十年間の愛と犠牲の果てに の小説カバー

十年間の愛と犠牲の果てに

9.0 / 10.0
恋人である海斗の夢を叶えるため、私は十年間という歳月を捧げ、自分を犠牲にして尽くし続けてきた。しかし、記念日という大切な日に彼は三時間も私を放置した挙句、別の女性のパニック発作を理由に約束を反故にする。その裏で彼がSNSに投稿していたのは、その女性と贅沢なスパを満喫する姿だった。さらに追い打ちをかけたのは、かつて海斗に「古臭い」と否定された私の和菓子が、彼女のオリジナル作品として発表されていた事実だ。海斗は私のパンアレルギーすら把握していないのに、彼女の嘘には過剰なまでの献身を見せる。私の愛も才能も、彼らにとっては都合よく利用するだけの道具に過ぎなかったのだ。絶望の淵でようやく目が覚めた私は、翌朝、彼女のもとへ向かう彼を静かに見送った。長年過ごした部屋から荷物を運び出し、思い出が詰まったスマホのSIMカードを真っ二つに折る。これは、十年間の献身を裏切った男に、私という存在の重さを教え込むための静かなる決別の記録。過去をすべてゴミ箱に捨て去り、私は新たな人生と復讐の一歩を踏み出す。

十年間の愛と犠牲の果てに 第1章

10年間, 恋人である海斗の夢を支えるため, 私は自分の全てを犠牲にしてきた. 記念日と彼の重要な契約が重なったその日, 私はホテルのロビーで3時間も彼を待ち続けていた.

やっと繋がった電話で告げられたのは, 「別の女がパニック発作を起こした」という身勝手なドタキャン. しかしSNSには, その女と高級スパでくつろぐ彼の姿が投稿されていた.

さらに, 私が彼の為に考案し「古臭い」と一蹴された和菓子が, その女の「オリジナルスイーツ」として世に出ていた. 私の魂は, 彼らにとって都合のいい道具でしかなかったのだ.

私がパンアレルギーであることすら知らない彼. それなのに, 女の仮病にはどこまでも優しい. 私の10年間は, 一体何だったのだろう.

翌朝, 彼が女の元へ駆けつけるのを見送った後, 私は荷物をまとめた. スマホのSIMカードを折り, 彼との過去をゴミ箱に捨てる. これは, 私を失った彼への, 静かな復讐の始まりだ.

第1章

桜田莉穂 POV:

彼の声が電話越しに聞こえた瞬間, 10年間の努力と犠牲が, 音もなく崩れ去るのを感じた.

午後3時.

私はホテルのロビーで, もう3時間も座っていた.

記念日のデートの約束.

そして, 彼がずっと夢見ていた事業提携の契約日.

私の心臓は, 期待と不安で不規則なリズムを刻んでいた.

また, 電話をかけた.

繋がらない.

メッセージを送る.

未読のまま.

もう何回目だろう.

きっと, 20回は超えている.

指が震える.

もう諦めようかと思った, その時だった.

画面に「海斗」の文字が光った.

心臓が跳ね上がった.

「もしもし, 海斗? 」

私の声は, 思ったよりも震えていた.

「莉穂, 何なんだ, こんな時に」

彼から返ってきたのは, 苛立ちに満ちた声だった.

まるで私が, 彼の大事な時間を邪魔したかのように.

「何って…今日の契約のことよ. もう3時間も待ってる」

私は必死に, 平静を装った.

彼はため息をついた.

その音は, 私にとっての10年間の重みを知らない.

「だから, 今日は無理だって言ったろ. 結乃がまたパニック発作を起こして…」

結乃.

その名前を聞くたびに, 私の心は冷たくなる.

私の恋人が, 他の女の看病を理由に, 私との大切な約束を破る.

これって, 何度目だろう.

数えきれない.

「莉穂, わかってくれよ. 彼女は俺が必要なんだ」

彼の声には, 私には向けられることのなかった切羽詰まった響きがあった.

「でも, 今日の契約は…」

私の言葉は途中で遮られた.

「延期だ. それより, お前は少し感情的になりすぎだ. いつもそうやって俺を責める」

彼はそう言って, 電話を切った.

一方的に.

いつもそうだ.

彼の電話を切った音は, 私にとっての絶望の合図だった.

10年.

長い歳月を, 私は彼のために生きてきた.

彼の夢を私の夢とし, 彼の成功を支えることが, 私の喜びだった.

パリでのブランド出店.

和菓子職人としての私の夢は, いつも彼の「古い」という言葉で後回しにされてきた.

「今は俺のビジネスが最優先だろ? 」

彼の言葉は, 常に私を縛り付けた.

彼が, 私のパニック発作を理由に, 私を置いていったのは, これで3回目だ.

いや, もっとあったかもしれない.

私は, 彼にとって何だったのだろう.

都合の良い女?

それとも, ただの古い道具?

メッセージの着信音が鳴った.

彼からだった.

「今夜, 埋め合わせをする. 食事に行こう」

そのメッセージは, まるで, 私が彼の時間をお金で買っているかのように感じさせた.

もう, いらない.

私はスマホをテーブルに置いた.

テーブルの上の小さな水の波紋が, 私の心の中の荒波を映し出しているようだった.

もう, この波に揺られるのはごめんだ.

私は, 立ち上がる.

彼がくれた, この不透明な関係から.

この, 私を窒息させるような空間から.

私はもう, 彼の補佐役でもなければ, 彼の都合の良い恋人でもない.

私は, 私だ.

桜田莉穂だ.

彼が私を失った時, きっと彼は狂ったように私を探すだろう.

そして, 悔やむだろう.

でも.

もう, 私は振り返らない.

決して.

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