別れた翌日、私は“億”の女だった の小説カバー

別れた翌日、私は“億”の女だった

8.5 / 10.0
鳳城夢乃は、愛する夫のために自分を押し殺し、三年間ひたすら「理想の妻」を演じ続けてきた。しかし、夫の心の中にいたのは、自分ではなく忘れられない初恋の女性だった。どれほど尽くしても報われない虚しさに耐えかねた彼女は、ついに離婚を決意し、「本気を出す」と宣言して彼の元を去る。ところが、別れた翌日に事態は一変。SNSを騒がせたのは、彼女が隠し持っていた驚愕の正体だった。実は夢乃、若くして莫大な資産を動かす天才実業家だったのである。偽りの仮面を脱ぎ捨て、本来の輝きを取り戻した彼女の快進撃がここから始まる。一方で、彼女をただの専業主婦だと思い込み、冷遇していた元夫は、そのあまりの落差と現実に愕然とする。かつての立場は完全に逆転し、ついには世間を巻き込んだ土下座会見を開くまでに追い詰められていく。自らの価値を証明し、自由を手にした女性が贈る、甘くも痛快な逆転劇。本当の自分を解放したとき、彼女の前に広がる景色とは。運命を自ら切り拓く、スリル満点のラブストーリー。

別れた翌日、私は“億”の女だった 第1章

夜が更けた。

大西結月は、眠りながらも不安で落ち着かない感覚に苛まれていた。

誰かに身体を押さえつけられ、息もできないほどだった。

耳元では、重く荒い呼吸が聞こえる。

続けて、下半身に鋭い痛みが走った。

何が起きているのかを察した瞬間、結月は恐怖で目を見開いた。ぼんやりと、自分の上に覆いかぶさる男の姿が見えた。

「たかなお……あなたなの?」

その男は喉の奥で軽く「うん」と声を漏らし、強い酒の匂いをまとっていた。それ以降は、言葉を発することなく、ひたすら彼女に激しく迫ってきた。

その声を聞いて結月は少し安心し、彼の動きに合わせるうちに、次第に身体も反応しはじめ、喉から甘く艶やかな声が漏れ出す。

攻めがさらに激しさを増し、結月は痛みを堪えながらも、曖昧な熱に身を委ね、まるで夢の中に浮かんでいるような感覚に包まれた。

結婚して3年。北川剛直が、ついに彼女に触れてくれたのだ!

彼女は、爺様が無理やり押しつけた妻だったため、剛直はこれまでまともに彼女を見ようともしなかった。

今回、どんな理由であれ、彼が彼女の部屋に入ってきたことが嬉しかった。

ただ、それだけで、胸がいっぱいだった。

2時間後、重く低い唸り声と共に、剛直は彼女の上に疲れ果てたように崩れ落ちた。 窓の外には月明かりが射し、彼の完璧な体のラインを柔らかく浮かび上がらせていた。

結月は、彼の激しく早い心音を耳で感じた。あまりに現実的でありながら、まるで夢のようだった。

これが夢なら、永遠に覚めたくない―そう願った。

彼の首筋に腕をまわし、運動のあとの荒い息を漏らしながら、結月は囁く。「たかなお…たかなお、わたし…ほんとうに…」

「大好き」――そう言おうとしたその瞬間、彼のかすれた声が耳に届いた。

「みやこ…」

結月はその場で石のように固まった。

心の奥がぎゅっと痛み、血の気が一気に引いていく。

「みやこ」――それは、呉宮京子の愛称。彼の初恋の人であり、剛直の心にいまだ残る「初恋」。明田様の事情により、彼女はずっと海外で暮らしていた。

しかし昨日、呉宮京子は帰国したばかりだった。

そして、結月に挑発的なメッセージを送ってきたのだ。

「結月、帰ってきたわ。北川家にあなたの居場所はない!」

「私はたかなおと幼なじみよ。あなたがこの数年で私の代わりになれると思ってるの?」 「出て行きなさい、孤児院に戻りなさい。そこがあなたの居場所よ。」

「あなた、たかなおがどれほど私を愛してるか知らないでしょ?彼があなたのベッドにいても、きっと私の名前を呼ぶわ。あなたは私の代用品にすぎないのよ、結月―その現実、辛いでしょ?」

代用品…?

彼女は明田様に認められた、正真正銘の北川家の嫁、大西結月。誰かの代わりなんかじゃない。

けれど耳元では、まだ剛直が「みやこ……みやこ……」と呟き続けていた。

あのひとつひとつのメッセージが脳内でこだまし、彼女がどれほど自分を偽っていたかを突きつけてくる。

突然、涙が止められないほど溢れてきて、結月は拳をぎゅっと握りしめ、全身が震えるほど悔しさを堪えた。

この数年、彼女はひたすら気を遣い、剛直のために仕事も辞めて、理想の妻であろうと努力してきた。

北川家の姑や小姑は、彼女の出自が不明なことや貧しさを嫌い、繰り返し嫌がらせをしてきたが、彼女は剛直に迷惑をかけたくなくて、すべて自分で飲み込んだ。

ただ、彼の愛が欲しかっただけなのに――こんなにも身を削ってきたのに、まだ足りないの?

どうして最後のこのわずかな尊厳すら、こんなにも踏みにじられなきゃいけないの!

その夜は、ひどく長かった。

結月は目を開けたまま、一晩中眠れなかった。

……

翌朝。北川剛直は、窓の外から射し込む眩しい陽射しで目を覚ました。

眉間を揉みながら目を開けると、化粧台の前に座る結月の背中が目に入った。

昨夜の出来事が突然脳裏をよぎり、何かに気づいた彼は黒い瞳を鋭く細め、その全身から冷気が立ち上がった。

背を向けていた結月にも、彼の張りつめた空気がはっきりと伝わってくる。

彼女は何事もないふりをしてスキンケアを続けていたが、突然手首を強く掴まれ、乱暴に立ち上がらされた。

手からスキンケア用品が落ち、ガラス瓶が粉々に砕けて、白いクリームが床一面に広がった。

怒りを込めて顔を上げた彼女だったが、彼の怒りと嫌悪に満ちた黒い瞳と視線が合った瞬間、心がひどく震えた。

「薬なんか盛って、俺に触れさせれば、本物の北川家の妻になれるだと思ったのか?」

剛直は上から見下ろすように、ほとんど歯を食いしばって彼女を睨みつけた。手を離すことなく、さらに強く握り締めた。

その美しい顔立ちは、怒気によって恐ろしいほど歪んでいた。

薬を?

結月は蒼白な笑みを浮かべる。「あなたの目には……私って、そんな女に見えるの?」

剛直は口元に皮肉な笑みを浮かべ、目には強烈な嫌悪の色が宿っていた。「そもそも、あんたは手段を使って明爺様を騙したから、俺はあんたと結婚せざるを得なかったんだ。今さら何を装ってる。」

「お前なんて、みやこの足の小指にも劣る、下賤な女だ!」

下賤な女。清純を装う…

彼の心の中で、自分はこんなにも価値のない存在だったのか。

もし薬でどうにかできたなら、とっくにそうしていたはず。なぜ、こんなにも苦しみながら今まで待ったと思ってるの? 北川剛直は、彼女のことを一ミリも理解していなかった。

3年間の努力も、思いやりも、献身も―全部、無意味だったんだ。

それなら、もう…頑張る必要なんてない。

結月は手首の痛みを堪えながら、力を込めて彼の手を振り払った。

そして顔をしっかりと上げ、揺るぎない声で告げた。

「北川剛直、私たち――離婚しましょう。」

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