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彼を捨てて掴んだ、甘い未来 の小説カバー

彼を捨てて掴んだ、甘い未来

婚約者である真弘の夢を支えるため、パティシエとして七年もの歳月を彼のカフェに捧げてきた主人公。彼の成功こそが自分の幸せだと信じて疑わなかったが、その献身は最悪の形で裏切られることになる。真弘が心から愛していたのは、後輩アルバイトの亜弥だったのだ。さらに彼は、主人公にとって命よりも大切な祖母のレシピノートを無断で亜弥に与え、あろうことかメディアには彼女の功績として大々的に紹介させてしまう。長年積み上げてきた信頼も、パティシエとしての誇りも、すべてを無残に踏みにじられた瞬間、彼女の心の中で何かが静かに終わりを告げた。愛の不在を悟り、尽くしてきた日々の虚しさを痛感した彼女は、迷うことなく決断を下す。テーブルの上にそっと結婚指輪を置き、驚くほど冷めた声で別れを告げた。それは、自分を偽り続けた過去を捨て、本当の意味で自分自身の人生を取り戻すための第一歩だった。裏切りに満ちた関係に終止符を打ち、彼女は新たな未来へと歩み出す。
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新垣由紀子 POV:

私はカフェのドアを閉め, 真弘の叫び声を背後に残した. 冷たい夜風が私の頬を撫で, ようやく現実に戻ったような感覚に襲われた. 私の心臓はまだ高鳴っていたが, それは恐怖ではなく, 解放感からくるものだった.

その夜, 私は慎和さんと会うために, カフェから数ブロック離れた静かなバーに向かった. 慎和さんはすでに席に座っており, 私が到着すると, 優しく微笑んで迎えてくれた.

「由紀子さん, 大丈夫ですか? 」彼の声は, 真弘の怒鳴り声とは対照的に, 穏やかで心地よかった.

「はい, ありがとうございます」私は慎和さんの向かいに座った. 「色々と, 話がついてきました」

慎和さんは, 私が真弘と決別したことを察したようだった. 彼は何も言わず, ただ静かに私の話に耳を傾けてくれた. 彼の存在が, 私の心をゆっくりと癒していくようだった.

私たちは, 新しい店について話し始めた. 慎和さんは, すでにいくつか物件の候補をリストアップしてくれていた. 彼のプロフェッショナルな姿勢と, 私の夢に対する真摯なサポートに, 私は深く感謝した.

「由紀子さんなら, きっと素晴らしいお店を作れます」慎和さんは言った. 「私も, 全力でお手伝いします」

彼の言葉は, 私の心を温かく包み込んだ. 真弘に「お前一人じゃ何もできない」と言われたばかりだったから, 慎和さんの言葉は, 私にとって何よりも心強いものだった.

その日から, 私は新しい人生を歩み始めた. 真弘のカフェを辞め, 自分の夢に向かって突き進む決意をした. 毎日, 慎和さんと物件を見て回り, 内装のイメージを膨らませた. 疲労感はあったが, それは充実感に満ちたものだった.

ある日, 私は新しい店のコンセプトを考えるために, 過去のレシピノートを開いていた. 祖母の温かい文字と, そこに記された数々のレシピ. それは私にとって, 単なる料理の記録ではなく, 家族の愛情と歴史が詰まった宝物だった.

「由紀子さん, お疲れ様です」

突然, 背後から声が聞こえた. 振り返ると, そこには亜弥が立っていた. 彼女は, 以前私が勤めていたカフェの制服を着ていた. なぜここに?

「亜弥さん, なぜここに? 」私は驚いて尋ねた.

「あら, 由紀子さん. 私がここにいるのが, 気に入らない? 」亜弥は, ニヤリと笑った. 「真弘さん, 由紀子さんがいなくなってから, 私にもっと頼ってくれるようになったのよ. だから, 私も彼のために頑張らないと」

私の心臓が, ドクンと跳ねた. 彼女の言葉は, 私の心を抉るようだった.

「それはよかったですね」私は努めて冷静に答えた.

「そうね, 本当に良かったわ」亜弥は, 私のレシピノートに目を向けた. 「それにしても, 由紀子さんがいなくなって, 真弘さんの店は大変みたいよ. 特に, 由紀子さんの作ってたケーキがないから, お客さんが減ったって」

彼女の言葉は, 私を挑発しているのが明らかだった. 私は以前の私なら, きっと感情的になっていただろう. しかし, 今の私は違った.

「そう. それは残念ね」私は静かに答えた. 「でも, もう私には関係のないことよ」

亜弥は, 私の反応に拍子抜けしたようだった. 彼女は, 私の冷静さに苛立ちを覚えているようだった.

「由紀子さん, 強がってるだけじゃないの? 」亜弥は言った. 「真弘さんのこと, まだ未練があるんじゃない? 」

その言葉が, 私の逆鱗に触れた.

「未練なんて, ありません」私はきっぱりと言った. 私の声には, 私の意志が込められていた.

亜弥は, 私の言葉に一瞬怯んだようだった. しかし, すぐに持ち前の強気な態度に戻った.

「そうね, 未練なんてあるはずないわよね」亜弥は嘲笑った. 「だって, 真弘さんはもう私のものだもの」

私は, 亜弥の言葉に何も言えなかった. 私の心は, 冷たい氷で覆われたようだった.

「由紀子さん, 真弘さんから聞いたんだけど, 由紀子さん, 随分と前から真弘さんに独立して自分の店を持ちたいって言ってたんだって? 」亜弥は言った. 「でも, 真弘さんはそれをずっと先延ばしにしてたんでしょ? 私がいるから, 由紀子さんがいなくても困らないって, 言ってたわ」

亜弥の言葉は, 私の過去の痛みを呼び起こした. 私がどれだけ真弘に自分の夢を語り, 彼に独立を応援してくれることを願っていたか. しかし, 彼はいつも「今はまだ早い」とか「もう少し俺の店を大きくしてから」と言って, 私の夢を後回しにしてきた.

「そうね, 彼はそう言っていたわ」私は静かに答えた. 「でも, もうそんなことはどうでもいいことよ」

亜弥は, 私の反応に満足したようだった. 彼女は, 勝ち誇ったような笑顔を浮かべていた.

「由紀子さん, あなたのことなんて, 真弘さんはもう眼中にないのよ. 私がいれば, それで十分なの」亜弥は, 私に背を向けた. 「じゃあ, 私は真弘さんのところに戻るわ. 由紀子さんみたいに, 邪魔をするような真似はしないから」

亜弥は, そう言って去っていった. 私は, 彼女の背中を見送りながら, 心の中でつぶやいた.

(邪魔をするような真似, か…)

彼女は, 私がどれだけ真弘の夢を支え, どれだけ犠牲にしてきたかを知らない.

真弘との関係は, 亜弥が私たちの生活に入り込んできてから, 大きく変わってしまった. 私が真弘に独立したいと打ち明けたプロポーズの日, 彼は「結婚したら, 俺の店と由紀子の店, 二つを成功させよう」と甘い言葉を囁いた. しかし, その約束は, 一度も果たされることはなかった.

むしろ, 亜弥が店に入ってきてから, 彼は私との時間を削り, 亜弥を優先するようになった. 私が企画した新商品のアイデアも, いつも亜弥が横取りし, それが真弘の店で売られるようになった.

ある日, 真弘と私は, 二人で旅行に出かける予定だった. それは, 私がずっと楽しみにしていた, 私たちの七周年記念の旅行だった. 真弘は, 珍しく「由紀子との時間を大切にしたい」と言ってくれた.

しかし, その出発の直前, 亜弥から真弘に電話がかかってきた. 彼女は「体調が悪いから, 一人で店番ができない」と訴えた. 真弘は, 一瞬の躊躇もなく, 旅行のキャンセルを告げた.

「由紀子, すまない. 亜弥が困っているんだ」彼の声は, まるでそれが当然であるかのように響いた.

私は, 何も言えなかった. 私の心は, その時すでに凍りついていた.

「大丈夫よ, 真弘さん. 亜弥さんのことを優先してあげて」私は微笑んだ. その笑顔は, 私自身の心に深い傷を負わせた.

その夜, 私は一人で部屋にいた. 真弘は, 亜弥の看病のために, 店に泊まり込んだ. 私の心は, 深い絶望の淵に沈んでいた.

「もう, 無理だ」私は心の中でつぶやいた.

私は, 真弘への愛情を, その日の夜に完全に手放した. もはや, 彼を愛する気持ちは残っていなかった. 残っていたのは, 深い失望と, 私自身への怒りだけだった.

「由紀子さん? 」

慎和さんの声で, 私は過去の回想から引き戻された. 彼は, 私が深く考え込んでいることに気づいたようだった.

「大丈夫ですか? 」彼は心配そうに私を見つめた.

「はい」私は微笑んだ. 「大丈夫です. 少し, 昔のことを思い出していました」

私は, 慎和さんに亜弥が来たこと, そして彼女が言ったことを話した. 慎和さんは, 静かに私の話を聞き, 頷いた.

「由紀子さん, あのカフェのことはもう忘れてください」慎和さんは言った. 「由紀子さんには, もっと素晴らしい未来が待っています」

彼の言葉は, 私の心を温かく包み込んだ. 私は, 彼の優しさに感謝した.

「ありがとうございます, 慎和さん」私は言った. 「私, もう迷いません. 自分の夢に向かって, 全力で進みます」

慎和さんは, 私の言葉に満足そうに微笑んだ.

その時, 私の携帯電話が鳴った. 画面には「真弘」の文字.

私は, 一瞬ためらった. しかし, 私はもう, 彼に振り回される自分ではなかった. 私は電話を無視した.

慎和さんは, 私の行動を静かに見守っていた.

「由紀子さん, 何かあったら, いつでも私を頼ってください」慎和さんは言った. 「私は, 由紀子さんの味方です」

彼の言葉は, 私の心を強くした. 私は, もう一人ではなかった.

しかし, 真弘は諦めていなかった. 彼は, 何度も私に電話をかけてきた. 私は, 全ての電話を無視し続けた.

そして, 数日後.

私が新しい物件を見ていると, 突然, 真弘が私の前に現れた. 彼は, 私の携帯電話に電話をかけ続けているようだった.

「由紀子, なぜ電話に出ない! 」彼の声は, 苛立ちと焦燥に満ちていた.

私は, 彼を無視し, 物件の担当者と話し続けた.

「由紀子, 俺の話を聞け! 」真弘は私の腕を掴んだ. 「俺は, お前がいないとダメなんだ! 」

私は, 彼の言葉に背筋が凍りついた. 彼の言葉は, 私への愛情ではなく, 私への依存を表していた.

「もう, 私を放っておいてください」私は冷たく言った. 「あなたには, 亜弥さんがいるでしょう? 」

真弘は, 私の言葉に一瞬ひるんだ. しかし, すぐに彼は反論した.

「亜弥は, お前とは違う! 」彼は言った. 「亜弥は, 俺の言うことを聞く. だが, お前は…」

私は, 彼の言葉を聞いて, 心の中で嘲笑った. 彼は, 私を愛していたのではなく, 私をコントロールしたかっただけなのだ.

「私は, あなたの所有物ではありません」私はきっぱりと言った. 「そして, もうあなたの元には戻りません」

真弘は, 私の言葉に絶望したようだった. 彼の顔からは, 血の気が引いていた.

「由紀子, 俺を許してくれ! 」彼は言った. 「俺が悪かった. だから, もう一度…」

その時, 慎和さんが私の隣に現れた. 彼は, 真弘の行動を見て, 冷静に言った.

「藤代さん, 彼女を困らせるのはやめてください」慎和さんの声は, 静かだが, 強い意志が込められていた.

真弘は, 慎和さんを見て, 一瞬怯んだようだった.

「お前は, なんだ? 」真弘は, 慎和さんを睨みつけた.

「私は, 新垣さんのビジネスパートナーです」慎和さんは言った. 「そして, 彼女の夢を応援する人間です」

真弘は, 慎和さんの言葉に, 怒りを露わにした.

「由紀子, まさかこいつと…」彼の目に, 嫉妬の炎が燃え上がった.

私は, 真弘の言葉に何も言わなかった. 私はただ, 慎和さんの隣に立った.

真弘は, 私の行動を見て, 絶望の表情を浮かべた. 彼は, 私を失ったことを, その時ようやく理解したようだった.

「由紀子…」彼の声は, もはや私を呼び止める力を持っていなかった.

私は, 真弘に背を向け, 慎和さんと共にその場を去った. 私の心は, もう彼に囚われることはなかった.

その夜, 慎和さんと私は新しい店の契約を結んだ. 私の夢が, ついに現実になる.

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