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輝く光の先に の小説カバー

輝く光の先に

結婚、そして育児。家庭という枠組みの中で、がむしゃらに駆け抜けてきた彼女たちは、気づけば五十路を目前に控えていた。そんな折、突然舞い込んだ旧友の訃報が、平穏だった日常に波紋を広げる。「自分はこのままの人生で終わっていいのか」という切実な自問自答。残された時間の有限さを突きつけられた彼女たちは、心の奥底に封じ込めてきた本音と向き合い、自分らしい生き方を模索し始める。長年断ち切れずにいた不倫関係の清算を決意する者、抑圧してきた自身の真の性癖を自覚する者、そして形骸化した夫婦のあり方を根本から変えようとあがく者。立場も置かれた環境も異なる女性たちが、これまでの役割を脱ぎ捨て、一人の人間としての輝きを取り戻すために一歩を踏み出す。葛藤の先に待ち受けるのは、果たして望んだ幸福なのだろうか。それぞれの矜持と願いを胸に、彼女たちが自らの手で掴み取る未来を描く、再起と再生の物語。
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「クシュン!」

ブルッと身震いがして目が覚めた。 毛布がはだけていた。 枕元のスマホを見ると、あと30分でアラームが鳴る時間だ。 もう一度寝ようかと思ったけど、二度寝するともう起きられない予感がする。

 ➖仕方ない、起きますか➖

少し頭痛がするのは、昨日、由実子と年甲斐もなく大泣きしたからだろうな。 今日の散歩はどうしようかな?

 ➖あー、とりあえずこの頭痛を治さないと、もうすぐ旦那が起きてくる➖  

あーぁと、ため息ともあくびともとれる深呼吸をする。 眠たい目をこすりながら、キッチンへ行き、 コーヒーをセットしてハムエッグを焼く。

 ➖旦那が好きなベーコンを切らしたから、文句言うだろうなあ、いつものことだけど➖

「おーい」   

旦那の声がした。

「楓!、トイレットペーパーがきれた」

 ➖はぁ?そこにあるよね?すぐ近くのトイレの入り口の棚に➖

声に出さずに答える。こんなことは いつものことで、さらに今日は頭痛がするから返事はしないことにする。

「いないのか?なぁ!トイレットペーパーないぞ」

旦那がドアを閉めてキッチンへ向かってくる足音がした。 慌ててテレビのスイッチを押す。

「なんだ、テレビ見てたのか。あのさ、トイレットペーパーがないから入れといて」

「いつも言ってるよね?使い切った方が交換するってこと、すぐ目の前の棚に買い置きがあるんだからさ」

「だってきれちゃったんだから、入れといてよ、いいだろ?それくらい」

「それくらいって言うくらい簡単なことなんだから、そっちがやってよね!」

「いいよ、もう、ケチ!」

旦那はそう言うと新聞を持ってリビングへ移動した。

「あーもうっ!なんでいつもいつも!!」

もういいよと言うくせに、絶対自分でやらない旦那。 たったこれだけのことが少しずつ少しずつ積み重なって、いまとなっては同じ部屋にいるのも嫌だと思う。 

➖ ん? あーっ!ハムエッグが焦げた➖

知らんぷりして出す。

「ちょっとさあ、ベーコンじゃないし、ハム焦げてるし、何?これ」

いちいち文句を言う旦那。

「じゃ、食べなきゃいいでしょ?」

「焼き直して、ね!ハムでいいからさ」

「冗談じゃない、あんたは今日休みでしょ?私は仕事なの、自分でやってくれる?」

私は座って自分のハムエッグを食べ出した。

「ちぇっ!もういいよ、ケチ!」

また言った。

 「あ、失敗しちゃった!」

 私はワザとコーヒーシュガーを旦那のハムエッグにかけてやった。

 「なにするんだよっ!」

 怒った旦那を無視して食べ続けてやった。

旦那はなにかごちゃごちゃ文句を言っていたけれど、それでも時間になったら仕事に出かけた。

 私も掃除洗濯を済ませて、アルバイトに出かける。

「おはようございます!わぁ、可愛いですね!」

 柴犬を散歩させているおじいさんと、朝の挨拶を交わす。

「お、楓ちゃん、またお店に行くからね」

「はい、待ってますね」

このおじいさんは、私が勤めている雑貨屋の常連さんだ。雑貨屋といっても、都会にあるおしゃれな雑貨屋とは少し違って、日用雑貨もたくさん置いてある。だからお客さんの層も広い。

アルバイト先の雑貨屋までは歩いて向かう。   今日はとてもいい天気だ。見上げた空は青く深い。

➖この空の上にいるのかな?典子…どうしちゃったのかなぁ?➖

典子との出会いは、子どもの幼稚園のママ友からだった。 クラスの保護者会の集まりで一緒になって、やりたくもない役員に選ばれて(くじ引きという古典的な選出方法で)、それでも典子は嫌な顔一つせずにこなしていた。

「そんなに頑張らなくてもいいんじゃない?テキトーでさ」

めんどくさくなって手を抜く私に

「私は専業主婦だし、時間ならあるから大丈夫よ」

そう言って笑っていた。 続けてこうも言った。

 「お前は専業主婦なんだから、家のことと子供のことをしっかりやってくれればいいからってダンナさんに言われてるの」

「えーっ、うらやましいな。私も専業主婦になりたい!旦那の稼ぎがもう少し有れば、それもできるんだけど…」 

典子のご主人は、典子より一回り年上で大きな会社の課長さんだと言っていた。 チラッと年収の話になったとき、軽くうちの2倍はあると計算したのをおぼえている。

「でもね、楓さん、専業主婦は言い訳ができないのよ、そこがつらいとこ。頑張っても、お給料みたいに目に見える成果があるわけでもないしね」

保護者会のプリントを配る典子のその指先に、綺麗なネイルがされていたことに気が取られて、その時少し寂しそうにしていたことを見落としていた。

➖成果が見えないのは、確かにキツイかな?誰かにほめてほしいもんね➖  

今頃になってそんなことを思い出す。 あの時は、単純に自分が働かなくても生活できるというタダそれだけがうらやましかったんだと気づいた。

それからもずっと、典子は専業主婦だった。 

 ➖最近は直接会って話すこともなかったなぁ。最後のやり取りっていつだっけ?➖

典子とのLINEを思い返してみる。 最近はやり取りしてなかった気がする。

「おはよう、楓ちゃん」

不意に話しかけられて我に帰る。

いつのまにか、お客さんが目の前にいた。

「あっ、いらっしゃいませ、今日は何をお探しですか?」

ぼんやりしていたけれど、もう仕事は始まっていた。

その日の夕方。

  ぴこん♪

『ねぇ、近いうちにいつものメンバーで集まらない?』

由実子からLINEが届いた。仲良くなったメンバーで作ったグループLINEだ。

「いいよ、土曜日なら休みだし」 

返信しながら、今週は特に用事がなかったはずだとスケジュールを思い出す。

いつものメンバー、私(楓)と由実子と藍子、詩織、澪、そして典子。 どういう経緯で仲良くなったか忘れたけど、この6人でよくランチしたり、日帰り旅行したり、子どもが大きくなってからは居酒屋に行ったりもした。

ママ友とか、職場の友達とか、そんな感じだったかな? 年齢はだいたい同じくらいだと思う。

ぴこん♪

『典子のことを知らなかった人たちが話を聞きたいんだって』

 今度は個人LINEが由実子から届いた。

「そういえば、お葬式も由実子と2人だったね、連絡忘れてたわ」

ぴこん♪

『仕方ないよ、あまりにも突然のことでよくわからないうちにお葬式だったし。私もまだ実感ないんだよね。グループLINEのやりとりしてて、典子からの返事がないことにツッコミそうになったもん』

泣き笑いのスタンプがついていた。

ぴこん♪

ぴこん♪

ぴこん♪

グループLINEにみんなからのコメントが集まってくる。

『びっくりしたよ、典子《のりこ》がさぁ!』 『どうしておしえてくれなかったの?』 

『あ、知らなかった人、他にもいたんだ』

突然過ぎる訃報に、連絡するのを忘れてただけなんだと、由実子と2人で説明した。

「で、いつにする?」

みんなの予定を聞いてみる。

ぴこん♪

ぴこん♪

ぴこん♪

ぴこん♪

『土曜日ならいいよ』

『私、来週の土曜日で!』

『私も土曜日ならいつでも』

『土曜日オッケー』

「つまり、来週の土曜日ならみんな都合がつくのね?わかった。じゃあさ、あそこにしようか?【ゆらぎ】夜7時でどうかな?」

みんなでよく集まっていた小料理屋【ゆらぎ】を提案してみる。

ぴこん♪

ぴこん♪

ぴこん♪

ぴこん♪

『オッケー』

『がってんだ!』

『了解』

『承知しました』

全ての返信がスタンプだった。

 「じゃ、電話して予約しておくね」

ぴこん♪

『ありがとう、よろしくね』

ぴこん♪

『久しぶりだね、みんなで集まるの』

ぴこん♪

 『ちょっと楽しみかも』

ぴこん♪

『典子はいないけどね…』  

「そう、いないよ、典子」

由実子に続けて私も送信する。 そのあとは誰からも返信がなかった。

➖誰も典子が死んでしまったことが、現実として分かってないんだな➖

私もそうだ、多分、由実子も。 お葬式も参列したのに 。

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