冷遇令嬢、実は天才。婚約破棄した彼らにざまぁ! の小説カバー

冷遇令嬢、実は天才。婚約破棄した彼らにざまぁ!

9.0 / 10.0
桜井陽葵は、家族から「無能で醜い」と蔑まれ、冷遇される日々を送っていた。対照的に継母の娘・莉子は才色兼備と謳われ、名家・高木家の後継者である峻一との結婚を控え、陽葵を「一生私の足元にいろ」と見下していた。しかし、運命の結婚式当日、人々が目にしたのは峻一の妻として現れた陽葵の姿だった。誰もが「すぐに捨てられる」と嘲笑し、彼女の追放を待ち望んだが、事態は予想外の展開を見せる。陽葵の正体は、医薬界の女王や金融界の大物、さらにはAI界の権威といった、世界を揺るがす天才的な顔をいくつも持つ真の実力者だったのだ。次々と明かされる驚愕の真実を前に、汐風市は騒然となり、かつて彼女を侮辱した山口家や幼なじみは激しく後悔し、手のひらを返して媚び始める。だが、峻一が世界に向けて公開したのは、誰もが息を呑むほど美しい陽葵の素顔だった。SNSを瞬く間に席巻し、真の姿を現した彼女の逆転劇が今始まる。

冷遇令嬢、実は天才。婚約破棄した彼らにざまぁ! 第1章

「陽葵、母さんの言葉を覚えておくのよ。二十歳になるまでは、その才能も美しさも、決して人に見せてはならないわ」

十五年間、桜井陽葵は母が死の間際に遺したその言葉を、片時も忘れずに胸に刻んできた。この家で、わざと醜く、愚かに振る舞い続けてきたのだ。

そして今日、彼女は二十歳の誕生日を迎えた。ついに、本当の自分を解き放つ時が来たのだ。

バスタブに湯を張り、特殊な薬液を注ぎ込んだ。傍らにはメイク落としの道具一式を準備し、陽葵は服を脱ぎ始めた。心地よい湯に浸かり、顔に塗りたくった醜悪なメイクを洗い流す――その準備は万端だった。

しかし、その時だった。コンコン、と控えめながらも有無を言わせぬ響きで、部屋の扉がノックされた。仕方なく、陽葵は手を止め、扉へと向かった。

そこに立っていたのは、いつも鼻持ちならない態度の家政婦、河合久美子だった。「陽葵さん。物置なんかに引きこもって、こそこそ何をなさっているんですか。 今日は莉子お嬢様の大事な婚礼の日でしょう。顔も見せないなんてことになったら、奥様があなたをないがしろにしていると、周りにどう思われるか。さあ、早く母屋にいらっしゃい!」

これが主家の娘に対する、一介の使用人の口の利き方だろうか。

物置に引きこもっている、ですって?この十五年間、陽葵はこの裏庭の物置小屋に追いやられ、生活することを強いられてきたというのに。

母が亡くなり、継母の山口梓が、自身の私生子である山口莉子を伴ってこの家の後妻に収まってからというもの、父の山口尚矢を含め、家族の誰もが陽葵を人間として扱わなかった。

「……着替えたら、すぐに行くわ」

「そのみっともない姿で、何に着替えるというんですか! さっさと来てください!高木家の皆様はとっくにお見えになっていますし、役所の方も、高木様と莉子お嬢様の婚姻登録のために、わざわざ出張してくださっているんですよ。奥様が、この神聖な瞬間を家族全員で見届けたい、と仰せです!」

陽葵は心の中で冷たく笑った。

高木家は、この汐風市で知らぬ者のない名門中の名門。その跡継ぎである高木峻一は、商才に溢れ、その容姿は女性たちの憧れの的だ。そして、妹の山口莉子は「汐風市一の令嬢」と名高い。

二人の結婚が、世間の注目を一身に集めるのは当然だった。 メディアは「才子佳人」「天が定めた運命の二人」と書き立て、ありとあらゆる美辞麗句が二人を飾った。

ネット上では、自分たちの「男神」と「女神」が、早くおとぎ話のような結婚生活を始めてくれることを願う声で溢れかえっている。

継母の梓が口にした「神聖な瞬間」などという言葉は、もちろん建前に過ぎない。本当は、自分の娘がどれほど幸せかを見せつけ、陽葵を嫉妬の炎で焼き尽くしたい――ただそれだけのことだ。

陽葵は河合久美子の後に続き、母屋の応接間へと向かった。

今日の山口家は、莉子の嫁入りを祝うために、これ以上ないほど贅沢に飾り付けられている。

応接間に集う人々は皆、華やかな礼装に身を包んでいた。その中で、安物のTシャツに破れたジーンズ、そして極め付きに醜悪な顔をした陽葵の存在は、その場の空気を著しく歪めていた。

継母の梓は、高木家の当主であるおじい様と歓談していたが、陽葵の姿を認めるや、一瞬目を見開いた後、ことさらに柔和な笑みを浮かべた。「まあ、陽葵。おば様が新しいドレスを用意しておいたのに、どうしてそれを着てこなかったの?」

用意したですって?笑わせる。

以前の陽葵なら、まだ愚か者のふりをして、梓の見え透いた芝居に合わせてやっただろう。だが、もう本当の自分を偽る必要はない。彼女は梓を完全に無視した。

陽葵は、高木家のおじい様に視線を向けると、丁寧に頭を下げた。「高木おじい様、ごきげんよう」

「おお、はっはっは」 おじい様は陽葵を見て、愉快そうに笑った。「お嬢ちゃんは、ますます個性的な身なりになってきたのう」

陽葵は自分の爆発したような髪にそっと触れた。この酷い有様を「目が腐る」と評さなかっただけでも、この老人はずいぶんと寛容なのだろう、と心の中で思った。

高木おじい様への挨拶を終えると、陽葵の視線は、その隣に座る一人の男へと吸い寄せられた。

応接間に入った瞬間から、本当は彼しか目に入っていなかった。

身に纏う服装と、その座席の位置から判断するに、彼こそが、滅多に人前に姿を現さないという高木家の跡継ぎ、高木峻一に違いない。

百聞は一見に如かず。噂に違わぬ、いや、噂を遥かに超えるほどの神々しい美貌は、世の少女たちのあらゆる空想を満たして余りあるだろう。陽葵は彼のその容姿に心を奪われ、自分でも気づかぬうちに、彼を見つめる瞳は熱を帯び、その時間は長く、長くなっていた。

「自分の醜さも顧みず、莉子お嬢様の婚約者をいやらしい目で見るなんて、恥知らずにもほどがあるわ! あんな化け物みたいな顔で高木様を見ること自体、冒瀆よ!」 家政婦の河合が、継母の梓からの目配せを受け、わざと全員に聞こえるような大声で陽葵をなじった。

すると、莉子がさも主権を誇示するかのように峻一の腕に自分の腕を絡め、わざとらしく鷹揚に構えてみせた。「いいのよ、別に。峻一さんがこれほど素敵な方なのだから、たくさんの女の子が好きになるのは当たり前のことだわ」

莉子は、心の底から陽葵を脅威だとは思っていなかった。むしろ、陽葵が峻一に色目を使うことを望んでさえいた。そうすればするほど、自分がどれほど素晴らしい夫を手に入れたかが際立ち、醜い姉は永遠に自分の足元にひれ伏すことになるのだから。

その時、父親の山口尚矢が顔を真っ赤にして怒鳴った。 「分をわきまえんか、この出来損ないが!邪魔だ、向こうへ行け!」

しかし陽葵は、長い脚をしなやかに伸ばすと、空いていた椅子を一つ引き寄せ、こともあろうに峻一の真正面に、堂々と腰を下ろした。

峻一は、その間もずっと、一切の表情を顔に浮かべない。その冷徹さは、もはや常軌を逸しているとさえ言えた。

気まずい空気が流れる中、高木家のおじい様が一つ咳払いをして、役所の職員に声をかけた。「……では、お手数だが、二人の登録をお願いしようかの」

「はい、かしこまりました」 職員はノートパソコンを開き、システムに高木峻一の名前を入力した。

次の瞬間、その職員の表情が、何とも言えないものに変わった。「……高木様。誠に申し上げにくいのですが、システムによりますと、お客様はすでにご結婚されております。お相手は……桜井陽葵様、と表示されておりますが……」

―――何ですって!?

その言葉は、まるで雷鳴のように応接間に轟き、そこにいた誰もが、言葉を失い凍り付いた。

陽葵は、信じられない、というように目を見開いた。私が、結婚している? 夫が、高木峻一?

―――どうして私が、それを知らないのよ!!

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