
完璧な家族、偽りの愛の終焉
章 3
堀井彩矢 POV:
あのネックレス. 恭平が私に贈ったエメラルドのネックレスは, 芽生の手首にはめられたブレスレットと全く同じデザインだった. 恭平は, 全く同じデザインの宝石を, 私と芽生に与えていたのだ. 私の唇に, 乾いた嘲笑が浮かんだ.
数日後, 偶然を装って芽生と会った時, 私はわざと, 恭平が私に贈ったネックレスの話をした.
「恭平はね, 私を世界で一番大切にしてるって言ってるの. 信じられないくらい愛されてるって, 毎日実感するわ」
芽生はにこやかに微笑んだ.
「ええ, 知っていますわ. 広瀬社長は, 私にも『君は僕にとって, かけがえのない存在だ』と仰っていましたもの. まるで, 彩矢さんのように, 私を寵愛してくださるの」
恭平は, 私と芽生に, 全く同じ言葉を囁いていた. 彼は, 二人の女に, 同じ宝石を贈り, 同じ愛の言葉を囁いていたのだ. 私の心臓が, 冷たい氷でできた手で握り潰されるようだった.
恭平と弾は, 私たちのやり取りを不安げな顔で見ていた. 彼らは, 自分たちの秘密が暴かれるのではないかと, 怯えているようだった. 私はわざとらしく咳をした. 恭平はすぐにコートを脱いで私に羽織らせ, 温かい紅茶を差し出した. 弾も私の首にマフラーを巻きつけながら, 心配そうに言った.
「ママ, 風邪引かないようにね」
彼らの行動に, 私は心底吐き気がした. 芽生の香水が染み付いたコートも, 弾の偽善的な優しさも, 全てが私を苛立たせた. 私は彼らに向かって言った.
「体がだるいから, ホテルで休ませてもらうわ」
恭平と弾は顔を見合わせ, 戸惑った表情を浮かべた. しかし, 私がホテルに行くことに異論を唱えることはなかった. 彼らは私をホテルまで送り届け, 恭平は私を抱きしめ, 弾は私の頬にキスをした.
その日の夕方, 恭平の携帯が震えた. 彼は慌ててマナーモードに切り替えた. 恭平は私が目を閉じたのを確認すると, ほっとしたように息を吐いた. 携帯の画面には, 「芽生」という文字が何度も点滅していた. 弾が恭平の袖を引っ張り, 小さな声で言った.
「パパ, 芽生ちゃんに会いたい」
恭平は弾を制止し, 静かに部屋を出て行った. 私は彼らが部屋を出たのを確認すると, 部屋を出て後を追った.
恭平と弾は, 芽生の部屋の前に立っていた. ドアが開くと, 芽生は恭平の胸に飛び込んだ.
「恭平さん! ずっと会いたかったわ! 彩矢さんが目を覚ましたって聞いて, 私, 不安で... 」
芽生は涙ながらに恭平にしがみつき, 彼に寄り添うことを求めた. 恭平は芽生の涙に心を動かされたように, 彼女を強く抱きしめ, 囁いた.
「大丈夫だ, 芽生. 僕がそばにいるから」
弾は得意げに言った.
「ママが寝たから, 僕たち, 芽生ちゃんのところに来たんだよ! 」
芽生は一瞬感動したような表情を浮かべたが, すぐに顔を曇らせた.
「でも, 彩矢さんが恭平さんを独り占めしてるみたいで, 私, 寂しいの」
弾は芽生の手を握りしめ, 言った.
「芽生ちゃん, 僕が温めてあげる! 」
恭平は芽生の鼻先に軽く触れ, ふざけたように言った.
「嫉妬してるのかい? 君のために, この場所を選んだんだよ」
芽生は微笑んで, 恭平の唇にキスをした. 恭平は芽生を強く抱きしめ, 二人は深く口づけを交わした. 弾は目を覆い,
「もう! 僕, 電球になりたくないよ! 」
と叫んだ. 恭平は芽生から離れず, 言った.
「弾は昔から, こういうのよく見てるからな. 慣れてるだろ? 」
恭平は芽生を抱き寄せ, 弾の手を引いて部屋の中に入っていった. ドアが閉まる音だけが, 廊下に響いた.
私は柱の陰から, その光景を全て見ていた. 頬を伝う涙が, 冷たい水のように感じられた. 恭平と弾の甘い言葉が, 私の耳元でこだまする. 彼らは, 私の誕生日を祝うふりをして, 芽生と過ごすための舞台を演出していたのだ. 私は胸を押さえ, その場に蹲り込んだ.
「もう, あなたたちとは, 終わりよ」
私の心は, 完全に決壊した.
おすすめの作品





