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離婚したのに、元夫が離してくれません の小説カバー

離婚したのに、元夫が離してくれません

結婚から二年の月日が流れる中、一度も邸宅に姿を見せず、妻を「醜い女」と決めつけて顔を合わせることすら拒んできた夫。彼は家庭を顧みず、連日のように華やかな芸能界の女性たちと浮名を流し続けていた。愛のない冷え切った関係に限界を感じた彼女は、ついに自ら別れを決意する。お互いに干渉しない自由な人生を歩むため、彼に離婚を申し出たのだ。しかし、独りになったはずの彼の日常に変化が訪れる。勤務先の会社で働く一人の女性デザイナーの存在が、なぜか気になって仕方がなくなったのだ。彼女が隠し持っている素顔を暴こうと、少しずつ心の距離を詰め、その仮面を剥がしていく夫。やがて、彼女の真実の姿を目の当たりにした瞬間、彼は己の愚かさと取り返しのつかない過ちに気づき、激しい後悔に打ちひしがれることになる。別れを選んだはずの二人が織りなす、すれ違いと執着の物語。元妻の本当の美しさを知ったとき、冷酷だった元夫は彼女を離してはくれなかった。
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新川市の夏の夜は、静まり返っていた。

水野紗奈はソファに腰を下ろし、スマートフォンでニュースを眺めていた。

「川崎グループ社長・川崎峻介、人気女優・戸田沙耶とともに公式イベントへ出席。二人はその後、ホテルで一夜を共にし、親密な様子が撮影され……」

そのニュースはたちまちSNSでトレンド入りし、ネット中を駆け巡っていた。

水野紗奈は黒縁の眼鏡を押し上げながら、無表情のまま写真に視線を落とした。

画像はぼやけていたが、それでも窓辺で抱き合い、唇を重ねる男女の姿ははっきりと確認できた。

その男こそが、彼女の夫――新川市随一の名家、川崎家の後継者、川崎峻介だった。

新川市の経済の要を握る、極めて高貴で特別な存在。

――滑稽な話だ。

二人は結婚してすでに二年が経つというのに、川崎峻介は一度も家に戻ってきたことがなかった。

結婚の届け出すら、本人は現れず、 彼の弁護士が双方の身分証を持って役所に出向き、すべてを済ませたのだった。

水野紗奈にはわかっていた。川崎峻介がこの結婚をずっと拒んでいたことくらい。

彼が結婚に応じたのは、ただ川崎おばあさんのため。

かつて祖父が川崎おばあさんの命を救った縁で、水野家に衣食住に困らない人生を与えてやってほしい――そう頼まれたのだった。

本当は、少しだけ期待していた。二人の関係が、いつか変わるかもしれないと。

けれど、そんな願いは儚く散った。この二年間、川崎峻介はたびたび若い女優たちとのスキャンダルを起こし続けていた。

水野紗奈は唇を引き結び、スマートフォンを取り出すと、彼の連絡先を探し出した。

――自分から電話をかけるのは、これが初めてだった。

まもなく、呼び出し音が止まり、通話がつながった。

「……もしもし、水野紗奈です」

「水野紗奈? どの水野紗奈?」

電波越しに響く男の声は、低く、よく通る。 たとえ冷ややかでも、その響きには妙に惹きつけられるものがあった。

水野紗奈はかすかに笑みを浮かべ、スマートフォンを握り締めた。

――やっぱり。彼は、自分の妻の名前すら覚えていない。

「あなたの結婚証明書に記載されているもう一人、よ」

「……で?用件は?」 男の声は、さらに冷たくなった。

水野紗奈は眼鏡の位置を直しながら、静かに口を開いた。「離婚しましょう」

通話の向こうが、一瞬沈黙した。

そして川崎峻介が問った。「本気でそう思ってる?」

「ええ、もちろん」

「条件があるなら、言ってくれ」

「必要ないわ。川崎社長のお金なんて、欲しくもない。 それに、誰かと“同じ人参”を分け合うなんて、まっぴらごめん。 離婚届は用意してあるし、財産も一切いらない。私は何も持たずに出ていくから」 一息で言い切ると、彼女はそのまま電話を切った。

二人の間に残ったのは、一枚の結婚証明書だけ。それ以外は、見知らぬ他人と何ら変わらなかった。

これからは、橋は橋、道は道。交わることも、重なることもない――もう、何の関わりもない。

水野紗奈は階段を上がると、黒縁の眼鏡を外した。その下から現れたのは、息をのむほど美しい顔立ち。

あらかじめ用意していた離婚届をテーブルに置くと、きちんと荷造りされたスーツケースを引いて、何ひとつ未練を残さず立ち去った。

――川崎グループ。

やわらかな黄色の照明が、社長室全体をあたたかく照らしている。

デスクチェアに腰かける川崎峻介は、シンプルな白シャツに黒のスラックスという装いながら、どこか近寄りがたい気品をまとっていた。

彼はスマートフォンの画面を見つめ、端正な唇をわずかに持ち上げて、皮肉めいた笑いを漏らした。

ようやく、名ばかりの妻が観念して離婚を申し出てきたらしい。

そのとき、コンコンとドアがノックされた。入ってきたのは、側近の古川大輔だ。

「社長、近藤社長との約束の時間が近づいております」

「ああ」そう軽く応じると、川崎峻介は椅子の背にかけていた上着を手に取った。

「……古川、今日のホットワードは削除しておけ。 それと、離婚証明書の手続きも弁護士に進めさせろ」

古川大輔、「……」

(うちの社長、誰より潔癖なくせに、三日に一度はスキャンダルをばら撒いて……全部、今日のこの瞬間のためだったんだな)

水野紗奈はタクシーを拾い、自分名義のマンションへと直行した。

その物件は市の中心部にあり、3LDK。

一寸の土地にも価値があるエリアで、住宅設備もすべてが整っている。

荷物を片付け終えたあと、水野紗奈は大きな掃き出し窓の前に立ち、煌びやかな夜景を見下ろした。そしてスマホを取り出し、親友に電話をかけた。

「陽葵、離婚したよ」

「……えっ? 紗奈、ついに!?やったじゃない!今日こそお祝いだね、独身復活おめでとう!」

「うん、行く」

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