フォローする
共有
紅装を脱ぎて、君と天下を駆ける~重生・女将軍の復讐と愛~ の小説カバー

紅装を脱ぎて、君と天下を駆ける~重生・女将軍の復讐と愛~

一族の存続を願い、摂政王への身売りを決断した彼女を待っていたのは、夫の蔑みと姑の狡猾な罠、そして孤独な死という悲惨な結末だった。己の献身がすべて他人の幸福のために利用されていたと知った最期の瞬間、彼女の魂は過去へと回帰する。覚醒した彼女は、前世で自身を虐げた者たちへの苛烈な報復を開始した。商才を発揮して莫大な富を築き、家督を掌握すると、艶やかな衣を脱ぎ捨てて鋼の甲冑に身を包む。戦場を駆ける修羅と化した彼女の武名は、国境を越えて伝説として語り継がれていく。しかし、復讐と覇道のさなか、予想外の事態が起こる。かつて宿敵として刃を交えた「稀代の奸臣」が、執拗に彼女へ接近してきたのだ。男は不敵な笑みを浮かべ、侯爵夫人の座を捨てて自分のもとへ来るよう誘惑する。その強引な態度の裏に隠されていたのは、前世から続くあまりに深く、切実な愛情だった。裏切りに満ちた過去を塗り替え、真実の愛と天下を掴み取るための戦いが今、幕を上げる。
共有

2

錦の帳が微かに揺れ、沈秋辞ははっと目を見開いた。視界に広がるのは薄蘇芳色の帳だった。

鼻をくすぐるのは沈水香(じんすいこう)のほのかな香り。清らかで淡く、病床で日々嗅いでいた苦い薬の匂いとは違う。

彼女はゆっくりと首を巡らせる。肩の骨がギシギシと音を立てる。そこには、山賊に斬り殺されたはずのお付きの侍女・ 夏紅(かこう)の姿だった!

彼女はぎくりと身を起こし、切羽詰まった様子で夏紅を見つめた。

「今は何年の、何月何日か?」

夏紅は彼女の真剣な表情を見て、慌てて答えた。

「夫人、今は大雲百二十三年、三月十日でございます」

沈秋辞ははっきりと覚えていた。これは彼女が蕭承煜に嫁いだばかりの最初の月だ!

今の蕭承煜はまだ侯爵ではない。世間では蕭家の次男・承煜様と呼ばれている。

現の侯爵は、彼女の舅である蕭進忠(しょうしんちゅう)に他ならない。

舅は政争に敗れ、他の皇子を擁立したことで、ごく近頃新帝により家財を没収される 憂目に遭ったばかりであった。

沈秋辞は布団を跳ね除け、衣を纏いながら命じた。

「帳場へ行き、白銀五万両を下ろしてたもれ」

これより数ヶ月、京都では疫病が蔓延する。その折には、薬材や米穀の値段は暴騰し、供給が追いつかなくなるだろう。

前世で彼女は疫病の初期に商機を察知したが、苦労して蓄えた薬材や食糧を蕭家の名義で施し、蕭家の名声を揚げる手助けをし、新帝の前で再び顔を立てる機会を与えてしまった。

だが今度はそんな愚かなことは繰り返さぬ。この機会を最大限に生かし、 己のために策を巡らすつもりだ。

夏紅はすぐさま応じた。「はい、ただいま参ります!」

夏紅が出ていくと、沈秋辞は鏡台の前へと歩み寄った。

鏡に映る自身の、艶やかで愛らしい容貌を見つめ、彼女は密かに誓いを立てた。

(蕭承煜!前世の所業、必ずや償わせてくれようぞ!)

ほどなくして、夏紅が手ぶらで戻ってきた。その後ろには、山羊髭を生やした痩せこけた中年男がついてきている。永寧侯府(えいねいこうふ)の帳簿係、周徳(しゅうとく)だ。

「先生、いかなるお用でございまするか わらわはそなたを呼んではおらぬが」

周徳は咳払いを一つすると、居丈高な口調で言った。

「夫人、手前は言いつけにより、しきたりをお教えしに参りました」

「五万両は大金でございます。新入りの奥様如きに勝手に引き出す権利はございませぬ。老夫人の許しを得ねばなりますまい」

沈秋辞は椅子に腰を下ろし、卓を指先でトントンと叩きながら、冷ややかな視線を 彼に投げかけた。

「笑止千万!わたくしがわが持参金を使うに、いずくんぞ他人の許しが要ろうや」

「とくと勘定してみよ。今の侯爵邸の蔵にある銀子、いかほどがわらわの持参金で、いかほどが侯爵邸の財産であるかを!」

――女の持参金など、たかが知れていよう!

帳簿係は面倒くさそうに帳簿を開いた。

「計算すればよろしかろう」

老夫人でさえ彼には一目置いているというのに、この新妻は身の程を知らぬ。

今日という今日は、この新妻に目にもの見せ、その鼻っ柱をへし折ってやらねばならん。

沈秋辞は口元に冷笑を浮かべ、夏紅を見た。

「わらわの持参金の目録を持っておいで。この屋敷にどれほどの銀子があり、そのうちどれほどが蕭家のものか、先生によく見ていただくのじゃ」

周徳は満面の不服そうな顔で目録を受け取り、懐から算盤と帳簿を取り出して勘定を始めた。

侯爵府はつい先日家を抄られたばかりで、銀の目処もない。

計算すればするほど彼の顔色は青ざめ、額には冷や汗がじわじわとにじんできた。

沈秋辞は立ち上がり、ゆっくりと彼の前へ歩み寄り、俯き見下ろした。

「今や侯爵府は帳尻も合わぬほどに乏しく、衣食住の一切がわらわの銀で賄われている!貴方の俸禄さえ、わらわが出しているのだ!」

「このまま侯府に留まりたければ、おとなしくわらわの言うことを聞け!」

周徳という男は、何よりも時勢を見るに敏い。前世でも、彼女が少し手段を用いただけで、周徳は大人しく従順になった。

今生でも、大した手間はいらなかった。周徳は何度も床に頭を打ち付けた。

「小身が承知いたしました!」

「今後は必ず夫人の言うことを聞き、二心は一切ありません!」

周徳は慌てて退出すると、ほどなくして五万両の銀札を沈秋辞の部屋へと届けさせた。

前世と今生、あまりに時が経ちすぎており、沈秋辞自身も持参金の中に何があったか詳しくは覚えていない。そこで彼女は持参金の目録を繰り始めた。

すると、蕭承煜が七日ごとに、彼女の持参金から百両の白銀を引き出して外出していることに気づいた。

前世、彼女も帳簿でこの出費を見たことがある。蕭承煜はこの銀は侯爵府の旧臣を慰めるためのものだとだけ言った。

彼女はそれを信じ、旧臣たちを失望させぬよう、多めに銀を持っていくよう蕭承煜に言い含めてさえいた。

だが今にして思えば、侯爵府は没収される前から衰退の兆しを見せていたのだ。慰めるべき旧臣など、どこにいたというのか?

この銀の行方は実に不審だ。

翌日は蕭承煜が銀を引き出す日だった。沈秋辞は夏紅を連れ、こっそりと蕭承煜の後をつけた。

蕭承煜は侯爵府を出ると、真っ直ぐ城南の一軒の屋敷へ向かい、慣れた手つきで門を押し開けた。

門の内側から、すぐに甘ったるい声が聞こえてきた。

「承煜、いらっしゃったのですね?」

沈秋辞は塀角に身を潜め、門の隙間から中を窥った。中庭には桃色の着物を着た女が立っており、眉目に艶気が漂っている――この人こそ李婉茹(り わんじょ)だ!

李婉茹は早足で歩み寄ると、親しげに蕭承煜の腕にすがりつき、満面の笑みを浮かべた。

「今日はもういらっしゃらぬかと思いましたわ」

蕭承煜は手を伸ばして彼女の頬をつねり、寵愛に満ちた口調で言った。

「今日会いに来ると約束しただろう。お前を待たせるわけがない」

「これは貴方への銀だ。好きなものを買って使え」

李婉茹は銀子を受け取ると、笑みを一層甘く深めた。

「承煜はお優しいこと……」

門の外に隠れていた沈秋辞は、足元から頭のてっぺんまで冷気が駆け上がるのを感じた。

この様子を見るに、二人は彼女が蕭家に嫁いでくる前から、すでにデキていたに違いない。

(蕭承煜、よくもその輩と共にわらわを欺いたことよ!)

おすすめの作品

100年越しの月下美人 の小説カバー
8.2
古くから続く陰陽師の名門に生まれた御子柴聖は、幼少期から類いまれなる才覚を発揮し、一族の期待を一身に背負っていた。しかし七歳の頃、伝説の大妖怪・八岐大蛇が一家を襲撃。一族は無残に惨殺され、聖自身も右脚を失うという悲劇に見舞われる。さらに彼女の身には、持ち主の命を糧として吸い尽くす「月下美人の呪い」が刻まれてしまった。絶望の淵に立たされながらも、聖は生き延びるために過酷な運命と対峙し続ける。惨劇から十年の月日が流れ、十七歳へと成長した彼女は、自らの命を蝕む呪縛を解き放つため、そして一族の仇を討つために、再び立ち上がることを決意する。彼女の前に立ちはだかるのは、闇夜を跋扈する恐るべき百鬼夜行の軍勢。失われた右脚と呪いの痛みを抱えながら、聖は凄絶な戦いの中へと身を投じていく。死と隣り合わせの激闘を繰り広げる彼女を待ち受けているのは、果たして救済か、それともさらなる絶望か。命を削る月下美人が咲き誇る時、宿命の歯車が大きく動き出す。
裏切りの愛、復讐の旋律 の小説カバー
7.8
重い血液疾患を抱えながらも、夫・秀夫への献身的な愛を貫いてきた主人公。彼女は奇跡的に子宝に恵まれるが、その命は病に伏せる妹・心歌穂への骨髄提供を強いるための残酷な道具として利用される。夫にとって妻の命は何の価値もなく、ただ妹を救うためだけの存在に過ぎなかった。秀夫に突き飛ばされ、下腹部の激痛と出血に苦しむ彼女に対し、彼は「自分を悲劇のヒロインに見せかける芝居だ」と冷酷な言葉を投げかけ、嘲笑いながら妹の元へと去ってしまう。愛も、未来も、そして宿ったばかりの小さな命さえも踏みにじられた絶望の淵で、彼女の心には冷徹な決意が宿る。彼らが最も欲しがっているものを、自らの手で永遠に奪い去るという復讐の誓いだ。彼女は一人、中絶手術を受けるために病院の予約を入れ、冷たい手術台へと向かう。すべてを捧げた愛は憎悪へと反転し、残酷な裏切りに対する凄絶な報復の幕が今、静かに上がる。
離婚届と黒いグローブ の小説カバー
9.3
結婚七周年を迎えた記念すべき日、子作りに対する価値観の相違から陸原湊と激しい口論になり、二人の仲に亀裂が入った。その直後、彼の幼なじみがSNSに投稿した写真には、サーキットで親密に微笑み合う湊と彼女の姿があった。周囲も二人を公認のカップルのように扱う。この七年間、危険だからという理由で一度もレース場に招かれなかった自分とは対照的に、彼の傍らには常に彼女がいたのだ。かつては優しかった湊の言葉も、今では義務的な拒絶にしか聞こえない。彼が本当に大切に想っていたのは私ではなく彼女だったのだと悟り、私は結婚指輪を外して湊に離婚を突きつけた。悲しみに暮れる暇はない。私は長年封印していたガラスケースの中の黒いグローブを再び手に取る。時速三百キロの世界を危険だと決めつけ、私を遠ざけた彼への答えは、ハンドルを握るこの手で証明する。愛を捨て去った元妻が、かつての情熱を取り戻して再起する物語。
THE END OF THE WORLD ー世界の果てにて…ある少年の物語ー の小説カバー
9.5
2110年、第三次世界大戦を経た大日本帝国は、4大財閥が権力を独占する極端な格差社会と化していた。戦争で両親を失い、施設で育った15歳の少年シーナは、戦争遺児への差別や暴力にさらされる過酷な日々を送っていた。ある日、暴行を受け絶望の淵にいた彼は、謎の男ヒデとの出会いを機に、世界中の若者が熱狂する仮想空間オンラインゲーム『FRONTIER』へと導かれる。端末を通して脳神経をシンクロさせる「ダイブ」により、仮想世界での戦いに身を投じるシーナ。仲間との絆や恋を知る中で、彼は自身の不遇な運命と向き合い、少年から大人へと成長を遂げていく。そして彼は仲間と共に、未だ誰も踏破したことのない最終フィールド「虐殺の門」の攻略という壮大な目標を掲げ、過酷な現実に立ち向かう。しかし、その虚構の世界の裏側には、現実をも揺るがす恐るべき秘密が隠されていた。シーナの視点から描かれる、葛藤と希望に満ちた未来型青春群像劇が幕を開ける。現実と仮想の狭間で、彼は生きる意味を見出していく。
神様曰く、運命なので の小説カバー
9.6
最愛の婚約者から非情な婚約破棄を言い渡された公爵令嬢レイチェル。絶望の淵で「ヒロインになりたい」と叫んだ彼女に対し、可憐なヒロイン・ステラは嘲笑と共に残酷な真実を告げる。「この世界はゲームに過ぎない」のだと。その後、無実の罪を着せられ投獄されたレイチェルは、突如発生した大地震によって命を落としたはずだった。しかし、次に目が覚めた時、彼女の視界に飛び込んできたのは一年前に見覚えのある懐かしい光景だった。死の淵から過去へと回帰したレイチェルは、自身を待ち受ける過酷な運命の正体とステラの真の目的を突き止めるため、再び彼女のもとへと向かう。自らに課せられた「悪役令嬢」という役割を打ち破り、望んだ幸せを掴み取ることはできるのか。これは、定められた運命に抗い、大切な存在や自らの居場所を守り抜くために戦う二人の少女の物語。華やかな貴族社会の裏側で、己の存在意義を懸けた激しいバトルが幕を開ける。少女たちの執念が交錯するローファンタジー、ここに開幕。
さようなら、価値を見抜けなかった妻へ の小説カバー
9.0
献身的に尽くした二年間、妻である柳瀬真理亜の冷淡な態度は変わることはなかった。「あなたには百万ドルの価値すらない」という非情な言葉と共に突きつけられた離婚届。しかし、神代無双はその絶望的な宣告を、静かな微笑みと共に受け入れた。彼にとってその瞬間は、平穏な日常を装うために封印していた真の姿を解き放つ合図に過ぎなかったのだ。音楽界に革命をもたらす異才、医学の常識を覆す天才、そして武術界に名を刻む伝説の体現者。隠し持っていた圧倒的な才能を次々と開花させていく無双の姿は、瞬く間に世界中を驚愕の渦へと巻き込んでいく。かつて彼を無能だと見下し、蔑んでいた人々は、そのあまりの変貌ぶりに激しい後悔と動揺を隠せない。変わり果てた元夫の輝きを目の当たりにし、真理亜は「そんな人だとは知らなかった」と涙ながらに縋り付くが、彼の視線が再び彼女へと向けられることはない。偽りの愛を捨て去り、己の力で新たな頂点へと駆け上がる男の、華麗なる逆転劇が幕を開ける。