フォローする
共有
いつまでも君のもの の小説カバー

いつまでも君のもの

理想の結婚とは、完璧な者同士ではなく、不完全な二人が互いの差異を認め合うことで形作られる。本作は、境遇の異なる3組の男女が織りなす愛の群像劇だ。正義感の強いソフィアは、傲慢なナルシストのダニエルと利害の一致から政略結婚をする。反発し合う二人は、いつしか自身の本心と向き合うことになるのか。一方、自由を求めるマディリンは、CEOガブリエルの「元恋人を取り戻すための契約結婚」という提案を承諾する。身代わりの妻として過ごすうち、彼女は彼に惹かれていくが、彼の心はどこへ向かうのか。そして、兄の親友である放蕩息子アレクサンダーと若くして結婚したアリアナ。四年間も放置され傷ついた彼女の前に、夫が再び現れる。長年の献身は報われるのか、それとも過去の痛みは消えないのか。富と名声を持つ男たちと、彼らに翻弄されながらも己の道を切り拓こうとする女たち。不完全な六人が選ぶのは、真実の愛か、それとも決別か。それぞれの葛藤の果てに、彼らが辿り着く結婚の真実が描かれる。
共有

2

「何があったのか教えて、ソフィア。 きっと助けてあげるわ」 ケリー夫人は 意を決して言った。

私は苦笑いして頭を下げた。 私たちはショッピング・モールに戻ってきて、今はレストランの中にいる。 私にこの秘密ができてからかなりになる。 カリフォルニアに住み始めてから、誰にもこの話はしてこなかった。 まあ、大学の友人であるライアンを除けば、だけど。

私はテーブルの上で、手に手を重ねられるのを感じた。

「私のことお母さんだと思ってね、ソフィア。 ご両親のことも、ある程度あなたから聞いたことがあるけれど、この話は初耳だわ。 何でも話してね」

ソニア・ケリー夫人は ズンバ・クラスの生徒だ。 2年前からの仲で、いつも私のダンス教室をお友達や同僚に勧めてくれる良いお客さんだ。 それから彼女は私にとって母親のような存在で、私がキャリアに関して犠牲にしてきたことも全て知っていて、 国際的なダンス大会を開催するときにはスポンサーにもなってくれている人なのだ。

イタリアのボローニャで起きた恐ろしい過去について話し始める前に、私は彼女を見て長く、深く息をついた。

「ジョセフ・デ・ルカは元婚約者でした。 父の会社が経済危機に見舞われたとき、私は18歳で、当時はどうしたらいいのか分からなかったんです。 ある日が来るまで、父は私にジョセフ・デ・ルカという許嫁がいると言っていました。 その人のこと、知りもしないのにね。 父に理由を聞いたら、私の将来のためだと言われました。

そしてある日、父が居間で誰かと話しているのが聞こえたんです。 彼らは、その人が父の口座に送金したお金について話していました。 その人は、彼の息子と私が結婚前に親密になるように、私の実家から数ブロック離れたところに家を購入したと言いました。

ジョセフに初めて会ったとき、瞬時に感じたんです。私を見る目が何かおかしいって。 その印象を話すと、父は、そんなことはない、ジョセフは良い人で申し分のない夫だと言っていました。 それでも私は彼を信用できなかったので、いとこの助けを借りて、ジョセフについて調査してみたんです。 すると、彼がIT企業出身だということが分かりました。そして最も衝撃的だったのは、彼が麻薬中毒者で、麻薬の使用や販売を行っているということでした」

「そのこと、お父さんには知らせたの?」 彼女はぞっとしたような顔で尋ねた。

「はい、言いました。 なんなら調査結果も見せたのに、父はデマを信じるんじゃないと怒鳴ってくるだけでした!」

「デマですって? でも証拠があるなら、デマではないわよね」

「そうそう、私もそう言ったんですけど、信じてもらえなかったんです。 代わりに、父はそのまま契約書に署名しました。 そしてある日、私は将来の夫と話し合うことにしたんです。 話し合って、結婚をキャンセルするように頼もうと思って、 実家から数ブロック先の彼らの家に行きました。 玄関を開けてくれたのは使用人のレイラで、 ジョセフのことを尋ねると、彼女は彼の部屋を指差しました。 でも私が前を通り過ぎる瞬間、彼女は私の手を掴んでこう言ったんです。 部屋の中でジョセフと話すつもりなら、気を付けてねって。 私は戸惑いましたが、とにかく頷きました。

目に飛び込んできた光景は、私の視覚だけでなく全身に衝撃を与えるものでした。 私は自らの目で調査結果を確かめることになったんです。 部屋の中で、彼は2人の友達と一緒に麻薬を吸っていました。 友達にライターを持たせて、彼はアルミホイルを嗅ぐような仕草をしていました。 そして彼らが私に見られていることに気付いたとき、私は階下に向かって走り出しました。 もうかくれんぼみたいでしたよ。 私が助けを求めて叫ぶと、レイラは台所から走ってきましたが、ジョセフが睨むと背を向けてしまいました」

泣かないように瞬きしたけれど、だめだった。 目を閉じるより前に、涙が頬にぽろぽろと流れ落ちていった。

「他のメイドはどうだったの? 警備員や、他に家にいた人は? あなたが叫んでも、助けたり話を聞いたりしてくれなかったの?」

「その時は、レイラと門番1人を除けば誰も家にいませんでした。なぜでしょうね?」

「それで、その後はどうなったの? 彼とその友達はあなたに何をしたの?」

「彼らは私を部屋に連れ戻して、ベッドに押し倒したんです。 ジョセフは、自分だけで楽しみたいからと友達を家に帰しました。 押し倒されたときに叫んで抵抗したけれど、彼はびくともしなかったわ。 彼は私のブラウスも、スカートも、そして下着も引き裂いたんです。 やめてと言っても止めなかった。 お前は婚約者で、俺の妻になる女だから、俺が俺のものを使うのは当然の権利だと言われたわ」

「でもまだ結婚していないじゃない!」

「結婚するまで待つように言ったけど、耳を貸さずに私を脱がし続けたんです。 ノックの音が聞こえたとき、私はもう挿入されかけていました。 彼は興奮と麻薬のせいで、鍵をかけていないことを忘れていたのかもしれません。 ノックの後、すぐにドアが開いて、 レイラが現れたんです。彼女の顔はショックで青ざめていきました。

私は泣いて助けを求めたけれど、ジョセフに怖い顔で怒鳴られた彼女は、 私の父とデ・ルカ氏が来て居間で待っているとだけ言い残して去っていきました。 去り際の彼女の目配せで、意味が分かりました。それが助けとして彼女にできる唯一のことだったんです。 それにジョセフが気を取られた隙に、 私は全力で彼を押し返して、あそこを蹴りつけました。 そして、着けていたダイヤの指輪が掌側に回っていたので、そのまま彼にビンタしようとしました。実際は彼の首筋に当たっただけだったんですが、それでもダイヤで深い切り傷を残しました。

私は部屋の外に出て階段を駆け下りました。破れたスカートとブラウスなんて気にならないほど必死でした。 父とデ・ルカ氏は、 駆け下りてきた私を見て驚愕していました。 父はすぐに私を上着で包み、何が起こったのか、二階で何をしていたのか尋ねました。 でも私が話す前にジョセフの足音が近付いてきて、彼が真逆のことを話したんです。 お金が欲しくて私が無理やり彼に自分を抱かせようとしたのだと!

私は来た理由を説明しようとしたけれど、信じてもらえませんでした。 彼は血を流していて、みんな被害者のふりをした彼の嘘の方を信じてしまったんです。 彼はすぐに監視カメラの映像を削除して、別の日には、レイラがその家から突然姿を消しました。 彼女が私の唯一の希望だったのに、今も見つかっていません。 これが、私がボローニャを去った理由です。 父は私を信じてくれませんでした。 代わりに、私がジョセフを誘惑したと非難してきたんです。 私がどう説明しても、彼は耳を貸しませんでした。 すでにデ・ルカのお金に目が眩んでいたんです。

いとこと一緒にこの話をSNSに投稿したら、1週間後に突然削除されました。 彼らはお金の力で使って話を塗り替えて、ジョセフを被害者にでっち上げたんです。 そのときに、私はここから逃げると決めました。もはや父に見放されたと感じたからです。 そして6年後、私の人生を台無しにした人間が、また私を見つけて、やりかけの仕事を全うすると脅してきたんです」

私は、ケリー夫人に握られていない方の手で涙を拭った。

「お母さんはどうしたの? そのときはどこにいたの?」

「シアトルです。 母は私がちょうど10歳のときに父と私を残して家を出ました。 私はあえて彼女を探そうとはしませんでした。 彼女にはもう他に家庭があって、それに満足しているようでした。父からは得られなかったであろう彼女の幸せを私が台無しにしたくはないんです」

「それでもあなたのお母さんじゃない。 あなたが今どうしているのか、どんな目に遭ったのか知る権利があるわ」 特にそのジョセフとかいう男が今ここ、カリフォルニアに来ているってことは知るべきだわ」

「このことは自分でどうにかするわ、 ケリーさん。 母は、いなくなってから一度も私を訪ねてきたりしなかった。 私を娘と思うなら、母は戻ってきたはずです。いなくなるなら私を連れて行ってくれたはずです。でも違った! 私は母を失い、父も捨てて、一人で生きてきたんです。 だから今も、母のことなど必要としていません!」

「まあ、そうね、あなたの苦痛を思えば、責めることはできないわ。 私はあなたを誇りに思うわよ、ソフィア。 こうした問題を全て一人で受け止めてきたのね。 あなたは私が知るなかで、最も強く挫けない心を持った人だわ。 あなたを助けたいの」

私は両手で涙を拭いながら彼女を見た。

「あなたを支援するわ。あなたがレイラを見つけて、そのジョセフとかいう男が自身の罪に苦しむまでね!」

「ケリーさん …」

「私の息子と結婚しなさいな!」

私は、目玉が飛び出るかと思った。 ショックを受けたという言葉では表しきれないほどのショックだった。

「ケ、ケ… ケ、ケケ… ケリーさん?」 舌ももつれて話せないほどだった。

彼女は再び私の両手を握って、こう言った。

「ソフィア、私の息子と結婚しなさいな。 レイラを見つけるために息子の名前とコネを利用するのよ」

「で、でも…」

「息子には今、奥さんが必要なの。あなたならぴったりだわ」

私は目をパチクリさせた。 「息子さんと私は知り合いですらないんですよ、 ケリーさん。 それに、なぜ奥さんが必要なんですか?ガールフレンドはいないの?」

「いいえ、ソフィア。そういうことじゃないのよ。 息子と1年間だけ結婚してくれれば、その後は好きにしていいのよ」

「でも、どうして私に結婚してほしいんですか? 状況を教えてください、 ケリーさん」 なんというか、彼女には何か内緒にしていること、もしくは伝えたいことがあるということは分かった。

「息子は、会社で最重要の投資を勝ち取るために、1年間だけ仮面夫婦をしてくれる人を必要としているの。 ヨーロッパへの投資でね、それが成功したら、会社はカリフォルニア州でトップの売上高になるのよ」

「それが私に息子さんと結婚してほしい理由ですか?」

「ある意味、そうね。でもあなたの話を聞いて、ますます息子と結婚してほしくなったのよ。 あなたを助けたいの、ソフィア。 お金に困っているわけではないのは知っているけれど――」

「あら、だめよ、だめだめ… ねえ、 ケリーさん。 息子さんと結婚することで沢山お金をくださるつもりなら、 悪いけれど受け取れないわ。ノーと言わせてもらいます」

「そんな。でもあなたが望むなら、1円も払わないわ。 息子と結婚するだけで、ジョセフを訴えるのに必要な唯一の目撃者を見つけることができるのよ。 息子についても、心配いらないわ。 優しい人よ、ソフィア。 もしいつかあなたがだんだん息子を好きになってくれたら、私は世界一幸せな母親と姑になるわね」

ケリーさんが最後に付け加えたことに私は笑った。

「でも単なる政略結婚なんですよね? 愛も、いかなる感情も、この結婚には関係ないってことだわ」

「そうよ、あくまで仮定の話をしただけ。 それで、どうするの?」

「ど、どうしましょう、 ケリーさん。 人生を賭けた決断だわ」

「ソフィア、たった1年よ。 その後は離婚届を出して結婚生活をやめていいのよ」

「息子さんは、私と話していることを知っているんですか?」

「知らないわ、でも説明するつもり」

:回想ここまで

~~~~~~°~~~~~~~°~~~~~~~°~~~~~~~

おすすめの作品

慰謝料で数千億貰った元妻、実は世界一の大富豪でした。 の小説カバー
9.1
結婚から二年の月日が流れたある日、桜庭海はあまりに身勝手な理由で妻に別離を突きつけた。「彼女が帰ってきたんだ。別れてほしい」という言葉。かつての恋人の出現により、海との平穏な夫婦生活はあっけなく幕を閉じることになった。元カノの涙を前にして揺らぐ夫の姿を目の当たりにし、遠坂希は取り乱すこともなく、ただ静かにその要求を受け入れる決意をする。しかし、彼女はただ無言で去るような女ではなかった。身を引く代わりの条件として希が提示したのは、常識を遥かに超える莫大な代償だった。「最高級のスーパーカーを譲ること」「郊外にある別荘を渡すこと」そして極めつけは、「この二年間で築き上げた数千億円にのぼる全資産を、きっちり半分に分けること」だった。予想だにしない巨額の要求を前に、それまで余裕を見せていた海は言葉を失い、激しく動揺する。クールで冷徹な元妻による、華麗なる逆襲劇がいま幕を開ける。実は世界一の大富豪という真の姿を隠し持っていた彼女の、正体が暴かれる日はそう遠くない。愛を捨てた男が支払うことになった慰謝料の代償は、あまりにも大きすぎたのだ。
籍ごと追い出されたら、裏アカが世界株を爆買い の小説カバー
8.2
結婚三周年の記念日、織田七海は丹精込めたディナーを用意して夫の帰りを待っていた。しかし、戻ってきた夫が口にしたのは「妊娠中の恋人がいる」というあまりに非情な離婚宣告だった。元カノのために捨てられた彼女は世間の嘲笑の的にされるが、離婚を機に隠された本性を現していく。次々と明かされる裏の顔が世界を驚愕させ、彼女は圧倒的な存在へと変貌を遂げた。かつての妻の輝きを目の当たりにした元夫は、特大のダイヤを手に土下座で復縁を迫るが、もはや手遅れだった。冷徹に拒絶する七海の傍らには、彼女を独占しようとする実力者・高田宗紀の姿があった。宗紀は執着心を隠さず、馴れ馴れしく縋りつく元夫を容赦なく排除するよう命じる。愛に裏切られた女が自らの価値で世界を屈服させ、真に自分を愛する男と共に新たな人生を歩み出す。クズな元夫への痛快な復讐と、億万長者との情熱的なロマンスが交錯する現代ドラマチックな物語。
冷遇された身代わり妻は、頂点の覇者に愛される の小説カバー
8.1
結婚から三年、夫の愛人が帰国したことを機に、彼女は一方的に離婚を言い渡された。「性悪な女に妻の座は似合わない」という冷酷な言葉と共に、身代わりの役目は終わりを告げる。かつて命を救われた恩を返すため耐え忍んできた彼女だったが、未練なく離婚届に署名し、家を去る決意を固めた。しかし、彼が蔑んでいた元妻の正体は、上流社会を揺るがす多才で高貴な真の淑女だった。隠されていた彼女の輝きを目の当たりにし、男は己の過ちに気づき三ヶ月後に復縁を請うが、時すでに遅し。電話の向こうで響くのは、誰もが畏怖する絶対的な覇者の声だった。「私の妻は既に身ごもっている。まだ未練があるのか?」と。受話器越しに聞こえるのは、新しい夫と幸せを刻む彼女の穏やかな声。かつての夫を「ただの詐欺電話」と切り捨て、最愛の伴侶と共に歩み出す彼女の姿に、男は深い絶望の淵へと突き落とされる。冷遇された過去を脱ぎ捨て、真の愛と栄光を掴み取るシンデレラストーリー。
私の心を傷つかない の小説カバー
7.9
「嘘つきとビッチ、お似合いの二人ね」と、アシュリは冷ややかな笑みを浮かべて言い放つ。その凛とした美しさは、周囲の人々の目を釘付けにするほど輝いていた。しかし、その夜の彼女に過酷な運命が待ち受けていた。母親の手によってワインに薬を盛られた彼女は、意識を失ったまま、圧倒的な富と美貌を兼ね備えた見知らぬ男の元へと連れ去られてしまう。人生を根底から覆すような、あまりにも衝撃的な一夜。アシュリは初めて出会ったその男に、自らの純潔を捧げることになった。まるで悪夢と陶酔が入り混じったような狂乱の時間が過ぎ、翌朝彼女が目を覚ますと、目の前には昨夜の男が立っていた。困惑する彼女に対し、男は傲慢に、そして抗いがたい響きで「キスしてくれ」と要求する。見ず知らずの億万長者との間に起きた一夜の過ちが、彼女を逃れられない愛憎の渦へと引きずり込んでいく。最悪の出会いから始まる二人の関係は、果たしてどのような結末を迎えるのだろうか。裏切りと欲望が交錯する中で、アシュリの運命は激しく動き出す。
復讐のため、親友のパパの妻になりました の小説カバー
9.2
後見人であるアンソン・ハイドの婚約パーティーは、私にとって地獄のような場所だった。守ると誓ったはずの彼は、かつて私を虐げたクローディンを伴侶に選び、光の下で愛を誓っている。裏切りと屈辱に胸を締め付けられた私は、嘲笑の視線から逃れるように静かな書斎へと駆け込んだ。そこで待っていたのは、親友の父であり、街で絶大な権力を誇るダラス・コックだった。廊下から聞こえるアンソンの甘い言葉が、私の心に最後の一撃を与える。絶望の淵で崩れ落ちそうになった私を支えたのは、ダラスの強靭な腕だった。この状況を覆すため、私は彼に救いを求め、自ら結婚を申し出る。アンソンが決して届かない高みへ上り詰め、彼らへの復讐を果たすための盾が必要だったのだ。ダラスは冷徹に結婚契約書を差し出し、私は迷わず署名した。こうして、寄る辺ない被後見人だった私は、一夜にして街を支配する男の妻へと生まれ変わる。愛と憎しみが交錯する中、私の新たな戦いが幕を開けた。
記憶喪失を装う御曹司:私からの冷酷な決別宣言 の小説カバー
8.4
事故から目覚めた財閥の御曹司である恋人は、献身的に支えてきた私に対し、残酷にも「記憶を失った」と告げた。彼は私を蔑みの目で見下ろし、別の女性を抱き寄せながら、四年間の月日を無価値な契約として一方的に打ち切る。手切れ金の小切手を投げつけ、父の入院費を盾に脅迫までしてくる彼の姿に絶望するが、私は見逃さなかった。嘘をつく時にカフスを弄る、彼特有の癖を。彼は記憶喪失を装い、新たな婚約者との未来のために私を切り捨てようとしていたのだ。愛した男による滑稽な猿芝居を目の当たりにし、心に宿っていた最後の一滴の未練さえも完全に消え失せた。私は目の前で小切手を破り捨て、彼への決別を宣言する。もはや泣いて縋るような哀れな女ではない。私は自らの努力で築き上げた力と、彼らを破滅へと追い込む決定的な証拠を手に、桐山家のすべてを奪い返すための熾烈な反撃を開始する。裏切られた歳月の報いを受けさせるため、私は冷徹に復讐の道を歩み出す。