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暴君CEOのヒミツのカルテ の小説カバー

暴君CEOのヒミツのカルテ

雲崎市の経済を支配する藤堂財閥の御曹司、藤堂卓海。冷酷無比な帝王として畏怖される彼には、誰にも言えない致命的な秘密があった。その隠された弱点を、泌尿器科の天才医師であるヒロインに暴かれたことから、二人の運命は激変する。絶対的な権力者だったはずの男の生殺与奪の権を、一介の医師である彼女が握ることになったのだ。二人はある契約を交わし、互いの思惑を秘めたまま偽装結婚へと突き進む。結婚前、彼は「分を弁えろ」と氷のような冷徹さで彼女を突き放していた。しかし、形だけの夫婦生活を続けるうちに、強固だったはずの彼のプライドは崩れ去っていく。かつての傲慢な態度は影を潜め、ついには屈辱に耐えながらも「俺への情はないのか」と彼女の愛を乞うまでに変貌してしまう。対する彼女は、あくまでビジネスライクな関係を貫こうと、本気になり始めた彼を冷ややかに一蹴する。主導権が逆転した二人の関係は、偽りの誓いを超えてどこへ向かうのか。契約に縛られた孤独な王と、秘密を握る天才医師が織りなす、波乱に満ちた現代ロマンス。
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3

(柳沢茂雄?)

卓海の眉間が、瞬時に険しく寄った。

もちろん、柳沢先生が権威であることは知っている。

だが問題は、この件を、目の前のこの女以外の誰にも知られたくないということだ。

藤堂家は巨大な一族であり、内部の関係は複雑を極めている。

跡継ぎである彼の一挙一動は、常に無数の監視の目に晒されていた。

男性としての尊厳に関わるこの隠密な疾患が、万一、わずかでも外部に漏れれば、敵対勢力が彼を叩く格好の武器になりかねない。ひいては、グループ内での地位を揺るがす事態にもなり得るのだ。

藤堂家の専属医療チーム?

論外だ。

あの医師たちは藤堂家全体に仕えており、口が軽い。誰が誰の息がかかっているのかも分からない。彼らの前では、秘密など、そもそも秘密ですらないのだ。

だからこそ、おじいさまは、彼の親友である柳沢先生を頼るよう勧めたのだ。

しかし今、誰にも知られたくない、最も屈辱的で、口にするのも憚られる秘密を、篠崎杏奈という女に知られてしまった。

そこに柳沢先生まで加われば、それだけリスクが増すことになる。

何より重要なのは、検査から宣告に至るまで、診断の全過程を担当したのは彼女なのだ。

(今さら、状況をまったく知らない医師のところへ行き、あの屈辱を、また最初から繰り返せというのか……?)

卓海は、想像しただけで、怒りが頭の先まで突き抜けるのを感じた。

「できました」 杏奈は数枚のA4用紙を揃え、カルテと検査結果の用紙とともに茶封筒へ収め、それを彼に差し出した。「藤堂さん、これが全ての資料です。これを持って、明日、柳沢先生を訪ねてください」

そう告げると、彼女は腕時計に目をやり、立ち上がって白衣を脱いだ。

「時間ですので、これで失礼します」彼女は自分のバッグを手に取った。すでに帰る準備は整っているようだった。

卓海は封筒を受け取ろうとはせず、ただ顔を上げ、彼女を鋭く射抜くように見つめた。

「待て」

杏奈の足が止まった。

彼女は振り返り、不可解そうに彼を見た。「藤堂さん、私の勤務時間はもう終了しています」

「待て、と言っている」卓海はゆっくりと立ち上がった。長身から放たれる強烈な圧迫感を伴い、一歩、また一歩と彼女に詰め寄る。

診察室のドアが、彼の手によって乱暴に閉められ、さらには鍵までかけられた。

狭い室内が一瞬で一触即発の空気に満ちる。

杏奈は眉をひそめた。理不尽な患者はこれまで幾度となく相手にしてきたが、卓海のように、強烈なオーラを放ちながら不可解な行動を取る人間は初めてだった。

彼女は腕を組み、落ち着き払った様子で彼を見つめる。その声には、わずかな苛立ちが滲んでいた。「藤堂さん、どういうおつもりですか? 医師を不法に監禁するなど……その結果がどうなるか、分かっていますか?」

「結果?」卓海は冷笑を浮かべ、彼女の前へと歩み寄り、見下ろした。「俺の病気を見つけたのは、お前だ」

「だから何です?」 杏奈は臆することなく、彼と視線を合わせる。

「だからだ」 卓海の声は極めて低く、一言一言に力が込められていた。まるで、最後通告を下すかのように。「始めた者が、最後まで責任を持て。俺の治療は――お前が担当しろ」

杏奈は、あまりの身勝手さに、呆れ果てて、逆に笑い出しそうになった。

医師になって長いが、これほどまでに傲慢で身勝手な要求を耳にしたのは初めてだ。

「藤堂さん、改めて申し上げますが、ここは病院です。あなたの会社ではありませんし、まして私はあなたの部下でもありません」 彼女は容赦なく言葉を返した。「私は診察を行い、報告書を作成しました。私の職務はすでに完了しています。 その後の治療は、より専門的な柳沢先生が引き継ぐ。それが最善の策です。 ……さあ、ドアを開けてください。私は帰ります」

「言ったはずだ。お前が責任を持て」卓海は頑なに繰り返し、彼女の言葉にはまったく耳を貸さない。

自分の運命を他人に決められることも、自分の弱みや欠点を、二人目、三人目の人間に握られることも、彼には到底受け入れられなかったのだ。

目の前のこの女は癪に障るが、少なくとも秘密を知っているのは、今のところ彼女一人だけだ。

「篠崎先生」 卓海の口調が冷え込み、脅しめいた響きを帯びる。「考え直すことを勧める。藤堂グループが第一総合病院の筆頭株主であることは知っているだろう? お前に治療を任せるも、明日からここに来なくさせるも、俺にとっては電話一本の話だ」

露骨なまでの脅迫だった。

並の若い医師であれば、この職を失う恐怖に、膝を震わせていたに違いない。

しかし杏奈は、ただ静かに彼を数秒見つめると、バッグをデスクに置き、再びデスクの縁にもたれかかった。

彼女は腕を組み、すべてを支配できると信じ込んでいるこの男を、見上げる。

「藤堂卓海さん」 彼女は彼の名をフルネームで呼び、落ち着いた口調で言った。「一つ、権力で人をねじ伏せようとするのは幼稚だ。 二つ、私は医師にしてこの病院の客員教授だ。 私を失うことこそ、病院にとっての損失でしょう……」

彼女は言葉を切り、わずかにこわばった彼の端正な顔に視線を走らせる。

そして、淡々と事実を告げた。「それに、今はあなたが私を必要としているのであって、私があなたを必要としているわけではありません。 人にものを頼むなら、それ相応の態度というものがあるでしょう」

卓海は呆然とした。

(教授……?)

彼は目の前の、あまりにも若すぎる顔を見つめた。一瞬、その肩書と彼女を結びつけることができなかったのだ。

そして、彼女の放った「人にものを頼むなら、それ相応の態度があるはずだ」という言葉。まるで鋭いビンタのように、彼の頬を叩きつけた。

この藤堂卓海が、これまでの人生で、誰かに頭を下げたことなどあっただろうか。

だが、反論はできなかった。

彼女の言うことは事実だからだ。

今、病を患い、絶対的な守秘義務を果たせる有能な医師を必要としているのは、他でもない彼自身なのだ。

目の前のこの女は、今の彼にとって、唯一にして、最善の選択肢だった。

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