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裏切りの果て、私は医師となる の小説カバー

裏切りの果て、私は医師となる

婚約者の樹世は、元カノである雅美の「余命わずか」という卑劣な嘘を鵜呑みにし、私を無残に裏切った。彼は私の大切な祖母の形見である秘伝のレシピノートを雅美に譲り渡し、私との婚約を一方的に破棄して彼女と結婚することを誓ったのだ。樹世の蛮行はそれだけに留まらず、私が雅美を突き飛ばしたという無実の罪を着せ、さらには彼女が私の亡き父の墓を破壊する光景を黙認し続けた。「君を愛している、信じてくれ」と彼は身勝手な叫びを上げるが、裏切りの連続によって私の愛情は冷酷な灰へと変わり、その言葉が心に響くことは二度とない。すべてを捧げた男に踏みにじられた私は、かつて志した医学の道へと戻ることを決意する。本作は、愛する男にすべてを奪われた女性が、過酷な戦地の医師として再起を遂げ、自分を陥れた者たちに容赦のない報いを与えるまでの軌跡を描いた復讐と再生の物語である。凄惨な裏切りの果てに、彼女が掴み取る未来とは。
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堀井純奈 POV:

樹世からの電話は, 毎日, 決まった時間にかかってきた. 彼は, 私の安否を, まるで義務のように確認していた. 私は, もう彼の声に何の感情も抱かなかった. ただ, 彼の言葉を, 機械のように受け流すだけだった. 今日は, 父の墓参りの日だった.

「純奈, 準備はできたかい? 迎えに行くよ」

樹世の声が, 携帯のスピーカーから聞こえてきた. 私は, 準備していた線香と花を手に取った. 父は, 私がまだ小学校に上がる前に亡くなった. 彼の墓は, 母方の実家がある, 海辺の小さな町にあった.

私は, 彼の言葉にうんざりしていた. 彼が私に, あれほど虚偽の約束をしたことを思うと, 胸が締め付けられるようだった. 私は, 彼の言葉を信じて, どれほどの時間を無駄にしてきたのだろう. 後悔が, 喉の奥から込み上げてくる.

「ええ, もう大丈夫よ」

私は, 努めて平静を装って答えた. 声が震えないように, 必死で感情を抑え込んだ.

「純奈, どうかしたのかい? 声が沈んでいるようだけど」

樹世は, 私の異変に気づいたようだった. 全く気づかないわけではなかったのか. だが, 彼の心配も, 私にはもう届かない.

「何でもないわ. 早く行きましょう」

私は, 冷たく言い放った. これ以上, 彼に私の心を見透かされてはならない.

「そうかい? 何かあったら言ってくれよ. 僕には何でも話してくれていいんだから」

樹世は, いつものように優しい声で言った. だが, その言葉は, 私にはただの空虚な響きにしか聞こえなかった. あの時も, 彼は同じように言った. そして, 私を裏切った.

「…そうね」

私は, それ以上何も言わなかった. 沈黙が, 車の中に重くのしかかった.

私たちは, 海辺の小さな町に到着した. 潮風が, 私の頬を冷たく撫でる. 私は, 樹世の助けを借りずに, 一人で車を降りた. もう, 彼に頼る必要など, どこにもない.

樹世が私の隣に並び, 私たちは二人の足で墓地へと向かった. 小道を歩くたびに, 私の心は締め付けられるようだった. 父の墓が, 遠くに見えてきた. 白い墓石に刻まれた父の名前が, 私の目に飛び込んできた. 私の心は, 激しい痛みに襲われた.

「お父さん…」

私は, 墓石に手を触れた. 冷たい石の感触が, 私の指にじんわりと伝わってきた. 私は, 父に, 今の私の苦しみを打ち明けたいと思った. だけど, 言葉にならなかった. ただ, 涙が, とめどなく溢れ出した.

樹世は, 私の後ろに立ち, 静かに私を見守っていた. 彼は, 何も言わなかった. ただ, 私が泣き止むのを待っているようだった. 私は, 父の墓前で, 静かに手を合わせた. 樹世も, 私の隣で, 手を合わせてくれた. 彼のその行動も, 私にはもう何の感情も抱かせなかった. ただ, 虚しく, 冷たいだけだった.

「お父さん, 私, 樹世と結婚します」

樹世が, 突然そう言った. 彼の声は, まるで私の心を嘲笑うかのように, 墓地に響き渡った. 彼は, まだ私との関係が終わっていないと, そう思っているのだ. 彼の虚偽の言葉に, 私の心は, 怒りに震えた.

「嘘よ. そんなはずない」

私の心は, 激しく叫んだ. 私は, もうこの男を信じない.

私は, 小さな包みをポケットから取り出した. それは, 祖母が私にくれた, お守りだった. 祖母の秘伝のレシピノートと, お揃いの柄が刺繍された, 大切なお守り.

「純奈, それは…」

樹世が, 私の手元を覗き込もうとした.

「これは, 私にとって, とても大切なものなの」

私は, 彼の言葉を遮るように言った. このお守りは, 祖母の魂が宿っている. 雅美に奪われたレシピノートの代わりに, このお守りだけは, 私が守り抜かなければならない.

「ああ, 覚えてるよ. 君がいつも大切にしていたものだね」

樹世の目に, 懐かしむような色が浮かんだ. 彼は, 本当に何も分かっていない. 私の心の中の, 深い絶望と, 彼への憎悪に.

私は, お守りを父の墓石にそっと置いた. その時, 私の背後から, 聞き覚えのある声が聞こえてきた.

「あら, こんなところで何をしているのかしら? 」

その声に, 私の体は一瞬で硬直した. 雅美だ. 彼女は, まるで獲物を狙うかのように, 私の方に近づいてきた. 白いワンピースに身を包み, 優雅な笑みを浮かべている. 彼女の隣には, なぜか, 樹世の母親が立っていた.

樹世は, 雅美の出現に, 明らかに動揺しているようだった. 彼の顔色は, 一瞬で蒼白になった. 私は, 彼の動揺に何の感情も覚えなかった. ただ, 私の心は, さらに冷たくなっていく.

私は, 雅美の存在を無視し, 父の墓に向き直った. もう, 彼女の挑発に, 付き合うつもりはない. 私は, もう一つ, 大切なものを取り出した. それは, 幼い頃, 父と一緒に拾った, 小さな貝殻だった. 父は, この貝殻を「希望の貝」と呼んでいた.

「お父さん, 私, あなたに誓うわ. もう, 誰にも, 私の心を傷つけさせない. 私は, 私の力で, 新しい人生を切り開く」

私は, 貝殻を握りしめ, 心の中で父に語りかけた. 私の声は, 震えていた. だが, その声には, 確固たる決意が込められていた.

「あら, その貝殻, 可愛らしいわね. 私にちょうだい? 」

雅美の声が, 私の耳に届いた. 彼女は, 私の手から貝殻を奪い取ろうとした.

「これは, あなたには渡せない」

私は, 雅美の手を振り払った. 私の声は, 冷たく, はっきりとしていた.

「どうして? 私には, 樹世の愛があるもの. あなたには, もう何も残っていないじゃない」

雅美は, 嘲るように言った. 彼女の言葉は, 私の心を深くえぐった.

「樹世, 雅美が欲しがっているわ. あげてちょうだい」

樹世の母親が, 冷たい声で言った. 彼女の言葉に, 私は愕然とした. 彼女もまた, 私を裏切ったのだ.

私は, 樹世の顔を見上げた. 彼の目に, 葛藤の色が浮かんでいた. 彼は, 私と雅美の間で, どちらを選ぶべきか迷っているようだった. 私の心は, 激しい痛みに襲われた. 彼の優柔不断な態度に, 私は深く失望した.

「樹世, これは…父との思い出なの. 私にとって, 何よりも大切なものなのよ」

私は, 震える声で言った. 私の目には, もう涙はなかった. ただ, 冷たい絶望だけがそこにあった.

「純奈, 頼む. 雅美のためだ. 彼女は病気なんだ…」

樹世は, 私に懇願するように言った. 彼の言葉は, 私の心を深く切り裂いた. 彼は, 私の気持ちなど, 何も分かっていない.

「…あなたにとって, 私は, 何だったの? 」

私は, 彼の目を真っ直ぐに見つめた. 私の声は, ひどく冷たかった.

その瞬間, 雅美が突然, 咳き込み始めた. 彼女は, 胸を押さえ, 苦しそうに顔を歪めた.

「樹世…苦しいわ…」

雅美は, 樹世に寄りかかり, わざとらしく演技をした.

「雅美! 大丈夫かい! 純奈, もういいだろう! 雅美に渡してやってくれ! 」

樹世は, 雅美を抱きかかえ, 私に怒鳴りつけた. 彼の目には, 私への怒りさえ浮かんでいた.

私の心は, 本当に死んだ. 彼の言葉は, 私を完全に突き放した. 私は, 貝殻を雅美に差し出した. 私の手は, 微かに震えていた.

「ありがとう, 純奈. これで, 樹世は完全に私のものね」

雅美は, 貝殻を受け取ると, 得意げに微笑んだ. 彼女は, 樹世の腕に抱きかかえられ, そのまま墓地を後にした.

私は, その場に立ち尽くしていた. 冷たい風が, 私の頬を撫でる. 父の墓石だけが, 私のそばにあった.

「ごめんなさい, お父さん. 私, あなたの大切な貝殻を奪われてしまったわ」

私は, 墓石に手を触れ, 心の中で父に謝った. 私の心は, 冷たい氷の塊になっていた. もう, 涙も出ない.

私は, もう, この国に, 彼がいるこの場所に, 私を繋ぎ止めるものなど何もない. 私は, 私の人生を, 私の力で切り開くのだ.

「もう二度と, あなたに会うことはない」

私は, 心の中で樹世に誓った. 私の決意は, 固い岩のように揺るぎなかった.

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