フォローする
共有
望まれない番は秘密の白狼 の小説カバー

望まれない番は秘密の白狼

無力なオメガを装い十年間、葉月は強大な白狼の力を封印して生きてきた。全ては愛娘・美月を敵から守るため。だが、美月が掴み取った評議会インターンの席を巡り、一族のアルファの娘・麗奈による残酷な暴行が始まる。運命の番であるはずの夫・蓮に助けを求めるも、彼は冷酷にも葉月を他人と突き放し、愛人の亜矢子を番として遇する道を選んだ。蓮の命により銀の鞭で打ち据えられ、絶体絶命の危機に陥る葉月。しかし、彼らは大きな見落としをしていた。美月に託した護り石と、葉月が隠し持つ古の誓約の存在を。最後の一撃が振り下ろされた瞬間、封印されていた真の力が覚醒する。上空を軍用ヘリが包囲し、最高評議会の精鋭たちが次々と現場へ降下。かつてない衝撃が走る中、隊長は跪き、一族を震撼させるその名を叫んだ。「ルナ・葉月様、お迎えに上がりました」。裏切りに染まった偽りの平穏は終わりを告げ、封印を解いた白狼による苛烈な反撃が幕を開ける。正体を知り愕然とする蓮たちを余所に、葉月は娘を救うため、真の支配者としての威厳を現していく。
共有

2

葉月 POV:

麗奈の目は、痛みと信じられないという気持ちが入り混じり、まるで初めて私を見るかのように、私に釘付けになった。

「龍岡櫂ですって?」

彼女は、止めようとしている血でくぐもった声で金切り声を上げた。

「暁の一族の筆頭治癒師じゃない!あんたなんかが知ってるはずない!」

彼女は美月の首にかかった護り石に飛びかかり、それを引きちぎろうとした。私は素早く動き、彼女の手を掴んで阻止した。彼女は甲高い声を上げ、打撲した手首を抱えて後ずさった。

「あんたみたいな哀れなオメガが、あの人の名前を口にする権利さえないのよ」

彼女は怒りに顔を歪め、唾を吐きかけるように言った。

「お母様がもうすぐ来るわ。あんたはアルファに跪いて、私にしたことの慈悲を乞うことになるんだから」

私は彼女を無視した。私の視線は床に、美月の足元に散らばった、破れた紙片に注がれていた。

評議会の公式な合格通知書。彼女の通行証。

記憶の波が押し寄せる。夜明けまで勉強し、疲労で青白い顔をしていた美月。鏡の前でプレゼンテーションの練習をし、震えながらも毅然とした声をしていた美月。彼女はインターンシップのためだけでなく、誰もが――そして彼女自身が――弱いとされているオメガの娘でも、それ以上になれることを証明するために、懸命に努力してきたのだ。

麗奈は私の視線を追った。残酷な笑みが彼女の唇に浮かぶ。彼女は歩み寄り、破れた通行証をかかとで床に踏みつけ、わざと公式の印章を泥で汚した。紙に残っていた娘のかすかで希望に満ちた香りが、完全に消し去られた。

時間通りに出頭する彼女の唯一のチャンスが、失われた。

「わかる?」

麗奈は嘲笑した。

「ゴミは床にあるのがお似合いよ」

麗奈の取り巻きの一人である、がっしりした体格の男の父親が、介入することに決めたようだ。彼は明らかに未来のルナに恩を売りたいのだろう。彼は私の腕を掴み、力を込めて、ベータの力で私を膝まずかせようとした。

「膝をつけ、オメガ」

彼は唸った。

「アルファの未来のルナを待たせる前に」

私は抵抗しなかった。ただ首を回し、彼の目を見つめた。私の目は冷たく、十年もの間偽ってきた温かさは微塵もなかった。

「牧村さん」

私は、騒音を切り裂くような静かな囁き声で言った。

「石川の一族の。あなたのアルファの名前はグレゴリー、でしたわね?あなたの縄張りは氾濫原にある。堤防は、葉月コーポレーションからの年間助成金で維持されている。私の署名で更新される助成金よ。取り消されたとお考えなさい」

男の顔が青ざめた。彼は火傷でもしたかのように、さっと手を引いた。彼の一族の名前、彼のアルファの名前――それはオメガが知るはずのない情報だった。彼は私を見つめ、その目に恐怖が浮かび始めた。

ちょうどその時、評議会室の扉が再び勢いよく開いた。

けばけばしい宝石と、きつすぎるドレスをまとった女が入ってきた。彼女の香水、安っぽくてむせ返るような花の香りが、私の感覚を襲った。

「一体何事ですの?」

彼女は要求するように言い、泣き叫ぶ娘に目をやった。

「麗奈、ベイビー!誰がこんなことをしたの?未来のアルファの娘をいじめるなんて、どこのどいつよ!」

この女が、亜矢子。

「彼女よ、ママ!」

麗奈は震える血まみれの指で、私を指さした。

亜矢子の視線が私に突き刺さり、その目は私のシンプルで実用的な服装を軽蔑するように見下した。

私は一言も発しなかった。ただ前に進み出て、今度はもう片方の頬を、麗奈に平手打ちした。その音は乾いていて、決定的だった。

「よくも!」

亜矢子は金切り声を上げた。

「ええ、よくも」

私は、彼女が今まで聞いたことのない権威に満ちた声で言った。私はいつも身につけている、服の下に隠していたチェーンをシャツの襟から引き出した。そこには、精巧に彫られた小さな銀の円盤がぶら下がっていた。

私はそれを掲げた。三日月を前に吠える狼、銀月の一族の古の紋章が、薄暗い光の中で輝いているように見えた。

「私は銀月の一族の最後の継承者、葉月」

私は力強く宣言した。

「私の番は黒森の一族のアルファ、蓮。そしてあなたたちは、私の娘を傷つけた」

一瞬、呆然とした沈黙が流れた。

それから亜矢子と麗奈は、爆笑した。

「銀月?あの一族は何十年も前に滅びたわ!」

亜矢子は嘲笑した。

「安物のガラクタで私を騙せると思ってるの?娘の治療費を払ってもらうわ。一億円よ!」

「結構よ」

私は冷静に言った。

「そしてあなたは、私の娘のドレス代を払うことになる。パリのデザイナーによるカスタムメイドで、守護のルーンが織り込まれているの。あなたの車より高いわ。それから、彼女の精神的苦痛の問題もある」

亜矢子の顔が怒りで紫色になった。

「嘘つき女!本当の力を持つのが誰か、見せてあげるわ!」

彼女はデザイナーもののハンドバッグをごそごそと探り、テーブルの上にカードを投げつけた。それは滑らかで、重厚で高価な、黒金のカードだった。その表面には、黒森の一族のトーテムである、唸る狼の頭が刻まれていた。

息が詰まった。心臓が氷のような拳で握りつぶされたような気がした。

そのカードに見覚えがあった。

それは「アルファの番」のカードで、一族内で最高レベルのアクセスと特権を与えるもの。先月、私の功績に対して最高評議会から授与されたカード。私が夫である蓮に、保管のために渡したカード。

そしてその上には、一族のトーテムのすぐ下に、亜矢子の安物の香水のむせ返るような香りが、蓮の馴染みのある松と土の香りと混じり合って、かすかに漂っていた。

パズルの最後のピースがはまった。私の結婚という棺に、最後の釘が打ち込まれた。

彼はただ浮気しただけではなかった。彼は私の地位、私の名誉、彼のルナとしての私の存在そのものを、この女に与えてしまったのだ。

おすすめの作品

偽装死から始まる復讐劇 の小説カバー
8.0
誰もが憧れるような理想の家庭を築き、カリスマ建築家の夫と愛する息子に尽くすことこそが私の幸福だった。しかし、その日常は残酷な裏切りによって崩壊する。夫は不倫に溺れ、あろうことか最愛の息子までもがその愛人を新しい母親として受け入れ、私を裏切っていたのだ。結婚記念日の夜、夫が用意した見せかけのサプライズの場で不倫相手が姿を現し、公衆の面前で私との関係を嘲笑いながら暴露した。家族という絆も、信じていた愛もすべてが偽りだったと悟った時、私の心には猛烈な憎悪の火が灯る。私はすべてを捨てて復讐に生きることを決意し、失踪屋の手を借りて自らの死を偽装した。翌朝、世間には「長谷部直世、海難事故で死亡」という偽のニュースが流れる。死人となった私は姿を変え、私から居場所と尊厳を奪い去った者たちを地獄へ突き落とすための冷徹な計画を開始する。これは、絶望の淵から這い上がった女による、壮絶な復讐劇の幕開けに過ぎない。
ゴミ夫に捨てられた3秒後、世界最強のシスコン・ロイヤルファミリーに拾われました。 の小説カバー
9.4
結婚から3年、安藤咲良を待っていたのは愛のない孤独な日々だった。夫の伊藤景丞からは家柄を蔑まれ、義母からは心ない言葉を浴びせられる。さらに愛人の妊娠を機に離婚を突きつけられた彼女は、未練を断ち切り家を出る決意をした。しかし、離婚した瞬間に彼女の運命は激変する。実は彼女、世界最強の王室の血を引く令嬢だったのだ。再会した国王夫妻からは王位継承権を託され、規格外な兄たちからも過保護なほどの寵愛を受ける。武器商人の長男は莫大な富を、天才外科医の次男は復讐の技術を、そしてアクションスターの三男は圧倒的な武力で彼女を守り抜く。立場が逆転し、咲良の真の価値を知った元夫が必死に復縁を迫るが、時すでに遅し。女王として君臨する彼女の傍らには、王室が認めた完璧な騎士が控えていた。冷遇された過去を捨て、最強の家族と共に最高の人生を切り拓く、華麗なる逆転劇が幕を開ける。
離婚後、偽令嬢の正体がヤバすぎた。 の小説カバー
9.2
松本星嵐が「偽の令嬢」だと露呈した瞬間、夫や両親、兄までもが彼女を冷酷に切り捨てた。婚家を追われた彼女が次に選んだのは、名門の重鎮・坂本凛斗という新たな盾だった。周囲が破滅を予見し嘲笑うなか、星嵐は隠し持っていた真の姿を次々と解放していく。その圧倒的な実力は並み居る権力者たちを戦慄させ、跪かせるほどであった。復縁を狙う愚かな元夫を地獄の底へ突き落とす一方で、彼女は凛斗に対し「私のヒモになりなさい」と微笑む。しかし、彼もまた底知れぬ正体を隠し持つ男だった。凛斗は静かな笑みを浮かべ、妻を支配せんとする本性を現す。実はこの二人、世界を揺るがす国際組織にとって最大の脅威となっていたのだ。星嵐の離婚と凛斗の結婚、そして最強の夫婦が裏社会で手を組み、縦横無尽に暴れ回ること――。無数の裏の顔を使い分け、実力を隠して暗躍する二人の規格外な物語が幕を開ける。正体を隠した最強夫婦による、痛快な逆転劇と愛の駆け引きが今、世界を震撼させる。
偽りの英雄と置き去りの花 の小説カバー
8.1
盛大な祝賀会の夜、かつての夫は私の手を握り「君こそが僕の命だ」と甘く囁いた。すでに離婚した他人同士であるにもかかわらず、彼は大勢の列席者の前で、あの命懸けの救出劇に悔いはないと宣言する。「愛する妻が巻き込まれていたのだから」と。しかし、戦場という極限状態のなかで彼が救おうとしたのは、私ではなく自身の愛人だった。皮肉な真実を隠し、輝かしい未来を確信して胸を張る彼。だが、その瞬間に授与された軍功勲章に刻まれていたのは、彼の名ではなく私の名前だった。壇上から呆然と立ち尽くす元夫を見下ろし、私は無数のフラッシュを浴びながら冷徹に告げる。人質交換という死線において、妻を捨てて愛人の安否だけを優先した平和維持軍人。その身勝手な振る舞いは、神聖な軍職に対するこの上ない冒涜であると。愛に裏切られ、戦場に置き去りにされた女が、偽りの英雄の仮面を剥ぎ取る。私を捨てた代償は、彼が渇望した名誉と地位の完全なる崩壊だった。
Fire Phoenix (Japanese) の小説カバー
8.3
「Fire Phoenix」は、過酷な運命に抗いながら自らの道を切り拓く者たちの姿を鮮烈に描いたファンタジー・アクション作品です。物語の舞台となるのは、古より伝わる神秘的な力と、絶え間ない戦火が交錯する激動の世界。主人公は、伝説の霊鳥である不死鳥の如き不屈の精神を胸に、強大な敵勢力や避けられぬ宿命に立ち向かっていきます。手に汗握る手に汗握る戦闘シーンでは、緻密な戦術と圧倒的な力がぶつかり合い、読者を物語の深淵へと引き込みます。仲間との絆、裏切り、そして自己の限界を超えた成長。重厚な世界観の中で繰り広げられる人間ドラマは、単なる勧善懲悪に留まらない深みを持っています。失われた真実を追い求める旅の果てに、主人公が手にするのは希望か、それとも絶望か。緻密な構成とスピード感あふれる筆致で綴られる本作は、王道ファンタジーの醍醐味を凝縮した一冊となっています。燃え盛る炎のように熱い情熱が、静かに、しかし確実に読者の心を揺さぶることでしょう。壮大なスケールで贈る、魂を震わせる冒険譚が今、ここに幕を開けます。
死罪判決は嫌なので逃亡しながらダンジョン攻略します の小説カバー
8.0
落雷事故で命を落とした加藤佑真は、異世界へと転移を果たす。誰もが憧れるチート能力を駆使したハーレム生活を夢見ていたユウマだったが、現実は無情だった。身に覚えのない痴漢の冤罪から、挙句の果てには国家反逆罪という身に覚えのない大罪まで着せられてしまう。気づけばギロチン台に拘束され、死罪を待つ絶体絶命の窮地に立たされていた。そんな彼を救い出したのは、パーティー仲間の少女アリスだった。彼女の助けで九死に一生を得たユウマは、不条理な裁きを下そうとする国を捨て、敵対する隣国へと逃亡することを決意する。指名手配犯として追われる身となりながらも、再び冒険者として生きる道を選んだユウマ。行く先々では、ゴブリンからの求愛や強力な守護者との死闘、さらには身体の一部を損なうような凄惨な試練が彼を待ち受けていた。特別な能力も持たず、ステータスも平凡な一般人に過ぎないユウマは、逃亡者の証を刻まれながらも、過酷な運命に抗い真の自由を掴み取ることができるのか。波乱に満ちた逃亡劇とダンジョン攻略の旅がいま幕を開ける。