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彼を捨てて掴んだ、甘い未来 の小説カバー

彼を捨てて掴んだ、甘い未来

婚約者である真弘の夢を支えるため、パティシエとして七年もの歳月を彼のカフェに捧げてきた主人公。彼の成功こそが自分の幸せだと信じて疑わなかったが、その献身は最悪の形で裏切られることになる。真弘が心から愛していたのは、後輩アルバイトの亜弥だったのだ。さらに彼は、主人公にとって命よりも大切な祖母のレシピノートを無断で亜弥に与え、あろうことかメディアには彼女の功績として大々的に紹介させてしまう。長年積み上げてきた信頼も、パティシエとしての誇りも、すべてを無残に踏みにじられた瞬間、彼女の心の中で何かが静かに終わりを告げた。愛の不在を悟り、尽くしてきた日々の虚しさを痛感した彼女は、迷うことなく決断を下す。テーブルの上にそっと結婚指輪を置き、驚くほど冷めた声で別れを告げた。それは、自分を偽り続けた過去を捨て、本当の意味で自分自身の人生を取り戻すための第一歩だった。裏切りに満ちた関係に終止符を打ち、彼女は新たな未来へと歩み出す。
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新垣由紀子 POV:

新しい店舗の契約を終えた後も, 私は気を抜くことなく, 開店準備に没頭した. 毎日, 朝から晩まで, 内装のデザイン, 厨房設備の選定, メニュー開発, そして何よりも大切な, 祖母のレシピノートの再構築に時間を費やした.

私は, 真弘の店で使われていたレシピノートを, 私の新しい店のために, より洗練されたものにする必要があった. それは, 祖母の想いを引き継ぎつつも, 私自身の感性を加える作業だった.

「由紀子さん, またこんな時間までですか? 」

閉店後のカフェで, 私が試作を続けていると, 同僚の佐藤さんが声をかけてくれた. 佐藤さんは, 真弘のカフェで共に働いてきた仲間で, 私が独立すると聞いて, すぐに「由紀子さんの夢を応援したい」と言って, 私の店に来てくれた数少ない友人だ.

「ええ, もう少しで完成しそうなんです」私は微笑んだ.

佐藤さんは, 温かいコーヒーを私に差し出してくれた.

「無理しすぎないでくださいね. 由紀子さんが倒れたら, 元も子もないですから」

彼の優しさが, 私の心にじわりと染み渡った.

「ありがとう, 佐藤さん」私はコーヒーを受け取った.

「そういえば, 由紀子さん, 知ってます? 」佐藤さんは言った. 「藤代さんのカフェ, 最近ちょっと大変みたいですよ」

私の心臓が, ドクンと跳ねた. 佐藤さんは, 真弘のカフェの現状を知っているようだった. 私は, 彼の言葉に耳を傾けた.

「なんでも, 最近, 看板商品のケーキの味が落ちたって, お客さんからの苦情が増えてるみたいで」佐藤さんは言った. 「それに, 黒木さんも, なんだか元気がなくて…」

私の心臓は, さらに強く脈打った. 看板商品のケーキ. それは, 私が祖母のレシピノートを使って開発したものだ. 私が去った後, 亜弥がそれを再現しようとしているのだろうか.

私は, 佐藤さんの言葉を聞いて, 心の中でつぶやいた.

(自業自得よ)

私は, 佐藤さんの言葉に何も言わず, コーヒーを口にした.

その日の夜, 私は自宅で休憩していた. SNSを開くと, 目に飛び込んできたのは, 真弘と亜弥のツーショット写真だった.

場所は, 私が真弘と初めてデートした, 思い出のレストラン. 真弘は, 亜弥の肩を抱き, 以前私に見せていたのと同じ, 甘い笑顔を浮かべていた.

亜弥の投稿には, 「真弘さんと素敵なディナー. これからも二人で頑張ります! 」というメッセージが添えられていた.

私の心臓が, ズキリと痛んだ. それは, もう彼への愛情からくる痛みではなかった. それは, 過去の私が味わった, 裏切りの痛みだった.

その写真を見た瞬間, 私の体に冷たい電流が走った. 胃の奥からこみ上げてくる吐き気に, 私は思わず口元を覆った.

その日は, 偶然にも, 私が真弘にプロポーズされた日と同じ日付だった. 彼が私に永遠を誓い, 一緒に夢を追いかけると約束した日. その同じ日に, 彼は別の女性と, 私との思い出の場所で, 親密な時間を過ごしていたのだ.

私は, スマホを床に投げつけた. スマホは, 無残な音を立てて砕け散った.

私の目から, 涙が溢れ出した. それは, もう彼への未練からくる涙ではなかった. それは, 私自身の愚かさに対する, 悔し涙だった.

私は部屋を見回した. 真弘との思い出の品は, ほとんど残っていなかった. しかし, 一つだけ, 彼の写真立てが残されていた.

私は, その写真立てを手に取った. 真弘と私が, 満面の笑みで写っている. 私たちの未来が, 明るく輝いていると信じていた頃の写真だ.

私は, その写真立てを握りしめ, そのままゴミ箱に投げ入れた. ガシャン, と音を立てて, ガラスが割れる音が響いた.

その音は, 私の心の中で, 過去との完全に決別を告げる, 終止符の音だった.

私は, 大きく息を吐いた. 私の心は, 驚くほど穏やかになっていた. 私は, もう彼に囚われることはなかった.

その夜, 私はぐっすりと眠った. 翌朝, 私は出かける準備をしていた. 新しい店の開店準備は, 着々と進んでいた.

その時, 私の携帯電話が鳴った. 画面には, 実家の母の名前が表示されていた.

「もしもし, お母さん? 」私は少し緊張しながら電話に出た.

「由紀子! どういうことなの! 」母の声は, 怒りに満ちていた. 「真弘くんと別れたって, 本当なの? ! 」

私は, 母の言葉に驚いた. なぜ母がこのことを知っているのか.

「ええ, 本当よ」私は冷静に答えた.

「何を勝手なことを言ってるの! 」母の声は, さらにヒートアップした. 「真弘くんは, あんなにいい人なのに! 由紀子のことを, ずっと前から支えてくれていたでしょう? ! 」

母の言葉は, 私の心を抉った. 彼女は, 真弘の表向きの顔しか知らない. 私がどれだけ彼に傷つけられてきたか, 彼女は知らないのだ.

「お母さん, もう終わったことなの」私は言った. 「私には, 私自身の人生があるから」

「ふざけないで! 」母は叫んだ. 「由紀子, あなた, もういい歳なのよ! 真弘くんみたいな, 安定した相手は, もう二度と現れないわよ! 」

母の言葉は, 私をまるで価値のないもののように扱った. 私は, 彼女の言葉に深い絶望を感じた.

「お母さん, もういい加減にして」私は言った. 「私の人生は, 私が決めることよ」

「由紀子! 」母は, まだ何かを言おうとしていた.

私は, 静かに電話を切った. 私の手は, 微かに震えていた.

私は, 携帯電話を握りしめ, ベランダに出た. 夜風が, 私の頬を冷たく撫でた.

(私は, どこへ向かっているのだろう? )

私の心は, 不安と孤独感に包まれていた. 真弘との別れ, そして母からの非難. 私は, まるで一人で荒野をさまよっているかのようだった.

その時, 私の携帯電話が再び鳴った. 今度は, 慎和さんからだった.

私は, 一瞬ためらった. しかし, 私は電話に出た. 慎和さんの声は, 私の心に安堵をもたらした.

「もしもし, 慎和さん? 」

「由紀子さん, 今, お時間よろしいでしょうか? 」慎和さんの声は, 少しだけ急いでいるようだった. 「新しい物件の件で, 少しお話したいことがあります」

私の心臓が, ドクンと跳ねた. 新しい物件. それは, 私の夢への一歩だ.

「はい, 大丈夫です」私は答えた. 「今から, どちらへ向かえばいいですか? 」

「実は, 由紀子さんの夢にぴったりの物件が見つかりました」慎和さんの声は, 興奮に満ちていた. 「場所は, 由紀子さんがずっと憧れていた, あの商店街の一角です」

私の心臓が, さらに強く脈打った. 私がずっと憧れていた商店街. そこは, 私がパティシエを目指すきっかけとなった, 祖母のケーキ屋があった場所だ.

「本当ですか! ? 」私は思わず叫んだ.

「はい」慎和さんは言った. 「しかも, オーナーさんも, 由紀子さんにぜひ, と言ってくださっています」

私の目から, 熱いものがこみ上げてきた. それは, 喜びの涙だった.

「慎和さん, ありがとうございます! 」私は言った. 「私, 頑張ります! 絶対に, 素晴らしいお店を作ってみせます! 」

「はい, 由紀子さんならできます」慎和さんは言った. 「由紀子さんの才能を, 世界中の人に知ってもらいましょう」

私は, 慎和さんの言葉に, 思わず笑みがこぼれた. 私の心は, 希望に満ち溢れていた.

電話を切った後, 私は空を見上げた. 満月が, 優しく私を見守っているようだった.

(私は, もう一人じゃない)

私の心は, そうつぶやいた. 私は, 自分の才能を信じ, 私の夢を応援してくれる人たちがいる. 私は, もう誰かに依存することはない. 私は, 私自身の力で, 私の人生を切り開いていく.

私は, もう振り返ることはない.

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