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暴君CEOのヒミツのカルテ の小説カバー

暴君CEOのヒミツのカルテ

雲崎市の経済を支配する藤堂財閥の御曹司、藤堂卓海。冷酷無比な帝王として畏怖される彼には、誰にも言えない致命的な秘密があった。その隠された弱点を、泌尿器科の天才医師であるヒロインに暴かれたことから、二人の運命は激変する。絶対的な権力者だったはずの男の生殺与奪の権を、一介の医師である彼女が握ることになったのだ。二人はある契約を交わし、互いの思惑を秘めたまま偽装結婚へと突き進む。結婚前、彼は「分を弁えろ」と氷のような冷徹さで彼女を突き放していた。しかし、形だけの夫婦生活を続けるうちに、強固だったはずの彼のプライドは崩れ去っていく。かつての傲慢な態度は影を潜め、ついには屈辱に耐えながらも「俺への情はないのか」と彼女の愛を乞うまでに変貌してしまう。対する彼女は、あくまでビジネスライクな関係を貫こうと、本気になり始めた彼を冷ややかに一蹴する。主導権が逆転した二人の関係は、偽りの誓いを超えてどこへ向かうのか。契約に縛られた孤独な王と、秘密を握る天才医師が織りなす、波乱に満ちた現代ロマンス。
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2

診察室は、一瞬にして水を打ったような静けさに包まれた。

卓海は猛然と振り返り、燃え盛る怒りを込めた視線で彼女を射抜いた。

杏奈は平静にその視線を受け止め、その瞳にはプロとしての自負が満ちており、まるでなぜ答えないのかと問いかけているかのようだった。

沈黙が流れた後、卓海は絞り出すように二文字を吐き出した。「……ない」

「ふうん?」 杏奈は語尾をわずかに上げ、探るような色を滲ませる。

彼女はカルテへの記録を続けながら、淡々と言葉を継いだ。「長期にわたる性生活の欠如、あるいは過度な精神的ストレスが、時に機能障害を引き起こすこともあります。 ですが、先ほどの検査を見る限り、藤堂さんの身体的な機能は極めて優秀です。過度に心配する必要はないでしょう」

卓海は絶句した。

(身体的な機能が……極めて優秀だと?)

(この女、自分が何を言っているのか分かっているのか!?)

杏奈はようやく手を引き、手袋を外して医療廃棄物用のゴミ箱に投げ入れた。

「はい、藤堂さん。検査は終わりです。ズボンを穿いてください」

彼女はそう言いながらデスクに戻り、ペンを手に取ってカルテに素早く書き込み始めた。

その事務的な態度は、どんな嘲りよりも卓海を屈辱的な気分にさせた。

彼は検査台から身を起こし、人生で最も速い勢いで身なりを整えた。

服装を整えると、卓海はいつもの傲岸な姿勢を取り戻す。だが、その陰鬱な表情と固く引き結ばれた顎のラインが、彼の最悪の気分を完全に物語っていた。

彼は、この馬鹿げた悪夢がようやく終わったのだと思った。

(あの忌まわしい報告書さえ受け取れば、あとは祖父に釈明を済ませるだけだ。今日起きたことすべてを、この篠崎杏奈という女医もろとも、記憶から完全に消し去ればいい。)

だが、杏奈の次の言葉が、彼をさらなる地獄へと突き落とした。

「藤堂さん、基本的なバイタルチェックは終わりました」 彼女は一拍置いてから、言葉を継いだ。「ですが、先ほどの触診と微細な生理反応から判断して、血清テストステロン値と神経伝導機能の検査も受けることを個人的にお勧めします」

卓海は眉間に深く皺を寄せ、苛立たしげに言った。「どういう意味だ?」

「つまり……」杏奈の口調は相変わらず平静だった。「器質的な問題ではなく、機能の面で軽度の偏りが見られる可能性があります」

「ありえない」 卓海は、反射的にそう言い放った。

彼は自分に対して、常に絶対的な自信を持っていた。ビジネスの場でも、そして……身体に関しても。

(ただ女に興味がないだけで、不能なわけではない!)

杏奈は彼の反応を予測していたのか、あえて反論はしなかった。

彼女はただ、デスクの上のもう一枚の空白の検査依頼書を彼の方へ滑らせた。「事実かどうかは、データが証明します。 藤堂さんは、ご自身の主観的な感覚を信じますか?それとも科学を信じますか?」

卓海は、杏奈のあまりに冷静な顔をじっと見つめ、そこからわずかな動揺や不確実性を見出そうとした。

だが、何もなかった。

彼女の眼差しは、どこまでもプロフェッショナルで、揺るぎない。

卓海は、時折感じていた腰の重さや気力の減退をふと思い出した。それまでは単なる仕事の疲れだと思い込んでいたのだが……。

(まさか……本当に自分に問題があるというのか?)

一瞬の躊躇の後、彼はその検査依頼書をひったくるように掴むと、一言も発さずに診察室を後にした。

ドアの外で待っていた秘書の淳也は、閻魔大王さながらの上司の顔を見て、思わず身を震わせたが、それでも意を決して歩み寄った。「藤堂社長、いかがでしたか?検査は……順調でしたか?」

卓海は冷ややかに彼を一瞥しただけで何も答えず、まっすぐ検査室へと向かった。

淳也は、その決然とした後ろ姿を見送りながら、内心で激しく動揺していた。

(あの様子……どう見ても何事もなかったようには見えない……)

その後の一時間は、卓海にとって、人生で最も長く、耐え難い苦痛の時間となった。

採血、待ち時間、そして検査結果の受け取り。

検査結果報告書を握りしめ、再び杏奈の診察室に戻った時、彼のまとう空気はすでに極限まで冷え切っていた。

待合室に他の患者はいなかった。

杏奈はずっと彼を待っていたかのように、デスクの上はきれいに片付けられ、彼のカルテだけが置かれていた。

卓海は、抑えきれない怒りをぶつけるように、報告書をデスクに叩きつけた。

杏奈はそれを手に取ると、視線を落とし、細かく目を通した。

一分、また一分と時間が過ぎていく。

卓海は彼女をじっと見つめ、わずかな表情の変化も見逃すまいとした。

やがて、杏奈は報告書を置き、顔を上げた。

「私の見立て通りです。藤堂さんは神経系の軽度な機能失調により、勃起機能に支障が生じているようです」

(神経系……機能失調?)

心の準備はしていたものの、いざ診断を下されると、卓海の頭の中は真っ白になり、激しい耳鳴りに襲われた。

「原因は複雑ですが、長期にわたる精神的ストレスや過労によって、勃起を司る神経系に乱れが生じたものと考えられます」

「ただ、幸い早期発見ですし、深刻ではありません。薬物治療とリハビリを組み合わせれば、完治は十分見込めます」

卓海は瞳を暗く沈ませ、掠れた声で尋ねた。「……治療法は?」

「詳細な診断書と治療計画書をお作りします」 杏奈はそう言いながらキーボードを叩き始めた。すぐにプリンターの作動音が室内に響き渡る。「今後の治療は、この分野の権威である柳沢茂雄先生が直接担当されますので、ご安心ください」

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