離婚したのに、元夫が離してくれません の小説カバー

離婚したのに、元夫が離してくれません

9.5 / 10.0
結婚から二年の月日が流れる中、一度も邸宅に姿を見せず、妻を「醜い女」と決めつけて顔を合わせることすら拒んできた夫。彼は家庭を顧みず、連日のように華やかな芸能界の女性たちと浮名を流し続けていた。愛のない冷え切った関係に限界を感じた彼女は、ついに自ら別れを決意する。お互いに干渉しない自由な人生を歩むため、彼に離婚を申し出たのだ。しかし、独りになったはずの彼の日常に変化が訪れる。勤務先の会社で働く一人の女性デザイナーの存在が、なぜか気になって仕方がなくなったのだ。彼女が隠し持っている素顔を暴こうと、少しずつ心の距離を詰め、その仮面を剥がしていく夫。やがて、彼女の真実の姿を目の当たりにした瞬間、彼は己の愚かさと取り返しのつかない過ちに気づき、激しい後悔に打ちひしがれることになる。別れを選んだはずの二人が織りなす、すれ違いと執着の物語。元妻の本当の美しさを知ったとき、冷酷だった元夫は彼女を離してはくれなかった。

離婚したのに、元夫が離してくれません 第1章

新川市の夏の夜は、静まり返っていた。

水野紗奈はソファに腰を下ろし、スマートフォンでニュースを眺めていた。

「川崎グループ社長・川崎峻介、人気女優・戸田沙耶とともに公式イベントへ出席。二人はその後、ホテルで一夜を共にし、親密な様子が撮影され……」

そのニュースはたちまちSNSでトレンド入りし、ネット中を駆け巡っていた。

水野紗奈は黒縁の眼鏡を押し上げながら、無表情のまま写真に視線を落とした。

画像はぼやけていたが、それでも窓辺で抱き合い、唇を重ねる男女の姿ははっきりと確認できた。

その男こそが、彼女の夫――新川市随一の名家、川崎家の後継者、川崎峻介だった。

新川市の経済の要を握る、極めて高貴で特別な存在。

――滑稽な話だ。

二人は結婚してすでに二年が経つというのに、川崎峻介は一度も家に戻ってきたことがなかった。

結婚の届け出すら、本人は現れず、 彼の弁護士が双方の身分証を持って役所に出向き、すべてを済ませたのだった。

水野紗奈にはわかっていた。川崎峻介がこの結婚をずっと拒んでいたことくらい。

彼が結婚に応じたのは、ただ川崎おばあさんのため。

かつて祖父が川崎おばあさんの命を救った縁で、水野家に衣食住に困らない人生を与えてやってほしい――そう頼まれたのだった。

本当は、少しだけ期待していた。二人の関係が、いつか変わるかもしれないと。

けれど、そんな願いは儚く散った。この二年間、川崎峻介はたびたび若い女優たちとのスキャンダルを起こし続けていた。

水野紗奈は唇を引き結び、スマートフォンを取り出すと、彼の連絡先を探し出した。

――自分から電話をかけるのは、これが初めてだった。

まもなく、呼び出し音が止まり、通話がつながった。

「……もしもし、水野紗奈です」

「水野紗奈? どの水野紗奈?」

電波越しに響く男の声は、低く、よく通る。 たとえ冷ややかでも、その響きには妙に惹きつけられるものがあった。

水野紗奈はかすかに笑みを浮かべ、スマートフォンを握り締めた。

――やっぱり。彼は、自分の妻の名前すら覚えていない。

「あなたの結婚証明書に記載されているもう一人、よ」

「……で?用件は?」 男の声は、さらに冷たくなった。

水野紗奈は眼鏡の位置を直しながら、静かに口を開いた。「離婚しましょう」

通話の向こうが、一瞬沈黙した。

そして川崎峻介が問った。「本気でそう思ってる?」

「ええ、もちろん」

「条件があるなら、言ってくれ」

「必要ないわ。川崎社長のお金なんて、欲しくもない。 それに、誰かと“同じ人参”を分け合うなんて、まっぴらごめん。 離婚届は用意してあるし、財産も一切いらない。私は何も持たずに出ていくから」 一息で言い切ると、彼女はそのまま電話を切った。

二人の間に残ったのは、一枚の結婚証明書だけ。それ以外は、見知らぬ他人と何ら変わらなかった。

これからは、橋は橋、道は道。交わることも、重なることもない――もう、何の関わりもない。

水野紗奈は階段を上がると、黒縁の眼鏡を外した。その下から現れたのは、息をのむほど美しい顔立ち。

あらかじめ用意していた離婚届をテーブルに置くと、きちんと荷造りされたスーツケースを引いて、何ひとつ未練を残さず立ち去った。

――川崎グループ。

やわらかな黄色の照明が、社長室全体をあたたかく照らしている。

デスクチェアに腰かける川崎峻介は、シンプルな白シャツに黒のスラックスという装いながら、どこか近寄りがたい気品をまとっていた。

彼はスマートフォンの画面を見つめ、端正な唇をわずかに持ち上げて、皮肉めいた笑いを漏らした。

ようやく、名ばかりの妻が観念して離婚を申し出てきたらしい。

そのとき、コンコンとドアがノックされた。入ってきたのは、側近の古川大輔だ。

「社長、近藤社長との約束の時間が近づいております」

「ああ」そう軽く応じると、川崎峻介は椅子の背にかけていた上着を手に取った。

「……古川、今日のホットワードは削除しておけ。 それと、離婚証明書の手続きも弁護士に進めさせろ」

古川大輔、「……」

(うちの社長、誰より潔癖なくせに、三日に一度はスキャンダルをばら撒いて……全部、今日のこの瞬間のためだったんだな)

水野紗奈はタクシーを拾い、自分名義のマンションへと直行した。

その物件は市の中心部にあり、3LDK。

一寸の土地にも価値があるエリアで、住宅設備もすべてが整っている。

荷物を片付け終えたあと、水野紗奈は大きな掃き出し窓の前に立ち、煌びやかな夜景を見下ろした。そしてスマホを取り出し、親友に電話をかけた。

「陽葵、離婚したよ」

「……えっ? 紗奈、ついに!?やったじゃない!今日こそお祝いだね、独身復活おめでとう!」

「うん、行く」

続きを読む

離婚したのに、元夫が離してくれません 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

ロボットの私は、誕生日だけ生き返る の小説カバー
8.4
「君は不死身だろう。命を彼女に譲ってほしい」という恋人の身勝手な願いを、私は受け入れた。しかし、彼は気づいていない。その決断を下した瞬間、私の命は本当に尽きてしまったのだ。私に残されたのは、誕生日を祝われるたびに一年間だけ蘇生できるという特殊なシステムだけだった。かつて「毎年ずっとそばにいる」と誓った彼の言葉を信じ、私は機械の体となって復活の時を静かに待つ。だが、約束の誕生日に彼が選んだのは、私ではなく“本命”の女性との婚約旅行だった。SNSには二人の幸せなニュースが溢れ、彼からは「彼女のために、騒がないでくれ」と冷酷なメッセージが届く。死人となった私が声を上げる術などない。しかし、再会した彼が私の変わり果てた機械の姿を目の当たりにしたとき、平穏を乱し、狂ったように取り乱したのは、他でもない彼の方だった。裏切りと再生が交錯するなか、かつての愛の形は残酷に崩れ去っていく。
裏切られた女、結婚式で笑う の小説カバー
8.1
婚約から3年、信じていた彼に裏切られた。彼は私の親友と不倫関係に陥り、それを隠すどころか周囲に堂々と見せびらかしたのだ。かつては幼なじみとして絆を育んだはずの私は、業界内の嘲笑の的にされていた。彼は、私が彼への執着ゆえに何をされても耐え忍び、決して離れないと高を括っていたのだろう。しかし、そんな彼の独りよがりな確信は、ある日突然崩れ去ることになる。私の隣に新たな伴侶となる名家の御曹司が現れ、彼のもとに結婚式の招待状が届いたのだ。さらに追い打ちをかけるように、私と新しいパートナーの婚姻届が世間に公開された。迎えた式の当日、かつての傲慢な姿は消え失せ、必死に土下座して謝罪を繰り返す彼の姿があった。そんな彼を冷徹な眼差しで見下ろしながら、私は隣に立つ夫の腕を抱き、静かに告げる。「あなたのような人と関わっていた過去こそが、私にとって最大の恥だわ」と。これは、裏切りに甘んじていた女が完璧な復讐を果たし、真の幸せを掴み取るまでの物語である。
元夫に捨てられたら、逆に儲けまくった〜再婚は、あとでいい〜​ の小説カバー
7.9
周囲から疎まれる存在だった佐藤婉寧は、夫である鈴木原璟からも冷遇され、孤独な日々を過ごしていた。絶え間ない拒絶の末、ついに彼女は離婚を決意。財産の半分を要求し、彼との縁を断ち切った。原璟は喜んで署名したが、その後の展開は予想外だった。慰謝料を元手に事業を成功させ、輝きを増していく元妻。さらには新たな男の影まで現れる。その姿に焦った原璟は、以前の態度を翻して彼女に執着し始める。「全財産を譲るから再婚してくれ」と懇願し、なりふり構わず復縁を迫る。捨てられたはずの女と、後悔に震える元夫。逆転した二人の関係の行方は。
追放されたら、私が億万長者の万能チートだった件! の小説カバー
7.9
20年間、名家のお嬢様として育てられた清辞だったが、DNA鑑定で血縁がないと判明した途端、婚約破棄と追放の憂き目に遭う。SNSで嘲笑され実家を追い出された彼女を待っていたのは、想像を絶する「真の実家」だった。ハスキーボイスが魅力的な実父に加え、金融界の天才やトップ俳優、医学界のエースに敏腕社長という、妹を溺愛する4人の兄たちが彼女を迎え入れる。しかし、清辞自身もただ守られるだけの存在ではない。伝説のハッカー、フォーミュラカー開発者、ダンス界最年少審査員といった驚愕の裏の顔を次々と露わにし、世界を震撼させていく。かつて彼女を蔑んだ元家族が「名前を出すな」と吠えれば、電話一本でその供給網を壊滅させ、浮気した元婚約者が新しい恋人を自慢すれば、京の街を支配する絶対的権力者が彼女の夫として立ちはだかる。偽物という汚名を返上し、圧倒的なスペックと権力で敵を徹底的にねじ伏せる、最強お嬢様の逆転劇が幕を開ける。文句がある奴は全員、その実力で黙らせるのみ。
五年間の欺瞞、一生の報い の小説カバー
9.8
児童養護施設で育った私、有栖川家の令嬢は、ようやく手に入れた家族の愛と夫・譲の慈しみに包まれ、幸せの絶頂にいた。かつて私を陥れようとした菊池莉奈も施設に収容され、平穏な日々が続くはずだった。しかし、夫の誕生日にサプライズを計画した私は、残酷な真実に直面する。街外れの画廊で、譲は莉奈と、そして五歳になる彼らの息子と共にいたのだ。莉奈は監禁などされておらず、そこには私と同じ日に生まれた息子を囲む、もう一つの「家庭」があった。私が断られた遊園地行きは、息子との先約のためだったのだ。「何でも信じる哀れな女だ」と嘲笑う夫の声。両親の溺愛も夫の献身も、すべてはこの秘密の生活を維持するための資金源として私を利用する、五年間にわたる壮大な欺瞞だった。裏切りを知らぬふりで届く「会いたい」という夫からの嘘のメッセージ。彼らは私を、支配しやすい孤独な孤児だと思い込んでいる。だが、その慢心がどれほどの過ちであったか、私はこれから彼らに思い知らせてやる。道化師の仮面を脱ぎ捨て、私は復讐の幕を上げる。
間違えて嫁いだら、社長の愛しさが止まらない の小説カバー
8.5
意地悪な妹が仕掛けた罠によって、謎の男性を救うことになった佐藤夏希。しかし翌日、彼女を待っていたのは、妹の身代わりとして「無能」と蔑まれる男のもとへ嫁げという理不尽な強要だった。恐ろしい形相をしていると噂される結婚相手だったが、目の前に現れたのは、類まれなる美貌を持つあの時の男性だった。高貴な身分を隠し持つ彼は、千億もの莫大な資産を譲渡することを条件に、百日後の離婚を夏希に提案する。やがて約束の日が訪れ、夏希が身を引こうとしたその時、夫である翼は初めて彼女を深く愛している自分に気づく。夏希を失いたくない翼は、どこまでも彼女を追い、壁際に追い詰めると「俺の子供を宿していながら、まだ逃げるつもりか」と切実に訴えかける。離婚は容易くとも、一度離れた心を取り戻すのは命がけの試練。愛に飢えた社長が、最愛の妻を再び手に入れるために執念で追いすがる、波乱に満ちた溺愛劇がいま幕を開ける。
今すぐ読む
共有