フォローする
共有
愛しているから の小説カバー

愛しているから

高校時代に出会った三人。私と、私が心から愛した彼、そして何でも打ち明け合えるほど仲睦まじかった親友。かつての私たちは、恋人とその友人という理想的な関係を築いていた。しかし、学校を卒業し、それぞれが異なる未来へと歩み始めたことで、穏やかだった三人の絆は少しずつ形を変えていく。そしてある日、あまりにも残酷で不可解な悲劇が訪れた。かつての恋人と、かけがえのない親友が、なぜか同じ日に自らその命を絶ってしまったのだ。残された私には、彼らが死を選んだ理由も、その日が重なった真相も一切知らされていない。幸せだった過去の裏側に、一体どのような秘密が隠されていたのか。愛し合っていたはずの彼と、信頼していた彼女が抱えていた葛藤とは何だったのか。変わり果てた関係性の果てに起きた、あまりにも悲しい事件の真相を追い求める。若さゆえの純粋さと残酷さが交錯するなかで、失われた二人の足跡を辿り、隠された真実を解き明かしていくミステリー・ロマンス。愛しているからこそ見えなかった、彼らの本当の姿とは。
共有

1

夏の甲子園の野球中継を見ていた。 

試合に勝利したチームが校歌を歌っている。

学生の頃は、まともに歌ったこともなかった校歌。 歌詞の意味もわからず、魅力も感じなかった歌。 なのに一生懸命頑張った高校球児が歌うと、どうしてこうも晴れがましく気持ちよく聞こえるのだろうか。

  ____どんな歌だったっけ?

 ふと思い立ち、ネットで母校の検索をしてみる。 【〇〇高等学校が83年の歴史に幕を閉じた】

_____うそ、廃校?

卒業してもう20年近い。 誘われた同窓会にも出席していなかったからか、廃校になったことを今まで知らなかった。

故郷は遠きにありて思うもの。 それは、何かしらのカタチが残っているから思えるものかもしれない。 校舎もなくなってしまうと、帰省したとしても思い出がよみがえりにくい気がする。

 _____高校生の頃が一番、思い出に残っていたのになぁ…

あの頃流行った、サイン帳を引っ張り出してみた。 卒業式を前に、仲のよかった友達に1ページずつ何かを書いてもらうもの。 漫画が書いてあったり、手紙みたいな物があったり、四字熟語だけ、というのもある。 読み返して思い出して、笑いがこみあげる。

 _____あぁ、そう、そう!

 みんな同じことが書いてある 。

“誠と結婚するときは結婚式に呼んでね”

“もう、あっちで同棲しちゃえば?”

“やっとラブラブを見せつけられなくてすむわぁ”

高校生の頃付き合っていた人、永野誠。 誠実に私のことを好きだと言ってくれた人。

 “二十歳になったら結婚しよう!”

どちらからともなく、そんな約束をしていたのに、それは叶わなかった。  

そんな懐かしいことを思い出す。 その時、ハラリとサイン帳から落ちた一通の封書。

 “渡辺優子様”  

少し癖のある筆跡で書かれた私の名前。 25才になる少し前に、親友の神谷浩美から届いたもの。

 “誠君とお付き合いすることを、許して欲しい”    

同じ封筒に、誠からも手紙が入っていた。

“ヒロと付き合うことになりました” 

許すも何も、その頃はもう誠と私は付き合ってなかった。 でも、わざわざそういうことを報告してくるところが、誠と浩美らしい。

_____そういえば、誠と浩美はどうしてるんだろう?

高校を卒業して、私と誠は隣県の企業にそれぞれ就職した。 同じ会社ではなかったけど、電車一本で会える距離だった。 せっせと働いて、貯金に励んで早く結婚したいね!といつも話していた。 この気持ちはずっと続くと、卒業してすぐの頃までは思っていた。

けれど、少し離れて違う環境にいると、気持ちは変わってしまう。

“二十歳になったら…”

そう、二十歳になって、それぞれが見ている未来の姿がズレていることに気づいた。 そして多分、私の親友の浩美はずっと誠のことが好きだった…私はそのことに気づかないふりで、誠と付き合っていた。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

高校生の頃、誠は美術部でたくさんの油絵を描いていて、たまに受賞もしていた。 付き合ったきっかけは、ある日突然私のクラスにやってきて、なぜか彫塑のモデルになって欲しいと言ってきたから。

「裸婦像じゃないでしょうね!」

「高校生でそれはハードル高いって!首から上だから」

「美人にしてくれるならいいよ」

「デフォルメしちゃったらごめん!」

「なに?それは」

うーんと、と誠が説明しようとしたとき。

 「強調して表現するってことかな?」

話に入ってきたのは、同じクラスになって一気に仲良くなった浩美だった。

性格は、私と反対で慎重でおとなしめ、見た目も可愛らしい。なのに何故か、気がつけばいつも一緒にいる。

そして、浩美はバスケ部と美術部の掛け持ちをしていて、水曜日だけ美術部に参加している。

「強調?美人になるならそれでもいいけど」

「いや、冗談だよ、普通に作らせて」

「普通が酷かったら怒るからね」

「真面目にやるよ、秋の県の文化祭に出すつもりだから」

「私も何か出品しようかなぁ?ね、誠君、どう思う?」

浩美と誠は、美術部同士ということもあって話も合うし、いつもなにかしらでじゃれあっていた。 兄と妹?そんな感じ。

二人が付き合うと手紙で知らされたときは、なんだか複雑な気もした。 けれど大好きな親友と大好きだった元彼が付き合っても、イヤな気分にはならなかった。  

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

今になってそんなことを思い出すなんて、不思議だった。 甲子園の映像から、懐かしいことを思い出して、ノスタルジックな気分になった。 後になって思えば、あれは予感だったのかもしれない。

それから2日ほどして、郵便物が転送されてきた。 引っ越してしばらくは転送されるように手続きをしていたことを思い出した。

_____あー、まだ転居の知らせを忘れてるとこがあったか

真っ白な封筒の差出人は、神谷昭三、浩美のお父さんの名前だった。 思いもかけない人からで、何故か緊張しながら封を切る。

中から出てきたのは、厚手の紙に印刷された告別式の挨拶状だった。

それも、亡くなったのは、誠と浩美、2人での連名。

_____え?なにこれ、おかしいでしょ?

姓が同じ永野ということは、2人は結婚していて、そして同じ日に亡くなった? 私は急いで卒アルを出して、同じクラスで2人と仲がよかった人を思い出して Facebookで、検索した。

_____いた!溝口君!  

懐かしい名前を見つけて、コメントを送った。

「こんにちは。私、渡辺優子、おぼえてるかな?」 

『久しぶり!おぼえてるよ。元気だった?』

「うん、元気。ちょっと聞きたいんだけど、誠と浩美のこと…」

『あ、聞いた?』

「訃報の知らせが届いた、ね、どういうこと?なんで?事故?」

『今週末でも帰って来れない?会って話さないと長くなるし』

私はカレンダーと予定を確認する。 何年ぶりかで、遠い故郷に帰ることにした。

おすすめの作品

美味に溺れて、血に染まる の小説カバー
9.6
静寂に包まれた茶室で、私はある特別な茶葉を商っている。その葉をひとさじ料理に加えるだけで、口にした者は抗いがたい快楽に囚われ、二度とその禁断の味から逃れられなくなるという。この不思議な効能は瞬く間に広まり、さらなる名声を渇望する高級料理店の店主たちが、我先にと私の元へ詰めかけてくる。客たちは一様に、魔法のような力で客を魅了するこの茶葉を絶賛し、対価を惜しむことはない。しかし、彼らは誰も知らない。その芳醇な香りと深い味わいの裏側に隠された、恐ろしい対価の正体を。この茶葉が真に必要としているのは、肥沃な土壌でも清らかな水でもない。それは、かつてその味に溺れ、中毒者となって果てた人間たちの生々しい鮮血なのだ。血を吸うことでより一層の輝きを増す茶葉の真実を、私は独り、静かに見つめ続けている。美食という名の欲望が、新たな犠牲者をこの茶室へと誘い、赤く染まった循環は決して途切れることはない。
愛を欺いた男に、最後の裁きを—— の小説カバー
9.3
見知らぬ女に肉体を乗っ取られた私は、絶望の淵に立たされていた。その女は私の人生を蹂躙し、愛する両親と絶縁させただけでなく、最愛の兄を事故に遭わせ、植物状態へと追いやったのだ。すべては一人の身勝手な男を追い求めるための暴走だった。長い歳月を経てようやく自身の体を取り戻した私は、人生を狂わせた男への復讐を誓う。華やかな大スターの仮面を剥ぎ取り、社会的地位を失墜させた私に、男は涙ながらに縋りつく。だが、私の怒りは収まらない。あえて離婚を拒み、男を追い詰めると、彼は私を殺害するために刺客を放った。張り巡らされた幾重もの罠が交錯するなか、男の真の正体と罪状が暴かれ、彼は富も名誉もすべてを失って終身刑の判決を受ける。ついに私の意識を侵食し続けていた女の存在も消え去り、忌まわしい過去から解放された。奪われた時間と絆を取り戻すため、私は静かに、そして力強く新たな人生の一歩を踏み出す。愛と憎しみの果てに掴み取ったのは、真実の裁きと平穏な未来だった。
禁断のシルク の小説カバー
8.4
袖を通すだけで、いとも容易く難関大学の首席を勝ち取れる……。そんな夢のような衣類が存在するとしたら、あなたはその誘惑に抗えるでしょうか。私の母は、人ならざる「蚕女」という存在です。彼女がその身から吐き出す特殊な糸で織り上げられた服には、どんなに学力に乏しい者であっても、一瞬にして最高峰の秀才へと変貌させる恐ろしい力が宿っています。その奇跡の恩恵を授かり続けた結果、かつては平凡だった私たちの村は、いつしか「首席村」という名で広く世に知れ渡るようになりました。村には合格を渇望する人々が溢れ、栄華を極めているように見えます。しかし、富と名声に酔いしれる者たちは、まだ誰もその代償に気づいていません。合格を手にした若者たちの瞳から、生気が失われ、次第に虚ろな深淵へと沈んでいっている事実に。禁断の糸が紡ぎ出すのは、輝かしい未来か、それとも逃れられない破滅か。村の繁栄の裏側に潜む、底知れぬ恐怖と謎が静かに進行していきます。
彼の34回目の意図せざる裏切り の小説カバー
8.9
天才外科医の婚約者、西園寺蓮に愛されていると信じていた。しかし、33回も結婚式が延期された裏には、戦慄の真実が隠されていた。ある夜、私は蓮が研修医の佳玲亜に心を奪われ、私の身に起きた過去すべての「事故」を彼が仕組んでいたことを知る。彼の執着と残酷さは加速し、佳玲亜の嘘を信じて私を罵倒し、彼女を救うために私が屋上から転落するのを冷酷に見届けた。動けなくなった私への追撃は止まらず、蓮は刑務所にいる私の母を死に追いやり、その葬儀の日すら女と過ごした。私の父が彼の父を救った恩義など、彼には無価値だったのだ。ついに佳玲亜の手術によって歌声まで奪われた私は、麻酔から覚めた瞬間に彼女の嘲笑を目にする。地位も家族も、身体の自由さえも奪われた絶望の淵で、私はついに決断した。SIMカードを折り捨て、彼との繋がりをすべて断ち切って病院を脱出する。声を奪われ、心も粉々に壊されたけれど、残された人生まで彼に支配させるつもりはない。すべてを捨てた私の、命を懸けた逃走が始まる。
夫が殺した弟の記憶 の小説カバー
9.0
結婚生活7年目、優歌穂は夫・誠也の書斎で一冊の手帳を見つけ、平穏な日常を失う。そこには、かつての恋人であり現夫である誠也が、優歌穂の弟をいじめ抜き、自死へと追い込んだ冷酷な記録が綴られていた。「これで邪魔者はいなくなった」という歪んだ独占欲に、彼女は戦慄する。しかし、悲劇はそれだけではなかった。誠也は優歌穂を弟の「代用品」として扱い、弟の恋人だった美咲と密会を重ねていたのだ。さらに、家族もまた優歌穂を追い詰める。かつて弟から「大嫌い」と首を絞められた記憶が蘇り、自分が狂った家族の中で孤立していることを痛感する。夫の裏切り、弟の病的で歪んだ依存、そして美咲の無慈悲な振る舞い。四面楚歌の状況下で、昏睡状態だった父が目を覚ましたとき、一族がひた隠しにしてきた最も醜悪な秘密が白日の下に晒される。自身の存在意義さえも揺るがすおぞましい真実を知った優歌穂は、腐敗しきった血縁と愛憎のすべてを断ち切り、彼らを捨てて新たな道を歩むことを決意する。
私の脚本、彼の裏切り、二度目の人生 の小説カバー
9.4
心血を注いだ脚本が映画賞の最高賞に輝いた瞬間、スクリーンに刻まれたのは婚約者・賢治と愛人・桃歌穂の名前だった。孤児院から救われた恩義に縛られ、無才な賢治のゴーストライターに甘んじてきた主人公を待っていたのは、あまりに無残な裏切りだった。二人は共謀して桃歌穂の転落事故を偽装し、彼女を殺人犯に仕立て上げて監禁。絶望の果てに海へ身を投げた彼女は、死の間際に抱き合い嘲笑う二人の姿を目撃し、全てが罠だったと悟る。しかし、激しい憎悪と共に目を覚ますと、そこは授賞式当日の朝だった。二度目の人生、彼女はもう誰の踏み台にもならない。華やかなドレスを脱ぎ捨てて授賞式を拒絶した彼女は、かつて自分を地獄へ突き落とした「偽装流産」という卑劣な罠を逆手に取り、欲にまみれた二人を破滅へと追い込むための緻密な復讐劇を開始する。奪われた才能と名誉、そして踏みにじられた尊厳を取り戻すための孤独な戦いが、いま幕を開ける。