年、本江安澄が授かった新しい命を顧に告げた瞬間、彼から突きつけられたのは非情な「離婚」の二文字だった。仕組まれた罠によって絶望の淵に立たされ、鮮血に染まりながらも、彼女は必死の思いで夫の番号を呼び出す。しかし、無機質な音声ガイダンスが繰り返されるだけで、最愛の人の声が届くことはなかった。彼への未練を断ち切る決意を固めた安澄は、過去をすべて置き去りにして異国の地へと旅立つ。三年後、彼女はかつての自分とは違う別の顔を持ち、堂々たる帰還を果たした。その傍らには、顧の面影を色濃く残す冷徹な眼差しを宿した幼い息子の姿があった。華々しい再デビューを飾った安澄は、再会した顧に対し、嘲笑を浮かべながら左手の指輪を誇示する。「もう遅すぎるわ。この子はすでに、別の人をパパと呼んでいるのよ」。かつての愛憎を塗り替えるように、彼女は自らの手で掴み取った幸せを見せつける。復讐と再生、そして新たな親子としての人生が、華やかな社交界を舞台に今、幕を開ける。
追放されたら、私が億万長者の万能チートだった件! の小説カバー
7.9
20年間、名家のお嬢様として育てられた清辞だったが、DNA鑑定で血縁がないと判明した途端、婚約破棄と追放の憂き目に遭う。SNSで嘲笑され実家を追い出された彼女を待っていたのは、想像を絶する「真の実家」だった。ハスキーボイスが魅力的な実父に加え、金融界の天才やトップ俳優、医学界のエースに敏腕社長という、妹を溺愛する4人の兄たちが彼女を迎え入れる。しかし、清辞自身もただ守られるだけの存在ではない。伝説のハッカー、フォーミュラカー開発者、ダンス界最年少審査員といった驚愕の裏の顔を次々と露わにし、世界を震撼させていく。かつて彼女を蔑んだ元家族が「名前を出すな」と吠えれば、電話一本でその供給網を壊滅させ、浮気した元婚約者が新しい恋人を自慢すれば、京の街を支配する絶対的権力者が彼女の夫として立ちはだかる。偽物という汚名を返上し、圧倒的なスペックと権力で敵を徹底的にねじ伏せる、最強お嬢様の逆転劇が幕を開ける。文句がある奴は全員、その実力で黙らせるのみ。
彼女の復讐、彼の破滅 の小説カバー
8.6
息子の死は薬物過剰摂取による自殺と断定された。だが鑑識官である私は、自ら検分した遺体が発する「殺人の証拠」を見逃さなかった。真実を求めて七度の再審を請求したが、検事正の榊宗一郎はそのすべてを棄却。二十年尽くした組織は、権力で殺人を隠蔽したのだ。司法に裏切られた私は、法を捨て復讐者となる道を選んだ。榊の娘・麗を拉致し、凄惨な拷問の様子を世界へ配信。かつての恩師や息子の恋人・亜希が説得に現れ、息子の鬱病や遺書を盾に私の正気を疑わせようとする。一時は自責の念に駆られたが、私は遺書に隠された秘密の暗号に気づく。それは幼い頃に愛読した絵本を用いた、息子からの必死の救助信号だった。彼が最後まで抗っていたことを知り、私の迷いは氷解する。神奈川県警の特殊部隊が包囲し、突入の瞬間が迫る中、私は偽りの遺書を拒絶した。息子の叫びを握りつぶした者たちへの怒りを胸に、私は再び麗の肌に鑑識道具を突き立てる。この残酷な儀式は、正義が死んだ世界への、母親としての最期の宣戦布告だった。
隠れ才女は、植物状態の夫と結婚した の小説カバー
8.5
妊娠が発覚した矢先、高橋美咲は恋人の裏切りに遭う。彼の心には帰国した初恋の相手が居座り、美咲は社交界の嘲笑の的となった。周囲は偽の令嬢・優月を称賛し、実の令嬢である美咲を泥にまみれた屑のように蔑む。しかし、一族を裏で操り、家族を著名なデザイナーやスターへと押し上げた真の功労者が彼女であることは誰も知らない。恩を仇で返す高橋家は、利権のために妊娠中の彼女を植物状態の男との政略結婚に追い込む。やがて美咲の正体が露見し、一族が後悔に震える中、元恋人は涙を流して復縁を迫る。だが、そこへ冷徹な声が響き渡った。「俺の子供にお前が何の関係がある?」現れたのは、数多の女性を魅了する鈴木家の当主・鈴木翔太だった。彼は優しく美咲を抱き寄せ、静かに連れ帰る。隠された才能を持つ令嬢と、目覚めた覇道な夫。裏切りから始まる逆転のロマンスが幕を開ける。
彼の結婚式、彼女の完璧な復讐 の小説カバー
8.7
路地裏で血に塗れていた神崎依央を救い出し、兜町の頂点へと君臨させたのは私だった。持てる知識の全てを授け、帝国を築き、密かに夫婦の契りを交わした彼は、まさに私の最高傑作。しかし、そんな彼が私を「看守」や「足枷」と呼び、疎んでいる事実を突きつけられる。裏切りはそれだけに留まらない。彼は私が与えた権力を振るい、死産した愛娘・希を悼んで設立した小児がん病棟を破壊したのだ。その跡地に新恋人への贈り物として高級スパを建設する暴挙に出ただけでなく、娘の死すら私の責任だと冷酷に言い放った。私がゼロから育て上げ、共に歩んだ歴史も亡き子への想いも、彼は無残に踏みにじったのだ。自分を焼き尽くした灰の上で、彼が新たな幸せを掴めると信じているのなら、それは大きな間違いだ。届いた結婚式の招待状を手に、私は静かに決意する。奈落の底へ突き落とす前に、まずは完璧な幸福という絶頂を味わせてやろう。それが、全てを奪われた私から彼へ贈る、最後で最高の復讐の幕開けなのだから。
婚約破棄?構わない。神木さんを骨抜きにしてみせる の小説カバー
8.4
酔った勢いで冷徹な神木に絡んだ桐谷ひなた。鋭い眼差しで「後悔するぞ」と警告されるが、婚約破棄され居場所を失った彼女は彼の家へ向かう。結婚後、義母が育てていたのは亡き想い人の子だった。彼はひなたの顔に、かつて愛した人の面影を重ねていたのだ。従順な身代わりに過ぎない。そう悟った彼女が離婚を告げると、彼は豹変して背後から抱きしめる。「……離さない」と縋るような掠れた声。自分なしではいられなくなった彼の姿に、ひなたは口角を上げ、静かに微笑む。「神木さん、私を必要とするなんて……ずるい人」愛憎と執着が交錯する、二人の歪な関係の行方は。
今すぐ読む
共有