フォローする
共有
私を見殺しにしたくせに、今さら這いつくばって許しを乞うなんて の小説カバー

私を見殺しにしたくせに、今さら這いつくばって許しを乞うなんて

5年という歳月をかけ、成瀬結菜は夫の松本明男を深く愛し抜いてきた。しかし、彼の元恋人が妊娠して現れたことで、正妻としての立場は崩壊し、周囲の嘲笑の的にされてしまう。結菜は一切の財産を捨てて離婚を決意するが、明男は関係修復を懇願した。そんな折、結菜と元恋人が同時に水に落ちる事故が発生する。明男は迷わず妊婦である元恋人の救助を優先し、その瞬間、結菜の心は完全に打ち砕かれた。彼女は誰にも告げず、静かに表舞台から姿を消す。それから3年後。結菜は国際的な映画祭で最優秀女優賞を受賞し、誰もが羨む輝きを放つスターとして再降臨した。彼女の周囲には新たな父親の座を狙う有力者たちが集まり、帰国した空港は熱狂に包まれる。かつての傲慢さを失い、惨めな姿でひざまずきながら「見捨てないでくれ」と涙ながらに許しを乞う明男。しかし、地獄のような後悔に苛まれる彼を待っていたのは、結菜の冷徹な眼差しだけだった。愛を捨て復讐へと転じた彼女の、新たな人生が幕を開ける。
共有

2

松本明男は成瀬結菜の言葉が全く聞こえていないようだった。いや、聞こえていたとしても気にしていないのだろう。

しかし、彼女がどれだけの勇気を振り絞ってその言葉を口にしたか、彼は知らない。1文字1文字が棘のように彼女の心に刺さり、血を流していることを。

車はまず警察署へ向かった。明男の自家用車に乗り換えた後も、2人は終始無言だった。

家に着くと、明男が彼女を車から抱き下ろした。結菜は頭がぼんやりとしていて動く気にもなれず、されるがままになっていた。

しかし、淡々とした表情をしたままの男が、家に入るなり部屋に戻る間も惜しんで彼女をソファに押し倒した。血走った目で、嵐のようなキスを結菜に浴びせる。

スカートが引き裂かれ、明男は前触れもなく挿入してきた。先ほどまで見ていた夢の余韻がまだ残っていたため、この行為は結菜の体の空虚さを和らげてくれたが、心はすでにボロボロだった。

明男は夜の半分以上をかけて彼女を激しく抱いた。ソファから寝室、そしてバスルームへと場所を変え、結菜が指1本動かせなくなるまで疲れ果て、泣きながら「ケダモノ」と罵るまで続いた。

明男は彼女の耳を甘噛みし、冷たい声で警告した。「結菜、二度と離婚なんて口にするな」

その時の結菜は眠気と疲労で、彼の言葉の意味を考える余裕などなく、ただ頷くしかなかった。それでようやく明男は彼女を解放した。

明男がシャワーを浴びに行き、辺りが静かになると、結菜はまどろみ始めた。

突然、ピコンと明男のスマホが鳴った。

深夜3時のメッセージ。怪しまない方が無理だ。

彼女はガバッと起き上がり、バスルームの方をちらりと見た。結局、好奇心に勝てず明男のスマホを手に取った。ロックを解除するまでもなく、画面の中央にそのメッセージくっきりと表示されていた。

「明男、今日言い忘れたけど、明日は妊婦健診の日なの。一緒に来てくれる?」

差出人:唐沢恵子。

「妊婦健診」「恵子」。この2つの言葉は、単独でも組み合わせても、結菜にとって致命的な一撃だった。

結菜が明男を猛烈に追いかけていたあの1年、彼には幼い頃から忘れられない本命の女性がいると、複数の人から聞かされていた。それが恵子だった。

彼に心に決めた人がいるなら、自分には見込みがないと結菜も思っていた。いくら自分が顔で売っているとはいえ、1年間追いかけても振り向いてもらえないなら、それは自分のせいじゃない。そう思って諦めようとしていた矢先、なんと明男の方から会いに来たのだ。

あの日、彼女は水に飛び込むシーンの撮影をしていた。そのドラマのヒロインは、放送前から「成瀬結菜にビジュアルで負けている」とネットで叩かれており、結菜に嫌がらせをするチャンスを虎視眈々と狙っていたのだ。

気温が氷点下という寒さの中、結菜は何度も水に飛び込まされた。全身が凍りつき、水面から顔を出す力すら残っていない。自分の体が少しずつ沈んでいくのを感じたその時、大きな手が彼女を抱き寄せた。

明男だった。

後になってマネージャーの羽田翔太から聞いた話だが、あの日の明男は恐ろしく冷たい顔をしており、まるで地獄から来た悪鬼のようだったという。彼は撮影スタッフ全員を指差し、冷酷な声で警告した。「もし彼女の身に何かあれば、お前ら全員を殺人未遂でぶち込んでやる!誰1人として逃がさないからな!」

あの日から、結菜は「本命の女」の存在などどうでもよくなった。彼にはチャンスをあげたのだ。わざわざちょっかいを出してきたのは彼の方なのだから、私が付きまとったって文句は言わせない。

しかし意外なことに、明男の方から交際を申し込んできたのだ。

1年ほど付き合った頃、明男は家族から結婚を急かされ、結菜を実家に連れて行った。

明男の両親は結菜が女優だと聞くや否や、門前払いした。

松本家は政界の由緒ある名家で、絶大な権力を持っている。芸能界で這い上がってきたような女を見下すのは当然だった。明男自身も幼い頃から厳格な教育を受け、常に規律を重んじる真面目な人間だ。結菜はもう別れるしかないと思っていた。ところが彼は、そのまま彼女の手を引いて役所へ向かい、婚姻届を提出したのだ。

後になって結菜は知った。警察の幹部ともなれば、結婚には身辺調査や上司の許可が必要で、無断で入籍すれば面倒なことになるのだと。あんなに真面目な人が、よりによって自分のために、そんなルール違反をしてくれたのだ。

その出来事があったからこそ、結菜は「明男は不器用なだけで、私のことを深く愛してくれている」と信じ続けてきた。だからこそ、この3年間、彼に尽くしてきたのだ。

だが今、恵子からのメッセージを見て、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

結菜は一気に目が覚め、全く眠れなくなってしまった。目を見開いて、2人の寝室を見つめる。

3年という月日は、この部屋を自分の物で満たしていくには十分だった。彼女は、明男の心も同じように満たせていると思っていた。

だが結局、自分はただのピエロでしかなかったのだ。

バスルームの水音が止まり、結菜は無意識に目を閉じて寝たふりをした。

明男がベッドに入ってくるのを感じた。体からは冷気が漂っている。どんなに寒い日でも、この人は必ず冷水シャワーを浴びるのだ。

まるで嫌がらせのように、明男は布団の中で温まっていた結菜をぐいっと抱き寄せた。

その冷たさに結菜はビクッと体を震わせた。もう寝たふりなどしていられない。彼女は怒って罵った。「松本明男!あんたって本当にサイテー!」

明男は後ろから彼女を強く抱きしめ、下腹部を押し当てて耳元で囁いた。「1ヶ月も俺を無視したんだ、これくらいは可愛い罰だろ。これ以上逆らうなら、もっとひどいことだってできるぞ?」

以前の結菜なら、この手のやり取りにまんまと乗せられていた。彼の体に溺れていたのだから仕方ない。だが、先ほどのメッセージを思い出し、この体が別の女とも重なり合っていたのだと想像すると、吐き気がこみ上げてきた。

背後の呼吸が徐々に規則正しくなったが、彼女を抱きしめる腕の力は強いままだった。抜け出すこともできず、結菜はただ抱きしめられたまま、空が白む頃になってようやくウトウトと眠りに落ちた。

目を覚ますと、すっかり日が昇っていた。結菜は力なくベッドに起き上がり、ふとベッドサイドに置かれたピルに目をやった。それはひどく目に余る、皮肉な光景だった。

今の時間、彼は病院で別の女の妊婦健診に付き添っているはずだ。

それもそうだ。本命の彼女との間に子供ができたのだから、自分が妊娠する必要などないのだ。

おすすめの作品

百回の輪廻、奪われた愛 の小説カバー
9.1
異世界での輪廻を百回以上も繰り返し、愛を渇望し続けた主人公。しかし、婚約者や幼馴染、さらには愛する息子までもが、常に「沙織璃」という一人の女に奪われる悲劇に見舞われてきた。任務失敗によりシステムから抹殺を宣告された絶望の淵で、彼女は「攻略対象に殺されれば元の世界へ帰還できる」という新たな条件を提示される。もはや愛に未練はなく、ただ家族の元へ帰るために死を願う彼女は、元婚約者の正幸に自らを殺すよう懇願する。だが、彼は冷徹に拒絶し、死ぬことさえ許されない過酷な状況に追い込まれていく。ついに彼女は、沙織璃の秘密を利用して自らの命を絶つ完璧な計画を実行し、崖から身を投げた。すべてが終わったかに思えたが、再び目を開けるとそこは懐かしい元の世界だった。涙を流す母との再会を果たす中、彼女の脳裏には「攻略成功。全対象の好感度が最大値に到達した」という非情なシステム音声が響き渡る。皮肉な結末を迎えた彼女の運命を描く、愛と執着のファンタジー。
偽令嬢?いいえ、私が世界のルールですが何か。 の小説カバー
8.9
江川朱里は20年間、名家の一員として育てられてきたが、実の娘が帰還したことで「偽物の令嬢」として家を追われてしまう。婚約者からも冷酷な言葉で突き放され、すべてを失ったかに見えた彼女。しかし、朱里の正体は世界最高峰の権威を誇る伊藤家の真の令嬢だった。隠されていた彼女の多才な素顔が次々と露わになり、周囲を驚愕させていく。神業とも言える医術、天才的なハッキング能力、さらには世界的人気ブランドのデザイン権までをも掌握する彼女は、まさに世界のルールそのものだった。かつての家族が恩を盾に金を要求し、後悔に震える元婚約者が復縁を迫るも、朱里は冷徹に彼らを切り捨てる。そんな彼女の前に現れたのは、禁欲的で孤高のカリスマと恐れられる御曹司。誰もが跪く高貴な男は、朱里の魅力に抗えず、執着心にも似た深い愛を注ぐようになる。毒舌で冷静沈着な令嬢と、彼女を溺愛するあまり甘い誘惑を繰り返す御曹司。二人が織りなす、華麗なる逆転劇と究極のロマンスが今幕を開ける。
ご近所物語  ハイブラウ・シティ の小説カバー
9.0
西暦2068年、超高齢化の果てに経済が衰退し、治安が悪化した日本。人々の仕事は「ノウハウ」と呼ばれるアンドロイドに奪われ、社会には銃声が響き渡っていた。そんな荒廃した世界で、主人公の夜鶴公は、困窮を極める田舎のA区と富裕層が独占するB区という、極端な格差の板挟みとなって生きている。ある日、B区を追放されA区へと流れ着いた公は、そこで意外な人物と出会う。それは、時の総理大臣の娘であった。この運命的な出会いを機に、二人は周囲の対立に翻弄されながらも、命を懸けた危険な恋へと踏み出していく。やがて彼らの純粋な想いは、国家の根幹を揺るがす巨大な事件「ハイブラウ・シティ」の渦中へと飲み込まれていく。分断された近未来の日本を舞台に、世界の在り方を問う激しいガンアクションと、困難な状況下で育まれるラブコメディが幕を開ける。果たして二人の恋路は、歪んだ社会を是正する光となるのか。おうみ舟氏が表紙を手掛ける、緊迫感溢れるSFロマンス巨編。
暗夜の薔薇は、義兄の腕で狂い咲く の小説カバー
9.0
名家で虐げられる養女という仮面を被り、慎ましく生きる「彼女」。しかし夜のH市では、地下サーキットを自在に駆ける伝説のレーサー「闇夜の薔薇」として、スリルに満ちた自由を謳歌していた。一族からの脱出を密かに計画していた彼女だったが、正統な後継者である義兄の帰国によって運命が狂い始める。予期せぬ一夜の過ちが、盤石だったはずの逃走計画に決定的な亀裂を生じさせたのだ。義兄は冷徹な手腕で狡猾な親族たちを圧倒する実力者だが、謎多き義妹の存在に翻弄され、次第にその足元を掬われていく。名義上の妹であり、サーキットに咲く薔薇、そしてビジネスの協力者という三つの顔を持つ彼女。その正体は解き明かせない謎に包まれ、義兄を逃れられない深淵へと誘い込んでいく。執着する義兄と、クールな養女が繰り広げる愛憎と逆転の物語。偽りの兄妹関係を超えた先にあるのは、破滅か、それとも新たな支配か。スリリングな駆け引きが今、幕を開ける。
舞い降りた最強の妹!3人の大物兄による溺愛計画 の小説カバー
8.6
鈴木瑠香は5年間、家族の愛を求めて尽くし続けてきた。しかし、妹のついた嘘によって「偽の令嬢」の烙印を押され、婚約破棄と追放という非情な運命を辿る。罵声を浴びせられながら家を去った彼女は、ついに未練を断ち切り、自らが与えていた恩恵をすべて回収することを決意した。だが、誰もが予想だにしない真実が隠されていた。「田舎の百姓」と蔑まれていた彼女の実の両親は、実はY国の富を支配する超大富豪一族だったのだ。一夜にして本物の令嬢へと返り咲いた瑠香を待っていたのは、三人の兄たちによる過保護なまでの溺愛。CEOの長兄、世界的科学者の次兄、そして天才音楽家の三兄は、すべての仕事を投げ打って妹のもとへと駆けつける。かつての家族が後悔に震え、元婚約者が復縁を迫るなか、社交界にはさらなる衝撃が走る。名門・加藤家の御曹司であり海軍大将の称号を持つ男が、彼女に婚姻届を突きつけたのだ。どん底から頂点へと登り詰める、華麗なる逆転劇が幕を開ける。
番に拒絶され、敵のアルファに奪われる の小説カバー
9.5
「銀月の群れ」のアルファ、桐生蓮の伴侶として十年にわたり尽くしてきた。本来なら今日は、私がルナとして戴冠する栄光の日になるはずだった。しかし式の直前、私は残酷な真実を知る。蓮は私を「不毛の土地」と蔑み、妊娠した愛人の恵美を新たなルナに据えようと画策していたのだ。公衆の面前で彼は偽の診断書を突きつけ、私の不妊を捏造した。さらに、恵美を傷つけたという濡れ衣まで着せられ、私は絶望の淵に立たされる。蓮のアルファ・コマンドによって屈服させられた私に下されたのは、銀の鞭打ちという無慈悲な刑罰だった。背中を切り裂かれ、死を待つばかりの状態で森に捨てられた私を救ったのは、敵対する「黒森」の群れを率いる冷酷なアルファ、黒崎巌だった。意識を取り戻した私の前に現れた宿敵は、傷ついた私の姿を見下ろし、かつて私が浴びせられ続けた「役立たずの雌狼」という言葉を低く口にする。裏切りと屈辱にまみれた過去を捨て、敵の手に落ちた私の運命は、ここから大きく動き出すことになる。