奇跡の命、地獄の愛の果て の小説カバー

奇跡の命、地獄の愛の果て

8.5 / 10.0
財閥のトップを夫に持つ私は、七年に及ぶ不妊治療を乗り越え、ようやく新しい命を授かった。夫の帰国日に合わせて妊娠という最高の驚きを届けようと、手料理を手に会社を訪れた私を待っていたのは、無残な悲劇だった。夫の秘書である辻村美唄は、私を社長のストーカーだと決めつけ、周囲の嘲笑の中で私の服を切り裂いた。さらに彼女は「目障りだ」と言い放ち、膨らみ始めたばかりの私の腹部を鋭い靴で何度も踏みにじった。ロビーの大理石が鮮血に染まる中、私は愛する我が子の鼓動が消えていく絶望を味わう。異変に気づき駆けつけた夫は、血の海に沈む妻の姿を見て激昂し、秘書の顔を殴打し、傍観していた社員たちにも凄惨な報いを受けさせた。しかし、夫がどれほど残酷な復讐を遂げようとも、失われた命は戻らない。子宮も心も空虚になった私には、もはや夫への愛も憎しみも、いかなる感情も残っていなかった。地獄のような愛の果てに、ただ凍てついた孤独だけが横たわっている。

奇跡の命、地獄の愛の果て 第1章

財閥総帥の夫と極秘結婚して七年, 不妊治療の末にようやく授かった奇跡の命.

夫の海外出張からの帰国日, 私はサプライズで妊娠を告げるため, 手作り弁当を抱えて本社ビルへ向かった.

しかし, そこで待っていたのは感動の再会ではなく, 夫の秘書・辻村美唄による地獄のような凌辱だった.

「社長のストーカーが, 妊娠をでっち上げている」

そう嘲笑われ, 警備員に押さえつけられた私の服はハサミで切り裂かれた.

「その汚い腹も目障りね」

辻村の鋭い靴先が, 膨らみ始めたばかりの私のお腹を何度も蹴り上げる.

ロビーの大理石が鮮血で赤く染まり, 薄れゆく意識の中で, 七年間待ち望んだ我が子の命が消えていくのを確かに感じた.

遅れて到着した夫は, 血の海に沈むのが最愛の妻だと知るや否や, 鬼と化した.

秘書の顔面を原型がなくなるまで殴り続け, 傍観していた社員たちには自らの指を切り落とさせ償わせた.

だが, 私の空っぽになった子宮と凍りついた心には, もう何の感情も残されていなかった.

第1章

広山真知子 (Machiko Hiroyama) POV:

七年間, ただひたすらに待ち望んだ奇跡が, 私の体の中で息づき始めた. この小さな命が, 私たち夫婦の未来を, そして私の全てを変えるはずだった.

「妊娠しています」

医師の言葉が, 私の耳の奥で何度も反響した. 信じられない, というよりは, あまりにも現実離れした幸福感に, 体が震えた.

七年間.

亮佑と極秘結婚してからの日々は, 不妊治療の苦しみと, それでもいつかくるかもしれない奇跡への淡い期待で満たされていた.

その奇跡が今, 確かに私の体の中で息づいている.

亮佑は二ヶ月の海外出張中だった. 彼がいない間に授かったこの命.

まるで, 私たちの二人の間に, 神様がこっそりプレゼントを置いていってくれたみたいだ.

私はすぐにでも亮佑に伝えたかった. この喜びを, この奇跡を, 彼と分かち合いたかった.

でも, それは彼の帰国を待って, サプライズにしたかった.

彼の驚く顔を想像すると, 胸の奥が温かい光で満たされた.

きっと, 亮佑も喜んでくれるだろう.

彼がどれほど子供を望んでいたか, 私は知っていた.

いつも冷静で, 感情を表に出さない彼が, 子供の話になると, どこか寂しそうな, それでいて深い愛情を秘めた眼差しをすることがあったから.

彼の帰国日は, もうすぐそこだった.

私は冷蔵庫を開け, 色とりどりの食材を取り出した. 亮佑の好物を詰め込んだ特製弁当を作ろう.

彼が一番好きな卵焼きは, 少し甘めに.

唐揚げは, 彼の出張中に一番食べたかったと言っていたから, 多めに.

彩り豊かな野菜を添えて, 愛情を込めて詰め込んでいく.

一つ一つの作業が, 私にとっては何よりも尊い時間だった.

まるで, 生まれてくる赤ちゃんへの初めての贈り物を作るかのように, 慎重に, そして心を込めて.

亮佑の会社の人間は, 私たちが結婚していることを知らない.

広山財閥の若き総帥である彼が, 私のようなごく普通の人間と結婚しているなど, 彼らの辞書には存在しないことだろう.

だから, 私はいつも「影」として彼を支えてきた.

それが, 私の役目だと思っていた.

でも, このお弁当は, そんな影の私から, 彼への特別なメッセージ.

「亮佑, お帰りなさい. そして, 私, ママになるの」

そう伝える瞬間を想像するだけで, 頬が緩み, 涙が滲んだ.

お弁当箱の蓋を閉め, 風呂敷で丁寧に包む.

その手触りが, 私の心臓の鼓動とシンクロしているようだった.

今日は, 亮佑の帰国日.

待ちに待った, その日が来た.

私は普段着の中で一番きれいなワンピースを選んだ. 派手すぎず, でも清潔感のあるもの.

亮佑の会社に行くのだから, あまりカジュアルすぎるのは良くないだろう.

鏡に映る自分を見る. 少しだけ膨らみ始めたお腹を, そっと撫でた.

「もう少しで, パパに会えるわよ」

小さな声で語りかけると, お腹の中の命が確かに応えているような気がした.

広山財閥の本社ビルは, 都心にそびえ立つ巨大な要塞のようだった.

眩しく輝くガラス張りの外壁は, 私の心に, 少しの畏縮と, それ以上の高揚感をもたらした.

私のような人間が, こんな場所に足を踏み入れていいのだろうか.

そんな弱気な考えが一瞬よぎるが, すぐに打ち消した.

今日は, 私が「広山真知子」として, 彼に会いに行く日ではない.

彼の妻として, そして彼の子供の母親として, この奇跡を伝えに行く日なのだ.

重厚なエントランスをくぐると, ひんやりとした空気が肌を包んだ.

大理石の床は, 私の足音を吸い込むように静かだった.

受付の女性に, 亮佑の秘書である辻村美唄さんの名前を伝えた.

事前に亮佑には連絡せず, 秘書の方に内緒で彼の帰国時間を教えてもらったのだ.

辻村さんは, いつも冷静で仕事ができると亮佑が褒めていた人だ. きっと, 私のサプライズにも協力してくれるだろう.

「広山亮佑社長にお届け物です」

私は少し緊張しながらも, 受付の女性に告げた.

エレベーターが最上階へと上がっていく.

心臓が, まるでこのビル全体を揺らすかのように, ドクドクと大きく鳴り響いた.

扉が開く.

そこには, 廊下の向こうから, すらりと伸びた足でこちらに向かってくる一人の女性の姿があった.

辻村美唄さんだ.

彼女の顔は, なぜか険しく, 私を見るその瞳には, 深い警戒の色が宿っていた.

「あなたが... 広山社長に何かご用ですか? 」

彼女の冷たい声が, 私の耳に刺さった.

その声は, 私の期待に満ちた心を, 一瞬にして凍らせるのに十分だった.

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