
裏切り夫への復讐劇
章 3
その真珠のネックレスは, 唯一無二の輝きを放ち, まるで「唯一の愛」を象徴しているかのようだった.
しかし, その「唯一の愛」は, 私のものではない.
私はただ, その輝きを, 遠くから見つめることしかできなかった.
「いりません」
私の声は, 驚くほど冷静だった.
「人から奪い取ったものを, 私が受け取るわけにはいきません」
私の言葉に, 杏樹は一瞬, 顔色を変えた.
だが, すぐに, また甘ったるい笑顔を浮かべた.
「直実さん, 何を言っているの? これは, 航佑さんからあなたへのプレゼントよ. 遠慮しないで」
彼女は, そう言って, ネックレスを私に押し付けようとした.
「いりません」
私は, もう一度きっぱりと言った.
私は, このネックレスが欲しいわけではない.
このネックレスを贈った, 彼も, 欲しくない.
「直実! お前, 一体どういうつもりだ? 俺の気持ちを踏みにじる気か? 」
航佑が, 怒りの声を上げた.
その声は, まるで私を責めるかのように, 鋭かった.
「気持ち? 一体, 何の気持ちですか? 私の誕生日を忘れておいて, 今さら気持ちも何もないでしょう」
私は, 頭を振った.
なぜ, 私はこんなにも怒っているのだろう?
彼の言葉に, なぜこんなにも傷ついているのだろう?
「忙しかったんだ! 俺だって人間だ. 忘れることもあるだろ! 」
彼は, 私を睨みつけ, 怒鳴りつけた.
「そうですね. お忙しい航佑様には, 私の誕生日など, 取るに足らないことでしょう. では, 私がどうすれば, 航佑様は満足されるのですか? 」
私の声は, もはや感情を失っていた.
「私のことを, 愚かだと思うなら, そうおっしゃってください. ただ, 私は, もう, あなたに何も期待していません」
私は, そう言って, 深く頭を下げた.
「あなたがいいと言うなら, このネックレスを受け取ります. そして, 杏樹さんにも, お礼を言います」
私の言葉に, 杏樹は, 満足そうに微笑んだ.
私は, ネックレスを受け取ると, 杏樹に深々と頭を下げた.
「ありがとうございます. 大切に…させていただきます」
私の声は, 震えていた.
私は, 彼らの顔色を伺い, 最大限の配慮をしたつもりだった.
だが, 航佑の表情は, ますます不機嫌になっていた.
「お前は…本当に, 俺を怒らせるのが得意だな」
彼は, そう言って, 部屋を出て行った.
その背中には, 怒りが満ち溢れていた.
私は, ただその場に立ち尽くしていた.
ああ, 私は, 一体何をしても, 彼を満足させることはできないのだ.
愛されていない者は, 何をしても, 愛されている者には敵わない.
私は, そう, 心の中で呟いた.
広いリビングには, 私一人だけが残されていた.
テーブルの上には, 巨大な誕生日ケーキが, 寂しそうに鎮座していた.
私は, そのケーキを, 一人で全て食べた.
遠い異国から, 私の誕生日を祝ってくれた, 親族の気持ちを無駄にしたくなかったから.
だが, 全てを食べ終えた後, 私は, 激しい吐き気に襲われた.
トイレに駆け込み, 全てを吐き出した.
冷たい床に座り込み, 私は, 乾いた笑い声を上げた.
「昔は, ケーキなんて, めったに食べられなかったのにね…」
私の目からは, 熱いものが溢れ出していた.
貧しかった頃の私は, ケーキを見るたびに, いつかお腹いっぱい食べたいと願っていた.
その願いは, 今, 叶えられた.
だが, その喜びは, どこにもなかった.
私は, 立ち上がり, 自分の部屋に向かった.
もう, この部屋にいる必要はない.
私は, ベッドの上のシーツを剥がし, トランクに荷物を詰め込んだ.
彼の妻として, この部屋にいる資格は, もうない.
その時, 寝室のドアが, ゆっくりと開いた.
そこに立っていたのは, 薄手のナイトガウンを纏った杏樹だった.
「あら, 直実さん. まだ起きていたの? 航佑さん, まだ戻ってこないのよ. もしかして, 私といるのが, 嫌なのかしら? 」
彼女は, 甘ったるい声で話しかけた.
その言葉は, まるで私を挑発しているかのようだった.
「別に, どうでもいいです. 私が, 航佑様の部屋から出て行けば, もう, あなたたちには関係ないでしょう」
私の声は, 冷たく響いた.
明日には, 離婚届を提出する.
そうすれば, 全てが終わるのだ.
「そうね. でも, 航佑さん, あなたと離婚したくないって言っていたわよ. どうするのかしら? 」
彼女の言葉に, 私の心臓が, ドクンと音を立てた.
「そんなことはありません. 彼が, 私と離婚したがっていることは, 知っていますから」
私は, 頭を振った.
「ふふ, そう? でも, 私, 航佑さんの気持ち, よく分かっているの. 彼は, あなたのことが, 好きなのよ」
彼女は, そう言って, 私の腕を掴んだ.
「だから, お願い. 彼を, 私に譲ってくれるかしら? そうすれば, あなたも, 私も, 幸せになれるわ」
彼女の言葉は, まるで私を弄ぶかのように, 歪んでいた.
「私は, あなたたちの間で, ただの道具だったのよ. もう, 十分だわ」
私は, そう言って, 彼女の手を振り払った.
「離婚届は, 明日提出します. それまでは, あなたたちで, ご自由にどうぞ」
私は, そう言って, 部屋を出て行った.
その背中には, 彼女の冷たい視線が突き刺さっていた.
おすすめの作品





