フォローする
共有
偽令嬢?いいえ、私が世界のルールですが何か。 の小説カバー

偽令嬢?いいえ、私が世界のルールですが何か。

江川朱里は20年間、名家の一員として育てられてきたが、実の娘が帰還したことで「偽物の令嬢」として家を追われてしまう。婚約者からも冷酷な言葉で突き放され、すべてを失ったかに見えた彼女。しかし、朱里の正体は世界最高峰の権威を誇る伊藤家の真の令嬢だった。隠されていた彼女の多才な素顔が次々と露わになり、周囲を驚愕させていく。神業とも言える医術、天才的なハッキング能力、さらには世界的人気ブランドのデザイン権までをも掌握する彼女は、まさに世界のルールそのものだった。かつての家族が恩を盾に金を要求し、後悔に震える元婚約者が復縁を迫るも、朱里は冷徹に彼らを切り捨てる。そんな彼女の前に現れたのは、禁欲的で孤高のカリスマと恐れられる御曹司。誰もが跪く高貴な男は、朱里の魅力に抗えず、執着心にも似た深い愛を注ぐようになる。毒舌で冷静沈着な令嬢と、彼女を溺愛するあまり甘い誘惑を繰り返す御曹司。二人が織りなす、華麗なる逆転劇と究極のロマンスが今幕を開ける。
共有

2

30分ほど前、江川朱里が水を飲もうと階下へ降りた時、突然背後から江川咲月の助けを求める声が響いた。

その声で、江川家の全員が駆け寄ってきた。

何の証拠もないまま、彼らは口を揃えて朱里が咲月を突き落としたのだと決めつけ、散々に罵った。

出ていくにしても、身の潔白だけはきちんと証明してからだ。

父は面目を潰されたのが癪に障り、不快そうに眉をひそめた。

母はすぐさま目を吊り上げ、責め立てるように言った。「もういい加減にしなさい!こんな時まで咲月に罪をなすりつけるつもり? まさか、あの子がわざと自分で階段から落ちてあなたを陥れたとでも言うの?」

「私はお姉さんみたいに、いい教育を受けて育ったわけじゃありません。でも、私にもプライドがありますし、越えられない一線だってあります。これ以上、私を侮辱しないでください!」

江川咲月は顔を覆って母の胸にすがりつき、泣きじゃくった。だが、伏せた目の奥にはあからさまな挑発が浮かんでいる。

(どうせ、誰もこの女の言うことなんて信じないんだから!)

だが、なぜか朱里の顔には慌てた様子も怒りもなく、ただその涼しい瞳には嘲りが浮かんでいるだけだった。

まるで、すべてが彼女の想定内であるかのように。

咲月の胸に不安がよぎった。その時だった。不意に耳元に、かすかな物音が聞こえてきた。

トントントン……。

誰かが小走りで階段を下りてくる音。

続いて響いたのは、彼女自身の泣き叫ぶ声だった。「お父さん、お母さん、助けて……!足が……!」

咲月ははっとして顔を上げた。

気がつけばリビングのプロジェクターが起動していて、壁一面の大きなスクリーンには廊下の監視カメラ映像が映し出されていた。そこには、彼女自身が階段を下り、わざと倒れ込み、苦しげな顔で助けを呼ぶ姿がはっきりと記録されていた。

咲月の顔からさっと血の気が引いた。

(どうして、家の中に監視カメラがあるなんて、誰も教えてくれなかったの!)

江川夫妻は、完全に言葉を失っていた。

階段から落ちたというあの騒ぎが、まさか自分たちの可愛い娘の自作自演だったなんて。

咲月が助けを呼んだ瞬間から、朱里はこの後の流れを読んでいた。

だからこそ、あらかじめ準備していたのだ。

咲月が決定的な証拠を突きつけられるまで非を認めない人間だと知っていたからこそ、完膚なきまでに叩きのめすつもりだった。

父と母の驚愕の表情を見て、咲月は込み上げる焦りと怒りを必死に押し殺し、震える声で一転して素直に謝り始めた。

「ごめんなさい……お父さん、お母さん。ただ、長年一緒に暮らしてきたお姉さんの方が大事なんじゃないかって怖くなって……だから、こんな方法で気持ちを確かめようとしてしまったの」

実の娘が長年送ってきた苦しい日々を思い出し、父の表情が和らぎ、その目には憐れみの色が浮かんだ。

「まったく、お前という子は……どうしてそんな悪戯を…… まあ、朱里が寛大な子で助かったな」

「私は寛大じゃありません」

朱里は冷たく言い返した。

(ほんと、期待を裏切らない人たちだ。この状況でもまだそんな白々しいことが言えるなんて!)

咲月の目の奥に恨みがよぎったが、母の腕から身を起こした時には、また意地っ張りで可哀想な娘の顔に戻っていた。

「悪いのは私です。今すぐ荷物をまとめて江川家を出ていきます。これから先、お父さんもお母さんも、私のことなんて放っておけばいいんです。お姉さんが許してくれるなら、それでいいんです」

その言葉に、母の怒りはたちまち掻き立てられた。彼女は目を吊り上げたまま朱里を睨みつけた。「あなたは、ここまで追い詰めないと気が済まないの? そもそも、あなたが咲月の立場を奪わなければ、あの子がこんな風に思い悩むことなんてなかったでしょう!」

(またその決まり文句。少しはひねりなさいよ)

朱里は鼻で笑った。「私は出ていくと言った以上、残るつもりはありません。ですから、これ以上ここで芝居を続けて責任を押しつけ合うのはやめてください。こんなガラクタを争う気はないので」

江川家の三人の顔色がみるみる悪くなった。誰がガラクタだというのか。

咲月は奥歯を噛みしめ、今にも砕けそうなほど力を込めた。

(この女、どこからそんな余裕が出てくるのよ!偽物の令嬢のくせに、本当なら泣いて許しを乞い、この家に置いてくださいって縋るべきでしょう!)

朱里はショルダーバッグを手に、そのまま立ち去ろうとした。

江川夫妻は一瞬、呆気に取られた。

(あれだけの荷物で出ていくつもりなのか。服すら持たずに? どうせ引き留めてもらうための、見せかけに決まっている。 ふん、たかが養女の分際で、これ以上わがままを許すわけにはいかない!)

咲月もまた、朱里が本気でこのまま出ていくなどとはとても思えなかった。

(あのバッグの中に、きっとまだ何か隠してるに決まってる!)

彼女はわざと一歩前へ出て、探るように言った。「お姉さん、それだけしか持たずに出ていくなんて。お父さんとお母さんに可哀想だと思わせたいんですか?」

そう言いながら、朱里の手にあるバッグへ手を伸ばし、ぐいっと引っぱった。

ビリッ――!

バッグのファスナーが勢いよく開いた。中から、見慣れないカードが何枚もばらばらと床に散らばった。

それだけではない。一緒に転がり出たジュエリーボックスの中からは、青いダイヤがいくつも嵌め込まれたブレスレットまで現れた。

おすすめの作品

イカした恋とイカレた妖刀の冒険譚 の小説カバー
9.2
武芸の道に全てを捧げ、ストイックに己を磨き続けてきた傭兵時代。しかし、待っていたのは無慈悲な敗北と挫折の記憶だった。そんな過去を持つ主人公が流れ着いたのは、巨大なカイザード帝都。そこで彼は、捨て犬のような境遇からボトマーズギルド・ハニカムに拾われることになる。かつての面影はどこへやら、現在の姿は「怪人イカ男」と呼ばれるイカの姿をした異様な怪人。さらには、何事にも無気力で面倒を嫌い、金欠に喘いでは物事が裏目に出るチンピラのような男へと転生を遂げてしまっていた。本作は、そんな風変わりな主人公を中心に、物語の語り手が次々と入れ替わる独創的な構成で描かれる新感覚のファンタジー・アクションだ。イカした風貌のイカれた妖刀使いが、混沌とした帝都を舞台にどのような冒険を繰り広げるのか。先の読めない展開と独特の語り口が、読者を不思議な世界観へと引き込んでいく。かつての挫折を胸に秘めた男の、斜め上を行く新たな人生が幕を開ける。
永遠の欲望の闇の中で降りる の小説カバー
8.7
マルチバースの闇から現れた「最暗の騎士」との死闘の末、ブルースは世界が変貌する決定的な瞬間へと立ち戻る。かつての計画にはなかったキャットウーマンとの別離を選び、彼は運命を塗り替えるための危険な賭けに出た。過去を遡り、悲劇的な未来を回避しようとする彼の前に立ちはだかるのは、全宇宙を巻き込む巨大な陰謀と神秘の数々。その旅路の中で、ブルースは破壊神ダークサイドと予期せぬ協力関係を築くことになる。互いの思惑を秘めたまま、二人は神々や悪魔、未知のエイリアンが跋扈する領域へと足を踏み入れ、多元宇宙の支配権を巡る壮絶な権力争いに身を投じていく。ダークサイドとの歪な絆が深まるにつれ、古代の宗教やカルトに隠された恐るべき真実が次々と明らかになっていく。もはや引き返す道はない。支配と欲望が渦巻く果てしない闇の深淵へと、二人はどこまでも堕ちていく。これは、愛と野望が交錯する中で、世界の理を再構築しようとする孤独な男の戦いと変遷を描いた、壮大なダークファンタジーである。
玉座についたヒーロー の小説カバー
8.5
遺伝子研究の分野で比類なき才能を発揮し、若くして業界の頂点に君臨していたバイ・ロッキー。しかし、学会へ向かう途中の航空機事故が彼の運命を暗転させる。死の淵を越えた彼が目覚めたのは、未知なる異世界だった。第二の生を得たロッキーは、窮地に陥っていた一頭のドラゴンを救い出し、神龍帝国を舞台に過酷な修行の日々に身を投じていく。驚くべきことに、彼が絆を結んだドラゴンには、あらゆる病を癒やし、死者にさえ命を吹き込むという伝説的な力が秘められていた。かつての科学者は、この地で無力な人間であることをやめ、野心に満ちた武術の達人、そして精霊を操るスピリット・マニピュレーターとしての道を歩み始める。比類なき相棒となったドラゴンと共に、ロッキーは新たな世界の理を切り拓き、壮大な冒険の旅へと踏み出す。己の野望を胸に、かつての知識と新たな力を融合させた彼が、異世界の歴史にその名を刻んでいく物語がいま幕を開ける。彼らが辿る波乱に満ちた軌跡と、その先に待ち受ける真実をその目で見届けよ。
この夏、私は家族の命綱にはならない の小説カバー
8.9
記録的な猛暑が予想される夏、義姉の強引な提案で家族は避暑地へと向かう。異変を察した私は早期帰宅を促すが、義姉と母は聞く耳を持たず、私を罵倒するばかり。現地では理不尽なトラブルに巻き込まれ、支払いを押しつけられた。やがて磁場の乱れにより、避暑地は逃げ場のない灼熱地獄へと変貌する。空港は閉鎖され民泊に孤立する中、外出禁止令を無視して海へ向かった義姉が危機に陥る。その瞬間、兄は義姉を救うための「踏み台」として私を海へ突き落とした。熱湯のような海水にのまれ、命を落とした私。しかし、実の娘を冷酷に見捨てた家族への怒りと絶望の中で意識が途絶えたはずが、次に目を開けると、あの忌まわしい旅行の計画が始まった瞬間に戻っていた。家族の命綱として理不尽に搾取され、最期は生贄にされた前世。今度はもう、身勝手な彼らの盾になるつもりはない。凄惨な死の記憶を糧に、私は自分一人の命を守り抜くため、破滅へと突き進む家族との決別を決意する。運命を塗り替えるための、孤独で熾烈な戦いが幕を開ける。
奪われたルナ ― 彼の究極の後悔 の小説カバー
9.7
「血月の一族」のアルファ、遠野彰人の運命の番として、私は五年間ルナの座を守り続けてきた。しかし、彼の心は常に別の女、藤堂詩音の元にあった。運命が残酷に牙を剥いたのは、私と詩音の共通の誕生日だ。彰人が私への贈り物だと約束していた銀色のドレスを纏い、詩音は一族の前で彼に口づけを贈る。彰人は詩音を「守るべき弱き存在」と呼び、私にはルナという空虚な肩書きだけを与え、裏では彼女への愛を育んでいた。私の苦しみは無視され、絆を通じて聞こえてきたのは「番というだけで自分を縛るな」という彼の不満だった。溺れるような孤独の中で、私は悟る。彼は運命の相手などではなく、ただの臆病者であり、私は彼を閉じ込める鳥籠に過ぎなかったのだと。私は絶望の果てにホールを去り、彼との絆を自ら断ち切る決断を下した。砕け散った絆を前に、彼は初めて狼狽し、縋るような言葉を口にする。だが、自由を手に入れた私の心に、もはや彼が入り込む余地はない。五年間に及ぶ偽りの愛と後悔の物語が、今ここに幕を閉じる。
舞い降りた最強の妹!3人の大物兄による溺愛計画 の小説カバー
8.6
鈴木瑠香は5年間、家族の愛を求めて尽くし続けてきた。しかし、妹のついた嘘によって「偽の令嬢」の烙印を押され、婚約破棄と追放という非情な運命を辿る。罵声を浴びせられながら家を去った彼女は、ついに未練を断ち切り、自らが与えていた恩恵をすべて回収することを決意した。だが、誰もが予想だにしない真実が隠されていた。「田舎の百姓」と蔑まれていた彼女の実の両親は、実はY国の富を支配する超大富豪一族だったのだ。一夜にして本物の令嬢へと返り咲いた瑠香を待っていたのは、三人の兄たちによる過保護なまでの溺愛。CEOの長兄、世界的科学者の次兄、そして天才音楽家の三兄は、すべての仕事を投げ打って妹のもとへと駆けつける。かつての家族が後悔に震え、元婚約者が復縁を迫るなか、社交界にはさらなる衝撃が走る。名門・加藤家の御曹司であり海軍大将の称号を持つ男が、彼女に婚姻届を突きつけたのだ。どん底から頂点へと登り詰める、華麗なる逆転劇が幕を開ける。