
突然舞い降りた妹!三人の最強兄たち、溺愛モード全開!
章 3
二番目の連絡は、軍区総合病院が誇るベテラン名医、斎藤 修からもたらされた。
小柄な老人の声は、切羽詰まった、すがるような響きを帯びていた。 「鈴木先生、こちらで少々厄介な事態に直面しておりまして。 長年、難病を患っておられる私の戦友の御子息が、このところ急速に容態が悪化の一途を辿っております。 先生にお作りいただいた特製の薬も、最早、効果が見られなくなってしまいまして……つきましては、大変恐縮ではございますが、もし鈴木先生のご都合が許されますなら、何卒一度、直接診ていただけないでしょうか」
鈴木瑠香は、間髪入れずに斎藤へ電話をかけ直した。 「承知いたしました。 明日、学校が終わり次第、直接軍区の官舎へ戻ります。 夜間は終日外来におりますので、その方を連れてきてください」斎藤は、言葉を選びながら返した。
「その方は現在、総合病院のVIP病室に入院されておりまして、厳重に身分が秘匿されております。 そのため、外出は少々難しいかと存じます」
瑠香は苛立ちを抑えきれないように、コツンと指でテーブルを叩いた。 「斎藤さん、回りくどいのはやめて。 患者は一体誰なの?」
斎藤は、しばし沈黙し、慎重に言葉を選びながら口を開いた。 「……特級上将、加藤家のお孫様、加藤 律様でございます。 事態は想像以上に重大で、加藤家はすでに全国各地の医療界の権威の方々へ、極秘裏に招待状をお送りしております。 もし律様をお救いすることができれば、その報酬は、なんと天文学的な20億円とのことです」
瑠香は、再び驚きに眉を上げた。 加藤家の名は、もちろん彼女も知らぬはずがない。 何しろ、加藤家の当主は陸軍特級上将――その軍事力、そして影響力たるや、たとえ国家の大統領が来訪しようとも、三分の礼を尽くさざるを得ないほど絶大なのだ。 そして、加藤 律――。
彼女もまた、数年前にこの名家の御曹司の噂を耳にしていた。 わずか三十歳という若さで、驚異的な軍事的才能を発揮し、数々の輝かしい戦功を挙げて、現代において最も若い海軍上将の座に就いた、まさに伝説的な人物だ。
あの加藤 律が、一体どうしたというのだろうか?
瑠香は、仕事で常用している暗号化携帯の個人メールボックスを開いた。 案の定、そこには国家医療部から送られた招待状が、既に届いていた。
彼女は「ゴッドハンド」というハンドルネームを使い、ダークウェブの深淵に潜り込み、難病治療という巨額の案件を専門に請け負ってきたのだ。 時が経つにつれ、彼女の志に共鳴する者たちが自然と集い、やがて独自の、強固な医療ネットワークを築き上げていた。
国家の機関が、そんな彼女に目をつけたのも、もはや驚くべきことではなかった。
「招待状は確かに受け取りました」瑠香は、感情を読み取らせない淡々とした口調で告げた。 「報酬は、確かに悪くない。 一度、診に行ってみましょう」
その夜、鈴木家にもまた、加藤家が発した救難の招待状に関する噂が、たちまちのうちに小耳に挟まることとなった。 鈴木 拓也の心は、にわかに活気づき、居ても立ってもいられない様子で、すぐさま方々に電話をかけまくり、この千載一遇の機会を何としてもものにしようと、文字通り奔走した。
鈴木家は長年にわたり、ただ富裕層の縁を彷徨うばかりで、政府関係者との強固なコネクションを築き上げ、真の権力者へと成り上がる機会を掴めずにいた。 もし、この加藤 律を救うことができれば、鈴木家全体が文字通り天に昇るかのような、飛躍的な地位を得られることは明白だった。
その傍ら、もう一つの大きなニュースが帝都を駆け巡っていた。 Y国の大富豪が、行方不明となった愛娘を探すため帝都を訪れ、その情報提供者には天文学的な報酬を提示したというのだ。 その知らせは瞬く間に帝都中に広がり、人々は一斉に動き出し、その夜の街は、これまでにないほどの活気と喧騒に包まれていた。
……
翌朝。
電話のけたたましい音に、瑠香はゆっくりと目覚めた。 まだ夢と現実の狭間を彷徨うような気だるさを全身に感じながら、重い体をベッドから起こした。
かかってきたのは、臨床医学の指導教官からだった。 電話口の声は、隠しきれない苛立ちと怒りに満ちている。 「鈴木瑠香!資料整理は終わったのかと尋ねたはずだぞ!午前中、お前は一体どこで何をしている!?お前の妹は朝早くから手伝いに来ているんだ!さっさと、今すぐ学校へ来い!」
瑠香は、何も言葉を発することなく、無言で電話を切った。 そして、静かに時間を確認する。
午前十時。
昨夜は、数百年も前に書かれた古文書から、いくつかの難解な薬方を研究していたせいで、すっかり夜更かしをしてしまった。 その結果の寝坊で、指導教官からの指示を完全に失念していたのだ。
瑠香は、一つ大きくあくびをしながらも、慣れた手つきでパソコンを開いた。 手早くメールを打ち終え送信すると、簡単な身支度を済ませ、慌ただしく家を出た。
愛用のバイクに跨ると、彼女は大学内の研究室の入り口目指して急いだ。 バイクを所定の場所に停め、建物へと足早に向かう。
学生証をスキャンし、中へ入ろうとした、その時だった。 認証機は無情にも「認証失敗」の赤い文字を煌めかせた。
ちょうどその時、研究室の中から三人の人影が現れた。 田中 美晴と、彼女の取り巻きであろう研究室の先輩二人組だった。
先輩の一人が、瑠香が研究室へ入れないのを確認するや否や、嘲るような冷笑を浮かべた。 「鈴木瑠香、一体自分を何様だと思っているんだ? 遅刻は常習、与えられた仕事は一切しない。 今回ばかりは先生も怒り心頭に発し、お前の研究室への入室資格を、直々に取り消したと聞いているぞ。 さあ、これからどうするつもりだ、鈴木瑠香?」
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