
離婚後、偽令嬢の正体がヤバすぎた。
章 3
彼が振り向くと、凛斗がベランダで煙草を吸っているのに気がついた。
凛斗は骨ばった指で煙草を挟み、薄い唇に当てている。その彫りの深い横顔は、白い煙の中に沈んでいた。
凛斗が喫煙する姿はめったになく、彼が最後に見たのは、もう二年前のことだった。
ロイスはベランダへ歩み寄り、状況を報告した。「松本星嵐様はたいしたことはありません。ただ、長雨に濡れたことと、精神的なショックが重なって悪寒が生じたようです。注射と薬で落ち着くでしょう」
「ニュースも見ましたよ。松本家のやり方は本当にひどすぎます。 縁を切るなら切るで勝手にすればいいものを、わざわざ松本深雪の誕生パーティーで星嵐様を辱めるなんて」
ロイスは続けて、星嵐のために憤慨していた。「あの人たちが当時、星嵐様を海外から連れ戻した際、本当に何の確認もしなかったんでしょうか? この件はどこかおかしいです。間違いなく何か陰謀がありますよ!」
言い終わるや否や、ベッドサイドに置かれた星嵐の携帯電話が鳴り響いた。
凛斗が歩み寄って電話を切ろうとした瞬間、画面の表示名を見て、その整った瞳が鋭く光った。彼は一転して通話ボタンを押した。
繋がった途端、男の怒鳴り声がどっと浴びせてきた。
『松本星嵐!電話にも出ない、メッセージも返さない、一体どういうつもりだ? 死んだふりをして離婚を逃れられると思うなよ。いいか、明日必ず離婚届にサインするんだ!』
『こっちももう限界なんだ。俺と深雪の幸せをこれ以上邪魔しないでくれないか? 松本家であれだけ甘い汁を吸ってきたんだ、少しでも良心があるなら、さっさと身を引け。今、きれいさっぱりあきらめるのが、せめても深雪への償いだ!』
『それに、この二年間、お前が俺の祖母と母をちゃんと世話してくれたから、金はきちんとやる。だが、ふっかけるような真似はするなよ。 自分の今の立場をわきまえろ!』
『なんで黙ってるんだ。おい、どこにいる?」
向こう側のあまりに不気味な沈黙に、近藤遠は違和感を覚えた。
しかし今この瞬間、最初から会話を聞いていたロイスは、心の中で必死に助けを求めて叫んでいた。
遠が口を開いた瞬間から、凛斗の顔色は見る見るうちに険悪になり、冷たい殺気がみなぎり、部屋の空気は重く、足がガクガク震えるほどだった。
凛斗は端正な顔を曇らせ、血も凍るような笑みを浮かべた。『近藤遠、お前はいつも彼女にそんな口を利いているのか?』
――(貴様にその資格はない)
遠は呆気にとられ、直感で、相手が危険な人物だと察して眉をひそめた。『誰だお前は? 松本星嵐はどこにいる?』
凛斗は部屋で眠る星嵐に視線をやり、無意識に口調を少し和らげた。『彼女は寝ている』
『俺の隣でな』
その言葉に、近藤は激昂した。『何だと?』
『貴様、一体誰だ!』
相手の怒りに対し、凛斗は気だるげに冷笑し、鋭い眼光を放った。『焦るな。生きて俺に会えたら、その質問をする資格をくれてやる』。 そう言い捨て、彼は一方的に電話を切った。
翌日、星嵐が目を覚ますと、窓の外はすでに雨が上がり、晴れ渡っていた。
スマホを手に取ると、遠からの罵倒メッセージと着信履歴で埋め尽くされていた。 彼女はそれに一通り目を通すと、スマホを放り投げ、シャワーを浴びることにした。
浴室で鏡の中の自分を見つめると、久しぶりにかつての生き生きとした自分を感じた。
試しに口角を上げてみると、その笑みはもう、以前のような目の笑っていない空虚なものではなかった。 この高熱が、まるで彼女の過去の愚かさや、家族への思い煩いを、すべて焼き払ってくれたかのようだった。
長年バカなふりをしてきたが、この人生の茶番劇もそろそろ終わらせる時だ。
シャワーを浴びた後、彼女は連絡先リストをスクロールし、長い間かけていなかった謎の番号にコールバックした。
繋がるや否や、向こうから興奮した声が飛んできた。『Venus!やっと電話に出てくれた!離婚するって聞いたけど、本当か!? 早く教えてくれ!』
電話の向こうで押し合いへし合いするような騒音から、星嵐は今この瞬間、大勢が聞き耳を立てているのだと察した。
『今日、サインしに行くわ』
案の定、そう告げた瞬間、電話の向こうは歓喜の渦に包まれた。 グラスが触れ合う音や口笛が鳴り止まず、まるで祭りの屋台村だぜ。
『ああああ、神様ありがとう!お前の恋愛脳もついに完治したか? 専業主婦体験キャンペーンは終了?俺たちの神様が、やっと帰ってくるんだな!?』
『離婚最高!素晴らしい!Venus、近藤遠みたいなクズ男にお前はもったいないよ!一言くれれば、今すぐあいつを去勢してやるのに!』
『そうだ、あの松本家だって何様だ! 去年の世界金融危機の時、お前が止めなければ、松本家のハイテク株はとっくに空売りされて大暴落してたんだぞ!Venus、戻ってこい。お前の後ろには、俺たちエデンがついている!』
彼らの熱意を感じ、星嵐は思わず笑い声を漏らした。『それじゃあ、今すぐ車が必要なんだけど』
すると、弾んだ男の声が割り込んだ。『車だけでいいのかい? 神様の帰還祝いだ、F1世界チャンピオンが直々にお迎えに上がるぜ!』
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