婚約者の双子、残酷な欺瞞 の小説カバー

婚約者の双子、残酷な欺瞞

8.9 / 10.0
一年間、愛を誓い肌を重ねてきた婚約者の正体は、替え玉の双子の弟だった。真の婚約者である一条蓮は、義妹の香織と裏で結ばれ、私を欺き続けていたのだ。彼らの目的は、私を弟と結婚させた後に事故を装って殺害し、私の角膜を香織に移植するという戦慄すべき計画だった。真実に気づいた私を待っていたのは、香織が仕組んだ暴行の濡れ衣と、蓮による無慈悲な折檻だった。床に血が流れても蓮の手は止まらず、さらには香織が犯した祖父殺しの罪まで私に着せ、彼は私を精神病院へと幽閉した。五年の歳月を共にしても、彼は一度も私を信じず、ゴミのように捨て去ったのだ。しかし、彼らは大きな誤算をしていた。私はただの無力な孤児などではない。巨大財閥の令嬢、西園寺暁としての顔を持っていたのだ。地獄の底から救い出された私は、自らの死を偽装して表舞台から姿を消した。そして今、すべてを奪い返すための復讐が始まる。偽りの愛に決別を告げ、真の姿を取り戻した私は、自分自身の人生を歩むために再び彼らの前に現れる。

婚約者の双子、残酷な欺瞞 第1章

婚約者には双子の弟がいた。

この一年、私がベッドを共にしてきた男は、婚約者ではなかった。

私が愛した男は、ただの役者、影武者だったと知った。

本当の婚約者、一条蓮(いちじょう れん)は、義理の妹である香織(かおり)と密かに結婚していたのだ。

彼らの計画は、単なる入れ替わりよりもずっとおぞましいものだった。

私を双子の弟と結婚させ、その後「事故」を装って私の角膜を香織に移植するという、血も涙もない計画。

私がその陰謀に気づくと、香織は私に暴行の濡れ衣を着せた。

私を守ると誓ったはずの蓮は、私が床に血を流して倒れるまで、鞭で打たせた。

そして香織は蓮の祖父を殺害し、その罪を私になすりつけた。

彼はためらうことなく、私を精神病院に放り込み、朽ち果てさせようとした。

彼は一度として、彼女の嘘を疑わなかった。

五年間愛していると言い続けた女を、いとも簡単に捨てたのだ。

でも、彼らは一つ忘れていた。

私はただの遠野詩織(とおの しおり)、無力な孤児ではない。

私は西園寺暁(さいおんじ あきら)。

巨大財閥の令嬢なのだから。

あの地獄から救い出された後、私は自分の死を偽装し、姿を消した。

そして今、私は戻ってきた。

新しい人生を、今度こそ自分のために生きるために。

第1章

遠野詩織 POV:

婚約者には双子の弟がいた。

この一年、私がベッドを共にしてきた男は、婚約者ではなかった。

その事実を、私は匿名のメッセージで知った。

「軽井沢のスターライト・ヴィラ、302号室へ。驚きのプレゼントがある」

削除しかけた。

蓮と私はもう五年も付き合っている。

来月には結婚式を挙げる。

これはきっと、蓮がもうすぐ結婚するという事実を受け入れられない、哀れで必死な女の悪あがきだろう。

ブロックボタンに指をかけた。

その時、二通目のメッセージが届いた。

動画だった。

心臓が肋骨の裏で、ゆっくりと、重く脈打ち始める。

私は再生ボタンを押した。

動画は手ブレがひどく、薄暗いバーの向こうから撮られたものだった。

そこに映っていたのは、蓮と瓜二つの男。

シャープな顎のラインも、いつもかき上げている癖のある黒髪も、何もかもが同じ。

でも、この男は違った。

カウンターにだらしなくもたれかかり、安物の煙草を唇の端にくわえている。

その瞳には、蓮には決して見られない、冷笑的で、無謀な光が宿っていた。

彼は撮影者と笑い合っていた。

「で、本当にやるのか?」

カメラの向こうの人物が尋ねる。

「兄貴のフリして、あいつの女と結婚するって?」

蓮そっくりの男は、煙草を深く吸い込み、煙の輪を吐き出した。

「なんでダメなんだ?割のいいバイトだぜ」

彼の声は、婚約者の滑らかなテノールとは似ても似つかない、ざらついた響きだった。

「それに、面白そうなゲームじゃねえか。完璧なCEO様の人生を、ちょっとだけ拝借するってのもな」

そこで動画は終わった。

震える指からスマートフォンが滑り落ち、フローリングの床に乾いた音を立てて転がった。

息ができない。

胸に巻かれたバンドが、ギリギリと締め付けられるようだった。

ゲーム。

私の人生、私たちの愛は、ただのゲームだったというの?

私はためらわなかった。

鍵を掴むと、頭の中は否定と、燃えるような恐怖で嵐のようだった。

メッセージにあった住所、スターライト・ヴィラへと車を走らせた。

そのヴィラは蓮が所有するプライベートリゾートで、最も重要な顧客だけが利用できる場所だった。

私は一度も来たことがなかった。

彼はいつも、仕事とプライベートは分けたいと言っていた。

302号室を見つけた。

ドアが少しだけ開いている。

震える手で、中が見えるくらいまでそっと押し開けた。

そして、彼の声が聞こえた。

蓮の、本物の声。

動画の荒々しい模倣品じゃない。

五年間、私の耳元で愛を囁き続けた、あの声。

「いい子だ、香織。スープをもう少しだけ」

ここ何年も聞いたことのない、優しい声色だった。

穏やかで、忍耐強くて。

もう私には決して向けられることのない、慈しみに満ちていた。

隙間から中を覗く。

蓮がベッドの端に座り、目の周りに包帯を巻いた女性に、甲斐甲斐しくスープを飲ませていた。

香織。

彼の義理の妹。

彼は親指で、彼女の顎からこぼれたスープの一滴を優しく拭った。

あまりにも自然なその親密さに、吐き気の波がこみ上げてくる。

彼女は彼の腕時計をしていた。

私が三周年の記念日に贈るため、二年もの間、必死で貯金して買ったパテック・フィリップ。

その時計は彼女の華奢な手首でゆるく揺れ、本来は私のものだったはずの愛の証が、絶えずきらめいていた。

「いらないわ、蓮さん」

香織はか細く、弱々しい声で呟いた。

「苦い味がする」

「わかってる」

彼はなだめるように言った。

「でも、体にいいんだ。回復のためには栄養が必要だって、先生も言ってたろ」

彼は一年前に彼女が遭った交通事故について話していた。

その事故で彼女は重い脳損傷を負い、記憶喪失と部分的な失明になったと聞いていた。

彼が運転していれば、と蓮はずっと自分を責めていた。

これ以上壊れようがないと思っていた私の心臓が、粉々に砕け散った。

その時、香織のか細い声が再び空気を切り裂いた。

「お兄様…私たち、本当に結婚してるの?」

彼女の唇へと向かっていたスプーンが、空中で止まる。

部屋の沈黙が耳を圧迫した。

「ああ…そうだ」

彼は低く、しかし確固とした声で言った。

世界がぐらりと傾いた。

耳鳴りがする。

結婚。

彼は妹と結婚していた。

私と婚約しながら。

「じゃあ…じゃあ、詩織さんは?」

香織は、まるで私の存在を察したかのように、包帯を巻いた顔をこちらに向けた。

「来月、彼女と結婚するんでしょう?」

蓮はスープの器を置いた。

「あいつのことは気にするな。ただの形式だ」

形式。

私の五年間は、ただの形式。

「式には陸(りく)を行かせる」

彼の声は、ぞっとするほど冷静だった。

「あいつは俺に心底惚れ込んでる。完全に言いなりだ。違いには気づかないさ。結婚式の後、ちょっとした…事故を手配する。あいつの角膜は、お前と完璧に適合するんだ、香織。お前の目に光が戻る」

私は悲鳴を押し殺すために、口に手を押し当てた。

全身の血が凍りつく。

彼はただ私を人生から排除するだけじゃない。

まるで私がただの資産の寄せ集めであるかのように、私を解体し、部品として利用するつもりだったのだ。

彼が私の顔を撫でながら、「君の瞳が好きだ」と言った時のことを思い出した。

「詩織の目は本当に澄んでいるね」と彼は言った。「晴れ渡った空を見ているようだ」と。

彼は私に見惚れていたんじゃない。

品定めをしていたのだ。

彼のためにしてきた全ての犠牲が、脳裏を駆け巡った。

テレピン油の匂いが頭痛を引き起こすからと、画家になる夢を諦めた。

彼が落ち着いたクラシックなスタイルを好むからと、私のワードローブを全て変えた。

うるさすぎる、品がないと彼が判断した友人たちとは縁を切った。

彼にとって完璧な女性になるために自分を削り、彼の欲望を映すだけの存在になるまで、自分の一部を消し去ってきた。

何のために?

彼の秘密の妻のための、臓器提供者になるために。

突然、蓮の頭がドアの方へ向いた。

「誰だ?」

心臓が止まった。

私は息を殺し、壁に体を平らに押し付けた。

彼は立ち上がり、ドアに向かって歩いてくる。

彼の影が床を横切り、どんどん大きくなるのが見えた。

見つかる、と恐怖に凍りついた瞬間、彼はただ外を一瞥しただけだった。

薄暗い廊下の私の隠れ場所を、彼の視線は通り過ぎていく。

そして、彼はドアを固く閉めた。

カチリと鍵がかかる音がした。

ドアの向こうから、陸の声が聞こえた。

今度ははっきりと、部屋の中にいるのがわかる。

「計画通りか?」

「完璧だ」

蓮が答えた。

「あいつは何も疑っていない」

彼は香織を腕に抱き上げた。

まるで世界で最も貴重なものであるかのように彼女を抱きしめ、スイートの奥へと、ドアから遠ざかっていく。

ついに足の力が抜けた。

私は壁をずるずると滑り落ち、体は制御不能なほど震えていた。

その時、手の中のスマートフォンが震えた。

着信表示は「蓮」。

震える指で、通話ボタンを押す。

「よう、ハニー」

彼の双子の弟、陸の陽気でざらついた声が耳に響いた。

「おやすみって言いたくてさ。会いたいよ」

胃が嫌悪感でねじくれた。

「蓮」

私は囁いた。

声は涙でひび割れ、かすれていた。

「私たち、もう終わりよ」

「なんだって、ハニー?」

彼は尋ねた。

ヴィラの外で突風が唸りを上げ、その音で私の声はかき消されたのだろう。

「聞こえないよ。また明日な?愛してる」

彼は電話を切った。

その決定的な一撃は、まるで物理的な打撃のように私を襲った。

彼は私の声を聞きさえしなかった。

私の自由の宣言、自分自身を取り戻すための最後の必死の試みは、風に消えた。

私はそこに座り込んでいた。

いるはずのないホテルの冷たい床の上で、ついに涙を流した。

私はこの男に心も、魂も、全世界も捧げた。

そして彼はその全てを奪い、私に空っぽの墓だけを残そうとしていた。

でも、彼は間違っていた。

私は手の甲で涙を拭った。

私の愛は、捨てられるための贈り物じゃない。

私の一部だ。

そして私は、それを取り戻す。

スマートフォンが再び震えた。

匿名の番号からの新しいメッセージ。

今度は警告ではなかった。

提案だった。

「選択肢があるのは、彼だけじゃない。君にもある。新しい取引に興味は?」

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