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離婚したのに、元夫が離してくれません の小説カバー

離婚したのに、元夫が離してくれません

結婚から二年の月日が流れる中、一度も邸宅に姿を見せず、妻を「醜い女」と決めつけて顔を合わせることすら拒んできた夫。彼は家庭を顧みず、連日のように華やかな芸能界の女性たちと浮名を流し続けていた。愛のない冷え切った関係に限界を感じた彼女は、ついに自ら別れを決意する。お互いに干渉しない自由な人生を歩むため、彼に離婚を申し出たのだ。しかし、独りになったはずの彼の日常に変化が訪れる。勤務先の会社で働く一人の女性デザイナーの存在が、なぜか気になって仕方がなくなったのだ。彼女が隠し持っている素顔を暴こうと、少しずつ心の距離を詰め、その仮面を剥がしていく夫。やがて、彼女の真実の姿を目の当たりにした瞬間、彼は己の愚かさと取り返しのつかない過ちに気づき、激しい後悔に打ちひしがれることになる。別れを選んだはずの二人が織りなす、すれ違いと執着の物語。元妻の本当の美しさを知ったとき、冷酷だった元夫は彼女を離してはくれなかった。
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三十分後。

上庭クラブ。

ここは新川市でもっとも有名な会員制クラブであり、 権力者や富豪たちがこぞって通う高級な社交と娯楽の場だ。

一階では、耳をつんざくような激しい音楽が流れ、 ダンスフロアではカラフルな照明が乱舞し、人々が汗を撒き散らしながら熱狂していた。

水野紗奈はハイヒールの音を響かせながら二階へと上がり、ボックス席で酒を片手に盛り上がる女性の肩を軽く叩いた。

「陽葵」

小森陽葵は彼女の親友で、愛らしく整った丸顔がチャームポイントだ。

「ちょっと、紗奈!美女発見。お姉さんにチューさせなさい!」 そう言うなり、陽葵は紗奈を抱き寄せ、頬にキスを一つ落とした。

紗奈は吹き出しそうになりながら、陽葵を軽く突き飛ばし、自分のグラスに酒を注いだ。

「ねえ紗奈、あんたの旦那って、もしかして相当バカなんじゃない? こんなに綺麗で才能のある女を手放しておいて、わざわざ外で浮気?理解不能なんだけど」

陽葵がグラスを掲げて乾杯しながら、惜しむように言った。

紗奈は一口だけ口をつけ、花が咲いたように艶やかな笑みを浮かべた。「まあ、確かにバカだね」

川崎峻介の目には、自分なんて田舎くさくて垢抜けない女にしか映っていなかったのだろう。

けれど――彼は知らなかった。

「ふん、でもいいのよ。あの男がいらないって言うなら、それで結構。うちの紗奈さんには山ほど男が群がってくるから」

陽葵はにやりと笑いながら、紗奈の首に腕を回した。「ねえ紗奈、離婚までしておいて、まだ“男の香り”も知らないなんて、笑われちゃうわよ? いい男ならいくらでも紹介できるけど、どんなタイプが好み? 今日、特別にセッティングしてあげる」

水野紗奈、「……」

親友の本音がどれだけ“男に食べられちゃえ”と思ってるか、よくわかる。

「ふざけないでよ。今日は飲んで、明日からは仕事に専念するって決めたの」

「いいね。仕事に本気な女って、一番魅力的だよ。 紗奈、これからは二人で生きていこう」

「やめて、あんたの“運命の人”が、後ろから八メートルの大刀持って追いかけてきそう」

「……」

ふたりでお酒を飲みながら、あれこれ話しているうちに、すっかり酔いが回っていた。

紗奈は、陽葵に手を引かれて、ダンスフロアへ。けれど、ちょっとお腹が苦しくなってきて、先にトイレに向かった。

二階のトイレには「故障中」の札がかかっていたため、三階へ足を運んだ。

三階には、個室のVIPルームが並んでいる。

カーペット敷きのフロアに足を踏み入れると、ふわりと柔らかい感触が足裏に伝わった。

少し飲みすぎたせいか、足元がふらついた紗奈は、体を支えきれず、横に倒れ込んでしまった。

隣の個室の扉が突然開き、紗奈はよろけて床に倒れ込んだ。

室内はほとんど灯りがなく、薄暗さの中、 寝室のほうからだけ水音が微かに響いている。

頭がぼんやりとした。ふらつく身体を起こして出口に向かおうとした、そのとき――

寝室のドアが開いた。背後から男の腕が伸び、彼女を無理やり壁に押しつけた。

「お前、誰だ。俺を嵌めるつもりか?」

怒気を含んだ低い声に、欲望を抑え込んでいる気配が混じった。

その瞬間、壁に打ちつけられた衝撃で、紗奈の頭は一瞬だけ冴えた。

この声――川崎峻介だ。

「ち、違う……!」

「違う?じゃあ、どうやってここに入った?」

男の呼吸は荒く、まるで何かを必死に堪えているようだった。

「わ、私……部屋を間違えただけ……。 どいて……んっ……」

紗奈は目を見開き、男の突然のキスに凍りついた。とっさに彼を押しのけようとする。

「助けてくれ。恩は必ず返す」

水野紗奈「……」

――離婚届にサインしたばかりなのに、また元夫と関わってしまうなんて!

熱に浮かされたような一夜を過ごし、朝を迎えた彼女の体は、まるで全身が打ち身のように痛んでいた。

やわらかな風がレースのカーテンを揺らし、差し込む朝日が男の寝顔をほのかに照らす。整った顔立ちは穏やかで、どこか無防備だった。

紗奈はしばらくその顔を見つめた。だがすぐに、自分の体の痛みに顔をしかめながらベッドを離れた。

昨日離婚を切り出したばかりの男と、まさかその夜に寝てしまうなんて。

きっと彼は、未練がましく身体を使って引き止めようとしているとでも思うだろう。

――そんな女じゃない!

奥歯を噛みしめるようにして、紗奈は服を手早く身につけると、音を立てぬよう部屋を抜け出した。

その数分後、斜め向かいの個室の扉が静かに開いた。

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