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虚空の寄る辺 の小説カバー

虚空の寄る辺

「助けたら助けてもらえる世界」を理想に掲げる少年、直弼レンジは、異能の力《響法》を操る術師。生活に困窮した彼は、相棒の秋月マイカと共に、協会を通さない禁断の「闇営業」に手を染める。依頼主は地方の結社《吾妻桜花》。任務は、霊的所有権が散逸した土地の現所有者を特定し、権利を譲渡させる地上げの工作だった。しかし、現地調査を開始した二人は、その土地と学校が何者かの強力な呪いに蝕まれている事実に直面する。依頼主の影もちらつく中、保証のない闇営業ゆえに陰謀に巻き込まれる危険が高まっていく。逃げ出す選択肢もあったが、そこにはレンジが友人となった少女・原田アオイの姿があった。堕胎の苦悩を抱え、現状を変えようともがくアオイ。そして不思議な力を持つレオ、彼を受け入れたいアキ、意志を持たぬ自分を厭うリサ、権力に固執するサオリといった、複雑な事情を抱える生徒たち。人ならざるもの《タマユラ》が見えるレンジとマイカは、呪いの渦中にいるアオイを見捨てて去るのか、それとも危険な企てに立ち向かうのか。二人の「ズレた」響法師が、閉塞した学校に潜む闇を暴く。
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3

「職員室にそれっぽいのがいた。担任と話してた。」

「この時期に転校生とか珍しくない?この前入学式やったばっかだよ?」

「他県から?」

「じゃないかなあ?」

と、ガラガラと、また教室の扉が開いた。沈黙。一斉にそちら側を見た誰しもが。知らない女の子が扉に立っていた。話題の転校生だ。だが制服も着ていない。私服だ。しかも紺色のワンピース。手には白犬のぬいぐるみを抱いているヤバイ感じ。顔立ちはいい。一見お人形のように可愛らしく見える顔は見れば見るほど鼻の高さや眉のバランス、その他諸々に精妙な均整を発見出来て、お人形を見ていたはずがアンティークのティーカップを見出したような気持ちになる。清楚な長い金髪をツインテールにした髪型。持っている白犬のぬいぐるみのせいで、独特なワールドを持っているような感じがするイタイ系。そして何より目つきがやたらと鋭い。可憐な顔立ちとイタイ服飾にはとても不釣り合いなその表情。朝起きてわざわざ登校するほどの価値を感じられない学校。なんでこんな奴のいうことを聞かなければいけないのかという程度でしかない先生。いつも夜遅くまでラインを飛ばしてくるめんどくさい友達づきあい。そんなうざったい全てのものにこんな正直に不機嫌な目つきができればどんなにいいだろうか。そんな顔つき。それで教室を征《ゆ》く転校生。

「え、転校生?」

「でも制服着てなくない。」

「まだ職員室にいるはずじゃないの?おかしくない?」

「どこらへんがおかしいんだよ?そんな遠くから話してないで具体的に言ってみろよ。」

遠巻きに話していたはずの生徒の一人が、最後に転校生の言葉に捕まった。

「あ、ごめん。聞こえてた?ごめん、こっちの話。別に直接言いたいことは何もないから。」

「あ、そう。お前声でかいな。そっからでいいから、そのでかい声で空いてる席を教えてくれよ。」

「え、私そんなに声大きかった?」

「え、そんなことないでしょ。」

「ていうか普通こっちの話に入ってくる?あそこで?」

と、また始まる聞こえるヒソヒソ話。転校生のことは無視している。

「じゃ、空いてる席に適当に座るわ。」

と転校生も彼女たちを無視して適当な空席に座った。たむろしているレオの隣の席だ。レオはいつもと変わらない朗らかな顔で話しかけた。

「ねえ、君。名前なんていうの?僕は野上レオっていうんだけど。」

「秋月マイカだ。」

「そう。じゃあ、マイカちゃんでいい?その席、実はもう埋まっちゃっててさ。代わりの空席を案内するから。ここよりも後ろで、先生から見えにくい、いい席だよ。」

「そうか。それはとても助かる。」

「よかった。窓際の席なんだけど。」

レオくんやさしい!と教室のどこかから、黄色い一人ごとが聞こえてきた。

案内した席の机の上には、いつもここで日向ぼっこをしている《タマユラ》がいた。そんなに悪いものではない。少なくとも、これより悪いものは他の席にいくらでもいる。転校生は早速腰掛ようとした。と、タマユラはその手のひらで潰された。潰れたタマユラはそのまま押し消える。本来なら触れることすらできないはずタマユラが潰された。驚いているレオを尻目に、そのまま着席する転校生。上目遣いでレオを見て、「お前喧嘩売ってんのか?」と一言。いわゆる幽霊が見える人間は他にも覚えがあった。だが、それらの正体が《タマユラ》だということを明確に知っている人間を、同年代で初めて見た。

「ごめん。でも、他に比べてそこまで悪い席じゃなかったからさ。」

「アッソ。でもなんでこの教室はこんなに嫌なタマユラにたかられてるんだ?」

「このクラスのある生徒に憑いたタマユラに引き寄せられてるんだ。今日はまだ登校してないみたいだけど。あ、でも来たみたい。あの子だよ。」

ちょっと小柄な大人しい顔立ちの可愛い女子生徒が入ってきた。女子の塊に混じっていく。レオの席でたむろしてる女子の塊だった。大人しい見た目だが、喋り方は他の娘と別に変わらずハキハキしている。そんな彼女の背中に、覆いかぶさるように乗っている、大きな胎児型のタマユラ。レオはヒソヒソ話でマイカに告げた。

「最近子供を堕したみたい。相手は隣のクラスにいるよ。そっちの方はもっと悪そうなのに憑かれてる。腕にしがみついたまま黙り込んでいるけど、ずっと何かを呼んでいるよ。二、三日もすればなんかヤバイのが呼ばれてくるかもしれないね。この学校まで入ってくるかどうかは分からないけど。」

学校についてわからないことがあったらなんでも聞いて、と最後に告げて、彼は例の女の子の塊に戻っていった。

その背中を目線で追って、マイカは流れで胎児のタマユラを眺めた。胎児のタマユラも彼女に見られていることに気がつく。目玉を細めたと思ったら、今度は近くにいたレオの頭をつかんだ。思い切り握りしめ、レオの頭を潰そうとしている。掴まれている彼は、いつもの朗らかな笑顔でクラスメイトと話し続けている。話題はマイカのことだったが、マイカ自身はどちらかというと、その胎児のことが気になった。後でもう片方も見に行こうか。

「まあ、いいか。」と口元で独りごちして窓辺を見た。

他にやることあるし。レオとかいったっけ。まあ色々探る必要はあるだろう。

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