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拾った子がまさか億万長者の息子だったなんて!? の小説カバー

拾った子がまさか億万長者の息子だったなんて!?

「不妊である」という冷酷な宣告を突きつけられ、清水瞳は四年前、鈴木家を追われるように去った。絶望に打ちひしがれた彼女は、逃げるように辿り着いた地方の町で、激しい雨に打たれ捨てられていた赤ん坊を救い出す。その子を育てる決意をした瞳にとって、息子との暮らしは生きる希望そのものだった。しかし四年後、彼女の質素な住まいに高級車が列をなし、一人の男が現れる。大富豪である天草蓮は、ブラックカードを無造作に差し出し、多額の報酬と引き換えに実子である少年を連れ去ろうとした。瞳は必死に息子を庇い、命を懸けて守り抜く覚悟を鋭い眼差しで蓮にぶつける。我が子を誰にも渡さないと言い放つ彼女の強い意志と、眩しいほどの気高さに触れた蓮は、不敵な笑みを浮かべた。彼は息子を抱き上げるだけでなく、瞳の腕をも強引に引き寄せ、驚くべき宣言をする。子供だけでなく、彼女自身もまとめて自分の手中に収めるというのだ。そこから、孤独な母子と傲慢な億万長者の、新たな運命が動き出す。
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2

慌ててその赤子を抱き上げた清水 瞳は、辺りを見回したが、人っ子一人いない。

どうすればいいの? 警察に? それとも児童養護施設……? 病院に連れて行くべき……?

赤子は泣き止まず、ちゅぱちゅぱと口を鳴らしている。 瞳は手の甲でその頬にそっと触れた。 柔らかく、もちもちとした感触が、たまらなく心地よかった。

瞳の胸の奥が、きりりと痛んだ。自分が喉から手が出るほど欲しかったものを、こうも容易く、まるでガラクタのように捨ててしまう人がいる。

きっと、この子はお腹が空いているのだ。 だから、こんなにも泣き続けている。

彼女はおくるみの傍らにあった小さな旅行バッグを開けてみた。 中には粉ミルクと哺乳瓶、数枚の紙おむつ。 それ以外、子供の生年月日や名前がわかるようなものは、何一つ入っていなかった。 一体どんな親が、これほど無慈悲な真似をできるのだろう。

赤子の激しい泣き声が、感傷に浸る瞳を現実に引き戻す。 彼女は旅行バッグを提げ、赤ん坊を腕に抱いて二階へと上がった。

なにはともあれ、まずはお腹を満たしてあげなくては。

以前、鈴木 健太との妊活中に育児の知識をかじっていたおかげで、全くの手探りというわけではなかった。

瞳はまず赤ん坊をソファの真ん中にそっと寝かせ、お湯を沸かし始めた。 それからおくるみをほどき、服を脱がせて、その小さな身体の隅々まで確かめた。

男の子だった。 生後、二、三ヶ月といったところだろうか。 幸い、全身に傷一つなく、病の気配もない。 健やかな身体つきだ。

なんて整った顔立ちをしているのだろう。 特にその目は大きく、潤んだ黒い瞳で、今は哀れなほど真っ直ぐに瞳を見つめている。 長く濃いまつ毛には涙の粒が光り、桜色の小さな唇が、乳を求めてもぐもぐと動いている。

その眼差しに、瞳は心を射抜かれてしまった。

子供の衣類も包布もごくありふれたもので、手がかりになるような印は見当たらない。

瞳は手早くおむつを替え、粉ミルクを溶かした。 小さな口が哺乳瓶の乳首に食らいつき、夢中で吸い始めると、ようやく泣き声が止んだ。

瞳は赤ん坊を抱きながら、懸命に動く小さな口元と、満足感に満ちてゆっくりと閉じていく瞼を、ただじっと見つめていた。

温かいものが心の底から湧き上がり、全身を満たしていくのを感じた。

赤ちゃんって、こんなにも愛おしい存在だったのね。 どうりで鈴木家のあの姑が、子供、子供とせっついてきたわけだ。

けれど、自分にはもう、母親になる資格なんてない。

赤ん坊はミルクを飲み干す前に、こてんと眠りに落ちてしまった。 泣き疲れたのだろう。 お腹が満たされ、誰かの腕に抱かれている温もりに、すっかり安心しきっているようだった。

ミルクを飲ませたら警察に届けよう――そう考えていた。 しかし、腕の中の、安らかに眠るその温かな重みを感じていると、この子を再び過酷な運命に突き落とすのが忍びなくなった。

赤ん坊を抱いたまま部屋を二、三周するうち、とんでもない考えが、ふと、芽生えた。

――この子を、私が育てる……!

常に理性的で、洗練されたエリートであった瞳が、これまで考えたこともないような無茶な発想だった。 だが、子供がいないという理由だけで家庭を失ったばかりの彼女にとって、このタイミングで現れたこの子は、天からの授かりものとしか思えなかった。 受け取らない理由など、どこにもない。

万が一……いつかこの子の本当の家族が現れたら、その時に返せばいいのだ……。 ほんのしばらくの間だけでも、母親でいるという幸福を、どうか私に。

翌日、瞳は赤ん坊を連れて、まず警察署へ向かった。

南武のような寂れた田舎町では、捨て子も珍しくはなく、役人たちも手慣れたものだった。 警察は瞳と赤ん坊を、地元の児童養護施設へと案内した。

ひどく古びた二階建ての施設に、身なりの整った瞳が足を踏み入れると、薄汚れた服を着た何人かの子供たちが、渇望を宿した瞳でじっと彼女を見つめていた。

瞳は過去の収入証明や学歴証明を提示し、驚くほど簡単にて赤ん坊の養子縁組の手続きを終えた。 彼女は心得たもので、施設に百万円を寄付し、双方にとって円満な結果となった。

この町に越してきて間もなく、何人かの隣人と顔見知りになった。 誰もがその子を彼女の実子だと思っていたが、いつまで経っても父親の姿が見えない。 世間話のついでに夫のことを尋ねられると、瞳は顔色一つ変えずに答えた。 「ええ、離婚しましたの」

こうして彼女は、母親であることの喜びに満たされ、ありったけの愛情をこの子に注いだ。 離婚がもたらした胸の張り裂けるような痛みは、目まぐるしい日々の中で、いつしか薄れていった。

四年後。

「星! どうしてまたお友達を叩いたの!」 瞳は小さな竹の鞭を手に、怒りの形相で、壁際に立たされている小さな男の子を睨みつけていた。

四歳を過ぎた男の子は、壁に背をぴったりとつけているものの、顔には不服の色が浮かんでいる。 「だって、あいつが僕のおもちゃを奪って壊したんだもん! ふん!」

瞳は声を荒らげた。 「おもちゃくらいで騒がないの。 壊れたらお母さんが新しいのを買ってあげる! 手を出すあなたがいけないんでしょ! もし相手に何かあったら、どうするつもり!」 瞳は怒りで肩を上下させ、竹の鞭を振り上げたが、どうしても本気で叩くことはできなかった。

会社で二十人の部下を束ねるより、四歳の星一人の世話をする方がよほど骨が折れる。

星は成長するにつれて腕白さに磨きがかかり、近所の子供は皆、一度は彼に泣かされていた。 瞳が毎日のように他の親からの「苦情」を受け止める一方で、当の星はいつも理路整然と反論してくるのだ。

「 『あのデブが優花ちゃんの髪を引っ張ってたから、 正義のためにやっつけたんだ!』 だの、

『池田 海斗が僕のお菓子を盗ったから、 あいつの茶碗に唾を吐いてやった!』 だの。」

「『上野 健一が犬をけしかけて皆を泣かせてたから、ゴミ箱に捨ててやっただけ。 ちゃんと見つかっただろ? まあ、ドブネズミみたいに汚れてたけど』と、悪びれもせずに言う始末。 」

こうも立て続けに言われると、瞳はもう頭を抱えるしかなかった。 こちらが一つ言えば、十になって返ってくるのだから。

近所の子供たちのうち、星を好む子は彼をガキ大将と慕って後ろをついて回り、嫌う子たちは毎日あの手この手で意地悪を仕掛けては、ことごとくやり返されていた。

今日、 瞳が家で青木 七海とチャットをしていると、 突然、 階下の奥さんの怒鳴り声が響いた。 「清水さん! ちょっと出てきてちょうだい! あんたんちのガキ大将がまたうちの子をいじめてるわよ! 少しは躾をしたらどうなの? あんたにできないなら、 あたしが代わりにしてやろうか!」

瞳はスマホを放り出し、階下へ駆けつけた。 そこには、服を乱した星と、その隣で三、四歳の男の子を抱きしめてあやす隣家の奥さんの姿があった。

一目見て、またうちの悪ガキが何かやらかしたのだと悟った。

瞳は愛想笑いを浮かべて頭を下げながら、手近にあった竹の鞭をひっつかんだ。 それを見た星は、まずいと察したのか、さっと身を翻して二階へ駆け上がった。

奥さんは腕の中の子をなだめながら、吐き捨てるように言った。 「父親がいなくて可哀想だから大目に見てやってるけど、そうでなきゃとっくにひっぱたいてるわよ! 本当、しつけがなってないんだから! ふん」

瞳はその言葉を聞こえないふりをして、星を追い二階へ上がった。

この小さな町では、離婚は格好の噂の種だ。 子連れとなれば、なおのこと。

あのアパートの女は、越してきた時から赤ん坊を連れていた。 毎日綺麗な身なりで、仕事にも行かず、どうやって生計を立てているのか。

養育費だとしても、父親が一度も顔を見せないところを見ると、とっくに見捨てられたのだろう――そんな声が聞こえてくるようだった。壁際に立たされながらも、ふてくされた顔の星を見つめ、瞳は思った。

やはり、寧川市に戻るべきかもしれない。 この田舎で、星はすっかり野放図に育ってしまった。 このままでは、都会に戻った時、周りから浮いて孤立してしまうだろう。 それは子供の成長に、決して良い影響は与えない。

寧川市には、まだ自分のマンションが残っている。 だが、健太と暮らしたあの場所に、この子を連れて行きたくはなかった。 ここ二年ほど、物心がついてきた星に、頻繁に聞かれるようになったのだ。 「僕のお父さんは?」

初めは、「離婚したのよ」と答えていた。 やがて、星が言うことを聞かず、近所の噂が耳に入るようになったある日、彼女は腹立ちまぎれにこう言い放ってしまった。 「死んだわ!」

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