
出来損ないの娘が死んだ日
章 3
警察署の会議室は重苦しい空気に包まれていた. 集まった刑事たちの顔は, 皆一様にこわばっている. 遺体の顔はひどく損傷しており, 本人を特定する手掛かりはほとんどない. また, 遺棄された場所は第一発見現場ではなく, 捜査は難航することが予想された.
父と母は, 遺体に関する専門的な見解を述べていた. 彼らの声には, プロとしての冷静さがあった. まるで, それが私であることなど, 微塵も感じていないかのように. 彼らは, 目の前の「モノ」に, ただただ職業的な興味を示しているだけだった.
母はよく萌に言っていた. 「監察医という仕事は, 死者の声なき声を聴き, 真実を語る崇高な仕事なのよ. 」萌はいつも, 目を輝かせて頷いていた. しかし, 母が背を向けた途端, 萌はこっそり髪を拭った. まるで, 母の言葉や職業が汚らわしいとでも言いたげに.
あの時, 私は萌の頬を思い切り叩いた. そのせいで, 父から厳しく叱られ, 母は私の髪を丸坊主にした.
「この子は, 本当にどうしようもないわね. 」母は私の髪を撫でながら, 悲しそうな顔をした. その母が, 今, 私の死体を前に, 同じように髪を撫でている.
母は私の頭髪を優しく撫でながら, 低く呟いた. 「なんて痛ましい死に方なの…. きっと, ご家族は悲しみに暮れるでしょうね. 」
私は心の中で冷たい笑みを浮かべた. 悲しむ? 私が死んだことを, 喜んでいるかもしれないのに. おそらく, 兄さんだけが, 少しだけ悲しんでくれるだろう.
母の手が, 私の背中に触れた. 私の背中には, 幼い頃に誘拐された際に負った大火傷の跡が残っている. その傷跡は, 私の背中全体を覆っていた.
初めてその傷を母に見せた時, 母は眉をひそめて言った. 「なんて醜い傷なの…. 萌ちゃんに見せたら, きっと怖がってしまうわ. 」
私は息を詰めて, 母の言葉を待った. もしかしたら, この傷を見て, 私だと気づいてくれるかもしれないと, 愚かな期待を抱いていた. 私の額には, 冷たい汗が滲んでいた.
しかし, 母は冷たく言い放った. 「この傷は, 今回の事件によるものではないわね. 」
私の心は, 完全に打ち砕かれた.
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