慰謝料で数千億貰った元妻、実は世界一の大富豪でした。 の小説カバー

慰謝料で数千億貰った元妻、実は世界一の大富豪でした。

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結婚から二年の月日が流れたある日、桜庭海はあまりに身勝手な理由で妻に別離を突きつけた。「彼女が帰ってきたんだ。別れてほしい」という言葉。かつての恋人の出現により、海との平穏な夫婦生活はあっけなく幕を閉じることになった。元カノの涙を前にして揺らぐ夫の姿を目の当たりにし、遠坂希は取り乱すこともなく、ただ静かにその要求を受け入れる決意をする。しかし、彼女はただ無言で去るような女ではなかった。身を引く代わりの条件として希が提示したのは、常識を遥かに超える莫大な代償だった。「最高級のスーパーカーを譲ること」「郊外にある別荘を渡すこと」そして極めつけは、「この二年間で築き上げた数千億円にのぼる全資産を、きっちり半分に分けること」だった。予想だにしない巨額の要求を前に、それまで余裕を見せていた海は言葉を失い、激しく動揺する。クールで冷徹な元妻による、華麗なる逆襲劇がいま幕を開ける。実は世界一の大富豪という真の姿を隠し持っていた彼女の、正体が暴かれる日はそう遠くない。愛を捨てた男が支払うことになった慰謝料の代償は、あまりにも大きすぎたのだ。

慰謝料で数千億貰った元妻、実は世界一の大富豪でした。 第1章

川市、夜。帝王苑と呼ばれる高級住宅街。

広々とした明るいリビングで、二人が向かい合って座っている。 目の前のテーブルには、一通の離婚協議書。 男はアイロンの行き届いたスーツを身に纏い、容姿は端麗だが、その表情は冷ややかで、全身から強い圧迫感を放っていた。

彼の冷たい視線は、向かいで黙り込んでいる女性に向けられていた。 その瞳は、真夜中の空のように深い。

「月曜日に離婚手続きをする」 桜庭海が、有無を言わさぬ口調で切り出した。 声は低く、その言葉に温度は一切感じられない。 「離婚協議書に記載した慰謝料以外に、何か要求があれば言え」

「どうして、急に……?」遠坂希の声は、いつもよりずっと低かった。

海は、ただ一言、短く答えた。 「佳苑が、帰ってきた」

希はもちろん、華ヶ原佳苑が誰なのかを知っていた。 短い沈黙の後、彼女は頷いた。 「わかったわ」

海は一瞬、息を呑んだ。

彼女がこれほどあっさりと承諾するとは思ってもいなかったのだろう。

希は離婚協議書を開き、そこにびっしりと並んだ条項に目を落とす。 脳裏に、海と出会った頃の記憶が蘇った。

二年前、彼らは川市のナイトクラブ『宵闇』で出会った。 当時、彼女は心に重荷を抱え、海は失恋したばかりだった。 酒を数杯酌み交わすうち、二人はすぐに意気投合し、話に花が咲いた。

だが、二人の間に何かドラマチックなことが起こったわけではない。酒を飲み終えると、それぞれ帰路についただけだった。

再び彼に会ったのは、その夜から三日後のこと。 海が彼の特別補佐を連れて彼女の元を訪れ、結婚を申し込んできたのだ。

彼女は、それを受け入れた。

入籍してからの彼は、実に優しかった。 細やかに彼女を気遣い、彼女が困難に陥れば真っ先に助け、病気になれば自ら薬を準備し、髪を洗えばドライヤーをかけてくれる。二人は、かつて心から愛し合っていた。

半年前、彼が一本の電話に出るまでは。

その電話を境に、彼は変わってしまった。

彼女に対して冷淡になり、よそよそしくなった。 以前のような優しさは、もうどこにもなかった。

そして、まさにその日、彼女は知ってしまったのだ。 海が自分と結婚し、結婚後あれほど優しくしてくれた理由が、すべて、彼の忘れられない元恋人である佳苑と、自分がどこか似ていたからだと。

そんなことを思い返しながら、希は唇を引き結び、平坦な口調で海に尋ねた。 「さっき、慰謝料の条件はこっちで決めていいって言ったわよね?」

「ああ」 と海は簡潔に答えた。

「どんな条件でも?」 希は彼を見上げた。 その整った顔から、かつての生気がすっかり消えていた。

そんな彼女の眼差しを受け、海の胸に一瞬、罪悪感がよぎった。 「……ああ」

彼はもう決めていた。

希の要求が法外なものでない限り、できる限り応じるつもりだった。

ここ一年、彼女は本当によく尽くしてくれたのだから。

「それじゃあ、ガレージにある一番高いスーパーカーをいただくわ」

「いいだろう」

「それから、郊外の別荘も」

「わかった」

「それと、結婚してからの二年間で、あなたが稼いだお金——財産分与として、きっちり分けましょう」

その言葉を聞いて、それまで表情一つ変えなかった海の眼の色が変わった。

聞き間違いかと思い、唇をわずかに動かして問い返した。 「……何だと?」

「婚姻期間中に得た収入は、夫婦の共有財産よ。 計算してみたんだけど、あなたの投資収益を除いて、この二年の給料と会社の配当金を合わせると、総額で数兆はあるはずだわ」 希は真顔で、冗談を言っている様子は微塵もない。 「多くは望まない。 四割、いただければそれでいいわ」

桜庭海:「………は?」

希はさらに言葉を続けた。 「もちろん、私の収入からも四割、あなたに分けるわ」

「遠坂希ッ!」桜庭海が、ついに怒りを露わにした。

先ほど罪悪感を覚えた自分が馬鹿らしくなった。 これほど金に執着する女だったとは、今まで気づかなかった。

希は彼を見上げ、真剣な眼差しで尋ねた。 「駄目かしら?」

駄目に決まっている!

海は考えるまでもなく、心の中で否定した。

「駄目ならいいわ」希は手にしたペンを置いた。「今度、ご両親やご親戚にお会いした時に、あなたが婚姻中に精神的な浮気をしていた件、お話しさせてもらうわね。きっと喜んで、私の味方になってくださると思うから」

海の纏う空気が、少しずつ冷えていく。 その眼光は刃のように鋭い。

彼女にこんな一面があったとは、思いもしなかった。 これまでの従順で物分かりのいい姿は、すべて演技だったというわけか。

「本気で、そのやり方で俺と話すつもりか?」

「ええ、本気よ」

希は、彼の視線をまっすぐに受け止めた。

脅されるのが何より嫌いな男だと知っている。でも——それが何?私だって、結婚中の浮気が何より嫌いなのよ。

「……いいだろう」 海は険しい顔で、昏い眼差しを彼女に向けた。 「くれてやる。 だが、もしこの離婚がスムーズに進まなかったら、どうなるかわかっているな」

「桜庭社長、それは脅迫かしら?」希は椅子に背を預け、澄んだ瞳で真剣に問いかけた。

こんな彼女の姿を、

海は一度も見たことがなかった。

結婚してからの二年間、希は常に物分かりが良く、従順で、優しかった。 今のように彼に真っ向から対立することなど、一度もなかったのだ。

「いや」 海はすでに彼女を始末する算段を考えながら、冷たい声で言った。「 家も車も金もくれてやる。月曜、必ず離婚しろ」

希はふと目を動かし、ゆっくりと口を開いた。 「もう一つ、お願いがあるの」

「言え」 海の忍耐は、刻一刻とすり減っていく。

「明日、買い物に付き合ってほしいの」 希は、彼が放つ冷気などまるで意に介さない様子で続ける。 「買い物が終わったら、一緒にあなたのご実家へ行って、ご両親に離婚の話をしましょう。 離婚の理由は、私があなたを好きじゃなくなった、ということでいいわ」

「……わかった」 と海は承諾した。

話が済むと、 海は一刻も早くこの場を立ち去りたかった。

全身に冷気を纏ったまま、 出口へと向かった。

ここへ来る前は、もし希が離婚をすんなり受け入れられないようなら、彼女が慣れるまで、もう少し時間を与えてやろうとさえ考えていた。

だが今となっては、

彼女に悲しんでいる様子など微塵も見られない。

それどころか、彼の財産を分与させるために、離婚を待ち望んでいたかのようだ。

もし希が彼の今の心境を知ったなら、おそらく鼻で笑うだろう。 (私があんなはした金を気にすると思う?)

「今夜は戻らない。 明日の朝九時に、買い物に迎えに来る」 ドアの前で、海は足を止めて言った。 「行きたい場所をリストアップしておけ」

「佳苑に会いに行くの?」

「お前には関係ない」

「寝取られる趣味はないの」本性を隠す必要もなくなった希は、ズバリと言い放つ。「正式に離婚するまでは、彼女とベッドを共にしないでちょうだい」

海の表情が、途端に険しくなった。

彼は踵を返し、希の前に戻ると、彼女を見下ろした。

希は彼の威圧感に臆することなく、問い返した。 「どうしたの? たった二日半も待てないっていうの?」

「不満があるのはわかるが、そんな言葉で俺を煽るな」 海は怒りを露わにはしなかった。 考えてみれば、もし自分が同じように扱われたら、彼女以上に激しい反応を示すかもしれない。 「俺たちはただ離婚するだけだ。 憎み合う必要はない」

希は「……」

どの口がそんなことを言うのだろうか。

「ゆっくり休め」 その言葉を残し、 海は背を向けて去っていった。

ドアが閉まった瞬間、リビングは静寂に包まれた。

テーブルの上には、離婚協議書が静かに横たわっている。 希は、その場に立ち尽くしたまま、しばらく動かなかった。

感情が少しも揺らがなかったと言えば、嘘になる。

自分がただの身代わりだったと知った半年前から、彼女はずっと苦しんでいた。

海の野郎は、彼女の二十四年間の人生における、初めての恋の相手だった。 あの電話があるまでは、彼は無口な点を除けば、他の面では完璧な夫だった。 忍耐強く、優しく、彼女に何の心配もさせなかった。

だから、彼の心に別の人がいると知った時、受け入れがたくても、自ら離婚を切り出した。元カノのところへ行って——そう、身を引くつもりだった。

だが、その時の海は、それに応じなかった。

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