血塗られた五周年と裏切りの夫 の小説カバー

血塗られた五周年と裏切りの夫

8.1 / 10.0
結婚5周年記念の夜に起きた事故で負傷した妻を見捨て、元恋人を優先した夫の純紀。柏木リゾートの広報部長として、また理想の妻として全てを捧げてきた主人公は、夫にとって自分がただの便利な道具であったことを悟る。過酷な不妊治療や献身的な支えを捨て、離婚届と辞職届を手に自らの人生を取り戻す決断を下す。愛と裏切りが交錯するこのmodernなromance novelは、再生を誓う女性の姿を描く。新作のwebnovelとして、自分自身の幸せを追い求める感動の物語をお楽しみください。
「血塗られた五周年と裏切りの夫」のあらすじ
結婚5周年の記念日、幸せの絶頂にあるはずの夜は惨劇へと変わった。演出用ドローンの墜落事故により、私は顔と腕に深い傷を負い鮮血に染まる。しかし、夫の純紀が真っ先に駆け寄ったのは、無傷で立ち尽くす元恋人の泉実だった。怪我をした私を労わるどころか、彼は「泉実が怖がるから裏口から帰れ」と冷酷な言葉を投げつける。私はこれまで柏木リゾートの広報部長として夫の経営を支え、義母から強要される過酷な不妊治療にも耐え、理想の妻を演じ続けてきた。だが、夫の荷物から見つかったのは泉実のピアス。私が苦痛に悶える間も、彼の心は常に別の女に向けられていたのだ。自分という存在が単なる「便利な道具」に過ぎなかったと悟った時、長年抱いてきた愛情は完全に冷め切った。私は震える手でニューヨーク行きの片道航空券を予約する。机の上に離婚届と辞職届、そして裏切りの証拠であるピアスを残し、私は誰の所有物でもない自分自身の人生を取り戻すために歩み出す。
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血塗られた五周年と裏切りの夫 第1章

結婚5周年記念の夜, 演出用のドローンが墜落し, 私は顔と腕から血を流していた.

しかし夫の純紀は, かすり傷一つない元恋人の泉実を抱きしめ, 私にこう言い放った.

「そこに立っているな. 泉実が驚くだろう. 裏口から帰ってくれ」

私は柏木リゾートの広報部長として, そして「理想の妻」として, 夫のために全てを捧げてきた.

義母に強要される過酷な不妊治療に耐え, 夫の経営を裏で支え続けてきたのだ.

それなのに, 夫のスーツケースから出てきたのは, 泉実がパーティーでつけていたダイヤモンドのピアスだった.

私が血を流して痛みに耐えている間も, 純紀は泉実の元へと走り去った.

私という存在は, 彼にとってただの「便利な道具」でしかなかったのだ.

冷え切った心が, 私にある決断をさせた.

私は震える手でスマートフォンを取り出し, ニューヨーク行きの片道チケットを予約した.

机の上に離婚届と辞職届, そしてあのピアスを残して.

私はもう, 誰のためでもない, 私自身の人生を生きる.

第1章

結婚5周年記念の夜, 私は夫が元恋人のために開いた船上パーティーで, 演出用のドローンが墜落し, 顔と腕に傷を負った. しかし夫は, 血を流す私を裏口から追い出した.

純紀が私に「そこに立っているな. 泉実が驚くだろう」と言い放った時, 私の心臓は氷に覆われたようだった. 豪華客船のデッキは, 煌びやかな光と音楽, そして純紀と泉実の笑い声で満ちていた. 私たちが夫婦になって丸五年. その夜は, 私にとって特別な意味を持つはずだった. 純紀はいつも私を「理想の妻」と呼び, 会社の広報部長としても私の手腕を評価していた. 私はその言葉を信じ, 彼の隣で, 彼の夢のために尽くしてきた.

純紀が泉実をホテルのイメージキャラクターに起用すると言い出した時, 私は戸惑いを隠せなかった. 泉実はかつての恋人だ. しかし純紀は, これも仕事だと, ホテルのブランディングのためだと私を説得した. 私は彼の言うことを信じ, 泉実のプロモーション戦略も練り上げた. この船上パーティーも, 私が裏方として細部にまで気を配り, 成功へと導いたものだった.

しかし, その完璧な演出は突如として崩れ去った. 夜空を彩るはずだったドローンが, 突然コントロールを失い, 私の頭上へと落下してきたのだ. 鋭い金属の破片が私の顔を裂き, 腕に深い傷を負わせた. 痛みよりも先に, 理解できない現実が私を襲った.

純紀は, 私の元へ駆け寄ることはしなかった. 彼は, 私よりも先に, 泉実を抱きしめた. 「驚いただろう, 大丈夫か? 」泉実の顔にかすり傷一つないことを確認すると, 純紀は安堵のため息をついた. その光景が, 鮮明な映像として私の網膜に焼き付いた. 私は今も, あの時の純紀の表情を忘れることができない. 彼が私を見たのは, その後のことだ.

私の腕から流れ出す血は, ドレスの白い生地を赤く染め, 船の豪華なカーペットにもシミを作っていた. 純紀は私を見下ろし, 眉をひそめた. 「川森, 君の顔はどうしたんだ? 客が動揺する. 裏口から帰ってくれ」彼は私の名前を呼んだ. 普段私を「蘭子」と呼ぶ彼が, 公の場で私を呼ぶ時の呼称だった.

私の視界は, 痛みとショックでぼやけていた. しかし, 純紀の言葉だけは, 鮮明に私の耳に届いた. 裏口から帰れ. 私はただの障害物, 邪魔な存在なのだと, 彼は言っているのだ. 私は何も言わず, 純紀の視線から逃れるように, 船の影に身を潜めた.

船員の一人が心配そうに私に駆け寄ってきた. 「奥様, お怪我を…」彼は私の腕を支え, 救急箱を探しに走ろうとした. しかし私は, 首を横に振った. この場で騒ぎを起こすわけにはいかない. 純紀の言葉が, 私の行動を支配していた. 私は, 裏口へと向かう長い通路を, よろめきながら歩いた. 一歩ごとに, 足元から冷たい水が私の心臓に染み渡っていくのを感じた.

船を降りると, 私はタクシーを拾い, 自宅へと向かった. 車窓から流れる東京の夜景は, いつものように光り輝いていたが, 私にはその輝きが, 私の心を蝕む闇のように見えた. 自宅に着くと, 私は震える手で鍵を開けた. 部屋の明かりをつけると, 純紀と私の, 幸せだった頃の写真が目に入った. それは, まるで遠い昔の夢のようだった.

私はバスルームへ向かい, 鏡の前に立った. 左の頬から顎にかけて, そして右腕には, 深く切り裂かれたような傷が走っていた. 私はその傷を, ただじっと見つめた. 痛みはまだ残っていたが, それ以上に, 心に開いた穴の方が深かった. 私は傷口を消毒し, 丁寧にガーゼと絆創膏で覆った. その間, 私の顔には, 一切の感情が浮かんでいなかった.

リビングに戻ると, 純紀のスーツケースが目に入った. 明日からの出張のため, 彼が数日前にパッキングしていたものだ. 私は何の気なしに, そのスーツケースの横を通り過ぎようとした. しかし, ふと, スーツケースの隙間から, 何かがキラリと光るのが見えた. 私は足を止め, 屈み込んだ.

それは, 小さな, ダイヤモンドが散りばめられたピアスだった. 私はそれを拾い上げた. 泉実が, 今日のパーティーでつけていたピアスだ. 純紀の元恋人が, あの輝く舞台で身につけ, そして, 純紀の私物の中から見つかった. その事実が, 私の中で何かが決壊する音を立てた.

長年, 私は純紀のために尽くしてきた. 会社の広報部長として, 彼の経営能力を補い, 会社の顔として奔走した. 義母の静恵からは「跡取りを産め」と毎月のように不妊治療クリニックへの通院を強制された. 針を刺され, 薬を飲み, 体は常に疲弊していた. それでも私は, 純紀の妻として, 柏木リゾートの一員として, 自分の役割を全うしようと努力してきた.

しかし, このピアスは, 私の努力のすべてを, 一瞬にして無意味なものに変えた. 私はもはや, 純粋な愛や信頼でこの関係を続けることはできない. 私自身の尊厳が, それを許さなかった. 私は静かに, スマートフォンを取り出した. ニューヨーク行きの片道チケットを検索した.

画面に表示された航空券の情報を確認する. 日付け, 時間, 金額. 私は躊躇なく, 予約ボタンを押した. クレジットカード情報を入力し, 支払い完了の通知が画面に表示されると, 私の心は, 長い間重かった鎖から解き放たれたような, 奇妙な軽さに包まれた.

その時, 玄関のドアが開く音がした. 純紀が帰ってきたのだ. 時計を見ると, 午前3時を過ぎていた. 彼はいつもそうだ. 私が起きていても, 私が寝ていても, 彼の帰宅時間はいつも予測不可能だった. 今日の彼は, 普段よりも少し足元がおぼつかないように見えた.

純紀はリビングに入ると, 私を一瞥した. 「まだ起きていたのか」彼の声には, 僅かな苛立ちが混じっていた. 彼はネクタイを緩めながら, ソファに深く沈み込んだ. その顔には, 微かな酒の匂いがする.

「お風呂に入ったら? 」私は静かに言った. 私の声は, 私自身でも驚くほど穏やかだった.

純紀は私を見上げた. 「ああ, そうだな. しかし, その前に…」彼はテーブルの上のグラスに手を伸ばし, それを一気に飲み干した. 中身が水ではなく, 私が用意していたハーブティーであることに彼は気づいただろうか. 彼はグラスを置き, 私の顔をじっと見た. 「お前, まだ顔の傷, 痛むのか? 」

彼の問いに, 私は何も答えなかった. ただ, 彼の目を見つめ返した. 純紀は, 私が長い間彼のために用意していた, 彼のお気に入りのハーブティーを, まるで水のようにがぶ飲みしている. その光景は, 彼がどれほど私という存在を, そして私が提供するものを, 当たり前のものとして捉えているかを如実に物語っていた.

「どうした, 蘭子. 何か言いたいことがあるのか? 」純紀の声に, 苛立ちの色が濃くなった. 彼はスマートフォンを取り出し, 画面をスクロールし始めた. 私のことなど, もう彼の関心の埒外なのだ.

私は, 彼の言葉の奥に隠された, 私への無関心と傲慢さを感じ取った. 彼は私が「当たり前の存在」として, いつもそこにいると信じ込んでいる. そして, 泉実を「守ってあげたい儚い存在」として都合よく使い分けているのだ.

純紀はスマートフォンを置くと, 再び不意に私を見た. 「お前, 最近, 顔色が悪いぞ. 不妊治療, そんなに疲れるものなのか? 」

彼の言葉は, まるで鋭い氷の破片が私の胸を突き刺すようだった. 私は純紀のために, どれほどの苦痛と羞恥に耐えてきたことだろう. 義母からの強要, 毎月の採卵, 誘発剤の副作用による吐き気やめまい. そして, 何度経験したか分からない, 妊娠検査薬の陰性反応. そのたびに, 私の心は深く抉られた.

私は唇を強く噛みしめた. 体中に, 拒絶反応のように寒気が走る. 傷口がズキズキと痛みだし, 私は反射的に顔を背けた. 純紀が, まだ私という存在を, 彼の妻という役割を, 子を産む道具としか見ていないことが, はっきりとわかった. 彼の言葉は, 私にとって最後の, そして最も決定的な裏切りだった. 私の心は, もう彼に何も与えないと決めた.

「純紀さん, あなたにとって私は一体何ですか? 」私はそう問いかけたかった. だが, 喉から出る声は, まるで凍りついたかのように, 言葉にならなかった. 私はただ, 純紀の顔を見つめていた. 彼の目は, 私ではなく, 自分のスマートフォンに向けられていた. 彼は, 私という存在そのものに, 何の興味も持っていない. 私が今, 何を考え, 何を感じているのか, 彼には微塵も伝わっていないのだ.

私の腕の傷が, また熱を持ち始めた. それは, 純紀の言葉が私に与えた, 深い精神的な傷と共鳴しているかのようだった. 私はもう, この場所にはいられない. この男の隣には, もういられない. 私の心は, 完全に決壊していた.

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