
愛憎の果てに:彼の没落
章 2
食卓は静まり返っていた。私はフォークを皿の上で動かすだけで、料理はまったく味がしなかった。向かいに座った浩斗が、私をじっと見ている。
彼は立ち上がってキッチンへ行き、すぐに戻ってきた。私の好きな、温かいミルクの入ったグラスを手に。彼はそれを私の前に置いた。
「湊が生まれてから、ちゃんと食べてないだろう」
彼は優しい声で言った。
「体力をつけないと」
一瞬、愚かで哀れな自分が顔を出した。これが私の知っている浩斗。私の些細なことまで覚えていてくれる、気配りのできる優しい男。このままでもいいのかもしれない。湊のために。この子には父親が必要だ。
私は息を吸い込んだ。話そう、彼に問いただそう、真実を話す最後のチャンスを与えよう、と。
だがその時、彼の携帯が鳴り、脆い平和を打ち砕いた。
彼は画面を一瞥し、申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「すまない、楓。仕事だ。出なければ」
彼はリビングへ歩いて行ったが、ドアは閉めなかった。彼の声が聞こえる。低く、親密な声に変わっていた。
「ああ、ベイビー。僕も会いたいよ」
間があった。
「いや、彼女と一緒だ。長くは話せない」
電話の向こうの声は微かだったが、甲高く、甘えるような響きが聞こえた。ハイリの声だ。
「今夜、会いに来てくれるの?」
彼女は喉を鳴らすように言った。
「それとも、あなたの可愛い身代わりさんと一緒にいるのかしら?」
浩斗は低く、なだめるように笑った。
「いい子にしてるんだ。すぐに行くから。こっちは僕がなんとかする」
彼は電話を切り、緊張した切迫感を浮かべた表情でテーブルに戻ってきた。
「本当にすまない、楓」
彼は髪をかき上げながら言った。
「新しい建設現場で緊急事態が発生した。行かなければ」
いつもの言い訳だった。
皿の上の料理を見ると、吐き気がした。私はそれを押しやった。
「いいわ」
私は感情のない声で言った。
「行って」
彼はほっとした様子だった。身を乗り出して私の額にキスをする。彼の唇はひんやりと冷たかった。
「理解してくれてありがとう。君は最高だよ、楓」
私は彼が去っていくのを見ていた。ドアのそばのボウルから鍵をつかむ。もう一言も発しなかった。私たちの間に、もはや交わす言葉などなかった。私たちは、もう終わっていたのだ。
二階の窓から、彼が車に乗り込むのを見下ろした。彼は都心へ、建設現場へは向かわなかった。反対方向へ、屋敷の敷地の端にある、人里離れたゲストハウスへと車を走らせた。
彼が、彼女を匿っている場所。
私は携帯を取り出した。数年前、些細なセキュリティ上の不安があった後、浩斗は私たち二人とも位置情報追跡アプリをインストールするよう主張した。「君がいつも安全か知るためだ」と彼は言った。そのアプリには、遠隔でマイクを起動できる機能があった。
私は冷酷な決意と共に、そのアプリを開いた。
彼の車が止まる砂利の音が聞こえる。彼が車から降りる音、軽やかで、逸るような足音。
ゲストハウスのドアが開く音がした。
「遅かったじゃない」
ハイリの不満そうな声。
「彼女から離れるのに手間取ってね」
浩斗の声は、ここ数年聞いたこともないような渇望に満ちていた。
「ああ、会いたかった」
そして、音が聞こえた。濡れた、飢えたようなキスの音。服が擦れる音、ジッパーが下ろされる音。
「君は僕のものだ、ハイリ」
浩斗は荒い息遣いで言った。
「ずっと、僕のものだった」
「じゃあ、あの女は?」
ハイリは息を含んだ囁き声で尋ねた。
「あなたの可愛い建築家さんは、どうするの?」
「彼女はただの繋ぎだよ」
その言葉は、私の心臓を突き刺す刃だった。
「君に似せた、薄っぺらなコピーだ。見た目は似てるし、時々考え方まで似てることもある。でも、君じゃない。誰も君にはなれない」
「じゃあ、どうして側に置いておくの?」
「わかってるだろ。信託財産だ。親父の時代遅れのルールだよ。息子が必要だった。そして、彼女はそれを僕にくれた。あとは、もう少しだけ辛抱するだけだ」
私は彼らの声を聞いていた。喘ぎ声と囁き声を、もう耐えられなくなるまで。携帯が手の中でぬるりと滑った。涙は出なかった。ただ、冷え切っていた。
追跡アプリ。彼は私を「安全」に保つために、私の携帯にそれを入れた。その皮肉は、苦い薬だった。それは、どんな見知らぬ他人よりも危険な真実を、私に突きつけた。
私はアプリを削除した。もう必要ない。すべて、わかってしまったから。
一時間後、彼の車が母屋に近づく音がした。すぐに、彼の足音が階段を上ってくる。それに続いて、より軽く、柔らかな足音がした。
彼は寝室のドアを開けた。ハイリが彼の腕にしがみついている。繊細な無垢を装った絵画のようだった。
「楓」
浩斗は緊張した声で切り出した。
「ハイリの…ゲストハウスのセキュリティシステムが故障してしまったんだ。一人でいるのが怖いと言うから。直るまでの数日間、ここに泊まらせてあげようと思う」
ハイリは私を見た。その目は大きく、無邪気さを装っている。
「ご迷惑でなければ、楓さん。本当に感謝します」
私は彼女の完璧に作り込まれた顔と、浩斗の不安げな顔を見比べた。もはや、彼女が誰であろうと、なぜここにいようと、どうでもよかった。ゲームは終わったのだ。
「構わないわ」
私は平坦なモノトーンの声で言った。
浩斗は衝撃を受けたようだった。彼は私が抵抗すると予想していたのだ。涙を流し、嫉妬に狂うと。かつての私は、女性の同僚が彼に少し長く微笑んだだけで嫉妬していたのだから。
「か…構わないのか?」
彼はどもった。
「どうして私が気にしなきゃいけないの?」
私は彼らに背を向けながら言った。
「気にするような楓は、もういないわ」
私は戸口に立ち尽くす二人を残し、湊の様子を見に行った。彼が愛した人間、彼のために戦ったであろう女は、もう死んだのだ。彼がまだ、それを知らないだけで。
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