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紅装を脱ぎて、君と天下を駆ける~重生・女将軍の復讐と愛~ の小説カバー

紅装を脱ぎて、君と天下を駆ける~重生・女将軍の復讐と愛~

一族の存続を願い、摂政王への身売りを決断した彼女を待っていたのは、夫の蔑みと姑の狡猾な罠、そして孤独な死という悲惨な結末だった。己の献身がすべて他人の幸福のために利用されていたと知った最期の瞬間、彼女の魂は過去へと回帰する。覚醒した彼女は、前世で自身を虐げた者たちへの苛烈な報復を開始した。商才を発揮して莫大な富を築き、家督を掌握すると、艶やかな衣を脱ぎ捨てて鋼の甲冑に身を包む。戦場を駆ける修羅と化した彼女の武名は、国境を越えて伝説として語り継がれていく。しかし、復讐と覇道のさなか、予想外の事態が起こる。かつて宿敵として刃を交えた「稀代の奸臣」が、執拗に彼女へ接近してきたのだ。男は不敵な笑みを浮かべ、侯爵夫人の座を捨てて自分のもとへ来るよう誘惑する。その強引な態度の裏に隠されていたのは、前世から続くあまりに深く、切実な愛情だった。裏切りに満ちた過去を塗り替え、真実の愛と天下を掴み取るための戦いが今、幕を上げる。
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3

塀外の陰に身を潜めた沈秋辞は、刺繍帕を握りしめたまま、指先の青白さを隠し得ない。

すると扉の隙間から、李婉茹のねっとり甘い声が漏れ出し、その響きがまるで冷たい針のように、容赦なく彼女の胸を刺した。

「承煜、あの沈秋辞は本当に美しい方よ。昔は都の若様たちが競って言い寄っていたでしょう。だからこそ、同じ屋根の下で過ごして、心が一度も揺れなかったなんて、本気で言えるの?」

それを聞いた蕭承煜は、彼女の機嫌を損ねまいとして、すぐさま言葉を重ねた。

「婉茹、馬鹿なことを言うな。俺の心にいるのは、昔も今もお前だけだ。沈秋辞など、俺にとっては使い道のある駒にすぎない」

「李家と蕭家が奴の力を必要としていなければ、わざわざ己を偽って、あんな女を娶るはずがないだろう」

そう言って一度言葉を切り、今度は言い聞かせるような声で続けた。

「もうしばしの辛抱だ。今は父上が獄中におり、お前の李家も、かの女の持ち金を用立てせねばなりませぬゆえ、今は機嫌を損ねないよう、とりなしておくしかございません」

蕭承煜は李婉茹を抱きしめ、声を柔らげて言った。

「母上も約束してくださった。すべてが終わったら、あの女に子ができなくなる薬を飲ませると」

「そうなれば、自分が子を産めぬ身体だと知り、向こうから進んで、お前を俺の側室として迎え入れようとするだろう」

承煜は口元を歪めた。その整った顔には、人を物として扱う冷え切った計算だけが浮かんでいる。

「そうすれば侯爵府が恩知らずと罵られることもないし、あの女も後継ぎを産めない負い目から、心から甘んじて侯府のために尽くすはずだ」

彼はそう言いながら、李婉茹の耳元に唇を寄せた。

「この俺、蕭承煜の子を産むのは、お前の腹から生まれる者だけだ」

扉の隙間から見える狭い視界に、承煜が慈しむように婉茹の腹を撫でる手が映る。その柔らかな仕草は、これまで一度も沈秋辞に向けられたことのないものだった。

李婉茹は恥じらうように彼の胸に顔を埋め、二人は甘い言葉を交わし合っている。

沈秋辞が唇を噛み締めると、鉄錆びた血の味が口いっぱいに広がった。その痛みがあるからこそ、この二人の喉笛を掻き切りたい衝動を、かろうじて理性で抑え込めていた。

これまで、子を産めなくする薬の話は、承煜一人の企みだと思っていた。だからこそ、姑まで関わっていた事実に、息が詰まる。

いや、それだけではない。おそらく、蕭家全体が彼女を欺いていたのだ!

彼女はふらりと足元を踉跄かせて後ずさり、背中が木の幹にぶつかり、鈍い痛みと同時に、視界が暗くなっていった。

「夫人!」夏紅が慌てて体を支え、怒りに震える声を上げる。「蕭家の方々は、あまりにも、あまりにも非道でございます!」

「夫人が嫁がれ、陛下が沈家の顔を立てて侯爵府をお許しにならなければ、あの者たちはとっくに流罪になっていたはずです。それなのに、今さら夫人にこんな仕打ちを!」

「夫人、このまま泣き寝入りはできません。陛下の御前で訴え出て、あの者たちを厳しく罰していただきましょう!」

沈秋辞は大きく息を吸い、ゆっくりと体を起こした。瞳の奥でかろうじて残っていた光は消え、代わりに冷えきった憎しみの火が静かに灯る。

そして目尻に滲んだものを拭い、改めて息を整えた。

「御前にて沙汰となっても、陛下はわたくしたちを離縁なさいまするのみ。それでは、かの者どもをあまりにも安く見すぎるというもの」

そう言って、沈秋辞は夏紅をまっすぐ見た。

「蕭家にされたこと、ひとつ残らず、利子をつけて返してもらうわ」

夏紅は主の瞳に宿る冷たい光に、思わず背筋を震わせた。

「夫人の仰せのままに!どのようになさろうと、この夏紅、どこまでもお供いたします!」

二人は言葉もなくその場を離れた。怒りと屈辱に心を奪われ、いつの間にか人通りが少なくなっていることにも気づかない。

その時、凄まじい悲鳴が静けさを切り裂き、二人ははっと足を止めた。

道の中央で、粗末な身なりの男が膝をつき、黒い錦の袍を着た男の足に必死にすがりついて泣き叫んでいる。

「摂政王殿下!父は過ちを認めました!二度と刃向かうことはいたしません!どうか陛下の御前でお口添えをいただき、一族をお救いください!」

その黒衣の男こそ、朝廷を裏から支配する存在・霍雲峥だった。

霍雲峥は地に這いつくばる男を一瞥もせず、邪魔な石でも払うかのように無慈悲に蹴り飛ばした。

男は短い悲鳴を上げ、後方へ転がる。

さらに霍雲峥は一歩踏み出し、男の足の骨を容赦なく踏みつけた。

ぎくっ、と鈍い音が響き、骨の砕けた男は足を抱えて転げ回り、聞くに耐えない絶叫を上げる。

しかし彼は気にも留めず、そのまま馬車へ向かって歩いていった。

やがて馬車が動き出し、冷酷な車輪が再び男の足を轢く。悲鳴は一段と高く、歪んだものに変わった。

沈秋辞と夏紅は、思わず息を呑む。

夏紅は顔を青くし、慌てて沈秋辞の腕を引いて物陰に隠れた。

「夫人、こちらへ!決して摂政王のお目に留まってはなりません!」

壁の角に引き込まれた沈秋辞は、困惑したように小さく問い返した。

「どうして、隠れなきゃいけないの?」

夏紅は焦りを隠せない声で答えた。

「夫人、お忘れですか。 以前、夫人が承煜様とのご成婚を押し通されたことで、摂政王とは浅からぬ確執がございました」

「今の摂政王はひどくご機嫌が悪そうです。このような時に殿下の前に近づけば、災いが身に及ぶ恐れがあります!」

その言葉をきっかけに、前世の記憶が津波のように沈秋辞の脳裏を駆け巡った。

前世、舅の進忠が投獄された後、承煜はあちこち奔走して関係をつけようとしたが、どこでも壁にぶつかり、ため息をついて帰るばかりだった。

それを見かねた彼女は、嫁入り道具を差し出し、これで手を回してほしいと頼んだのだ。

役人たちは金を見ると笑顔を見せたが、皆が口を濁し、この件は雲峥の許しがなければ動かせないと言うだけだった。

舅を救い、夫の心を得るため、彼女は一時的に考えが乱れ、思い切って霍雲峥を訪ね、そこで少なからぬ屈辱を受けた。

沈秋辞は心の中で、冷たく笑った。

今回は、決して自分を犠牲にしない。さらに、蕭家という恩知らずの者たちのために、霍雲峥を敵に回すようなことはしない。

――それどころか、あの男さえ駒に使い、侯爵府を奈落の底へ突き落としてやるのだ。

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