冷血御曹司の溺愛包囲網からは絶対に逃げられない。 の小説カバー

冷血御曹司の溺愛包囲網からは絶対に逃げられない。

9.0 / 10.0
信じていた真実の愛が残酷な嘘だと知った時、榊原詩織の運命は一変した。婚約者と実の妹は裏で繋がり、彼女の財産を奪おうと画策していたのだ。裏切りの果てに純潔を失った詩織は、復讐を果たすべく、残忍で気まぐれと恐れられる長谷川彰人との婚姻契約に踏み切る。周囲は彼女の破滅を予想したが、聞こえてくるのは彰人からの過剰なまでの溺愛ぶりだった。妹が詩織の過去を罵れば、彰人はその相手が自分であると告げて一蹴し、元婚約者が詩織を見下せば、最高級の宝石を玩具として与え、彼女の価値を証明してみせる。どんな窮地からも守ってくれる彼の献身を、詩織は契約上の演技だと言い聞かせていた。しかし、契約期間が満了し、自由の身になろうとした彼女を待っていたのは、冷徹なはずの男による強引な拘束だった。寝室に閉じ込められ、夜通し愛を刻み込まれた詩織が契約違反を訴えると、彰人は狂気すら孕んだ熱い視線で彼女を見つめる。彼は最初から、一時的な協力関係など望んでいなかった。指先で彼女の唇を辿りながら、彰人は「終身契約」への更新を執拗に迫るのだった。

冷血御曹司の溺愛包囲網からは絶対に逃げられない。 第1章

北上市の夜更け、土砂降りの雨だった。

榊原詩織がホテルに駆けつけた時、全身はずぶ濡れで、髪の毛が頬にみっともなく張り付いていた。

詩織は自分の身なりを整える余裕もなく、うつむいて胸に抱えた紙袋の中身を確かめた。

30分前、婚約者の有馬明彦からメッセージが届いた。シャツに赤ワインをこぼしてしまい、明日使うから新しいものを届けてほしい、と。

突然の雨で、車を降りた時に傘すら持っていなかったが、幸い明彦の新しいシャツはコートで包んでいたため、濡れずに済んだ。

彼女は足早に上の階へ上がり、明彦の部屋を見つけた。

ドアは半開きになっていた。もうすぐ彼に会えると思うと、詩織の胸に甘い感情が広がり、そっとドアを押し開けた。

突然、長い腕が伸びてきて、彼女は部屋の中へと引きずり込まれた。

目の前が突然深い闇に包まれ、直後に焼け付くような熱い体が覆いかぶさってきた。男の大きな手が彼女の首を掴み、悲鳴を喉の奥に押し込めた。

「俺に薬を盛るとは、死にたいのか?」

怒りに満ちた冷酷な声が響き、詩織は頭が真っ白になった。

(有馬明彦の声じゃない!)

(彼は誰? どうして明彦の部屋にいるの!?)

底知れぬ恐怖が詩織を飲み込んだ。彼女は必死に男の手首にしがみつき、絞められた喉から、言葉を絞り出した。「あなたのことなんて知らない。私は婚約者を捜しに来たの……」

「ふん、まだ嘘をつく気か!」

男は耐えきれない様子でうつむき、彼女の唇を噛んだ。罰を与えるかのように力を込めると、かすかに血の味が広がる。それが女の唇の甘さと混ざり合い、男の心の底にある欲望を煽り立てた。

首を絞めていた手がゆっくりと緩む。男は彼女を抱き上げてベッドに放り投げ、その上に覆いかぶさった。

「いや……」

詩織の悲鳴はすべて男に飲み込まれた。冷たく濡れた服が脱がされ、彼女はまるで燃え盛る炎の中に落ちたかのように、この氷のような雨の夜に無理やり一緒に燃やされていった……

3時間後、激しい雨がようやく上がった。

男が詩織の上から退いた。露出した上半身には艶めかしい赤い爪痕が無数に走り、先ほどの激しい行為を物語っていた。

詩織は布団にうずくまり、顔には事後の赤みがさしていた。華奢な体が小刻みに震えている。

暗闇の中で、男の嘲笑するような声が聞こえた。「俺がお前の初めての男ってわけじゃないだろ? いつまで純情ぶるつもりだ?」

彼は詩織の顔を見るのすら嫌悪しているとばかりに、そのままバスルームへ入りシャワーを浴び始めた。

ざあざあと水音が響く。詩織のうつろな目に再び焦点が合い、ドアに穴を開けんばかりの勢いでバスルームの方向を睨みつけた。

彼女は気だるい体を必死に起こし、手探りで部屋の電気をつけると、床に落ちていたスマホを拾い上げた。

画面のロックを解除すると、無数の不在着信とメッセージの通知が飛び出してきた。

その内容を見た瞬間、詩織の顔色が悪くなった。彼女は急いで服を着ると、振り返りもせずに部屋を飛び出した。

しばらくして、バスローブを羽織った長谷川彰人が、長い脚でバスルームから出てきた。欲求を満たした男の目元は気だるげで、全身から清々しさが漂っていた。

突然、彼は足を止め、明るくなった誰もいない部屋を見回して、危険な光を宿した目を細めた。

彼は足早に歩み寄り、布団をめくった。大きなベッドにはやはり人影はなく、ただ赤い血の跡だけが残されていた。

男はわずかに呆然とした。

(あの女、初めてだったのか? 冗談だろ?)

彼はスマホを取り出し、電話をかけた。冷ややかな声で命じた。『今夜俺をハメた女がさっき逃げた。すぐに捕まえて連れ戻せ。俺が直接処理する』

部下は訳が分からない様子で答えた。『その女なら1時間前に我々が捕らえましたが。今すぐそちらへ連れて行きましょうか?』

彰人は太い眉をひそめた。『1時間前だと?』

『はい。弟君が娼婦を買収し、あなたの部屋に送り込んで無理やり襲われたと偽装させ、名声に傷をつけようとしていたことが判明しました。 ですが、その娼婦はホテルに入る前に我々が捕らえまして……』

部下は説明を終えると、恐る恐る尋ねた。『おっしゃっている女とは、誰のことですか?』

彰人は一時沈黙した。

自分の言った女とは誰なのか?

彼自身にも分からなかった。

彼は再びシーツの痕跡に目をやった。その赤色が突然、目を刺すように痛々しく感じられた。

男の呼吸が急に荒くなり、息苦しさを覚えた。

(まさか、本当に人違いだったのか?)

病院。

詩織はタクシーを降りると、まっすぐ上の階にある医師のオフィスへ向かった。ドアを開けるなり尋ねた。

「先生、メッセージに書いてあったことは本当ですか?母のドナーが気が変わったって?」

医師は深くため息をつき、頷いて答えた。「ええ。何度も説得したのですが、相手は体調不良を理由に提供できないの一点張りでして」

詩織は目の前が真っ暗になった。

彼女の母である清原和音は白血病を患っていた。数ヶ月前に適合する骨髄が見つかり、相手も快く提供を引き受けてくれて、詩織はずっとそのことを喜んでいた。

移植手術は今日の昼間に予定されていた。和音はすでに骨髄破壊の処置を終えており、体内の造血システムは完全に破壊されている。このタイミングでドナーが辞退するなど、和音の命を奪うも同然だった。

彼女の声は震えていた。「ドナーの方と直接お話ししたいです」

医師は困ったような顔で答えた。「規則で、ドナーと患者側の接触は禁止されているんです」

(じゃあ、可哀想な母はどうなるの?)

まさか、清原和音が死んでいくのをただ見ていることしかできないというの!

詩織は声を上げて叫びたかったが、医師を困らせても仕方がないことはよく分かっていた。

オフィスを出ると、彼女はすぐに明彦に電話をかけた。

有馬家は北上市で絶大な権力を持っている。万が一、明彦が急いで新しいドナーを見つけてくれるかもしれない。ほんの少しの可能性でも……

電話は鳴ったが、すぐに切られた。

詩織は諦めきれず、もう1度かけ直した。

静かな廊下に、突然聞き覚えのある着信音が響いた。

詩織はギクリと身を強張らせ、すぐ近くにある半開きの病室のドアを見た。

(明彦も病院にいる?)

(じゃあ、どうして私をホテルに呼んだの?)

無数の疑問が詩織の心に積み重なった。彼女は急いで歩み寄り、ドアを押し開けようとした。その狭い隙間から見えた室内の光景が、残酷なほどはっきりと彼女の目に突き刺さった。

ドクン――

詩織はその場に呆然と立ち尽くした。

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