フォローする
共有
魂だけが知る残酷な真実 の小説カバー

魂だけが知る残酷な真実

意識が肉体を離れ、幽体となった私は、手術台に横たわる無残な己の姿を見下ろしていた。執刀医としてメスを振るうのは、かつて愛を誓い合った男、光登。彼は最愛の女性を救うという名目のもと、私の腎臓を冷酷に抉り出していく。その作業の最中、彼は私のお腹に宿る小さな命の兆しに気づいた。それは紛れもなく、彼との間に授かった新しい命だった。しかし、光登の瞳に慈悲の色はない。彼は「残りは処分しろ」と吐き捨てると、まだ温かみの残る私の体を硫酸が満ちたプールへと容赦なく投げ込んだのだ。かつて彼が病に倒れた際、自らの腎臓を一つ捧げて命を繋ぎ止めたのは誰だったのか。その身に彼の子供を宿し、誰よりも彼を愛し抜いたのが私であることに、彼は最後まで気づくことはなかったのだろうか。裏切りと残酷な殺意の果てに、魂だけが知るあまりにも悲劇的な真実が浮き彫りになっていく。愛した男の手によって、母子ともに闇へと葬られた女の怨嗟が、静かに、そして深く響き渡る。
共有

2

松永翔世 POV:

私の体は, 処理される段階で, ある「異変」に見舞われた.

健吾が処理を進める中, 彼は動揺したように光登を呼んだ.

私の腹部が, かすかに膨らんでいることに気づいたのだ.

「光登さん, これ…」

健吾の声が震えていた.

光登が近づき, その目で私の腹部を見た.

彼の顔に, 一瞬だけ, 驚きの感情がよぎった.

私は, 彼が何に気づいたのかを知っていた.

それは, 妊娠だった.

私たちの, 小さな, まだ見ぬ命.

その事実に, 私の魂は, 深い悲しみと, 言いようのない絶望に包まれた.

健吾は, 私の腹部に刻まれた, 焼け焦げた傷跡にも気づいたようだった.

それは, 私の過去の悲劇を物語るものだった.

光登は, その傷跡を見て, 何かを思い出しているようだったが, すぐに表情を消した.

彼は, 私と一緒にいるとき, いつも暗がりを好んだ.

私の顔を見ることを避けるように, 彼の視線はいつも別の場所を彷徨っていた.

でも, 私は, 彼が私の体に慣れてくれたのだと, 自分に言い聞かせていた.

彼が私を受け入れてくれる日が来ることを, 心の底から願っていた.

私の腹部の傷跡.

それは, 幼い頃, 父がタバコの火でつけたものだった.

熱い痛みが, 私の体に刻み込まれた, 消えない記憶.

でも, 不思議なことに, 光登は, 以前はあの傷跡を愛おしそうに撫でてくれたことがあった.

「梅の花の印だ」と, 彼は言った.

「神様が与えた印だ」とも言った.

あの頃の彼は, 私の傷跡を, 美しく, 特別なものだと感じてくれていた.

だが, 今, その同じ傷跡を前にしても, 彼の目には何の感情も浮かんでいなかった.

彼は, 一瞬の驚きの後, 私の体を硫酸のプールに投げ入れた.

ジュウ, という音とともに, 私の体は, 彼の世界から完全に消え去ろうとしていた.

痛みはなかったが, 私の魂は, 体が溶けていくような, 耐え難い苦痛を感じた.

まるで, 生きたまま溶かされていくような, 超現実的な感覚.

彼は, 知っていたのだろうか?

この体が, 私のものであることを.

彼は, 最初から, こうするつもりだったのだろうか?

健吾は, 妊娠している体が, こんなにも無残に扱われることに, 深くため息をついた.

彼の表情には, 同情と, わずかな怒りが見えた.

だが, 光登は, そんな健吾の言葉を意に介さず, 冷笑した.

「どうせ, どこかの闇市場で捨てられた人間だ. 誰も気にしない. 」

彼の言葉が, 私の魂を完全に打ち砕いた.

私の人生は, 本当に無意味だったのか?

彼の言葉は, 私の存在そのものを否定した.

私は, 彼にとって, ただの「もの」でしかなかった.

硫酸が私の体を溶かしていく.

肉が剥がれ落ち, 骨が砕ける.

だが, その身体的な痛みよりも, 彼の言葉のほうが, ずっと私を傷つけた.

光登は, 妊娠した私の体を, 何の躊躇もなく処理した.

彼の目には, 倫理も, 人間性も感じられなかった.

健吾は, ただただ光登の冷酷さにため息をつくばかりだった.

光登は, 私の身分を蔑み, 私の存在を否定した.

彼の言葉が, 私の魂に突き刺さる. 「そうか, 私は, あなたにとって, ただそれだけの存在だったのか. 」私の魂は, 深く, 深く, 沈んでいった.

おすすめの作品

裏切り夫へ、血染めの離婚届 の小説カバー
9.3
夫・浅田慎和は私の後輩である増沢梓紗と不倫に耽っていた。その裏で、私は夫が手を染めた違法取引の代償として反社会的勢力に拉致され、無残に命を奪われる。私が苦悶の中で死を迎えていた時、夫は私たちのアトリエで、私の描いたデザイン画を汚しながら不倫相手と愛を囁き合っていたのだ。奇跡的に七日間の還魂を許され、血と泥にまみれた姿で帰還した私に対し、夫が口にしたのは労りではなく「汚い格好で戻ってくるな」という冷酷な蔑みだった。彼は私の才能を奪い、自らの名声を守ることしか考えていなかった。夢も魂も踏みにじられた絶望の復讐劇は一度幕を閉じるが、再び目覚めると、私は彼と出会う前の高校時代へと回帰していた。鳴り響くチャイムの音を背に、私は迷うことなく決意を固める。もう二度と彼に利用される人生は歩まない。裏切りの代償を血で購わせるため、私はかつての絶望を糧に、未来を自らの手で書き換え始めた。今度こそ、あの男のすべてを奪い去るための戦いが幕を開ける。
死んだ妻の亡霊が憑りつく の小説カバー
9.5
長年にわたる不妊治療の末、医師から突きつけられたのは「妊娠は不可能」という非情な宣告だった。絶望に打ちひしがれる私を待っていたのは、さらなる地獄である。数ヶ月後、夫の秘書が彼の子供を身籠ったのだ。裏切りを知った私に対し、夫は経済的・精神的な追い込みをかけ、「子供を産めない女に割く時間などない」と冷酷に言い放った。心身ともに限界を迎えた私は、追い打ちをかけるように末期癌で余命わずかであることを知る。その事実を告げても、夫は「勝手に死ねばいい」と嘲笑うだけだった。しかし、運命の歯車は私の葬儀の日に大きく回り出す。夫はそこで初めて私の死に隠された真相を知り、積み上げてきたすべてを失うことになるのだ。取り返しのつかない罪に気づいた彼は、もはや存在しない私の幻影を追い求め、現実と虚構の境界が崩れた世界を永遠に彷徨い続ける。これは、愛を捨てた男が、死した妻の亡霊に囚われ、破滅へと向かう復讐と狂気の物語である。
この腕の中に、彼はいない の小説カバー
8.9
友人から「村に放置された獣人を引き取ってほしい」という報せが届いた。最後の一頭となった豚を仕留める仕事を終えた私は、その足で指定された場所へと向かう。そこで待っていたのは、誰にも選ばれず売れ残っていた、一匹の小さな子ぶただった。その体は無惨な傷に覆われ、怯えきった瞳でこちらを凝視している。「お前も居場所がないのか。なら、私の家へ来ないか」――込み上げる切なさに突き動かされ、私はその震える体を優しく抱き上げると、自らの職場である屠畜場を目指して歩き始めた。しかし道中、胸元に奇妙な生ぬるい感触が広がる。違和感に視線を落とすと、いつの間にか自分の体の半分が水の中に沈んでいた。そこで私は、残酷な真実を思い出す。あの子ぶたは、すでに街の獣人たちの手によって無残に喰い殺されていたのだ。腕の中に温もりなど最初から存在しなかった。失われた命の幻影を抱きながら、私は冷たい水底へと引きずり込まれていく。静寂の中で、かつての悲劇が鮮明に蘇り、現実は音を立てて崩れ去っていった。
死後に君を慕う の小説カバー
8.6
兄にとって、精神を患う妹の存在は疎ましいだけの対象だった。彼は周囲の目に晒される場所で執拗に私を追い詰め、パニックに陥る姿を嘲笑うことを日課としていた。「お前なんて発作で死んでしまえ」という冷酷な言葉を投げつけ、私の尊厳を奪い続けた。しかし、その呪詛が現実となり私が本当にこの世を去ったとき、兄の精神は音を立てて崩壊していく。あれほど忌み嫌っていた私の発作を、今度は兄自らが取り憑かれたように再現し、人前で醜態をさらすようになったのだ。狂気の淵に沈んだ彼は、夜な夜な私の夢枕に立っては「一度でいいから自分を見てくれ」と涙ながらに懇願し続ける。生前は決して交わることのなかった兄妹の絆は、死という断絶を経て、歪な形へと変貌を遂げた。憎悪が執着へと反転し、死者と生者の立場が逆転していく。逃れられない罪悪感と狂気の中で、兄が辿り着く結末とは。死してなお続く、あまりにも残酷で孤独な愛の物語。
俺本当に邪神の猟犬じゃないから! の小説カバー
9.8
異世界へと転移した林介は、静かな街の片隅で古本屋を営み、平穏な日々を送っていた。彼は持ち前の誠実さと慈愛に満ちた性格で、人生の壁にぶつかり絶望の淵に立たされた客たちを温かく迎え入れる。林介は彼らの傷ついた心に寄り添い、癒やしを与える一冊を勧めたり、時には自作の物語を披露したりして、客たちの孤独な魂を救い続けてきた。救われた人々は林介に深い敬意を抱き、感謝の印としてささやかな贈り物を届けたり、新たな客を紹介したりするようになる。しかし、人々の間で彼の存在が神格化され、広まっていくうちに、林介の意図とは裏腹に不穏な二つ名が定着していく。「邪神の猟犬」「血肉福音書の伝道者」「屍食教典儀の執筆者」そして「群星の羊飼い」――。ただ親切に本を売っていただけのはずが、いつの間にか恐るべき異形の存在として崇拝の対象となっていたのだ。周囲からの過剰なまでの心酔と、自身の認識とのあまりに巨大な乖離に、林介はただ困惑するばかり。勘違いが加速させる、奇妙で恐ろしい異世界ファンタジーが幕を開ける。
愛は獣、恨みは檻 の小説カバー
8.9
世界に名を馳せる猛獣使いの夫は、巨大な動物園を経営し、どんな荒ぶる野獣も手なずけてみせる男だった。しかしある日、最愛の息子が夫の目の前でライオンに襲われ、命を落としてしまう。変わり果てた息子の姿を前に慟哭する私をよそに、夫はその日のうちに動物園へ戻り、加害した獣を庇うように「これは不運な事故だ」と冷酷に言い放った。だが、私は監視カメラの映像に隠された真実を見てしまう。そこには、若い女性管理員を抱き寄せ、檻の不備を隠蔽しながら、息子の死を「運が悪かった」と片付ける夫の姿が映っていた。息子を死に追いやった元凶が愛する夫自身であったと知った瞬間、私の心には漆黒の復讐心が宿る。私は夫が何より大切にしていたライオンを国家動物園へ送り、自らのルーツである裏社会の108人の兄たちへ、亡き息子の遺影とともに宣戦布告の合図を送った。最愛の子供を奪った男に、血をもってその罪を償わせるために。静かな怒りとともに、私は夫を追い詰めるための檻を組み上げ始める。愛という名の獣を飼い慣らした男に、今度は絶望という名の罰を与える時を与える番だ。血の報復が幕を開ける。