春はあけぼの の小説カバー

春はあけぼの

8.3 / 10.0
国主の娘である妻の裏切りにより、不名誉な退位を強いられた領主・宗明。隠居屋敷で酒色に溺れるふりをする彼の前に現れたのは、姉の身代わりとして差し出された少年・春吉だった。lgbtの要素を含む本作は、孤独な元領主と数奇な運命に翻弄される少年の関係を描くromance novelです。偽りの生活の中で惹かれ合う二人の選択と、権力争いの果てにある真実とは。人気のwebnovelで、身分を超えた切ない愛の物語を体験してください。
「春はあけぼの」のあらすじ
在位二年目を迎えた領主・宗明は、窮地に立たされていた。弟に恋心を抱く妻の佳枝が、宗明は酒色と女色に溺れていると実父である国主に虚偽の進言をしたのだ。これを受けた国主により退位を命じられた宗明は、無用な争いを避けるため、世間の噂を逆手に取って隠居生活を送る決意をする。彼は身分を問わず美しい女を屋敷に集めるよう通達を出した。一方、貧困に喘ぐ春吉の家族は、類まれなる美貌を持つ姉の園を宗明の元へ送り出そうとする。しかし、見分に訪れた宗明が心を奪われたのは、姉ではなく弟の春吉であった。宗明は春吉の家族全員を召し抱える代わりに、春吉に姉の身代わりとなって寝所へ上がるよう命じる。女装して園として振る舞いながらも、宗明と過ごす時間に戸惑いを隠せない春吉。偽りの関係から始まった二人だったが、共に過ごすうちに春吉もまた、宗明という人物に強く惹かれていく自分を自覚し始める。運命に翻弄される二人の、密やかで危うい恋の行方を描いた物語。
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春はあけぼの 第1章

拳で床を叩く音が、乾いた部屋に響く。その拳の持ち主が戦慄いているのを、樋后宗明は遠い景色のような面持ちで眺めていた。

「このようなことが、赦されて良いものか」

呻くように一人ごちる相手に、宗明は細い息を吐き出した。

「赦されるも何も、そうなってしまったからには、致し方あるまい」

「ですがッ! 口惜しゅうござりまする」

歯が折れてしまいそうなほど食いしばっている相手に、苦い顔を向ける。神坂領主となって在位二年目を迎えようとしていた折、現領主の性癖は荒廃しておる故、弟である成明を領主とせよ、と国主、味多義明よりの通達が届いたのだ。

「ここで拒めば、兄弟の要らざる争いを行わねばならん。領主の地位など、私は惜しくはない。それよりも、醜いお家騒動が起こることのほうが、好まぬ」

「――宗明様」

通達の後、ほとんどの者が弟の成明に鞍替えをした。当人ではなく、家に仕えている者たちであればそれも当然であり、致し方のないことだと認識している宗明と違い、目の前に居る男――羽方隆敏はそれを赦せぬらしい。急な通達と、他の者たちの所業。それに対する憤りをぶつける場所がなく、隆敏は床に拳を打ちつけ、歯を食いしばっている。

「それに、私は隆敏がそうやってくれているだけで、十分だ」

心底、そう思っていた。

「宗明様」

頷いて見せ、朗らかに頬を上げる。

「通達には、この俺が酒色におぼれ、女色に浸っているとある。成明は豪奢な隠居屋敷を用意すると申しておるし、お主と二人で、その通りに動くのも悪くはあるまい」

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春はあけぼの 目次一覧

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