離婚後、薔薇は孤高に咲き誇る~愛を乞う元夫、母を求める息子~ の小説カバー

離婚後、薔薇は孤高に咲き誇る~愛を乞う元夫、母を求める息子~

8.4 / 10.0
3年間の献身を裏切りで返された高橋美咲は、冷酷な夫と自分を嫌悪する息子を捨て、自らの人生を取り戻す決意を固めます。『離婚後、薔薇は孤高に咲き誇る~愛を乞う元夫、母を求める息子~』は、家庭という檻を脱した女性が運命を切り拓く姿を描いた現代のromance novelです。かつての弱者が輝きを放ち復讐を果たす物語は、人気のfiction booksの中でも圧倒的なカタルシスを与えます。後悔し許しを乞う元家族に対し、彼女が下す最後の審判とは。自立と再生をテーマにした注目のweb novelです。
「離婚後、薔薇は孤高に咲き誇る~愛を乞う元夫、母を求める息子~」のあらすじ
高橋美咲は三年間、良き妻、そして良き母として家族に献身的に尽くしてきた。しかし、その懸命な努力の末に待っていたのは、夫による無慈悲な裏切りと、愛する息子からの冷淡な嫌悪だった。夫と息子は美咲の献身を「弱者の立場を悪用して這い上がろうとする狡猾な計算」だと決めつけ、彼女を蔑み続けていた。家庭内に居場所はなく、誤解と疎外感に苛まれる日々に絶望した彼女は、ついに自らの人生を取り戻す決断を下す。冷え切った家を去り、過去と決別して歩み始めた美咲は、束縛から解放されたことで本来の輝きを放ち、圧倒的な存在感を示すようになる。一方で、かつて彼女を無価値な存在として切り捨てた夫と息子は、変貌を遂げた美咲の姿に愕然とし、激しい後悔とともに許しを乞う。しかし、地に膝をつき縋り付く二人に対し、美咲は氷のように冷徹な眼差しを向け、突き放すように言い放った。「……もう、手遅れよ」と。自らの運命を切り拓き、孤高に咲き誇る一人の女性の再起を描いた物語。
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離婚後、薔薇は孤高に咲き誇る~愛を乞う元夫、母を求める息子~ 第1章

結婚三周年の記念日。高橋美咲は腕によりをかけて食卓を彩り、ただ一人、夫の帰りを昼から夜まで待ち続けていた。

ついスマホを覗き込むと、トーク画面は、午後に彼女が九条健司へ送ったメッセージのまま、動いていなかった。

「ご飯できてるよ。何時に帰ってくる?今日は休みって言ってたじゃない」

「まだ会議中?」

「お昼戻れないなら、夕飯は帰ってくる?」

……

返信は、ない。

美咲がもう一度メッセージを送るべきか指をさまよわせた、まさにその瞬間、トーク画面に短い応答が浮かび上がった。

「戻る。話がある」

その無機質な文字列が、凍てついていた美咲の心に火を灯した。彼女は弾かれたように椅子から立ち上がり、顔には隠しきれない喜びが咲いた。

話がある。きっと、三周年の記念日のことだろう。

健司が記念日を覚えてくれてるかも――そう思った途端、言いようのない期待が胸の奥でふつふつと膨らむ。もしかして、初めて彼からのプレゼント……?

その期待を胸に、美咲はとっくに湯気を失った料理を、慌てて温め直した。

時計の針が八時を指した頃、玄関の外からようやく、息子・九条悠真の甲高い笑い声が聞こえてきた。

美咲の表情がぱっと華やぎ、小走りで駆け寄ってドアを開けた。

「遅くなっちゃったわよ〜。宿題、いっぱいだったの?」

しかし、悠真は美咲に目もくれず、真っ直ぐ二階へ駆け上がろうとする。

美咲は一瞬呆然とし、思わずその腕を掴んだ。「悠真くん、まだご飯食べてないでしょ、どこ行くの?」

悠真はそこで初めて人の存在に気づいたかのように、苛立たしげに美咲の手を振り払った。

「ママ、構わないでよ!急いでるんだから!」

その声音に含まれた苛立ちはあまりに剥き出しで、細い針のように美咲の胸を刺した。

美咲は無理に笑みを作った。「ママ、悠真くんの好きな料理をたくさん作ったのよ。ブルーベリーのケーキもあるよ……」

「もう、いらないってば!」

言いかけた悠真は、ふと何かを思い出したように立ち止まり、くるりと振り返って目を輝かせた。

「ケーキは取っといて。明日、雲葉おばさんに持ってくから。あの人、ブルーベリーケーキ大好きなんだよ」

雲葉?

渡辺雲葉。健司が長年、心に棲まわせている、あの女の名前だろうか。

美咲は思わずに瞬きをし、事情を確かめようと一歩踏み出した。

だが、悠真は母親の反応など気にも留めず、スキップしながら二階へと消えていった。

「佐藤さん!」

隙を見て立ち去ろうとしていた家政婦を、美咲は呼び止めた。かろうじて絞り出した声は、自分でも気づくほどに震えていた。

「あなた、知ってたの?悠真くんと渡辺雲葉は、いつから……」

もはや隠し通せないと悟ったのか、佐藤春江はため息をつき、事の次第を語り始めた。

「三ヶ月ほど前に渡辺さんがご帰国になり、坊ちゃまと二回ほど顔を合わせたところ、どうやら意気投合されたようで、その後はしばしば一緒に出かけられるようになりました……」

佐藤の言葉は、青天の霹靂となって美咲の全身を貫いた。ぐらつく視界の中で、彼女は必死に呼吸を整えた。

「じゃあ、今日は補習なんかじゃなく、悠真は渡辺雲葉と遊びに行っていたのね?」

佐藤は困惑した表情を浮かべた。「本来なら授業が終わればすぐお帰りになるはずでしたが、渡辺様が直接校門までお迎えに……。奥様にお伝えしようと思ったのですが、あちらが……」

そこまで言って、佐藤は口ごもる。美咲の顔色を窺うその目には、同情の色が浮かんでいた。

ある考えが閃光のように脳裏を駆け巡り、思わず、その名が口をついて出た。

「健司が、口止めを?」

佐藤は一瞬ためらったが、小声で答えた。「奥様、旦那様も、奥様がお心を痛められるのを心配されて……」

美咲は力なく手を振った。

「もういいわ。下がって」

彼女はソファに崩れるように身を沈めた。全身の力が、糸が切れたように抜け落ちていく。

ーーそうだ。悠真はまだ子供だ。どうやって渡辺雲葉に会えるというのか。

誰かが彼女に会いに行くついでに、息子を連れて行ったに決まっている。

なんと滑稽で、惨めなのだろう。自分の子供が夫の初恋の相手と会っていたことを、実の母親である自分だけが、三ヶ月もの間、今日この瞬間まで知らなかったのだ。

いつまであのままソファに座り続けていたのか——。玄関のドアが開く音で、美咲は我に返った。

長旅の疲れが滲む様子で、健司がコートを脱ぎながら靴を履き替えている。

しかし、いつもならすぐに駆け寄ってコートを受け取るはずの妻は、一向に現れなかった。

健司はそこでようやく顔を上げた。ダイニングテーブルにはまだ湯気の立つ料理が並び、リビングのソファには、痩せた妻の寂しげな背中が見えた。

「ってか、今日って何の日?こんなに料理盛りすぎじゃん」

美咲が手伝いに来る気配がないのを見て、健司は自らコートをハンガーに放り掛け、ネクタイを引っ張って緩めた。

「外で食ってきた」

美咲は黙っていた。雲葉と一緒だったのか、と問い詰めたかった。

言葉が喉まで出かかったが、それは詮索に過ぎると思い直した。

彼女は、結局のところ健司の幼馴染だ。過去はともかく、旧友として帰国した彼女をもてなすことに、何の問題もないはずだ。

「今日は……」

彼女がソファに手をつき、立ち上がろうとした、その時だった。一枚の書類が、乾いた音を立ててローテーブルに置かれた。

「サインしてくれ。もう引き延ばしすぎだ」

表紙には、黒々と大きな文字で――離婚協議書。

美咲は目を見開いた。耳鳴りが鼓膜を埋め尽くし、目の前が暗転する。

健司が離婚という言葉を突きつけてくるのは、これが初めてではなかった。

三年の結婚生活。新婚の夜から、二人が衝突するたび、健司は容赦なく離婚を切り出した。そのたびに美咲が頭を下げて許しを乞い、必死に縋ることで、彼はようやく矛を収めてくれた。

そんな一方的なやり取りが、三年間、繰り返されてきた。いつか、自分の献身が彼の心を溶かし、傍にいる自分を振り返ってくれる日が来ると、そう信じていた。

今となっては、それもただの愚かな幻想に過ぎなかった。

美咲は半ば跪くようにして、ペンを握った。

健司の目に一瞬、驚きがよぎったが、すぐに淡々とした声色に戻った。「財産分与で不自由はさせない。以前お前の口座に振り込んだ金はすべてやる。それから湾岸ヴィラと、お前が使っている車数台。さらにグループの株式五パーセントも……」

美咲はペンを握りしめたまま、ふと手を止めた。

「悠真くんは?」

彼女が健司を見上げると、その瞳が僅かに揺れた。「この子、私についてきてもいい?」

その言葉が、健司の逆鱗に触れた。それまで淡々としていた彼の表情が、温度を失ったように冷え切る。彼は目を伏せ、冷ややかに美咲を見下ろした。

「高橋美咲、また子供をだしにして俺を脅すつもりか?」

冷水を頭から浴びせられたような衝撃だった。

彼女は瞬きをした。「何を……」

「あの時も子供のカードで無理やり結婚させたじゃん。……その手、まだ飽きないの?」

美咲は愕然として目を見開き、必死に弁解した。「違います!あの時は私も嵌められたんです……」

「いい加減にしろ!」 健司はソファに腰を下ろし、煙草に火をつけた。「三年間、九条の妻の座にいた。それだけじゃ不足か?」

煙がゆっくり立ち上り、健司の顔をぼやかした。

涙がこぼれ落ちる、その寸前、美咲は自分でも知らないほど静かな声を聞いた。

「……分かった。離婚、してあげる。お幸せに、九条さん」

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