烈しくも忍耐深き愛の抱擁 の小説カバー

烈しくも忍耐深き愛の抱擁

8.0 / 10.0
『烈しくも忍耐深き愛の抱擁』は、夫の裏切りから始まる切ないromanceを描いた現代werewolf小説です。虚弱な体質を理由に夫から疎まれ、記念日に冷酷な拒絶を受けた主人公。雨の夜、番いとしての絆が砕け散った彼女の前に現れたのは、夫を凌駕する圧倒的な力を持つアルファでした。孤独な魂が真の伴侶と出会う運命の物語。人気のwebnovelで、執着と救済が交錯する愛の軌跡を今すぐ体験してください。
「烈しくも忍耐深き愛の抱擁」のあらすじ
アルファである夫・蓮と番いになって三度目の記念日。虚弱な私を気遣うふりをして、三年間一度も向き合ってくれなかった夫は、他の女狼の香りを纏い帰宅した。彼は私が用意した料理を無視し、嘘の言い訳を残して女のもとへ向かう。数日後の祝賀会への道中、夫は同乗する私に構わず、電話越しにその女へ甘い愛の言葉を囁いた。あろうことか彼は、雨の降りしきる暗い夜道に私を置き去りにし、愛する者のもとへ走ってしまう。絶望の淵で心が砕け散り、自分はただの代用品だったのだと悟った私の前に、一台の車が急停車した。現れたのは、夫を遥かに凌駕する圧倒的な威圧感と、射抜くような銀色の瞳を持つ強大なアルファ。彼は所有欲を剥き出しにした唸り声を上げ、世界の中心を見つけたかのような眼差しで私を捉える。そして、私の人生を根底から変える一言を放った。「俺の」。それは、絶望に沈んでいた私の運命が、新たな執着と激しい愛に飲み込まれていく始まりだった。
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烈しくも忍耐深き愛の抱擁 第1章

番いになって、三年目の記念日。

私は、腕によりをかけてご馳走を準備した。

アルファである夫の蓮は、この三年間、まるでガラス細工でも扱うかのように私に接してきた。

私の「虚弱体質」を、その冷酷な態度の言い訳にして。

それでも、今夜こそは彼が私をちゃんと見てくれるんじゃないかって、期待してた。

でも、彼は他の女狼の匂いをまとわせて帰ってきた。

私が心を込めて作った記念日のディナーを一瞥すると、「クランの緊急会議だ」と嘘をつき、出て行ってしまった。

数日後、彼は「対外的に仲睦まじい姿を見せるためだ」と言って、私に年次祝賀会への出席を命じた。

その道中、彼は〝彼女〟からの電話に出た。

私には決して向けられることのない、甘く蕩けるような声で。

「心配するな、紗良。すぐ行く」

「君の排卵期が最優先だ。愛してる」

私が一度も言われたことのない、三つの言葉。

彼は急ブレーキをかけ、巨大な狼の姿へと変身すると、雨が降りしきる暗い道に私を置き去りにして彼女のもとへ走って行った。

嵐の中へよろめき出た私の心は、ついに砕け散った。

私は彼の番じゃない。

彼の本命が現れるまでの、ただの代用品だったんだ。

このまま雨に流されて消えてしまいたいと願った、その時だった。

暗闇を切り裂くように、ヘッドライトの光が迫ってきた。

一台の車が、私からほんの数センチのところで甲高い音を立てて止まる。

降りてきたのは、夫が子供に見えるほどの、圧倒的な力を持つアルファだった。

彼の射抜くような銀色の瞳が、私を捉える。

所有欲を剥き出しにした唸り声が、彼の胸の奥深くから響いた。

まるで、自分の世界の中心を見つけたかのように私を見つめ、

たった一言、私の人生を変える言葉を告げた。

「俺の」

第1章

ローズマリーとガーリックの香りが、無機質で、静まり返った家に漂っていた。

私は午後いっぱいをかけて、蓮の大好物であるローストラムを丹念に焼き上げた。

ローストポテトとアスパラガスを、一番良い食器の上に並べる。

それはまるで、最後の望みをかけた決戦に挑む兵士のようだった。

三年。

番いになって三年目の記念日。

惨めで、けれどしぶとい希望の塊が喉に詰まって、飲み込むことができない。

今夜こそ。今夜こそ、彼は私を見てくれる。本当の私を、見てくれるはず。

いつも小さくて華奢すぎると感じていた私の手が、リネンのテーブルクロスを十度目になでながら、わずかに震えた。

指先に触れる生地はひんやりと心地よく、胃の中で渦巻く不安な熱とは対照的だ。

外では、翠明市の夕闇が空を痣のような紫と柔らかな灰色に染め、街の灯りが零れ落ちた星々のようにきらめき始めている。

けれど家の中の光は、私がテーブルの中央に置いた二本の真っ白なキャンドルだけ。

その炎は、私の心臓の激しい鼓動を映すかのように、不安げに揺らめいていた。

*彼は帰ってくる。私の努力に気づいてくれる。そして、思い出してくれるはず。*

そのマントラは、誕生日や祝日、そして数えきれないほどの孤独な夜に繰り返し唱えてきた、擦り切れた祈りの言葉だった。

玄関の鍵穴に鍵が差し込まれる鋭い金属音に、私はびくりと体を震わせた。

急いでキャンドルに火を灯すと、心臓が肋骨を激しく打ちつける。

必死に平静を装おうと、深く息を吸った。

*笑って、莉央。幸せそうに。必死な顔はしちゃだめ。*

蓮が玄関ホールに足を踏み入れる。

その広い肩が、戸口を埋め尽くした。

彼は評判通りの、力強いアルファそのものだった。

背が高く、おそらく私の車より高価であろうダークスーツを完璧に着こなし、格下の者なら竦み上がるほどの威圧感を放っている。

だが、最初に私を襲ったのは、彼の力ではなかった。

彼の匂いだ。

彼特有の、松と湿った土の馴染み深い匂いの下に、別の香りが潜んでいた。

鋭い花の香水の匂い。それに混じる、他の女狼特有のムスクの香り。

それは私が恐れるようになった匂い。

長引く会議や、純粋に仕事上の付き合いだと彼が主張するパートナーシップを物語る匂い。

私の作り笑顔が、ぐらついた。

必死に黙らせようとしていた心の声が、絶叫する。

*彼は彼女と一緒にいた。まただ。私たちの記念日に。*

冷たい灰色の石のような彼の瞳が、ダイニングルームをさっと見渡した。

キャンドル、完璧にセッティングされたテーブル、私が魂を注ぎ込んだ料理の香り。

その瞳に温かみのひとかけらも、喜びの気配も浮かばない。

ただ、ほんのかすかに、ほとんど気づかないほど顎が引き締まっただけ。

「莉央」

彼の低いバリトンボイスには、愛情の欠片もなかった。

彼はネクタイを緩める。その絹が擦れる音が、静かな部屋に囁くように響いた。

「これは、一体何だ?」

「記念日おめでとう、蓮」

私はかろうじてそう言った。自分の声が、ひどくか細く聞こえる。

希望を込めて、愚かにもテーブルを指し示した。

「あなたの好きなものを作ったの」

彼は近づいてこなかった。

ドアのそばに立ったまま、私の哀れな希望と彼の冷たい現実との間に、乗り越えられない壁のようにそびえ立っている。

「無理はするなと言ったはずだ。君の体は…虚弱だからな」

その言葉は、物理的な打撃だった。

彼が何年もの間、使い続けてきた言い訳。

*虚弱。*

それは彼が作った檻で、番になったその日から、私はその中に閉じ込められてきた。

彼はそれを、距離を置くこと、私たちの絆を完成させることの拒絶、そして絶え間ない精神的ネグレクトの正当化に使った。

彼は周りの人間だけでなく、一時期は私自身にさえ、私が守られるべき繊細な存在なのだと信じ込ませていた。

彼の言葉で言えば、それは「無視されるべき存在」という意味だった。

私の希望が、あのしぶとくて愚かな希望が、ついに死んだ。

彼の冷たい視線の下で枯れ果て、胸の中で灰と化した。

「ただ、何か素敵なことをしたかっただけ」

私が囁いた言葉は、敗北の味がした。

「クランの緊急会議がある」

彼はすでに背を向け、私の努力を些細な邪魔者であるかのように切り捨てた。

「桐山グループが南の縄張りに手を出してきた。俺が対処しなければ」

彼はちらりと振り返る。その瞳は、何も語らなかった。

「待たずに寝ていてくれ」

そして、彼は行ってしまった。

玄関のドアが閉まるカチリという音は、がらんとした家の静寂に、最後の宣告のように響き渡った。

私は、二本の揺らめくキャンドルと、冷めていく完璧な料理、そして他の女の香水の残り香と共に、一人取り残された。

静寂が、厚く息苦しい圧力となって私にのしかかる。

私はダイニングチェアの一つに沈み込んだ。磨かれた木材が、足に冷たい。

視線が部屋をさまよう。私が手に入れるはずだった人生。

翠明市で最も高級な地区にある、広くて空っぽの家。デザイナーズ家具。尊敬されるアルファの番としての生活。

すべてが見せかけだった。

美しくて、空っぽの嘘。

残酷な拷問者のように、私の心は番いの儀式の記憶を再生する。

儀式用のローブの重さ、空気に満ちた香の匂いが、まだ感じられるようだった。

彼が私の前に立ち、とてもハンサムで力強く、生涯私を慈しみ守ると誓った時、胸に膨らんだ希望を覚えている。

彼は、私たちの魂を真に結びつける最後の一歩を決して踏み出さなかった。

それは私の為だと、完全なアルファの絆の激しさは、私の「繊細な」性質には強すぎるかもしれないと、彼は主張した。

私は彼を信じていた。一時期は。

今、私は真実を知っている。

それは私の虚弱さの問題ではなかった。

私の不十分さの問題だったのだ。

サイドボードの上のタブレットに、指が震えながら伸びた。

思考の渦から抜け出すために、何でもいいから気を紛らわすものが必要だった。

スワイプして電源を入れると、画面が光を放つ。

そして、そこにあった。

『翠明市クラン・ヘラルド』のトップニュース速報。

画面を支配していたのは一枚の写真。

蓮が、笑っていた。

私に向けるような、硬く、抑制された笑みではない。

誇りと愛情に満ちた、偽りのない、心からの笑顔。

彼の隣には、橘 紗良が立っていた。隣接するクランの、力ある女アルファ。

彼女の手は、所有欲を示すかのように、彼の腕に置かれている。

見出しにはこう書かれていた。

『新たな同盟の締結:蓮アルファと橘アルファ、桐山グループとの画期的な契約を確保』

記事は彼らのパートナーシップ、相乗効果、そして合わさった力を称賛していた。

それは、彼が私には決して与えてくれないものを、公に祝福するものだった。

彼はクランの会議になんて出席していなかった。彼女と一緒にいたのだ。

その嘘はあまりにもあからさまで、あまりにも残酷で、私の肺から空気を奪った。

吐き気と失恋の波が私を襲う。

私はテーブルからよろめき離れた。私の失敗の証拠から。

逃げ出したかった。隠れたかった。

気づけば廊下にいて、階段下の物置のドアを開けていた。何年も入ったことのない空間。

空気は古く、防虫剤と忘れ去られた物たちの匂いでむせ返るようだった。

咳き込みながら、薄暗がりに目が慣れていく。

奥の方、古い毛布の山積みの後ろに、小さな木箱が隠されていた。

祖母のものだ。

私がここに引っ越してきた時に両親がくれたもので、新しい生活の惨めさの中で、すっかり忘れていた。

薄い埃に覆われた指が、彫刻された蓋をなぞる。

かすかな軋み音を立てて、蓋を開けた。

中には、色褪せたベルベットの上に、繊細なペンダントが収められていた。

涙の雫の形をした、光を放つ一つの月長石が、銀のチェーンからぶら下がっている。

それはまるで、内側から柔らかな光を放っているかのようだった。

その下には、折りたたまれた羊皮紙があった。インクは薄れているが、まだ読むことができる。

祖母の優雅な筆跡が、ページを流れていた。

*『月が拒絶されし時、真実の星は昇る。汝の血は弱さにあらず、鍵なり』*

息が詰まった。

どういう意味?

私は箱からペンダントを持ち上げた。

石は最初は冷たかったが、私の肌に触れると、かすかで心地よい温もりが指から腕を伝い、胸の中に落ち着いた。

それは、私の胸に根付いた氷のような絶望を押し返す、優しく、癒すような熱だった。

三年ぶりに、疑念の種が植え付けられた。

蓮や、彼が私に抱く感情についてではない――それらは痛いほど明らかだ。

これは、私自身についての疑念。

彼が私に押し付けたアイデンティティについての。

虚弱。弱い。

月長石を握りしめ、その温もりが手のひらで静かな約束を告げる中、私は思った。

彼も、そして私自身も、ずっと間違っていたのではないだろうか、と。

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