フォローする
共有
最悪 ー 絶望・恐怖短篇集 の小説カバー

最悪 ー 絶望・恐怖短篇集

人間の心に潜む、目を背けたくなるような暗部を鮮烈に描き出したホラー&ミステリー短編集。本作に収められているのは、絶望や恐怖といった根源的な感情から、執拗なまでの妄執、狂おしいほどの嫉妬、そして深く刻まれた怨恨まで、ありとあらゆる「負の感情」が渦巻く物語の数々です。平穏な日常の裏側に潜む歪みや、一度足を踏み入れたら抜け出せない精神的な地獄を、多角的な視点から精緻にまとめ上げました。読者は、人間という生き物が抱える底知れぬ闇と、そこから派生する逃れられない悲劇を、一編ごとに深く体感することになるでしょう。救いようのない絶望が支配する世界観の中で、負の情動が引き起こす戦慄の展開が次々と繰り広げられます。単なる恐怖体験にとどまらず、人間の業や心の深淵を冷徹に見つめた、濃密な心理的恐怖が凝縮された一冊です。読後、あなたの心には消えない影が落とされるかもしれません。負のエネルギーを極限まで突き詰めた、珠玉の短編たちが、あなたを未知なる恐怖の深淵へと誘います。
共有

1

ある日、ひとが多くいなくなりました。

おかあさんがいなくなり、おとうさんと

わたしだけで、生活していました。

おとうさんが、ごはんを持ってくるといって、

お外によく出かけて行ったのをおぼえています。

いつもわたしは、おうちでねこちゃんたちと

いっしょにあそんでまっていました。

ひとがいなくなって何日たったのか

わからなくなりましたが、ある日

おとうさんはいいました。

「ごはんが見つからなくなってきた。

もうすぐここをはなれなければいけないかも」

わたしはいやでした。

おかあさんがここに帰ってくるのに、

なんではなれないといけないの?

ごはんはガマンするから、ここでおかあさんを待ってようよ、

というと、おとうさんはくらい顔をしてうなずいてくれました。

その日からさらに何日かして、おとうさんのようすが

おかしくなってきました。

ごはんもそんなに多くなかったので、

おとうさんはわたしに食べさせてくれるばかりで

ほとんど水しかのみませんでした。

かお色がわるくなり、ひとりでなにかしゃべっていたり、

ものにあたることが多くなりました。

そして、おとうさんはこういいました。

「おとうさん、もうつかれたよ。おまえは、

ここで、おかあさんを待ってなさい・・・」

そういっておとうさんは、わたしとねこちゃんたちをおいて外に出ていきました。

おとうさんがかえらなくなってもうなんにちたったかわかりません。

ねこちゃんたちはなぜかいっぱいふえて、さびしくなくなりました。

おとうさんとおかあさんがかえってこないから

さびしいのに、な ぜか

とてもしあわせです

とつても やわらかい

ちいさいねこちゃんたちは

ぐ ぐると はしりまわっていて

おちつかな ですが、

とってもしあわせです

ここでまってたら

おとうさん

おかあさん

かえってくるかな

いつまでもまってるね

男はひとり、かつて賑わっていた繁華街を彷徨っていた。

廃墟だらけの中、ただひとり宛もなく。

そこで、携帯電話ショップだった廃墟だろうか、バッテリー駆動の

フォトフレームがまだ動いていて、さすがに廃墟だらけの中

異質だったのか、男は無気力に目を止めた。

フォトフレームに写っていたのは、知らない家族が次々と入れ替わっていた。

皆知らない顔だが、誰も彼も、幸せそうな笑顔で写っている。

今ではもう見る事の出来ない幸せそうな風景だ。

俺も本当はこうだったはず・・・

朧げに男の頭の中でそんな思考が現れ、突然、覚醒したかのようにあっと叫ぶ。

「なんてことを・・・、こんなとんでもない状況でも自分の事ばっかり考えて・・・!」

先程の無気力さとは打って変わり、男は猛ダッシュで後ろに振り返って走り出した。

最後に残された"幸せ"を取り戻しに・・・

しかし、男は家に辿り着いたものの、そこにはもう"さいごのしあわせ"はなくなっていた。

男は幼い少女の体を抱き起こして、本来なら一眼に憚る程であろう、大声を出して情けなく泣いていた。

娘であろうか、肌は熱を帯びておらず冷え切ってグッタリしている。

男はどれほどの日数、外を徘徊していたのか、妻には先立たれ、頼るべき協力者が死ぬまで誰もいない極限状況の中、守るべき者まで捨ててしまった。

男は絶望に泣いていた。

動かなくなった娘のかたわらに、画用紙が一枚、残されていた。

出だしは"いつまでもまってるね"と綴られていた。

おすすめの作品

私の彼氏が「人」じゃなくなるまで、あと3日 の小説カバー
8.4
運動を楽しんでいた最中、私は恋人から贈られた愛の証である玉のペンダントを不注意で壊してしまった。その瞬間、彼はこれまでに見たこともないほどの激しい怒りを見せ、我を忘れて豹変してしまう。その恐ろしい形相は、優しかった普段の彼とはまるで別人のようであった。結婚式をわずか三日後に控えたタイミングで起きた不可解な変貌に、私は強い不安を抱き、解決の糸口を求めて恋愛相談を専門とする配信者にオンラインで助けを求める。配信のチャット欄が「結婚すべき」という意見と「別れるべき」という意見で激しく割れ、混沌とした状況になる中、画面越しの配信者は険しい表情を浮かべて私にこう告げた。「今すぐそこから逃げなさい。あなたが持っているそれは、そもそも狐仙玉墜などという縁起物ではない。それどころか……」信じていた恋人の正体と、ペンダントに隠された恐ろしい真実が、幸せなはずの結婚式を目前にして暴かれようとしていた。私はこの絶望的な状況から逃げ延びることができるのだろうか。
禁忌の森、共食いの山 の小説カバー
8.4
平和な街を突如として襲ったのは、人々が互いの肉を切り裂き、貪り食うという正気とは思えない凄惨な光景だった。この異常事態の真相を解明するため、新聞社の調査チームは一冊の死者の日記を頼りに、伝説と恐怖が渦巻く長白山の深部へと足を踏み入れる。そこは、人間が決して立ち入ってはならない禁忌の地であった。日記に記されていたのは「彼らは、喰らうべきでないものを喰らい、見るべきでないものを見た。その報いを受けねばならない」という不吉な警告。一行が山の奥深くで目撃したのは、人知を超えた恐怖と、逃れられない因果の連鎖だった。なぜ人々は理性を失い、獣へと成り果てたのか。禁断の地で待ち受けるのは、血塗られた罪への断罪か、それともさらなる絶望か。極限の状況下で、彼らは隠された真実へと迫っていく。アドベンチャーとミステリーが交錯する、戦慄のホラー長編。山に潜む古き呪いと、食人に取り憑かれた者たちの末路が、読者を逃げ場のない恐怖へと引き摺り込む。
彼女の復讐、彼の破滅 の小説カバー
8.6
息子の死は薬物過剰摂取による自殺と断定された。だが鑑識官である私は、自ら検分した遺体が発する「殺人の証拠」を見逃さなかった。真実を求めて七度の再審を請求したが、検事正の榊宗一郎はそのすべてを棄却。二十年尽くした組織は、権力で殺人を隠蔽したのだ。司法に裏切られた私は、法を捨て復讐者となる道を選んだ。榊の娘・麗を拉致し、凄惨な拷問の様子を世界へ配信。かつての恩師や息子の恋人・亜希が説得に現れ、息子の鬱病や遺書を盾に私の正気を疑わせようとする。一時は自責の念に駆られたが、私は遺書に隠された秘密の暗号に気づく。それは幼い頃に愛読した絵本を用いた、息子からの必死の救助信号だった。彼が最後まで抗っていたことを知り、私の迷いは氷解する。神奈川県警の特殊部隊が包囲し、突入の瞬間が迫る中、私は偽りの遺書を拒絶した。息子の叫びを握りつぶした者たちへの怒りを胸に、私は再び麗の肌に鑑識道具を突き立てる。この残酷な儀式は、正義が死んだ世界への、母親としての最期の宣戦布告だった。
この腕の中に、彼はいない の小説カバー
8.9
友人から「村に放置された獣人を引き取ってほしい」という報せが届いた。最後の一頭となった豚を仕留める仕事を終えた私は、その足で指定された場所へと向かう。そこで待っていたのは、誰にも選ばれず売れ残っていた、一匹の小さな子ぶただった。その体は無惨な傷に覆われ、怯えきった瞳でこちらを凝視している。「お前も居場所がないのか。なら、私の家へ来ないか」――込み上げる切なさに突き動かされ、私はその震える体を優しく抱き上げると、自らの職場である屠畜場を目指して歩き始めた。しかし道中、胸元に奇妙な生ぬるい感触が広がる。違和感に視線を落とすと、いつの間にか自分の体の半分が水の中に沈んでいた。そこで私は、残酷な真実を思い出す。あの子ぶたは、すでに街の獣人たちの手によって無残に喰い殺されていたのだ。腕の中に温もりなど最初から存在しなかった。失われた命の幻影を抱きながら、私は冷たい水底へと引きずり込まれていく。静寂の中で、かつての悲劇が鮮明に蘇り、現実は音を立てて崩れ去っていった。
愛を殺した、彼の後悔 の小説カバー
8.4
体に時限爆弾を仕掛けられた私は、絶望の中で恋人の法医学者・久我修二に助けを求めた。しかし彼は、幼馴染の落とし物を探すことを優先し、私の必死の訴えを狂言だと切り捨てて電話を断つ。その数分後、私はお腹の子供と共に爆死した。皮肉にも、変わり果てた私の遺体を解剖したのは修二だった。彼は目の前の焼死体がかつての恋人であることに気づかず、私が大切にしていた彼からの贈り物を「身元不明者の安物」と蔑み、証拠品袋へ投げ入れる。両親の捜索願すら家出だと嘲笑う彼が真実を知ったのは、数日後のことだった。誘拐犯から「お前が解剖したのは自分の女と子供だ」と告げられ、修二は奈落の底へ突き落とされる。さらに一年後、事件の黒幕が、あの日優先した幼馴染だったことを突き止めた彼は、ある凄惨な復讐を決意する。二人の結婚式の打ち合わせの場で、修二は微笑みを浮かべながら彼女を椅子に拘束した。その胸元には、かつて私を奪ったものと同じ爆弾がセットされていた。
愛は獣、恨みは檻 の小説カバー
8.9
世界に名を馳せる猛獣使いの夫は、巨大な動物園を経営し、どんな荒ぶる野獣も手なずけてみせる男だった。しかしある日、最愛の息子が夫の目の前でライオンに襲われ、命を落としてしまう。変わり果てた息子の姿を前に慟哭する私をよそに、夫はその日のうちに動物園へ戻り、加害した獣を庇うように「これは不運な事故だ」と冷酷に言い放った。だが、私は監視カメラの映像に隠された真実を見てしまう。そこには、若い女性管理員を抱き寄せ、檻の不備を隠蔽しながら、息子の死を「運が悪かった」と片付ける夫の姿が映っていた。息子を死に追いやった元凶が愛する夫自身であったと知った瞬間、私の心には漆黒の復讐心が宿る。私は夫が何より大切にしていたライオンを国家動物園へ送り、自らのルーツである裏社会の108人の兄たちへ、亡き息子の遺影とともに宣戦布告の合図を送った。最愛の子供を奪った男に、血をもってその罪を償わせるために。静かな怒りとともに、私は夫を追い詰めるための檻を組み上げ始める。愛という名の獣を飼い慣らした男に、今度は絶望という名の罰を与える時を与える番だ。血の報復が幕を開ける。