愛を乞う女をやめたら、私は誰よりも輝いていた の小説カバー

愛を乞う女をやめたら、私は誰よりも輝いていた

8.5 / 10.0
名門・榊原家の御曹司と結婚した高崎星織は、周囲から「太っていて醜い私生児」と蔑まれ、夫からも三年間無視され続ける地獄のような日々を過ごしていた。それでも夫への一途な愛を糧に耐え忍んできた彼女だったが、夫がかつて愛した女性が帰国したことで残酷な真実を突きつけられる。これまでの結婚生活はすべてその女性を守るための身代わりだったのだ。絶望の淵で目を覚ました星織は、迷わず離婚届に署名し、彼の前から永遠に姿を消した。それから三年後。かつての面影を脱ぎ捨て、息をのむほど美しく変貌を遂げた星織が再び現れる。医療界を震撼させる天才、そして音楽界を魅了する女神として華麗なる脚光を浴びる彼女に、世間は羨望の眼差しを向ける。かつて彼女を冷遇した元夫は、別人のように輝く星織に激しく執着し、必死にその背中を追い始める。「君こそが俺のすべてだ」と涙ながらに訴える彼だが、果たしてその愛は届くのか。遅すぎた後悔に身を焦らす男と、自らの足で歩み始めた女性が織りなす、波乱に満ちた再会と情熱の物語。

愛を乞う女をやめたら、私は誰よりも輝いていた 第1章

今夜、波津市は豪雨に見舞われていた。高崎星織はずぶ濡れの姿で「夢幻クラブ」に辿り着いた。

傘もささずに駆けたため制服は雨の重みで張り付いているが、抱えたケーキ箱だけは一滴の染みもない。

ボックス席の扉の前で、高崎星織は手を伸ばしてゆっくりと押し開けた。

「幸汐、君が姿を消したこの三年、徹は一分たりとも君を探すのを止めなかった。 ようやく戻ってきたな!」

その言葉に、高崎星織の足は瞬間的に止まった。

「幸汐?

まさか…徹の元恋人、滝沢幸汐のこと?」

「…徹が結婚したって聞いたんだけど?」優しい女声が響いた。

「はあっ!幸汐、あの女のことなんか気にするなよ。 あの時、榊原の老爺がお前を人質に徹を脅したんだ。『結婚しなきゃあの女を始末する』ってな」 「だから徹が結婚したのは、お前を守るためだったんだぜ」

「…そうなの?」滝沢幸汐は疑いを含んだ目を細めた。

「当たり前だろ!でなきゃ、徹がどうしてブサイクでデブの上に非嫡出子の高崎星織なんか選ぶんだよ? 「ただの嫌がらせだ!榊原の老爺をイラつかせるためにな!」

扉の外で聞いていた高崎星織の顔が、見る見る青ざめていった。

あの日、徹に「俺と結婚するか?」と聞かれた時、彼女は嬉しさのあまり一晩中眠れなかった。棚からぼた餅が降ってきたと思ったのだ。

だが真実は―彼女が醜く太っていて、しかも非嫡出子だったから。娶ることで老爺への復讐になる、ただそれだけだった…

「はっ…はははっ!」

高崎星織は泣き笑いをこらえながら、よろりと体を揺らした。

必死にドアノブを握りしめ、かろうじて姿勢を保つ。

「そろそろ5時間だぜ。高崎は絶対来ないだろうなあ? 蜜菓堂なんて東郊にあるし、往復だけで3時間はかかる。あの店は毎日行列ができてるんだぜ?あの女、そんな馬鹿じゃないよ」

「徹が頼めば東郊どころか、绫野市だって彼女は飛んでいくさ」 「徹にぞっこんだってこと、周知の事実じゃねえか!」 「はははっ!」

嘲笑と蔑みの混じった言葉を浴びせられながら、高崎星織は無表情で深く息を吸った。ぐっとドアノブを握りしめ、扉を押し開けた。

室内に入ると、ソファ中央に座る天の寵児のように輝く男が視界に飛び込んだ。

長い脚を組み、優雅にソファにもたれるその姿は、気怠さの中に威厳をたたえていた。

彫刻のような顔立ちは、どの角度から見ても完璧で― 微細な欠点さえ見当たらない。

彼こそが夫であり、燿星財団の現支配者・榊原徹だった。

高崎星織の姿を見て、ボックス内は水を打ったように静まった。

「幸汐、徹の妻がどんな女か知りたがってたろ?」嘲る声が響いた。「ほら、こんなだよ」

彼女の姿は確かに惨めだった。雨に貼り付いた服がふくよかな体を露わにし、

髪は顔にべったりと張り付き、左頬には触れるのも厭う黒斑があった。

無数の侮蔑の視線を無視し、高崎星織は榊原徹の前に進み出た。「徹、頼まれたムースケーキよ」と無理に笑みを作りながらテーブルに箱を置いた。

榊原徹は冷たい視線すらくれず、ケーキを滝沢幸汐の前に押しやった。「食べな」と低い声がした。

「ただの戯れ言なのに…」滝沢幸汐が照れくさそうに唇を噛んだ。「高崎さんに行かせるなんて」

「…え?」高崎星織は雷に打たれたように目を見開いた。唇が震えた。

心臓を刃でえぐられるような痛みが走る。

5時間も雨の中を奔走して手に入れたケーキが――滝沢幸汐のために?

「幸汐、徹がお前をどれだけ大切にしているか、知ってるだろう?」 「ケーキなんてものじゃない。『星が欲しい』と言えば、徹は夜空を引き裂いてでも摘んでくるかもしれない」

「そうそう!遠慮するなよ、幸汐さん。高崎が東郊まで5時間も必死で走って買ってきたんだからな!」 「彼女の『献身的な好意』を無駄にするなんて、罪深いじゃないか?」

高崎星織は垂れた手をぎゅっと握りしめ、爪が掌に食い込んだ。今この瞬間、自分は光る舞台で嘲笑されるピエロに違いない。

その時、ソファから榊原徹が立ち上がった。影のように静かな足取りで、二歩、三歩と彼女の目前に迫る。

「離婚届は居間のテーブルだ」氷のような声が頭上から降り注んだ。「今夜中にサインしておけ。お前の出ていく最後の仕事だ」

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