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私を見殺しにしたくせに、今さら這いつくばって許しを乞うなんて の小説カバー

私を見殺しにしたくせに、今さら這いつくばって許しを乞うなんて

5年という歳月をかけ、成瀬結菜は夫の松本明男を深く愛し抜いてきた。しかし、彼の元恋人が妊娠して現れたことで、正妻としての立場は崩壊し、周囲の嘲笑の的にされてしまう。結菜は一切の財産を捨てて離婚を決意するが、明男は関係修復を懇願した。そんな折、結菜と元恋人が同時に水に落ちる事故が発生する。明男は迷わず妊婦である元恋人の救助を優先し、その瞬間、結菜の心は完全に打ち砕かれた。彼女は誰にも告げず、静かに表舞台から姿を消す。それから3年後。結菜は国際的な映画祭で最優秀女優賞を受賞し、誰もが羨む輝きを放つスターとして再降臨した。彼女の周囲には新たな父親の座を狙う有力者たちが集まり、帰国した空港は熱狂に包まれる。かつての傲慢さを失い、惨めな姿でひざまずきながら「見捨てないでくれ」と涙ながらに許しを乞う明男。しかし、地獄のような後悔に苛まれる彼を待っていたのは、結菜の冷徹な眼差しだけだった。愛を捨て復讐へと転じた彼女の、新たな人生が幕を開ける。
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3

松本明男は普段なら必ず避妊具をつける。成瀬結菜にピルを飲ませるのは体に負担がかかるからと彼自身が言っていたのだ。しかし、昨夜の彼は少し余裕がなかった。だからこそ、わざわざ彼女のために薬を用意していたのだろう。

結菜が腹を立ててそのピルの箱をゴミ箱に投げ捨てたところへ、ちょうど明男がドアを開けて入ってきた。

その光景を見た彼は少し眉をひそめ、無言で歩み寄ってきた。そしてゴミ箱から薬の箱を拾い上げ、封を開けて1錠取り出すと、結菜に差し出した。

「飲んで」

結菜は淡々と彼を見つめ返し、その薬を受け取ることなく言った。「飲みたくない。松本明男、あなたは私が子供を産むのがそんなに怖いの?」

明男はそれを聞いて少し動揺したような目を向け、薬を持った手を無意識にぎゅっと握りしめて尋ねた。「お前、子供が欲しいのか?」

結菜は彼のそんな反応をすべて見透かすように、皮肉めいた口調で言い放った。「どうして? あなたはずっと子供が好きだったじゃない」

「結菜、お前はまだ若い。もし今妊娠したら、仕事は全部ストップしなきゃならない。今受けてるCMや広告の仕事はどうするんだ? 俺たち2人とも仕事が忙しいし、子供の面倒を見る時間なんてどこにもない」

「松本明男、そんな建前ばかり並べないで。私が今聞いてるのはね、もし私が仕事を全部辞めて、あなたのために子供を産むって言ったら、あなたは喜んでくれるの?」

明男は困り果てたような、どうしようもないという目で結菜を見つめていた。

彼は結菜の手を引き寄せ、その手のひらに薬を乗せると、優しくなだめるように言った。「結菜、今はまだその時期じゃない。もう少し時間が欲しいんだ」

結菜の胸の奥に、濡れた綿が詰まったような苦しさが広がり、息が詰まった。彼女は明男の手を振り払い、冷たく吐き捨てた。「もういい。あなたが欲しくないなら、産まない」

そう言って、彼女は手の中の薬をそのまま口に放り込み、水もなしに無理やり飲み込んだ。

胸が張り裂けそうに痛くて、彼女の目から音もなく涙がこぼれ落ちた。

明男は表情を和らげ、彼女の涙を拭おうと手を伸ばしたが、結菜はそれを避けた。ちょうどその時、彼のスマホが着信を知らせた。

空を切った手を行き場なく下ろし、明男は少し迷ったものの、隊からの連絡かもしれないと思い、先に電話に出た。

『もしもし、松本さんでいらっしゃいますか? 奥様が病院の産婦人科で倒れられまして、お手数ですがこちらまでお越しいただけますでしょうか』

明男はスマホを耳から離して画面を見て、ようやくそれが唐沢恵子の番号からの着信だと気づいた。

彼の顔に途端に焦りの色が浮かぶ。そのままクルリと背を向けて外へ向かいながら、電話口の相手に告げた。『すぐに向かいます、少しの間だけ面倒を見てやって……』

ドアが閉まり、彼の声は外へと遮断された。だが結菜は、その場に呆然と立ち尽くしたままだった。

ーー奥様……産婦人科……。

それらは本来、自分と明男の間にあるべき言葉だった。しかし今、その言葉が彼ともう1人の女を繋いでいる。

あの2人にはもう子供がいるというのに、自分は一体何を期待していたのだろう。

胃が激しくかき回されるような感覚に襲われ、結菜はえずきながら洗面所に駆け込んだ。朝ごはんは何も食べていなかったため、吐き出したのはさっき飲み込んだばかりのあのピルだった。

羽田翔太が結菜を迎えに来た時、彼女の真っ青な顔を見てギョッと驚き、心配そうに尋ねた。「松本隊長に殴られたのか?」

結菜は首を横に振ったが、彼に事情を説明する気力すらなかった。ただ手にしていたスーツケースを翔太に押し付け、弱々しい声で言った。

「行こう。残りの荷物は、また時間がある時に何人か連れて手伝いに来て」

翔太は驚愕し、スーツケースを引きずりながら結菜の背中を追って声を上げた。「完全に家を出るつもりか? 昨日の夜帰ってきて寝たのに、まだ仲直りしてないのかよ。 どうしてそんなに拗れてるんだ?」

結菜は今日、どうしても外せない重要なCM撮影を控えていた。車に乗り込むと、すぐに目を温めて腫れを引かせる準備を始めた。

翔太は気が気じゃなかった。結菜がどれほど明男を想っているか、彼は嫌というほど知っているからだ。かつて彼女が明男と付き合い始めた時、事務所が間に入って別れさせようとした。しかしその時、結菜は社長のデスクに契約解除の書類と、違約金代わりの白紙の小切手を叩きつけたほどだったのだ。

「翔太、私、松本明男と離婚する。何も聞かないで、今はまだ話したくないの。誰かにお願いして離婚協議書を用意して。私、財産も何もいらない。身一つで出ていくわ」

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