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離婚したのに、元夫が離してくれません の小説カバー

離婚したのに、元夫が離してくれません

結婚から二年の月日が流れる中、一度も邸宅に姿を見せず、妻を「醜い女」と決めつけて顔を合わせることすら拒んできた夫。彼は家庭を顧みず、連日のように華やかな芸能界の女性たちと浮名を流し続けていた。愛のない冷え切った関係に限界を感じた彼女は、ついに自ら別れを決意する。お互いに干渉しない自由な人生を歩むため、彼に離婚を申し出たのだ。しかし、独りになったはずの彼の日常に変化が訪れる。勤務先の会社で働く一人の女性デザイナーの存在が、なぜか気になって仕方がなくなったのだ。彼女が隠し持っている素顔を暴こうと、少しずつ心の距離を詰め、その仮面を剥がしていく夫。やがて、彼女の真実の姿を目の当たりにした瞬間、彼は己の愚かさと取り返しのつかない過ちに気づき、激しい後悔に打ちひしがれることになる。別れを選んだはずの二人が織りなす、すれ違いと執着の物語。元妻の本当の美しさを知ったとき、冷酷だった元夫は彼女を離してはくれなかった。
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3

戸田沙耶の顔には、怒りが色濃く滲んでいた。周囲を素早く見渡し、上着の前をぎゅっと引き寄せると、早足でその場を離れようとした。

昨夜、彼女は新作映画のヒロイン役を手に入れるため、マネージャーに連れられて数名の業界大物たちとの食事会に参加していた。

だが、食事の途中から頭がふらつき始め――

目が覚めた時には、すでに監督のベッドの上だった。

最低な老いぼれ男……まさか、本当に手を出すなんて!

けれど、芸能界ではこんな話は珍しくもなんともない。

ヒロインの座をつかむため、彼女には声を上げる選択肢すら残されていなかった。

思い出すだけで胸がざわついた。身体の奥にまで残る痛みに、足元がぐらついた。そのまま横に傾き――

ドンッ。隣の個室の扉に思いきりぶつかってしまった。

戸田は大きく息を吸い込み、ふらつく身体を何とか立て直すと、慌てて服を整え、立ち去ろうとした。

そのとき――カチャリ、と音を立てて、目の前の扉が開いた。

川崎峻介が、白いバスローブ姿でそこに立っていた。その深く鋭い瞳には、冷ややかな光が宿っている。

戸田の心臓が一拍、跳ねた。どこか後ろめたい気持ちが、無意識に浮かび上がる。

「か、川崎社長……」

ここ数日、戸田沙耶と川崎峻介の噂が絶えずトレンド入りしていた。

世間では彼女が川崎峻介の新たな恋人になったのだと囁かれている。

けれども――それがマネージャーによる話題作りのためのデマであることを、彼女自身が一番よくわかっていた。

川崎峻介は、ずっと冷ややかだった。

にもかかわらず、ネットにあふれる虚偽の情報について、彼が否定の一言すら発しないのはどういうわけか……。

「昨夜、俺の部屋にいたのは君か?」

廊下に人影はなく、そこに立っていたのは彼女一人だった。峻介の視線が、戸田の首筋に残る赤い痕へと静かに落ちた。漆黒の瞳が、冷たく揺れていた。

あの女が起きた時、彼はすでに目を覚ましていた。

ただ、女があまりにも早くその場を去ってしまったため、声をかける暇がなかったのだ。

今、廊下には誰の姿もない。ここにいるのは、戸田沙耶ただ一人だった。

昨夜、自分を助けてくれたのは――彼女だったのか。

戸田はふと足を止め、川崎峻介の端正な顔立ちを見つめた。瞳の奥がわずかに揺れる。

まさか昨夜、彼が――女と寝た?

でも、その相手が誰かもわかっていない?

「川崎社長、私……」

「中で話そう」

ベッドに残っていた、あの赤の痕跡が頭をよぎった。峻介の声は、ほんの少しだけ柔らかくなっていた。

戸田の胸に、かすかな喜びが灯る。急いで彼のあとに続いた。

「昨夜、君は『部屋を間違えた』から、俺の部屋にいたと言ってたな?」

ソファに腰を下ろし、峻介はふと目を上げて彼女を一瞥した。

記憶は曖昧だったが、女が彼の腕の中で咲き乱れる瞬間だけは、妙に鮮明に刻まれている。

もし、それが彼女の策略ではないのだとしたら――自分は、彼女に借りがあるのかもしれない。

「はい。本当は、今村監督の部屋で台本の読み合わせをする予定だったんですが、間違えて別の部屋に入ってしまって……」

戸田は、すっと視線を落とし、その目に浮かんだ鋭い光をそっと隠した。

峻介はしばし黙り込んだあと、問いかけた。「君は、どんな補償が欲しい?」

戸田はふと顔を上げ、彼を見据えた。唇が微かに動いた。「結構です、川崎社長。私たちはもう大人ですから。昨夜のことは、私の中ではもう終わっています」

川崎峻介――新川市で最も権勢を握る男。

彼がひとたび足を動かせば、この街は三度揺れると言われている。

数えきれないほどの女たちを見てきた男にとって、一夜の過ちは取るに足らぬ出来事なのだろう。

もし今ここで補償を求めれば、それはかえって彼の中で自分の価値を下げてしまう。

「君は星影メディアの看板女優だ。安心しなさい。最上級の案件をすべて君に回す。一年以内に、トップ女優の座に押し上げてみせる」 峻介の口から放たれたその言葉に、 戸田の胸が高鳴った。

だが、込み上げる喜びは必死に押し殺し、穏やかな声で応えた。「ありがとうございます、川崎社長」

「もう行っていい」 峻介は、戸田の澄ました表情を見て、心中で彼女を少し見直した。

「はい」 戸田は高鳴る鼓動を必死に押さえながら、くるりと背を向け、立ち去ろうとした。

「待て」

川崎峻介の突然の声が、彼女の呼吸を止めた。

振り返ると、峻介がベッドのそばで身を起こし、床に落ちていた上等な翡翠のペンダントを拾い上げるところだった。

「これは――君のものか?」

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