
君を奪う計画は、3年前から始まっていた
章 3
電話越しに誰かと話しながらも、彼の視線は瑠衣から一瞬も離れなかった。
瑠衣の瞳孔がきゅっと縮んだ。この仕打ちは立川蒼空による“罰”なのだと彼女は悟った。
蒼空を前にした彼女には、反撃の術すら残されていなかった。
抑えつけられ、見下され、息苦しさだけが幾重にもまとわりつき、胸の奥で重く膨らんでいく。
やがて蒼空は、興味を失ったように乱暴に通話を切った。「あとは、お前がいつ自分の過ちを認めるかだ。それ次第で、お前の母親の治療を再開してやる」
瑠衣は胸の中で無数の棘が暴れ回るのを堪え、奥歯を噛みしめて言い返した。「私には落ち度なんてない。絶対に認めたりしない。 蒼空、あなたの冷たい本性が、見抜いたわ!」
しかし蒼空は、氷より冷たい目で彼女を見下ろしながら、ゆっくりと言葉を落とした。「そのうち、お前が俺の前に跪いて許しを乞う日が来る」
そう吐き捨てると、彼は一度も振り返らずに踵を返し、そのまま部屋から出て行った。
実際にはわずか10分ほどの出来事に過ぎなかったのに、その時間は彼女にとって、逃げ場のない災厄そのものだった。
そして力が抜けた瑠衣は、ソファへ崩れ落ちるように腰を下ろし、その顔には疲労と絶望だけが色濃く刻まれていた。
彼女は一瞬うなだれたものの、すぐに気力を立て直した。母の治療が停止された以上、今すぐ病院へ向かわなければならない。
その頃、父と会社がほぼ同時に行き詰まり、母は追い詰められて自ら命を絶とうとしたのだ。
だが幸運にも救急搬送が間に合い、命こそ助かったものの、母は意識を取り戻さないまま植物状態となり、残りの人生を高額な生命維持装置に繋がれて過ごすしかなくなった。
だからこそ瑠衣は病院に駆け込むと、まずカードに残ったお金をすべて引き出し、それを母の治療費の支払いに充てた。
結婚してからの3年間、彼女は一日たりとも休まず働き続けてきた。
それでも、口座に残った額は、わずか3カ月分の医療費にしかならなかった。
この結婚生活から抜け出すには、まず自分の足で立てるようになり、蒼空の助けに一切頼らずに済むようにならなければならない。
そう考えた瑠衣は、外線へと電話をかけた。
頭の奥には、あのとき蒼空が言い放った言葉がこびりついていた。「君に母親の治療費が払えるのか?」――あのあからさまな軽蔑の声が。
電話の相手、田中静香は、彼女にとって半分マネージャーのような、頼れる存在だった。
ここ数年、フリーランス写真家として名が知られるようになるにつれて、細かな仕事や交渉の一部を静香が引き受けてくれるようになったのだ。
しかも静香は顔が広く、人脈も豊富で、今回のような問題を解決するきっかけを必ず作ってくれると信じられた。実際、先ほどの電話でも静香は彼女の事情に深く同情し、全力で助けると言ってくれた。
そして午後7時。
瑠衣はハンドルを握りしめ、車を走らせて景瑞ビルへと向かった。
静香が、今回のコンテストの主催者との面会をセッティングしてくれていたのだ。
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